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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

宇宙エルフの姫です。星が宇宙オークに燃やされてます。

作者: 十凪高志



「ヒャッハァアーーー!!! 宇宙エルフの星を燃やせぇえーーー!!!!」


 宇宙オークの宇宙船からせり出した巨大な宇宙バリスタから離れた火矢が宇宙空間を飛び、大気圏を貫いて地表に突き刺さっていく。

 大地に突き刺さった火矢から燃え上がった炎が森を飲み込んでいった。



「キャアアー!! 宇宙オークの宇宙山賊が攻めてきたわー!」


 私の同胞である宇宙エルフの仲間が、悲鳴を上げて逃げ惑う。


 私は、スノウ・ユゥル・ブァイスレーテ。


 この惑星に、同盟条約の交渉にやってきた、銀河帝国の使者だ。

 だけど、そんな時に宇宙オークが星を燃やしにやってくるなんて……


「逃げてください! スノウ姫様!」


 同行していた宇宙エルフが、私に逃げろと叫ぶ。

 だけど、私一人だけが逃げ出すわけにはいかない。


 一人でも多くの仲間を逃がさないと……


 私は、子供たちを逃がそうとした。

 だけど、想像以上俊敏だった宇宙オークが、回り込んでくる。



 そして……斧を振るう。


「――っ!」


 私は子供たちをかばい炊きしめる。


 だが、攻撃はこなかった。


 そこには。


「てっ、てめえは!」


 宇宙オークと私の間に割り込み、光の剣で宇宙オークの電磁斧を受け止めていた。


 勇者の杖、アエティルケイン。


 それを扱えるのは――宇宙勇者と呼ばれる人たちだ。


 そう、彼は――宇宙勇者、ショウゴ・アラタ。


 私が間違って偶然呼び出してしまった、異宇宙からの来訪者――いや、転生者だ。


「間に合ったか」


 ショウゴさんはそう言い、そして光刃を振るう。

 その一撃に、宇宙オークの斧は使い物にならなくなる。


「く……くそっ!!」


 悪態をつく宇宙オークに対して、ショウゴさんは光の剣を突きつけた。


「投降しろ。そうすれば命までは取らない」

「へっ! 誰がするかよぉおお!!」


 宇宙オークは叫び、懐に手を入れた。

 何かを取り出したのだ。

 それは、爆弾のようなものだった。


「くらえぇええーー!!」


 凄まじい轟音と共に、爆風が吹き荒れる。


「きゃああああっ!」


 私は吹き飛ばされそうになるも、なんとか堪えた。

 爆煙が晴れると、そこにはもう宇宙オークたちの姿はなかった。

 どうやらあの爆発は目くらまし。爆炎に乗じて逃げたようだ。


「大丈夫か? スノウ姫?」

「ありがとうございます。助かりました」


 私はお礼を言う。

 本当に危ないところだった。

 あと少し遅れていたら、子供たちにも被害が出ていたかもしれない。


 でも……


「ああ……」


 私の視界に映るのは、焼け落ちた家々。

 それに、怪我をした仲間たち。

 幸いにも死者は出なかったのは――ショウゴさんのおかげだ。

 私は、思わず膝をつきそうになった。


「ショウゴさん、お久しぶりです。

 また……助けてもらいましたね」


 私はショウゴさんにお礼を言う。

 彼には何度も助けてもらった。


「なぁに、気にすんなって。困った時はお互いさまだしな」


 ショウゴさんはそう言って笑みを浮かべる。

 そして、彼は私の手を取り立ち上がらせた。

 彼の手は大きく温かい。

 私はそんな手に引かれながら、仲間たちの元へと歩き出したのだった。


「勇者殿、議員殿。

 南の宇宙エルフ族長、オクタヴィアン様が

 お呼びでございます。至急議事堂までおこしくださいませ」


 私達の前に現れたのは、この星の宇宙エルフの男性だった。耳を怪我したのか、包帯を巻いている。



「わかりました。すぐに向かうと伝えてください」


 私はそう答える。

 すると宇宙エルフの男性は一礼をして去って行った。


「では、私達は行きます。皆さんはここで待っていてください」


 私はそう言い残して、議事堂へと向かった。


 私達がこの星に訪れた理由は、銀河帝国との同盟条約を結ぶため。

 私は北の宇宙エルフ連合の出身であり、そして帝国の議員だ。

 北の宇宙エルフ連合は銀河帝国と条約を結んでいる。

 しかし、南の宇宙エルフ族は違う。

 彼らは銀河帝国とは条約を結んでおらず、独自の文化や文明を築いている。

 だからこそ、私たちはこの星を訪れたのだ。

 だが、そのタイミングで宇宙オークの襲撃が起きるなんて……。

 宇宙オークは宇宙エルフの星を燃やすことに偏執的な執念を注いでいる。もはや本能、生態と言っていい。

 本当に迷惑だった。


「さて、行くとしますか」


 私は気合を入れなおし、議事堂へと向かうことにした。



「ようこそおいで下さいました。スノウ・ユゥル・ヴァイスレーテ様。宇宙勇者殿。

 そして、はじめまして。

 わたしは、南の宇宙エルフ星系連合代表、オクタヴィアン・ヴヴルヴルク・オルトマンと申します。以後お見知りおきを」

「こちらこそよろしくお願いいたします。

 私は銀河帝国議員、スノウ・ユゥル・ヴァイスレーテです。

 こちらは、宇宙勇者のショウゴ・アラタ様です」

「よろしくお願いします」


 私とショウゴさんは挨拶をする。


「まずは、我が同胞をお救いいただき感謝の言葉しかありません。

 ありがとうございました。

 宇宙オークどもの卑劣極まりない所業……心から謝罪させて頂きたい」

「いえ、お気持ちだけで十分です。

 それよりも、銀河帝国と同盟条約を結んでいただけませんか? それが私たちの目的なのですが……」


 私は本題を切り出すことにする。


「そうですね…… あなた方がこの惑星に来た目的は既に把握しております。

 我々も宇宙オークの脅威には頭を悩まされているのです」

「それなら……」

「ですが、残念なことに我々は銀河帝国と同盟を結ぶことはできません」

「なぜですか?」

「それは、我らには別の問題が生じているからでございます」

「別の問題?」

「はい、実は……」


 彼はそこで言葉を詰まらせる。

 一体何があるというのだろうか?


「お恥ずかしい話、我々の種族は今現在、食糧難に陥っております。

 そのため、他の星系の方々に援助を求めねばならぬ状況にあります」

「なるほど……」


 確かに食糧不足は深刻な問題だろう。

 しかし、それなら話は簡単だった。

 私たちはもとよりそのために来たのだ。


「それでしたら、私たちが食料の援助を――」

「お待ちください」


 私が申し出ようとするのを、オクタヴィアン様は制止する。


「なんでしょうか?」

「そのお話はありがたく存じ上げます。ですが、我々は援助を受けるわけにはいかないのです」

「どうして……?」

「先ほど申し上げたとおり、今我々が抱えているのは食糧の問題だけではありません。

 それ以上に重大な問題を抱えております」

「……それは一体?」


 私の問いに、オクタヴィアン様は真剣なまなざしで答えた。


「それは――疫病です」

「疫病?」

「そうです。

 最近になって発生した病により、多くの同胞たちが臥せっていて、苦しんでいます。

 私も例外ではありません」

「それは――?」

「これです」


 オクタヴィアン様は自分の耳を指す。それは包帯が巻かれていた。


「耳腐り病――この星域にのみ流行っている病です。

 宇宙エルフの尊厳を踏みにじる恐ろしい病です」

「そんな……」


 そんな疫病、北の宇宙では聞いた事なかった。


「このままでは我々は滅びてしまうでしょう。

 その前に手を打たねばならないのですが……残念ながらそれも難しい状況にあるのです」

「そうなんですか……でも、それではどうするのですか?」

「それなんですが…… どうでしょうか?スノウ姫殿下。

 もしよろしければ、あなたの力で我々の窮状を救ってはいただけないでしょうか?」


 オクタヴィアン様は私に頭を下げる。

 だが……そんなことを言われても、私に力なんてない。

 いつもショウゴさんに助けられてばかりだ。

 代表としての援助を取り付ける事ならともかく、疫病になんて――

 窮状を救うなんて……そんなことできない。

 でも――それでも、私は――


「――わかりました。微力を尽くしましょう」


 私は決意を固めてそう言ったのだった。


「当面の問題は、宇宙オークの襲撃、食料問題、そして疫病……か」


 ショウゴさんがまとめる。


「ところで質問だけど。宇宙エルフって肉は食うのか?」

「ええ……」


 私は答える。


「肉も野菜も魚も普通に食べますよ」


 宇宙エルフは宇宙ベジタリアンだという誤解は広まっているけど、そんな事は無い。


「そうか」


 ショウゴさんには、何か考えがあるようだ。


「だったら――宇宙オークと食料については、俺に宛てがある」

「本当ですか!? ショウゴさん!」

「ああ、任せておけよ」


 頼もしい言葉だ。これなら安心かもしれない。

 だけど――オクタヴィアン様が私たちに頼んだのは、疫病の対処だ。

 食糧援助については、さっき断られて――


「それは心強い」


 オクタヴィアンも笑う。

 ……いや、さっき断られたんだけど……

 だけど、あくまでも「帝国からの食糧援助は今は受けられない」ということなのだろうか。


「宇宙オークたちの度重なる襲撃は我々にも頭が痛い問題です。

 ぜひともお願いしますよ、勇者殿――」



 それから数日が経過した。

 その間、私は復旧作業を行っていた。

 幸いにも人的被害はなかったようだが、家屋などはかなり破壊されていた。

 村にあった食糧庫なども燃えてしまったらしい。

 そのため、備蓄していた物資はほとんどなくなってしまっていた。

 これでは今後の生活に支障が出かねない。


「どうしたものでしょうか……」


 私は頭を悩ませる。

 この村の住人たちはよそ者に対して警戒心が強いようだった。

 そんな中、銀河帝国の宇宙トルーパーの力を借りるわけにはいかない。

 まだ条約も締結していないのに、そんなことをすればどうなるか。軍事的干渉と判断されかねない。


「ショウゴさん……」


 私は勇者の名を呼ぶ。

 彼は宇宙オーク問題と食糧問題を解決するため旅立ってしまった。

 そして、残った疫病に関しても――私には打つ手がない。

 感染の危険がある、と病人たちに近寄らせてももらえない。


(やっぱり、ただ待ってはいられない。ここは自分の足で動くしかない……)


 そう思い立った時だった。

 私の目の前に誰かが現れる。


「あなたは確か……」


 その人物は、以前この星に訪れた時に出会った少年だった。

 たしか名前は――そう、イシュトリだったはずだ。

 彼も疫病に冒されているのか、頭に包帯を巻き、耳を固定していた。


「久しぶりだね」


 彼は笑みを浮かべる。やはり間違いないみたいだ。そして彼は言った。


「困っているみたいだね。僕がなんとかしてあげようか?」


 これはチャンスかもしれない。

 彼に協力してもらえば、隔離されている患者たちに接触できるかもしれない。

 そして病原菌サンプルを手に入れて、帝国の医者に見せれば……帝国の医学で解決策が見つかるかもしれないのだ。

 そうなれば、きっとみんな助かるに違いない。

 もちろん不安はあるけれど……この機会を逃すわけにはいかなかった。


「わかりました。あなたに協力をお願いすることにします」


 私の言葉に、少年は笑みを浮かべるのだった。



「それじゃあ行こうか」


 イシュトリ少年の案内のもと、私達はある場所へと向かうことになった。

 そこは山の奥深くにあり、普段は誰も寄り付かないような場所だという。

 その隔離された宇宙サナトリウムに、疫病に冒された宇宙エルフたちがいるという。

 そこへ向かい治療を手伝うというのが今回のミッションだ。

 ただ、一つだけ問題があるとすれば――それは、私銀河帝国の者であるということだ。

 同族とはいえ、果たして信用してもらえるだろうか?

 そんなことを考えていたときだ。少年が口を開いた。


「心配しなくても大丈夫だよ。

 僕の名前を出してくれれば問題ないからさ」


 どうやら問題はないらしい。それを聞いて安心した私は彼の後について行くことにした。

 しばらく進むと大きな建物が見えてきた。あれが目的地のようだ。

 宇宙エルフのサナトリウムにしては、どうにも――窓もない石の建物で、一見して工場や――牢獄のようにすら見えた。


 こんなところに本当に病人がいるのだろうか?

 疑問を抱きつつ、中に入るとさらに驚く光景を目にすることになる。

 なんとそこにはたくさんの子供や女性がいたのだ。

 とても可愛い子たちばかりだった。

 しかし……どこか様子がおかしい気がする。まるで何かに怯えているかのような印象を受けた。


 それに何より――耳だ。


 イシュトリ少年やオクタヴィアン様は、疫病に感染し、耳に包帯を巻いていた。

 だが、ここにいる宇宙エルフたちは、耳に包帯を巻いていない。耳に異常はないようだ。


 おかしい。ここは疫病患者の集められたサナトリウムのはずだ。

 だが――ここには病気を患っている者の姿は見られない。

 どういうことなのだろうか?


「やあ!よく来たね!!」


 不意に声を掛けられる。

 そこにいたのは白衣を着た男性だった。年齢は二百代後半くらいに見える。

 整った顔立ちをしていて、美形と言っても差し支えのない容姿をしていた。

 だが……どことなく軽薄そうな雰囲気が漂っているように感じる。あまり関わり合いになりたくないタイプのエルフに見えた。

 男性は笑みを浮かべながら近づいてくるとこう言った。


「僕はここの院長をしているリゲル・サージュだよ。よろしく!」

「あ……どうも……」


 握手を求められたので応じることにする。

 それにしても妙な話だ。見たところ、彼がここの責任者には見えない。

 それなのになぜこんな場所にいるのだろう?

 不思議に思っていると、リゲルと名乗った男性が話し始めた。


「君のことは知っているよ。オクタヴィアン様から聞いている。イシュトリ君も、案内お疲れさまだ!」

「はい、リゲルさん」

「さてと――」


 そう言うと彼は私の方に向き直った。

 その表情は先程とは違い真剣なものだった。そしてこう続ける。


「危険なので近づかないようにオクタヴィアン様から言われていたと思うんだが」


「それは……」

「まあ、潜入されて好き勝手されても困るので。

 イシュトリ君に道案内を頼んだわけだがね。さて、こうなったからには君にも手伝っていただきたいね」


 そう言って彼は笑う。

 それは友好的な笑みではなく、何かを企んでいるような薄気味悪い笑顔だった。

 正直言って、好きになれないタイプだと思った。

 そんなことを考えていると――突然背後から何者かに襲われる。


「!?」


 私はそのまま地面に押し倒された。

 しかも数人がかりで押さえつけられているらしく身動きが取れない。

 いったい誰がこんなことを……? そんなことを考えているうちに誰かが私の顔を掴み上げた。そして強引に上を向かせる。


 そこにいたのは――豚のような顔の宇宙オークたちだった。

 彼らは私を見てニヤリと笑った。それは下卑た笑い方で嫌悪感しか抱けない類のものだ。そんな彼らの視線が私に向けられる。

 すると――その中の一匹が舌なめずりをしたのが見えた。それを見て背筋が凍り付くのを感じた。


「どっ、どういうことですか、これは!」


 私は叫ぶ。

 イシュトリ少年は――それを見て笑った。


「リゲルさん、早いよ。

 もうちょっと泳がせて、繁殖場とか見せたた方ず面白かったのに」

「そうやって不測の事態が起きたら困るだろう、何事も速さがだいじだよ」


 そんなやり取りをして二人は笑っている。

 まさか――最初からそれが目的だったのか?私をここに誘い込んでどうするつもりなのかはわからないが、ろくでもないことだというのは想像がつく。

 必死に抵抗するものの、多勢に無勢だ。抵抗虚しく私は引きずられていくしかなかった。

 そして私は、大きな部屋に連れて行かれた。

 そこにいたのは――


「オクタヴィアン・ヴヴルヴルク・オルトマン……!?」


 そこにいたのは東の宇宙エルフ連合代表、オクタヴィアン・ヴヴルヴルク・オルトマンだった。

 下卑た笑みを浮かべて、私を見下ろしている。


「なぜ……あなたが宇宙オークたちと……!」


 その私の問いに、オクタヴィアン様――いやオクタヴィアンは髪をかき上げ、笑いながら答えた。


「勘違いしていますね、スノウ姫。いや、ひどい勘違いだ」

「宇宙オークと一緒にいて、何を……」

「そこが違うのですよ」


 そしてオクタヴィアンは、頭の包帯を取る。

 はらり、と包帯が落ちると共に、固定されていた耳が――垂れる。


「……!」


 そう、オクタヴィアンの耳の先は、垂れていた。

 宇宙エルフの耳は、先まで尖ってぴんと立っている。それが、垂れているのだ。

 それはまるで、豚の耳のように。

 そう、まさに……


「宇宙オーク……!?」

「そうですとも」


 オクタヴィアンは頷く。

 そして、リゲルとイシュトリもその頭の包帯を解く、そこにはオーク耳があった。


「念のために言っとくとさ、整形じゃないよ」


 イシュトリは言う。


「生まれつきなんですよ、我々は」

「生まれつき……?」

「あなた方宇宙エルフは知らないでしょうね。いや、知っていても無かったことにしているのでしょうか」


 リゲルが笑う。


「宇宙オークは宇宙エルフから別れた、祖を同じとする種族なんですよ。

 だから我々もあなたと同じなんです」

「そ……そんなこと、信じられるわけがありません!!」


 イシュトリ私は叫んだ。だってあり得ないじゃないか、そんな話!


「ですが事実です」


 オクタヴィアンが言う。


「我々がそうであるように、あなたもまた先祖返りなのでしょう?」

「……っ!!」


 私は何も言い返せなかった。

 そうだ、私は普通の宇宙エルフではない。

 人間の両親から生まれた先祖返り――取り替え児だ。なぜそれを……!?

  私が驚いていると、リゲルが口を開いた。


「時々いるんですよ、先祖返りがね。

 我々は宇宙オークでありながら、宇宙エルフのような美貌を手に入れた、選ばれしものだ。そして気づいたんです」

「もぐりこんで、すり替わって、支配出来るんじゃないかってね――」


 イシュトリがくすくすと笑う。


「侵攻の時に別動隊として入り込み、そして本物のオクタヴィアンをとらえ、すり替わった。

 その後、彼のふりをして何食わぬ顔で帝国に入りこみました。

 すべて我々の計画通りでしたよ」

「疫病ということにしておけば耳の違いも隠せますしね」

「くっ……」


 なんてことだろう……まさか彼らがそんなことを画策していたとは……。


「スノウ姫様には、よせといったのに疫病患者にちかづきすぎて感染し、死亡した――というシナリオを用意しておきました」

「まあ、その前に楽しませてもらうけどね。

 あーあ、もったいないよなあ、殺すなんて」

「仕方ないでしょう。死体が発見されないと、飼うには危険すぎる」

「まあ、たっぷりと楽しませてもらおうではないか。

 取り替え児の出来損ないとはいえ、エルフの王女だ」

「違いありませんね」


 そう言って三人はゲラゲラと笑ったのだった。


(……どうして)


 私の頬を涙が伝うのがわかった。


(どうしてこんなことになってしまったのだろう)


 もはや絶望する他無かった。


「さてと。捕まえたたの僕だし僕が最初でいいよね」

「何を言ってるのかね! 年上を敬って私に譲るのが当然だろう!」

「敬うというなら王たる私が最初だろう」


 醜い争いを繰り広げる三人。


「仕方ない。オクタヴィアン様が最初でいいですよ」

「ふん!当然だね!」

「まったくもって不本意だが仕方がないか」


 どうやら順番が決まったらしい。


「ぐへへへへへ」


 顔だけは美麗な三人が醜悪な表情で私に群がってくる。

 その時だった。


「――そこまでだ!」


 突然扉が開き、誰かが入ってきたのだった。

 その人物を見て驚く。なぜならそこには――あの勇者が立っていたのだから!


 ああ――ショウゴさん。


 私の、宇宙勇者様。


「お前……帝国の勇者!? この惑星を出て行ったはず!!」


 オクタヴィアンが驚愕した表情を浮かべる。


「残念だったな。普通に用事をすませて戻ってきたんだよ」


 ショウゴさんは光の刃を抜き放ち構えると言った。


 彼の用事――食料問題と宇宙オークの対処。

 だが、たった数日で片付く問題じゃない。


 特に、宇宙オークは……この星の宇宙エルフたちに成り代わっていたのだ。


 それをどうやって――


「はったりが!!」


 リゲルが吠えると魔法を放つ。

 火炎球が彼に向かって放たれたのだ!!

 しかし――彼は動じることなくそれを回避すると一気に距離を詰める。そしてリゲルに肉薄すると、剣を振るった!


「ぎゃあああ!!!」


 リゲルの腕が切り飛ばされる。彼は悲鳴をあげて転げ回った。

 傷口は焼け、血はほとんど出ていない。それが逆に凄惨ですらあった。

 それを見て、イシュトリが顔を青ざめさせた。そして慌てて逃げ出す。


「逃すか!」


 ショウゴさんが追いかける。

 私も後を追おうとしたのだが――いつの間にか背後に回り込んでいたオクタヴィアンによって取り押さえられてしまった。必死に抵抗するものの、腕力で勝てるわけもなくあっさりと組み伏せられてしまう。


「離して!」


 じたばたと暴れるものの、力が強くて抜け出せない。


「スノウ!」


 ショウゴさんが私に気づく。

 ……まただ。また足を引っ張ってしまう。


「ぶひ――ひはははは! この女の命が惜しくば武器を棄てろ!でないとこいつを殺すぞ!」


 オクタヴィアンが勝ち誇った様子で叫ぶ。その手に握られているのは――短剣だった。

 切っ先が私の喉をちくりと刺す。


「早くしろ!!」

「……」


 ショウゴさんは、ゆっくりと剣を捨てた。

 それを見て満足したのかオクタヴィアンはにやりと笑うと私を人質にしたまま部屋の外へと向かう。

 ショウゴさんも後に続いた。そして廊下に出ると大声で叫ぶ。


「誰かいないか!!侵入者だ!!!」


 その声に反応したかのように大勢の足音が聞こえてくる。

 やがて現れたのは武装した兵士たちだった。だが様子がおかしい。


 兵士たちの顔は――恐怖に歪んでいた。


「助けてください、オクタヴィアン様――」


 兵士の一人が言う。その瞬間だった。

 突如現れた白い閃光がその首を刎ね飛ばした。

 鮮血が飛び散り、首が宙を舞った。私は思わず目を瞑る。


 しかし何かおかしい。

 あれは閃光――にしては、光も熱も感じない。

 質量兵器のようにすら見えた。

 そして――周囲に宇宙オークの鮮血と共に、白い液体がこぼれている。

 これは――



「乳……?」



 間違いない。家畜の乳だ。

 それが宇宙オークを切り飛ばした?

 どういうことだろう。


「援軍だよ」


 ショウゴさんが言う。

 外の援軍が、攻撃をしてきたのだろうか。


「俺のいた地球ではな。豚より高いのは牛だ」


 急にショウゴさんがおかしなことを言い出した。


 なぜ急に牛の話を?



「お前ら豚に勝つには――

 豚より高くて美味しい、牛しかないだろう?」



 そして。


 壁が崩れる。

 そこから見える光景は――。



「な……っ!」



 オクタヴィアンが息を呑む。

 そこには、地平を埋め尽くすような――3メートルから4メートルほどの巨人たち。

 いや、巨人ではない。

 牛頭人身のその姿は――



「宇宙ミノタウロス……!」



「宇宙農場から仕入れてきた、宇宙ホルスタイン種さ」


 ショウゴさんが勝ち誇る。


 白と黒の体表。まさしくホルスタインだった。

 彼ら、いや彼女たちは大きな乳房を四つ持っている。

 その乳房が――震えた。

 そして。



 閃光が、いや閃乳が飛び出す。


 それは牛乳で出来たウォーターカッターのようだった。


 それが幾百幾千もの白い閃光となり、大地を抉り、木々をなぎ倒し、そして宇宙オークたちを穿つ。



「ぎゃあああああ」

「ぶひいいいいいい!!」

「ぎえええええええ!!」

「ひいいいいいいい!!」


 宇宙オークたちの絶叫が響く。


 手足が千切れ、銅が離れ、首が飛ぶ。


 それは一方的な虐殺であった。

 捕らえられている宇宙エルフたちを回避し、的確に宇宙オークだけを屠っていく。


「ば、馬鹿な……こんなことがあってたまるかぁああああああ!!!」


 オクタヴィアンが叫ぶ。

 うん、同情する気は全くないけど、それでも同情してしまう。

 牛に蹂躙される豚。


 宇宙エルフの星は、なまじただ燃やされるよりもひどい地獄絵図になっていた。

 阿鼻叫喚だ。


 だけど、この地獄も――ショウゴさんが私を助けるために引き起こしたものだと考えると、ちょっとうれしく感じてしまう。


「こ、この女を――」


 そしてオクタヴィアンは、手に持った刃物を私に向けるが、襲い。

 宇宙ミノタウロスの虐殺に気圧された一瞬の隙に、ショウゴさんは懐に入っていた。

 その手には、捨てたはずの光の刃が戻っている。


「な――」

「遅せえよ」


 そして、一閃。

 光刃はオクタヴィアンの腕を切り落とした。

 自由になった私は、ショウゴさんの腕に抱きとめられる。


「大丈夫だったか、スノウ」

「はい……」


 私は安堵のあまり、泣きそうになった。


「さてと」


 そしてショウゴさんは、オクタヴィアンを見下ろした。


「お前の負けだ、宇宙オーク」





 それから。


 私たちは、地下に幽閉されていた、本物のオクタヴィアン様を開放しました。

 解放、したんだけど……


「なあ、こいつ宇宙オークじゃね?」

「ショウゴさん、耳、耳が!」


 そう。

 オクタヴィアン様は、低い背丈、潰れた鼻、でっぷりとした体躯と腹……そう、宇宙オークそのものだった。

 ただし、耳は長く鋭いエルフ耳だった。


「ははは、よく言われます」


 そしてショウゴさんの無礼な言葉を笑って流した。大物だった。

 一緒に捕らえられていた側近の宇宙エルフたちも言っていたが、彼も先祖返りらしい。


「オクタヴィアン様は立派なエルフです! 顔はオークですけど!」

「誘惑しても中々なびいてくれないんですよ、オーク顔なのに!」

「でもそこが良いんですけどね! ものすごく真面目ですし!」


 側近たちは口々にそんなことを言う。


 どうやら彼女たちはオクタヴィアン様にゾッコンのようだ。

 まあ、エルフは宇宙的価値基準で美形が多いから、あまり外見で相手を判断しない風潮があるし、彼がもててもおかしくはないのだろう。



 ともあれ。

 こうして、南の宇宙エルフ星系連合は銀河帝国と提携を結ぶこととなった。

 彼らの星の食糧問題も、ショウゴさんが連れてきた宇宙ミノタウロスによって解決するだろう。

 彼女らからは栄養価の高い牛乳が取れる上、肉にもなる。

 問題は、あれをどうシメて肉にするかだけど……まあそれはこの星のエルフたちが考える事だ。

 南の宇宙エルフは宇宙弓矢を使う宇宙狩猟民族でもある。

 きっとなんとかやるだろう。


「でもどうやってあんな宇宙ミノタウロス達を……?」


 私はショウゴさんに聞く。


「ああ、前にちょっと宇宙牛飼いの娘を助けた事があってな」

「……ふーん」


 宇宙牛飼いの、娘、ですか。ふーん。


「……? どうしたんだ」

「いいえ、別に」


 ショウゴさんはいつも私を助けてくれる。

 そしてきっと、私以外の人も、駆けつけては助けているのだろう。

 女の子とか。

 いえ、別にいいんですけど。それが宇宙勇者の務めでしょうし。


「とにかく、これで任務は達成だな、お互いに」

「はい」


 そう、任務達成だ。

 つまり、私と彼は……また別の任務につくことになる。

 仕方ない。

 私は銀河帝国の元老院議員、そして彼は宇宙を飛び回る宇宙勇者だ。

 いつも一緒にいられるわけでは……ないのだ。


 だけど。


「もう少し……一緒にいたかったです」


 つい、言ってしまった。

 私の失言に対して、ショウゴさんは笑った。


「またすぐ会えるさ。次の任務終わったら、しばらく暇だし」

「そうなんですか。

 次の任務ってどんなのですか?」

「ああ、それはな」


 ショウゴさんはこともなげに言った。


「奴隷市場の調査だよ」


 ……。

 え?


「銀河帝国は奴隷を禁止してる。だけど違法奴隷市場は今も各地で開かれてる。

 そこの調査と取り締まりを……」

「私もいきます!」


 私は叫んでしまった。


「え……? いや、でも」

「元老院議員としてほおってはおけません!」


 それは事実だ。

 だけど。

 奴隷とか。奴隷市場とか。

 そんな所にこの人を突っ込ませると、どうせまた奴隷にされた女の子を助けたりして、そして惚れられるに決まっている。

 そういう展開だけは。


「断固――阻止しましょう!」

「お、おう……はい」


 ショウゴさんは頷いてくれた。

 そうだ、阻止しないと、そういう流れは。


 私は、そう誓った。





 ……後日談。

 普通にショウゴさんは捕まってた子に惚れられた。

 そしてその子はパーティーメンバーになった。

 ええ、そうなると思ってました。

 これだから勇者ってのは!



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