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ただ幸せに、なりたかった【なろう版・コミカライズ】  作者: 香田紗季


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SS2 あたしはスカーレット

読みに来てくださってありがとうございます。

SS2はスカーレットの巻。

よろしくお願いいたします。

 あたしはスカーレット。この町一番の美人なの。街を歩けば誰もが私に振り返るわ。


「きれいなお嬢さんだね。時間があるならこのあと僕とデートしないか?」


 街中の男たちから掛けられるそんな言葉は、もう聞き飽きたわ。初めの頃こそ付き合ってあげたこともあったけれど、私もそろそろいいお年頃。それなりの相手をみつけなきゃね。


 それなりの相手とはどんな男かって?

 やあねえ、そんなの、お金持ちで顔のいい男に決まっているじゃない。

 でもね、この街の貴族なんて辺境伯様のご家族しかいないでしょう?

 辺境伯様はお父さんやお母さんたちと同じくらいの年代なんだけど、跡継ぎのお坊ちゃまはまだ10才なのよね。お嬢様方が3人いるけど、みんな王都の学園でお勉強中らしいわ。


 私みたいな平民は貴族の妻にはなれないって知ってから、あたしは「正妻」になるのは諦めた。「正妻」だと頭使っていろいろやらなきゃいけないんだって。


 色々って何って?

 色々よ、色々。


 お姉ちゃんはそういうのが分かるみたいだけど、私はお勉強なんて大嫌いだから絶対に嫌。ってなると、「愛人」なんだって。


 まあ、毎日きれいなドレスを着て、素敵なアクセサリーを身につけて、美味しいもの食べて……そんな生活をさせてくれるなら、愛人だっていいわ。





 そんなふうに思っていたんだけど、やっぱり「妻」って言葉も魅力的よね。


 すごく贅沢はできなくても、好きなだけ買い物をしても怒らないような甲斐性のある人っていないかなって思うようになったの。


 商家の跡継ぎもいいかもって思って何人かに近づいたんだけど、み~んな「ごめん、婚約者がいるんだ」って断られた。そんなのこっちからお断りだわ!


 じゃあ同じくらいお金がありそうな人って……。


 そしたら、誰かが話していたの。

 辺境騎士団の騎士たちって辺境手当が国から出ているから、隣の領の騎士団より給料がいいって。


 騎士って言ってもいろんな人がいるけど、格好いい人もいる。給料もいいなら、あたしが使えるお金も多いはず。


 その日からあたしは騎士団の辺りをうろつくことにした。お姉ちゃんの職場は騎士団の医務部だからそ

の伝手で入れないかと思ったけど、それは無理だった。


 でも、見学公開日っていうのがあるって知って、あたしは目立つようにしっかりお化粧して、きれいな服を着て意気揚々と鍛錬場に入ったの。


 みんな同じことを考えているのね。不細工が化粧をどれだけしたって無駄なのに、気合いを入れた格好で来ているの。

 残念ね、あたしがいるからもう騎士たちの視線は独り占めよ!


 あたしは最前列を確保して、騎士たちを目を皿のようにして一人ずつチェックし始めたわ。

 でも、あたしの最低ラインをクリアする男が見つからない。


 騎士も駄目か。


 そう思った時だった。


 見学に来ている女の子達がキャーって叫びだしたの。何事かと思って女の子たちの視線を追ったあたしは、目が点になった。


 すらりと背の高い、見るからに強そうな騎士がそこにいたわ。


 顔は……もう、最高。こんなイケメンが同じ街にいたなんて知らなかった。


 ボーッとその騎士を見ていたら、隣にいた女の子がうっとりした表情でつぶやいたの。


「今日もオスカー様、素敵。これで一週間、どんな嫌なことがあっても頑張れるわ」

「ねえ、あの人オスカー様っていうの?」

「あなた知らないの?」

「今日初めてだから」

「そう。オスカー様はね、辺境騎士団でナンバーワンの男よ! みんなオスカー様と付き合いたくてここに来ているのに、それを知らないなんて、あなた、本当にこの街の人?」

「スカーレットって言えば聞いたことあるんじゃない?」

「げ、噂のスカーレットってあなたなの? いやだわ、私と話をしたなんて言わないでちょうだいね!」


 女の子は隣にいるのも嫌だと言ってどこかへ行っちゃった。本当に失礼ね。

 それにしても「噂のスカーレット」ってどういうことなのかしら? 


 誰かに聞いてみたいけれど、今はそれよりオスカー様のお姿を目に焼き付けなくちゃ。


 一対一の模擬戦闘が始まった。


 オスカー様の前に、騎士たちがあっという間に倒される。


「やっぱりオスカーは強いよ」

「今日は見学の日なんだから、少しくらい手加減してくれたっていいじゃないか」

「そんなことを言っていたら鍛錬にならないだろう。お前は死にたいのか!」

「ひええ、そうじゃないんだって!」


 馬鹿がつくほど真面目なようだが、それさえもいいと思える。 


 決めた。あたしの旦那様は、オスカー様にしよう!


 それからあたしはオスカー様の目に留まるよう、目立つ服を選んで着るようになった。お化粧だって念入りにしている。スタイルだって、痩せすぎのお姉ちゃんとは違って、くびれるところはきゅっとくびれながらも出るところは出ている理想の体型をキープしている。


 今日こそはといつも意気込んで見学に出かけるが、オスカー様はあたしの方に近づいても来ない。視線も合わない。


 どうして?

 あたしがいいって言っているのよ?


 オスカー様の目が一点を見ているのに気づいたあたしは、オスカー様の視線の先にお姉ちゃんを含む医務部のスタッフがいるのに気づいた。


「あ、お姉ちゃん」


 医務部の人たちが何かを運んでいるらしい。オスカー様はツカツカと歩いて行くと、お姉ちゃんが持っていた重そうな木の箱をひょいと持ち上げた。


「え?」


 お姉ちゃんが慌てているが、オスカー様は構うことなくその木の箱を運んでいく。お姉ちゃんが何か言いながらオスカー様の後を追って歩いている。


 なにあれ。

 この美人のあたしでさえお話ししたこともないというのに、お姉ちゃんは職場が同じだからって、オスカー様と話ができるの?


 あたしの中に怒りがわき上がってきた。


 ずるい、許せない、オスカー様はあたしのものなのに!


 そのうちお姉ちゃんとオスカー様が付き合い始めたって聞いた。


 オスカー様がお姉ちゃんとのデートのために本当に家に来た時、あたしはやっとオスカー様とお話しできると思っていたのに、オスカー様は挨拶だけであたしを無視した。


 信じられない。

 このあたしが話しかけているのよ?


 あたしはお父さんとお母さんに相談した。二人が助けてくれたおかげで、あたしはオスカー様を手に入れた。お姉ちゃんと付き合うなんて、それが間違いだったのよ。




 お姉ちゃんが川に落ちたのは計算外だったけど、邪魔者がいなくなってスッキリした。


 お父さんが言っていたとおり、やっぱりお姉ちゃんは本当の家族じゃなかったんだと思う。


 ただ、お姉ちゃんがいなくなったことで困ったことになった。お姉ちゃんのお給料で生きてきたあたしたち。お姉ちゃんがいなくなって、収入がなくなっちゃったの。


 これじゃ、新しい服どころか、今日のご飯も食べられない。


 しばらくはオスカー様が支援してくれたんだけど、オスカー様はある日突然入院しちゃった。 


 ロジャー団長から見舞いに来いって連絡があったけど、そんなのかったるいからお断りした。


 泣く泣くあたしのアクセサリーを売って生活費を何とか凌いだ。またオスカー様に買ってもらえばいいってお母さんが言うから。あたしってえらい。





 

 だけど、退院したオスカー様から婚約無効の裁判を起こされた。あたしたちが惚れ薬を飲ませたことがバレたらしい。二度と元には戻らないって言っていたのに、お姉ちゃんの嘘つき。


 あたしはオスカー様の婚約者ではなくなった。騎士団の人たちからも街の人からも白い目で見られるようになった。誰もツケでの買い物を許してくれなくなった。


 仕方がないから、夜逃げをした。


 お父さんとお母さんが時々お金を持って来る。そうすると、次の街へ行く。そんな生活になった。二人がどうやってお金を稼いでいるのかは分からないけど、スカーレットは何も心配しなくていいとお父さんが言ってくれたから、大丈夫だとは思う。


 でも……あたしの人生、どうなるのかな。

 どこかにいい男、転がっていないかな~。







 今、あたしは鉱山で働く男たち専用の娼婦として相手をさせられている。


 まあ、いろいろやらかした訳よ。何をしたかなんて聞かないでよ、野暮ねえ。お父さんとお母さんと三人で捕まって、この鉱山に放り込まれたの。


 身請けも禁止されているから、出ていくこともできない。


 お母さんはもう少ししたら娼婦ではなく、娼婦のお世話をする「ばあや」になるらしい。


 あたしは美人だから直ぐに逃がしてもらえると思ったのに、一度逃げようとしたら逃げる前に捕まって、罰として焼印まで押されてしまった。


 あんな焼印を押されたら、もうどこへも行けない。あたしはここでただひたすらむさ苦しい男たちの相手をするだけ。


 そのうち、お父さんが落盤事故で死んじゃった。


 お母さんと二人で泣いていたけど、そのお母さんも風邪がきっかけで肺炎を起こして苦しみながら死んでしまった。


 あたしはこれからどうなるの?




 最近どうも体調がおかしいと思っていたら、どうやら妊娠したらしい。


 あたしはすぐに堕胎させられることになった。


 赤ちゃんのことがかわいそうだとは思わなかった。こんなところで生まれても可愛がってもらえないし、あたしも可愛いと思える自信がなかった。だって、誰の子か分からないんだよ。


 だけど、それでバチがあたったのかな。


 流産の処置がうまくいかなかったみたいで、ボスはさじを投げて、あたしを「見送り部屋」に担ぎ込むと鍵を掛けて行っちゃった。


 ここは、もう死を待つだけになった娼婦たちが置いて行かれる部屋。お母さんを看取ったのも、この部屋だった。


 お姉ちゃんはどうしているのかな、とふと思った。


 今のあたしを見たら、笑うんだろうな。あたしだったら笑うもん。


 そう思ったら、やっぱりお姉ちゃんのことが嫌いだと思った。


 あれ、と思う間もなく、目の前が暗くなった。二度と明るくならなかった。





 あたしが死んだことは、三日後に辺境騎士団に通達されたらしい。


 あたしだって、幸せになりたかった。どこで間違えたのかな。

読んでくださってありがとうございました。

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