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ただ幸せに、なりたかった【なろう版・コミカライズ】  作者: 香田紗季


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【コミカライズ記念SS】SS7 ロジャーとジュリア

読みに来てくださってありがとうございます。

コミカライズの配信予告SSです。

よろしくお願いいたします。

 ジュリアが作った解毒薬は、幻覚系の魔法薬に効果があるということで、騎士団と町の薬師、それに医師たちから大量の発注を受けるようになっていた。幻覚作用を持つ麻薬の中毒者にも効くと分かったとたん、国中から発注がかかり、ジュリアは日付が変わっても家に帰れない日々が続いていた。


「無理しすぎだ」


 久しぶりにめまいを起こして倒れたジュリアに、団長のロジャーがたしなめるように言った。


「そうなんだけれど、でも、私が作る解毒薬を待っている人がいると思うと、居ても立ってもいられなくて」

「気持ちは分かる。だが、ジュリアが無理して倒れたら、かえって生産性が落ちるだろう?」


 ぐうの音も出ない。ふと、クレアを探しに飛び出すようにして出て行ってしまったオスカーのことを思い出した。まだグラシアールの春は浅く、雪が残っている。国境の森林地帯を無事に越えただろうかと、心配になる。


「オスカーも、似たような気持ちだったのかしら」

「クレアが心配で、居ても立ってもいられないってことか?」

「ええ。確かにオスカーは、氷狼様のおかげで強くなったのでしょう。でも、あの優しさと両立できるのかしら?」

「どういうこと?」

「オスカーは純粋で、真っ直ぐで、優しすぎる。だから、目の前で切られそうな人がいたら、剣で立ち向かう前に、とっさに自分の体で守ろうとしてしまうようなところがあると思うの」

「そうだな。守りたい他人が切られるなら、自分が切られた方がいいと思うタイプだ」

「だからね、じぶんの身を犠牲にして誰かを幸せにしようと考えてしまうオスカーは、本当に騎士として生きていけるのかしら、戦いの中で自己犠牲に満足して死んでしまうンじゃないかしらって、不安なの」


 ロジャーは深く頷いた。クレアに好意を持ち、クレアを守りたかったのは本心だろう。だが、オスカーの心の中に、かわいそうなクレアを助ける自分という存在であることに誇りを持つという、少し歪な気持ちもあったのかもしれない。オスカー本人はきっと気づいていないだろう。それが愛だと固く信じているだろうから。


「なあ、ジュリア。君を気に掛ける俺は、偽善者だろうか」

「そんなわけないでしょう? でも、結婚適齢期を過ぎた同年代どうし、傷をなめ合えばいいやって思っていたかもしれないわね」

「それはない。だって、俺はジュリアと初めて会った時から、ジュリアのことが好きだったからな」

「え?」

「ジュリアは仕事一筋だったし、まだ若い頃の俺はたくさんいる同期のなかの1人に過ぎなかったし、そもそも一兵卒だったから名前と顔を覚えてもらえるまで時間がかかったくらいだからな、脈なしなら気の置けない同期でありたい、そういう意味で心を許し、頼られる存在でありたいと思ってきたんだ」

「ロジャーったら、あなた今日はどうしたの?」

「今日くらい、俺がジュリアに本気だって言っても、ジュリアに叱られない気がしたんだ」


 森の魔女のところにたどりつく前、狂狼病に冒されたロジャーと、お互いの好意を伝え合った。だが、戻ってきてからのジュリアは忙しすぎて、2人きりで話をする時間などなかった。


「ロジャー、私、あなたのことが好きよ」

「ジュリアは、結婚したいと思うか? 俺はジュリアと結婚したい。事実婚も悪くはないが、俺は命のやりとりをするような仕事をしているだろう? 何かあった時に、事実婚では遺族年金ももらえない」

「あら、あなた、私を置いて先に死ぬつもり?」

「その予定も意思もない」

「ロジャーが形を整えたいなら、それでもいい。私は、目に見えるものよりも、目に見えないものを大切にしたいと思っているわ。あの魔女の解毒薬だって同じよ。目に見えない魔法が、目に見える素材よりも重要な役割を果たしている。私も、魔法薬の中の魔法のように、見える見えないではなく、誰かの役に立つ存在でありたい」

「そこに俺は含まれているんだよな?」

「もちろん、あなたが一番よ」

「そうか、なら結婚しよう」

「いいわよ」


 水も温み始めている。窓から見えるこの雪が、今年最後の雪かもしれない。雪が溶けるように全ての人の苦しみが溶けるように、とジュリアとロジャーは手を繋ぎながら深夜に響く鐘の音に祈った。




読んでくださってありがとうございました。

12月30日より、「マンガワン」アプリにてコミカライズ連載が始まります。作画は七瀬藍先生。口絵がとっても素敵です。

「婚約破棄された魔法薬師は炎の騎士に溺愛される~ただ幸せに、なりたかった~」というタイトルで、なろう版をベースに描かれています。

是非ご覧ください!

尚、以下につきましてはご興味のある方のみどうぞ。

・・・・・・・・・・


「ねえ、ロジャー」

「なんだい、ジュリア」

「ロジャーはこの小説がコミカライズされるって、知っているかしら?」

「噂には聞いていたが、本当にコミカライズされるのか?」

「ええ。12月30日から配信が始まるんですって」

「そうか。それでは、俺たちがこの目で見ていないクレアとオスカーを、コミックの形で見られるんだな」

「あなた、それは覗きと同じではなくて?」

「どうしてあんなにこじれたか、知りたいじゃないか」

「まあ、それもそうね。ロジャーが見る時、私も一緒に見ていいかしら?」

「ああ、2人で見よう」


 騎士団内ではこの後、コミックの中のオスカーとクレアの姿にもだえ、発狂する騎士たちが続出することになるのであった。


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― 新着の感想 ―
大好きな作品です。このエピソードの2人は特に好きでSSを書いて下さりとっても嬉しいです。ただ、この素敵なお話の最後にコミカライズの宣伝を2人にさせて欲しくなかったな…なんだか冷めてしまったな…というの…
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