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ただ幸せに、なりたかった【なろう版・コミカライズ】  作者: 香田紗季


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SS12  If……

もしこんな決断ができていたら……たらればの話です。

まあ、こういうふうにできているなら、小説にする必要もなくなるのですが……。

 オスカーが「このままこの家を出よう」と言った。クレアは足下にある洗濯物の山を見下ろした。


「このままでは、クレアが潰される。一緒に行こう」


 クレアは一瞬だけ考えた。


「荷物を持ち出してきます。少しだけ待っていてください」

「気を付けて、見つからないようにするんだ」

「はい」


 クレアはそっと自室に戻ると、チェストの鍵を開け、魔法薬のノートとテキスト、それにオスカーからもらったロケットペンダントを取り出し、出勤用のバッグに入れた。元通りにチェストに鍵を掛け、部屋にも鍵を掛けて、足音を忍ばせて家を出る。家の鍵もそっと掛けた。


 オスカーが、家から出てきたクレアの手を握った。一度だけ、家を振り返った。自分を愛してくれなかった家族に対して、悔しくて、涙が出た。クレアは涙を袖で拭うと、オスカーの手を取った。


「行きます。連れて行ってください!」


 オスカーとクレアは走り出した。そのまま騎士団に飛び込むと、騎士団の敷地内にある、オスカーの住む寮に向かった。寮の管理人に事情を説明し、とりあえず数日の間、クレアを家族から匿ってほしいと頼んだ。だが、管理人は当然首を横に振った。


「俺の部屋に住まわせるってことじゃない。それに、明日出勤したらロジャー団長に話をする」

「お願いです、このままでは私、何をさせられるか分かりません。住む場所が見つかるまででいいんです、どうか置いてください」

「駄目だ。ここは男子寮なんだよ。どんな規則であれ、女性は入れられない」


 がっくりと肩を落としたオスカーとクレアに、管理人が声を掛ける。


「悪いこと言わないから、このまま医務部の寮に行きなさい? オスカー、そのお嬢さんの居場所が決まるまで付いていてあげなさい。無断外泊扱いにはしないから」

「はい、行ってみます」


 2人は医務部の寮に行くと、同じように頼んだ。


「クレアの部屋? いつでも入れるように、準備できているよ」

「え?」


 今度はクレアが驚く番だ。


「ジュリア部長がね、クレアはいつ家を追い出されるか分からないから、必ず一部屋、クレアがいつでも入れるように準備しておくようにって、内々に連絡があったのさ」


 女子寮だが、寮の管理人が同席することで、オスカーはクレア用に用意されていた部屋に入ることを許された。


 ベッドにはシーツが掛けられ、掃除も行き届いている。本当にいつ来てもいいようにと用意されていたのだろう。これなら安心だとオスカーもクレアもほっと胸をなで下ろす。


「明日、ロジャー団長たちに相談しなさい。クレアの家族が来るかもしれないが、騎士団の衛兵たちに言っておけば騎士団内に入れないようにしてくれる。とりあえず安全は確保されるよ」

「ありがとうございます。オスカー様も連れ出してくださってありがとうございます」

「それじゃ、また明日」

「はい、おやすみなさい」


 翌日、クレアはオスカーとロジャー団長のところに行き、今後について話し合った。


「オスカー。危険な地域にはなるが、すぐに異動できる駐屯地がある」

「どこですか?」

「スタリオンとの国境近くだ。あそこはスタリオンとしょっちゅう小競り合いをしているから、オスカーの力も、クレアの魔法薬師としての力も求められる。どうだ?」

「行きます」

「問題ありません」

「よし、ならばすぐに婚姻届を出せ」

「え」


 驚いたクレアに、オスカーが微笑んだ。


「妻帯者でなければ、一緒に異動はできない。知っているだろう?」


 クレアの頬が赤くなる。


「ああ、ジュリアにも来てもらおう。証人が団長と医務部長なら、行政府の連中だってすぐに受理するさ」


 呼ばれたジュリアが、「やっとあの家を出ると決められたのね、よかったわ」と言ってクレアを抱きしめた。


「あの家族から離れて、オスカーと2人、幸せになるのよ」


 婚姻届を出した2人は、ロジャー団長から渡された辞令を持って、スタリオンとの国境近くにある駐屯地に向かった。


・・・・・・・・・・・


 なんという夢を見てしまったのだろう。


 クレアはオスカーと結婚した。幸せな毎日。仕事も充実している。


 それなのに、クレアは変な夢を見たせいで、朝からため息をついていた。


 あの時、オスカーの誘いを断り、家族に大切なものを質に取られた挙げ句に、オスカーとの結婚を交換条件に惚れ薬を作らされ、それをスカーレットがオスカーが飲ませてしまい……どうしてそんな恐ろしい夢を見てしまったのだろう。


 きっとオスカーが、スタリオンの魔法兵と戦闘中で、精神的に不安になっていたから、こんなあり得ない夢を見たに違いない。


 着替えて駐屯地の医務部に出勤し、クレアの、あのレモンの香りがする薬を作る。けがが早く治るように、病気が早く治るように、そう祈りながら魔法を込める。


「クレア、戦闘に行っていた部隊が帰ってきたそうよ!」


 同僚に声を掛けられて、慌てて医務部を飛び出す。疲れているようだが、重傷者は1人もいないようだ。


「ただいま、クレア」

「お帰りなさい、オスカー様」


 抱き合っていると、ヒューヒューと揶揄う声が聞こえる。


 もし、あの時、オスカーの手を取っていなかったら、あんな恐ろしい未来が待っていたのかもしれない。そう思うと、家族を捨てたことに心が少しだけ痛むが、自分の決断は間違っていなかったと思う。


「どうした、クレア。疲れているのか?」

「今朝、怖い夢を見たので、それで……」

「もう俺がいるから大丈夫だよ」

「はい」


 ダメ元でも行動しなければ、未来は開けない。クレアはオスカーの腕の中で、そう思った。


・・・・・・・・・


 これは、あったかもしれない「if」の世界のお話。

 


読んでくださってありがとうございました。


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