表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

18

読みに来てくださってありがとうございます。

短いです。夜投稿できないかもしれません。

よろしくお願いいたします。

 オスカーは、ドニャソル川に沿って国境を越えた。グラシアール国内の川沿いの町には、クレアはいなかった。とすれば、ロターニャにいるはずだ。


 「氷狼の騎士」となったオスカーは、ロジャーと話し合い、1年の時間をもらった。表向きはロターニャでの遊学だが、真の目的はクレア探しだ。年が年だからと結婚式は挙げずに籍を入れたロジャーとジュリアの元に辞表を持ってきたオスカーを、2人は止めた。「氷狼の騎士」となったオスカーには、王都の貴族からも誘いがかかっているようで、近衛騎士団の団長からも引き抜きの打診があったという。


「こういう煩わしいことから離れたい。クレアに会いたい」


 オスカーとロジャーの妥協点が、1年の調査旅行だったのだ。


「出張だからな、給料もちゃんと出る。心配するな」


 オスカーは川沿いの町を1つ1つ訪ね歩き、去年の冬の初めに女性が流れてこなかったか聞いた。誰1人、見た覚えがあるという者はいなかった。そして、とうとう海沿いの町にやって来た。ここにいなければ、もう海の中に沈んでいるということになるだろう。


 オスカーは初めて見る海に感動していた。こんなに大きなものなのか。山に囲まれたグラシアールが、故郷の町が、小さなものに思えた。世界は広いのだと、海だけでも思い知った気分になった。


 ずっと海を見ていたからだろうか、漁師に声を掛けられた。


「そんなところに突っ立って、どうしたんだい? 今日泊まるところがないなら、うちに泊まるか?」

「いいのか?」 

「ああ、いいよ。その代わり狭いぜ」

「助かる。どうしようかと思っていたんだ」


 漁師は日に焼けた顔で笑って言った。


「そっか。声かけて良かったよ」


 連れて行かれた家には、母だという女性がいた。


「パット、あんたお客さん連れてくるならそう言いな」

「帰り道に、この人が海辺でぼーっと突っ立ってたからさ、気になって」

「そうかい。本当にあんたはよく人を拾ってくるよ」

「人を拾う?」

「ああ、冬の初めには若い女の子を連れてくるし、その後も迷子の男の子を連れてきて誘拐騒ぎになったこともあるよ」

「待て。冬の初めに若い女と言ったか?」

「ああ、岸辺に打ち上げられていたんだ。川に流されてよく生きていたよな」

「その人は、今どこにいる!」

「え?」

「クレアに違いない!」

「ああ、クレアだよ。で、あんた誰?」

 

 女性……アンジェラの目が厳しくなった。


「俺は、クレアの婚約者だった。クレアを探しているんだ」

「ああ、妹に転んだっていう婚約者があんたか」


 2人から軽蔑の視線で見られ、オスカーは俯いた。


「俺は、惚れ薬でスカーレットを愛するように操作された。周りの人たちが助けてくれて、今は惚れ薬の影響はない」

「なんでそんなもの飲んだんだい?」

「スカーレット・・・ああ、クレアの妹だが、スカーレットに命じられてクレアが作った薬を、飲み物に混ぜられた」

「クレアが?」

「ああ。クレアは魔法薬師だ。もし生きていれば、同じ仕事をしていると思うんだが」


 アンジェラとパットは目を見合わせた。


「クレアは生きているよ。でも死んでいる」


 パットの言葉の意味が分からない。


「クレアは魔法薬師だったんだね。そんなこと一言も言わなかったよ。恋人に申し訳ないことをした、死んでしまいたかったって泣いていた。でも、こうやって生きているんだから何かすべきことがあるんだろうって言ってやったら、働く、もうグラシアールには帰れないって、あるけが人のお世話係になった」

「どこにいるんだ?」

「秘密にしてくれるかい? うちがクレアを知る唯一の家だっていうことで、私たちだけが知っていることなんだ」

「分かった。騎士として約束は守る」

「今、クレアはある場所に匿われている。魔法薬を使った反動で、クレア自身が昏睡状態にあるんだ。魔法薬師としての能力を知られると、クレアが攫われたり暗殺されたりする可能性がある。だから、場所も言えないし、もし分かっても会えないと思うよ」


 アンジェラの言葉に、オスカーはそれでも微笑んで言った。


「今この瞬間まで、クレアの生死が分からなかったんです。生きているって分かった、それだけでも、今の俺には本当にうれしい情報なんです」


 あんたたち2人、似ているんだね。


 アンジェラもパットも、同じことを考えていた。オスカーの微笑みは、クレアが無理に笑っていた時のものと全く同じだったから。

読んでくださってありがとうございました。

いいね・評価・ブックマークしていただけるとうれしいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ