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オスカーは翌日、地元の騎士団に出かけた。この公爵領の騎士団長に、ロジャーからの親書と私信を手渡すためだ。親書は、オスカーはグラシアールの騎士団員だが、あくまで友好目的で来ているので、便宜を図ってほしいという内容。そして私信には、自分の騎士団にいたクレアを探すためにオスカーを派遣したこと、もしクレアについてわかることがあったらオスカーに教えてやってほしいという内容だ。公爵領の騎士団長は、今日は騎士団の見学をしていくといいと言って、オスカーを待機させた。自身は公爵フェルディナントの所に行き、オスカーの来訪を報告した。
「つまり、クレアに会わせろということだな」
フェルディナントは眉間に皺を寄せた。クレアは王弟でありこの国の騎士団長フレデリックの想い人だ。2人が恋人とか、婚約者とか、そういう関係でないとしても、勝手に昔の恋人に会わせるのはまずい気がした。
「鳥を飛ばす。殿下は今王都にいるはずだったよな」
デニスが鳥を連れてきた。フェルディナントから預かったフレデリック宛の手紙を、足羽に隠す。
「明後日には来るだろう。それまで見学させておけるか?」
「仰せの通りに」
公爵領騎士団長が出て行くと、フェルディナントはデニスに言った。
「三角関係にまきこまれるのか?」
「お2人を広い場所にお連れしますから」
「頼む。頭が痛い」
デニスはその足でクレアの様子を見に行った。クレアにお世話係を付けたら嫌がりそうなので、定期的にクロリスが確認することになっている。
「クレアさん。あなた、自分がどれほど魅力的なのか、分かっていないのでしょうね」
人は生まれを選べない。選べないからこそ、その環境の中でどう生きていくかということが大切になる。オスカーが来たら、フレデリックもクレアのことをもっと深く知ることができるはず。
「できれば冷静に話しあっていただけるといいですね、クレアさん」
デニスの願いは、おそらく叶わない。
・・・・・・・・・・
オスカーは、2日続けて騎士団に呼ばれて話をしたり聞いたりした。そして、明日早めに再訪するように言われて午前中で帰されてしまったたオスカーは、町の市場にある商品がグラシアールと随分違うのに驚いたり、この辺りの平民の服を買ったりした。だが、一番長く過ごしたのは、海岸だった。海岸にも2種類あって、砂浜の海岸と磐だらけの海岸があると知り、海を知らないオスカーの興味を引いた。波の音を聞いていると、一定のリズムの中に、不規則なリズムが交じることに気づいた。
今の俺だな。
この町の中で、明らかにオスカーは浮いていた。騎士団に行く時はグラシアールで来ていた騎士服を着るし、普段着もグラシアールの者だ。気になったからこの町の平民服を着てみたが、なんとなくしっくりこない。町の中に、異分子が入り込んでいる。町の人にもそう思われているのではないかと思ったが、思いのほか普通に受け入れてくれている。それは、アンジェラとパットのおかげなのかもしれない。昨日はパットが騎士団まで案内してくれたのだが、声を掛けられる度に、うちの客だから、よろしく!、などと大きな声で言ってくれたのだ。人に相談することに慣れようとしているオスカーにとって、気さくなアンジェラとパットはいい相談相手になった。
海辺で時間を潰したかったが、潰しきれなかった。パットの家に戻るのも悪い気がして、オスカーはその辺りに落ちてきた大きめの枝を拾い、海岸の岩と岩の間の砂地で素振りを始めた。ここなら誰の邪魔にもならない。上着を脱いでシャツ一枚になると、オスカーが足腰にしっかり力を入れながら、ゆっくりと重く素振りをする。無言で、ひたすら狙った1点に木の枝の先端が来るように意識して、振り続ける。汗が噴き出るのも厭わず、ただただ振り続けた。上空をカモメが飛んでいる。
「こんなところで鍛錬か?いや、見慣れない顔だな」
公爵領騎士団の騎士服とも違う騎士服を着た男がやって来た。その目は鋭く、オスカーを値踏みしているようだ。
「あなたの場所でしたか?そうとは知らずに、失礼しました」
「いや、そうではない。カモメが、ここに人がいるとうるさくてな」
「カモメ?」
「お前の傍に、白い鳥が何度も来ていなかったか?」
「あ、ああ、いました。あれはカモメというのですか」
「その制服、グラシアール人だな? カモメを知らないのも当然か」
「……」
この男は何が言いたいのだろう。オスカーは心の中で首を傾げたが、疎かにしてはいけない人だと感じていた。
「私はグラシアールの南辺境騎士団に所属するオスカーと申します。あの、失礼ですがあなた様は?」
「フレデリックだ。明日、騎士団で会える。話はその時に」
それだけ言うと、フレデリックは立ち去った。何だったのだろう? 夕食の時、パットとアンジェラにフレデリックという、公爵領騎士団とは違う騎士服の人物に会った話をした。2人は目を丸くし、そしてどうしようという表情をし、更に眉尻を下げてしまった。
「あの、なにかまずいことをしたのだろうか……」
アンジェラが申し訳なさそうな顔をした。パットは言いよどんでいたが、決意したようにオスカーに教えてくれた。
「フレデリック様は、公爵領騎士団ではなく、この国全体を統括する不死鳥騎士団の団長なんだ。クレアが看病してお世話していたのは、その団長で……団長はどうやらクレアのことを相当気に入ったらしくて……」
「相当気に入った、というのは、使用人としてということではない、と?」
「どうやら相当惚れ込んでいるらしい。隠していたことだけど、昏睡状態のクレアを保護しているのは団長だ。もちろん、直接ではないよ。クレアの能力を知った連中から守るために、相当心を砕いて守っているらしいから」
そうか。あれは、クレアを泣かせた俺への牽制だったということか。
「向こうはオスカーのことを知っているが、オスカーは知らないだろう? 不公平だと思ったから教えたけど、俺たちが言ったって言っちゃ駄目だからな」
「そこは信用してくれ。教えてくれてありがとう。あの団長とどういう態度で接するべきか、一晩考える時間ができた」
オスカーの、眠れぬ夜が始まった。
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