14
読みに来てくださってありがとうございます。
短めです。
よろしくお願いいたします。
クレアはここ数日悩んでいた。フレデリックは感情のコントロールができるようになってきている。やけどの痕は残っているが、通常の医療ではこれが限界だと言われた。クレアに出来ることがあるとすれば、フレデリックの体内に残されている呪いを壊すか取り除くか……魔法薬ならできる。もっとも、神獣である不死鳥の呪いとなればその力は相当強い。だが、それに対抗する方法をクレアはいくつか知っている。
クレアは決めた。魔法薬を作ってフレデリックの呪いを解こう。そうすれば、フレデリックは王都に戻り、クレアはこの海辺の町に残ることができるはずだ。クレアは、フレデリックの誘いがただの世話係に対するものではないこと気づいてしまった。一国の騎士団長と、ただの平民に未来はない。だからこそフレデリックは秘書官や侍女と言ったのだろう、だが、もしそうやってついて行っても、そこには超えられない身分差が存在する。もしクレアがフレデリックの愛を受け入れたとしても、クレアに残された道は愛人かお手つきの侍女の扱いだ。飽きられれば捨てられるだけ。クレアはフレデリックの人柄を知って不義理なことをするような人ではないと思っているが、周囲の圧力の中では難しいだろう。それに、騎士団長にはそれなりの家柄の貴族令嬢があてがわれるはずだ。将来の軍務大臣となる騎士団長に、平民は釣り合わない。
決意した日から、クレアは夜こっそりと森に行って、魔法薬の素材を集めるようになった。公爵別館はそもそも人里離れたところに立てられている。少し歩けば森はすぐそこだ。明るい所に生える素材を全て揃えると、深部に行かなければ取れない素材を集めることになる。本当は1人で夜の森に行くのは怖かったが、町の薬草店でこれらの素材を買うには、薬師や医師の免許状が必要になる。薬師の免許状は騎士団に置いたまま出てきてしまったし、魔法薬を作らないと一度は心に決めたのだ。ならば、自分で取りに行くしかない。必要な素材を集めるのに10日。あと1つ、最も希少なものだけが残った。この素材は生えている場所が絶壁の途中であるため、普通は専門の採取業者がグループを組んで安全に配慮しながら採取するものだ。クレアは森の中に犬小屋程度の小さな小屋を組み、そこに素材を置いていた。
今日、クレアは休みをもらった。これまで1日も休んでいなかったことに気づいた本館の家令デニスから、法律に違反するから必ず休みを取らせるようにと連絡があったのだ。
「ほら、あんた職業斡旋所から来たでしょう?だから、給料とか休みとか、適切に処理されているか抜き打ちチェックがあるのよ。それを公爵家が忘れていたのだから、さあ大変ってやつ。そういうわけで、あんたはお休み! 今日は外に出て買い物でもなんでもしていらっしゃい!」
クロリスに言われた別館から出たクレアは、町でロープと杭を買った。そして、稀少素材のある崖に向かった。なだらかな山を一時間かけて登る。崖になっている面は、下に川が流れている。深い川だということが深い緑みの水の色で分かる。クレアは周囲を見回すと、1番幹が太い木を探し、ロープを巻き付けた。そして自分の身体もしっかりとロープで巻いた。杭を1本手に持ち、もう2本を腰に付けたポーチに入れる。怖い。高さもあるし、一度川に流された経験から、川に恐怖を持つようになってしまっている。だが、自分が行かなければその素材は手に入れられない。クレアは崖の下に一歩ずつ下りていった。途中で足を滑らせることもあったが、手に持った杭を崖に打ち付けて、何とかしのいだ。
目的の素材は、花が咲いていた。花が咲いた時期のものが一番効能が高いとされている。清涼感のある香りに、遠目に見つけた素材だったが間違いではなかったとほっとした。クレアは素材をポーチに入れると、今度はロープを使って一歩ずつ上に登った。体力のないクレアは、何度も休憩しながら少しずつ登った。下りるのに30分かかった道を、登るために2時間費やした。崖の上にたどり着いた時、クレアは疲れ切っていた。それでも、あの小屋の素材とあわせて、1日も早く魔法薬を作りたかった。頑張って歩いたが、小屋の前にたどり着いた時には既に日が暮れていた。このまま夜の森の中を歩けば迷子になる可能性がある。そうなれば、狼や熊に襲われて死ぬのが目に見えている。クレアは大きな犬小屋程度しかない小屋の中に潜り込むと、水を飲んだ。そして、休憩するつもりで横たわり、そのまま眠ってしまった。
・・・・・・・・・・
深夜、別館の周囲にはいくつもの気配があった。
「ジル、あれは……」
「あの気配は、スタリオンの工作員ですね。間違いないでしょう」
「クレアはどうしている?」
「部屋は静かです。気配がない?」
「向こうの手に落ちていなければいいのだが」
「あ、動きましたね」
フレデリック、クロリス、ジルは、剣を持って身構えた。ドンという音と共に、防火扉が破られた。
「何者だ?」
黒衣の集団はフレデリックを狙うようにして構えている。
「お前に殺された者たちの意志を受け継ぐ者だ。虐殺者め、ここで仲間の恨みを晴らしてやる!」
こちらは3人、向こうは20人は下らないだろう。戦闘が始まると、しかし状況は圧倒的にフレデリックたちの方が優勢だった。力量が違いすぎるのだ。
まずい。
影から見ていたシャルロットは、チャーリーをクレアの部屋に行かせ、クレアを連れ出そうとした。だが、クレアがいないようで、チャーリーはキョロキョロとしている。
危ない!
シャルロットがそう思った時、チャーリーはスタリオンの工作員の手で切られていた。チャーリーが倒れる。シャルロットをじっと見つめている。だが、シャルロットは助けない。チャーリーの懇願するような瞳からだんだん力がなくなり、そして光が消えた。
「チャーリ-、あんた全くの役立たずだったわね」
シャルロットは、吐き捨てるように言った。シャルロットは工作員ではない。難民キャンプの生き残りで、難民キャンプを襲撃したフレデリックを心底憎んでいた。スタリオンの工作員と連絡を取り合って、フレデリックの状況を報告し、今日の襲撃をお膳立てしたのは、シャルロットだ。シャルロットは別館から逃げた。刃物のぶつかり合う音が遠くまで聞こえる。だが、本館からは十分に離れている。フレデリックに救援は来ないはず。
シャルロットは給金を持ち出すと、森に身を潜めた。
読んでくださってありがとうございました。
いいね・評価・ブックマークしていただけるとうれしいです!




