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銀と終末のトランスポーター  作者: 終乃スェーシャ(N号)
六章:銀に燃えるために
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再び燃え上がる

「――――っ……!」


 レーニャは何かを言おうとしたが、言葉を発することもできずに呑み込んだ。小さく首を横に振って、疲弊し、顔を歪めた。


「……ワタシは、父さんの跡を継ぎたかった。銀雲急便を指揮できるように、少しでも父さんに追いつこうと思っていた」


 全ての言葉は過去のものとなって、声が酷く震えていた。


 それでも毅然とした眼差しを皆に向けて、……向けようとして――耐えきれずに俯いた。


「…………だからワタシにはどうすればいいか、わからない」


 縋るように脆く消え入りそうな声。


 レーニャは銀雲急便のエンブレムをじっと見つめて、きつく唇を噛み締めた。


 ――それは誇りだった。父が築き上げた輝きで、皆が持つ炎の輝きの証。……今だってそれは変わらない。


 ……だから何も見えなくなった。


 先を照らす灯火を見失った。


「…………ワタシにとって、銀雲急便がすべてだった」


 考えてみれば当然のことだ。


 記憶のある瞬間、生まれた瞬間から銀雲を仰いできた。そうやって造られたのだから。


「けどワタシは……使い捨ての人形だった。本物の……ワタシが死ななかったことにするために作られて、時計の針を起動し、殺されるために…………産まれていた。ワタシは……本物のレーニャじゃない。ワタシは……っ!」


 視線の先は何も映せなくなっていた。空虚さを冷たさばかりが満たして、銀の炎が消えていく。


「ワタシは……!!」


 ――――強く、揺るぎなく、誰かを導けるようになりたいと思っていたのに。ワタシは本当の娘じゃない。本当の後継者じゃない。夢は造りもの。


「レーニャ!!」


 それ以上の言葉を断ち切るように、ディストは叫ぶように名前を呼んだ。


 強く肩を掴み、見開いた双眸がすぐ目の前で向かい合う。


 ……先の言葉なんて何も浮んじゃいなかった。慰めることなんてできない。気にするななんて言えない。


「……レーニャは、レーニャだ。偽物だなんて思ってるのはあのクソ親父だけだっ!! それはお前にとってはでかいことかもしれないが……! 俺が知ってるレーニャはお前だけだ」


 際限なく炎が滾る。憤怒、無力感、信頼、託された炎。数多が混ざり合って緋色の瞳を光輝させていく。


 感情のままレーニャを抱きしめた。高鳴る心臓の鼓動が互いに伝った。


 恥ずかしいぐらいに熱が密着している。


 消えかけていたレーニャの銀灯が再燃していく。……炎が交じりあった。


「俺に名乗ったレーニャはお前だけだ。俺に嫉妬してたのもお前だ。俺に咥えた飴を平気でよこしてきたのも、恥ずかしがりながら一緒にアイス食ってたのも、……俺が好きになったのも……お前なんだよ。……レーニャ」


 言葉の着地地点なんて考えちゃいなかった。思ったことをただ言葉にしているだけだったから。


 レーニャは悲壮と恥辱が入り混じるように、一層顔を引き攣らせた。


 恥ずかしさで頬が赤くなることを恥ずかしがるように、険しく睨み据えてくる。


「だから俺は、レーニャがどんな選択をしたって着いていく。…………レーニャがしたかったことはなんだ。なりたかったものはなんだ」


 声は焔のようだった。


 レーニャの胸の内側で灰に埋もれ燻る銀の火種を灯すような熱と光だった。


「……ワタシは――!」


 涙が、白銀の炎となって燃え消えた。敢然とした双眸が向かう。


「ワタシは……こんなふうになっても銀雲急便の名は捨てたくはない」


 そして、再び炎が灯された。


 郵便帽を深く被り直して、堂々と一歩前に出る。


「だが、……これは我が儘だ。ワタシに協力する必要も、義務もない。それでも残ってくれるなら……助けてほしい。ワタシはこの炎を消して、どこかで逃げ隠れはしたくない。敵が……父さんが、どんな人だったとしてもだ」


 そう言って、レーニャは深く頭を下げた。


 長い沈黙が満たした。小さな靴音を響かせて、ミルシャは諦めるように、はたまた呆れるようにため息をついた。


「…………はぁ。まったく卑怯ですね。こんな砂漠のど真ん中で……どこに逃げろと言うんですか」


 ミルシャは恐怖を炎で燃やし、お姉さんぶるように穏やかに微笑んだ。


 小さな手でレーニャの髪を撫でていく。


「…………しかたがないだけです。……ミルシャだって、仲間が泣いたり、苦しんだりするのも見たくはないです。だから……本当は、逃げてほしいけど。それが苦しむことになるなら…………しょうがないです。手伝います……」


 声は震えたままだったが。言葉を選んだりはしなかった。思ったことをそのままぼやいて、ミルシャは銀の炎を滾らせた。


 同時、華奢な腰回りを金属の腕に撫でられて、一瞬で顔を真っ赤にして肩がビクリと跳ねた。


「んひゃぅ!?」


 手を出したのはルーディオだった。


「……ミルシャはそういう目で見てないんじゃなかったのか?」


 こんな状況でも変わらない手癖の悪さに、ディストは辟易した。ミルシャは突然のことに驚いて、目を見開いたままフリーズしてしまっている。


「悪いな。いい女には手を出す機能があるんだよ。オレは」


 そう言って、灯していた煙草を握り潰した。煙が消え、しろがねの炎が溢れていく。


「……ミルシャが勇気を出したんだ。オレはいい女は助けるさ。助けなきゃいけない。おかげで逃げる選択肢がなくなっちまった。……けど問題はねえ。敵は【銀炎】なんて大層な名前を持ってるだけの過去にしがみついた燃え滓だ。オレからすればリーダーのほうが怖いもんさ」


「言うねぇ。ルーディオ。ミルシャが逃げたいって言ったとき、安心してた癖に」


 飄々とした笑みを浮かべるルサールカ。


 着いていくかどうかの言葉なんて、これ以上は不要だった。


 レーニャはいつもの調子を取り戻すように澄ました笑みを浮かべた。


「……だが、このまま戻るつもりもない。父さんは……いや、【銀炎】が途方もない存在なのは絶対的だからな。我々に敵対していた組織に、……オルトロス十三区の管轄企業に協力を依頼しにいく」


 オルトロス十三区――――。所属社員の誰もが、異界道具の共鳴作用を妨げる装備を支給されているイカレ企業。


 【正義】を名乗り、レーニャを殺そうとしてきた女が所属する組織だ。

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