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銀と終末のトランスポーター  作者: 終乃スェーシャ(N号)
三章:照らす火、継ぐ炎
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信じるために焚べたもの

 路傍を踏み砕いて高く跳ぶと、レーニャを狙い澄まし、力の限り槌を振り下ろす。


 同時、仕込み火薬が炸裂した。空気が膨張して爆ぜる。耳を聾するような音が鼓膜を痺れさせた。飛散した道路の破片が突き刺さり、舞い上がる白い砂塵によって視界が途絶える。


「レーニャッ!」


 ディストの叫びに対して返答はなく、ただ砂塵を貫く灯火だけが眩く噴き上がる。広がる熱が砂埃を吹き飛ばすとレーニャは転じて攻勢に出た。


 銀の燈火による加速を用いて斬撃の軌跡が喉首を捉え鋭く穿たれる。


 【正義】は淡々と身を屈め避けた。続けざまに円弧を描いて振るわれる銀閃を打ち流し、弾き、身を翻す。加速した剣戟を退けてみせる。レーニャの剣戟は頬を掠めただけだった。


「あなたの剣術は出来過ぎていますね。パパにでも習ったんですか? もっと、機転を利かせないともったいないですよ」


 冷静さを揺らがすように【正義】は嘲った。引き攣る頬、釣り上がる瞳。


 強く踏み込んで血と骨の破片が付着したスレッジハンマーを振り上げる。


 レーニャが最低限の動きだけで被弾を避けようとすれば、槌をその場で振り下ろし砂塵を跳ね飛ばした。


「ッ……!」


 レーニャが腕で防いだ瞬間、狙い澄ました足刀蹴りが鳩尾を殴打する。重々しい打撃音。分厚い靴底がめり込んで、呻きを漏らし目を見開いた。


「がッ、ぁ……!!」


 再度振り下ろされる殴打に対し、ディストは咄嗟に割って入った。片手で握りしめた軍刀で正面から受け止めて、いなす激しく響く金属音。身体を痺れさせる衝撃。刀身はたやすく砕け折れて、金属の塊が片脚を潰した。


 先ほど打ち込んだアンプルのせいで痛みはない。ただ熱だけがこみ上げてくる。視界が霞むから、舌を噛んででも飛びそうになる意識を堪え保つ。


「……悪ぃ、二人とも速すぎるんだよ。……助けるの遅れた」


 身体が支えきれなくなった。倒れてしまいたかった。格好つけて、見栄を張って死に足踏むなんてバカバカしい。


 ……けどそれ以上に、ここで守られていたくはなかった。レーニャに嘘はつきたくなかった。約束は守らなくちゃいけない。


 だから――無い脚で一歩踏み込む。身体を支えたのは炎だった。銀の火の出力だけで態勢を整える。


「なんて無茶な……! なぜ逃げない。ワタシのことがそんなに信用できないか? ワタシが置いてけぼりになったら殺されるとでも思ったのか?」


 ――違う。信じていないんじゃない。


 そう叫ぶかわりに、勢いのまま無くなった脚で蹴り薙いだ。銀の炎が広がり伸びて、空気を歪め焼き切る。白銀の火飛沫が夜の闇を塗り潰していく。


「信じてるからだ。レーニャは強い。なにせ銀雲急便のトップになる女だからな。だから、……俺が逃げたって逃げずに戦うんだろ?」


 鋭い睥睨がディストを一瞥することはなかった。煤と砂塵が舞うなか、瞬きもせずに【正義】だけに視線を向けたまま、レーニャは小さく頷いた。


「大層な自信で結構。けど良くないな。一応は俺は部下だ。文字通りお荷物でもあるが、使えるもんは使うべきじゃねえのか? 俺はレーニャのことは信じていいと思ってる。親切だし、強いし、色々まぁ褒めても良い点は増えた。初対面ときよりな。だからさ――お前を信じる俺を信じてくれよ。俺達で【正義】だろうがぶちのめす……。逃げたら……! ずっと怯えることになる……」


 そうは言ったものの、【正義】はなんてことのない様子で、蹴り放った炎を受け止めきっていた。当然と言えば当然だ。銀の火はわずかな熱こそあれど、本質は物体を加速させる力のはずだから。


 ぐらりと、銀の燈火だけで支える脚が不安定に揺れる。余計なことを考えたせいだ。本当に加速させるだけなら立ったままでいることも、滞空し続けることも夢のお話だ。


 苦渋を噛み締めながら、態勢を整えるために吹き飛んだ腕にも炎を灯した。


 麻痺した痛覚を熱だけが苛んでいく。もっとだ。もっと加熱しろ。支えるだけじゃダメだ。血肉が焼けるほど燃え上がらなきゃいけない。


「ッ……があああああぁぁぁぁぁ……!!」


 銀の火が意思を燃料に激しく揺れると、血肉を焼き塞いで煙があがった。神経が狂って目の奥にさえ痛みが奔る。眼前、走り抜ける閃光。【秒針】と、アメリアの目が限界まで充血していく。


 レーニャと、正義までもが目を見開くなか、加熱した身体がギアを上げて、肉薄した。技もフェイントもなく、ただまっすぐに切っ先を突き伸ばす。


 飛びすさって避けられた。刃風だけが喉首を掠めるが斬るには至らない。


「まるで化け物ですね」


 血濡れた鉄槌を持ち上げながら、【正義】は嘲り見下すように言い切った。


挿絵(By みてみん)


「異界技術に身体を侵されて、あなたがあなたでいる部分がどんどん減ってる。義体、他人の目、異界道具、炎。そうやって自分を自分以外で埋め尽くして、自分の意思で動いていると思っていても、破滅の道を歩かされているだけですよ」


 自分が減っていく? 構わない。そのほうができることが増える。破滅の道を歩かされている? そのとおりだろう。時計の針を求める意味を知ったところで、できることなんてたかが知れているのだから。


「ああ、俺はそうかもしれないな……! 夢って夢もねぇし、ただ生きていければそれでよかったんだ……!」


 それも出来なくなった今、突き動かすのは衝動だった。


 火の勢いが尽きることはなく、続けざまに薙ぐ連撃。無い腕で全身を加速させ、自分自身を武器であるかのように振るう。


 付け焼き刃の斬撃を【正義】はそのまま通り過ぎて、ディストの背に向けて打突機を突き立てた。


「その結果が大勢を不幸にするどころか破滅に導くんですよ! 時計の針は不幸しかもたらしません!」


 引き金がひかれる刹那、レーニャの剣戟が打ち流して軌道を逸らす。飛び散る銀の飛沫。炸裂する火薬が鼓膜を貫いて異臭を漂わせる。


「……姉さんのほうがよっぽど夢があっただろうし、レーニャのほうがよっぽど目的があるんだ。俺なんかよりずっと。だから俺は――それを邪魔する奴は潰す」


 奥歯が軋んだ。眦を決して深く懐に潜り込んで斬りかかる。


 ハンマーの柄が刃と激突して火花が散った。

今回のイラストは@Dr_Yamero様に依頼したものです。作者が描いたものではありません。

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