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銀と終末のトランスポーター  作者: 終乃スェーシャ(N号)
三章:照らす火、継ぐ炎
22/56

尾行



 ◆




「ぜぇ……ぜぇ……。ディスト……クラークス。到着しま、した……」


 息を切らしながらリーダーの招集時間前に到着した。広がる夜闇を照らす街灯。既にほかのみんなは集まっていた。


 同行していたルサールカはなんてこともない様子でぶんぶんと尾を揺らして、悪びれもなくセーフセーフとのたまっている。


「おい。ルサールカ……お前飲んだだろ。はぁ、ほら、お前ら二人とも水でも飲んどけ。給料から引くけどな」


 リーダーはこうなることを予期していたみたいにボトルの水を投げ渡してくれた。極夜の街を荒む風と凍えた砂塵で喉を傷つけていたのか、僅かに血の味が滲んだ。


「それで……要件はなんですか。ミルシャは……その、ルーディオといっしょに新しい画材を探していたんですが」


 ミルシャの問いかけを受けると、リーダーは押し黙った。ほんの数秒だ。それだけで、締め付けられるみたいな威圧感を覚えて、全員がピタリと口を閉ざした。


「……砂嵐の影響で外部から敵が侵入することはできない」


 それは分かりきっている。砂嵐が発生した以上、白い砂から生まれた生き物以外は全て、砂そのものへと変わってしまうからだ。


「だが既にウルルクにいる敵は俺達を襲撃することができる。よって以降はツーマンセルで行動してもらう」


「そんな可能性は初日からあっただろ? なんで今になってなんだ」


 反対しているわけではなかったが。ディストは怪訝そうに尋ねた。知りたいのは理由だ。急に不安になった。


「そうだ。初日からいた可能性もある。なにせ尾行されてたからな」


 レーニャの目つきが変わったのがわかった。咄嗟に周囲に警戒を巡らせて、緊張するように強張る。


「問題はリーダーでも尾行相手を捕まえられなかったことなんじゃないですか?」


「いやぁどうだろうな? オレなら本気出せばなんとかなるとは思うぞ?」


 レーニャの問いかけに物怖じもしなかった。本当のことなのか見栄を張っているだけなのかは分からないが。


「はは、呑んだくれたり惚気けてる間に襲われてる可能性あったってのか? 大丈夫かよこの組織……」


 不安をごまかすように自嘲すると、レーニャの鋭い視線が突き刺さる。


 険しい表情。自らを律するように沈黙したまま郵便帽を深く被り直していた。


「フフ……フハハハハハ!! そりゃ傑作だな。一番便利屋っぽい死に方になるだろうな。まぁ、語るには少し恥ずかしいか? けど生憎、オレ達は軍人じゃなくて便利屋だからな。ゴロツキ共にはしっかりガス抜きがいるんだよ」


 レーニャのクソ真面目な態度に反してリーダーは適当だった。開き直るみたいにバカ笑いすると、息を切らし涙を拭う。


 レーニャの睥睨が向かうと、気圧されるみたいに肩を竦ませていた。


「あーいや、そうだな。レーニャは真面目だ。お前はずっと頑張ってくれてる。ディストに何かあったときすぐに介入できる距離にいたもんな。悪かった」


 コクコクと、少ししおらしくレーニャは頷くと、思い出したかのように瞳孔を細めた。険しい目つきでディストに詰め寄ると、軍刀の柄を腹部に押し付ける。


「うぐッ――」


「だから間違っても火の探知を隠すようなことはやめろ。骨をへし折るぞ。ディスト・クラークス。……ルサールカもこれを甘やかしたりたぶらかさないでください」


「全部聞いてたのかよ……っ、悪かったって!」


 ディストが教育を受けるのを節目に、リーダーは空咳をして話を取り直した。


「ルーディオはミルシャと、オレはルサールカと。レーニャはディストとつねに行動するように。レーニャも言っていたが火は隠すな。砂嵐が晴れるまで後数日だが。警戒は怠らないように。以上! 何か意見要望はあるか?」


 瞬間、真っ直ぐ手が伸びる。ルーディオは真摯な態度で一歩前に出た。


「リーダーがディストを。オレが一人で女の子全員を担当するのはどうだ? なに、敵がこまるなら砂嵐がなくなるまでオレと長い夜を――」


 スクラップになる勢いで文字通り一蹴されていった。


 ミルシャだけが手を出す様子もなく、ただ不安そうに周囲に怯えていて、ルーディオはため息をつきながら小さな手を握った。


「あー……何かあってもお前はチビだから問題ない。一緒に抱えて飛べるしな」


「ルーディオさん……ほんとうにいろいろ最低ですね」


 二人を眺めながら言った通りでしょ、とでも言いたげにルサールカが尾を揺らすなか、グイと視界全面にレーニャが映り込んでくる。


「ボサっとするな。リーダーが追いかけなかったほどの敵がいるという意味を理解しろ。狙いは最終的にはお前と私になるんだぞ。わかっているのか? 現状のお前は……才能だけの憎い素人だ」


 体格を確かめるように、無遠慮にレーニャは体を撫でた。上腕、首、胴体。華奢な手がこそばゆい。


「……わ、わかってるよ。だからずっと走ってるし。襲ってきたやつの義体も売って内臓用の強化インクも買ってつけたんだ。少し慣れがいるけどな」


「それが無警戒だと言っているんだ。どこの闇医者を受けた? なぜ相談しない」


 ジトリと碧の双眸が顔を覗き込む。表情が大きく変わることはなかったが、誰がどう見ても不満げだった。


「いや、医者は受けてない。俺が自分で手術した」


「正気か? まだ闇医者で受けたと言われたほうがマシだな。自分で自分の腹を掻っ捌くなら、なおのこと相談しろ。事故があったらどうするつもりなんだ? 二度と一人でそんなことをするな」


 真剣に身を案じてくれる言葉だった。


 勝手にしろ、とでも言われるかと思っていた自分が少し嫌になる。ディストはたじろぎながら小さく俯いた。


「わかった。それは俺が悪かったさ。……お前がそんな心配するとは思ってなかったんだよ」


「お前の心配ではない。……«秒針»の心配だ。たわけめ。頭に乗るな。……ボサっとするな。今日のランニングはまだだろう?」


 レーニャは食い入るように否定すると踵を返した。長い銀の髪が勢いよく揺れていく。灯される銀の炎が地を蹴った。


「…………それならそう言えっての」


 悪態をついて、少女の背を追っていく。

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