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03

シャルルは一体何が起こったのか理解できなかった。


何故この人は急に敵意むき出しで剣を抜こうとしているのか。


落として見つからない銅貨なら、こちらが払うと言ったというのに。


何故たかが銅貨三枚で剣を抜くほど怒り狂っているのか。


だがしかし、凛々しい女性はもの凄い剣幕でシャルルを睨みつけている。


ジリジリと後退するシャルルは、慌てて両手を振った。


「ちょっと!? やめてよ!?」


「お前も剣を使う者なら構えろ。それともその腰に下げているものは飾りか?」


「これは飾りじゃない! 父さんから譲り受けた歴戦の業物だ!」


「ふん、どうせガラクタだろう。剣を抜かないのが何よりの証拠だ」


自慢のレイピアをガラクタと言われたシャルルは、尊敬する父親を侮辱されたように感じて憤慨した。


この剣は、亡き父がシャルルの将来のために、そして自分が死ぬまで毎日磨いてくれていたものだ。


そんな大事な剣を侮辱されたのだ。


この決闘の申し出を逃げるわけにはいかない。


だが、ふとシャルルの頭の中にロシナンテのことがよぎった。


初めて来た街の水飲み場に置いてきてしまい、さぞや心細い思いをしているだろう。


ロシナンテはとても繊細なのだ。


なのに自分は、そんな愛馬を置いて何をしているのか。


決闘の申し出に逃げるつもりはないが、ロシナンテを放ってはおけない。


シャルルは俯いた顔をあげると、凛々しい女の顔を見た。


女はようやくやる気になったかと思っていると――。


「……二時間。二時間だけ待って」


「そんなことを言ってそのまま逃げるつもりだろう」


「逃げないよ。この剣とロシナンテ、そして父さんに誓う。それはボクにとっては命よりも大事な家族だ」


凛々しい女は、シャルルのその表情を見て剣から手を放した。


どうも、この田舎者丸出しの少女が嘘を言っているとは思えなかったからだ。


「ならば、どうする?」


女がシャルルに訊ねると、彼女はこう返した。


「二時間後に、この市場の側にある大きな広場で」


そう言ったシャルルは、急いで走り出していった。


凛々しい女はその小さな背中を見ながら、大きくため息をつくとまた歩き出した。


――ロシナンテがいる水飲み場へと走るシャルル。


すっかり日も暮れ、メトロポリテーヌ王国も夜の顔を見せ始めた。


市場の屋台は店を閉め、代わりに酒場から音楽や歌声が聞こえる。


どうやら夜になっても王国の賑やかさは終わっていないようだった。


「たしか、この辺だったんだけど」


シャルルは昼間のときと違う街の風景のせいか、すっかり道に迷っていた。


顔に傷がある女を追っているときは人が大勢いたが、今通りを歩いているのはごく少数だ。


見覚えのある建物などないシャルルは、ただ同じようなところをグルグル歩き回っているように感じていた。


それでも急いでロシナンテの元へと向かう彼女は、道の曲がり角でまたもや人にぶつかった。


その人物は何か荷物を持っていたようで、それが地面に落ちると悲鳴のように叫ぶ。


「あぁぁぁ!? アタシの肉が!?」


もちろんすぐに謝ったが、その地面に落ちたもの――牛か豚の肉を拾っている人物は、ワナワナと震えながら立ち上がってシャルルを睨みつけた。


その人物はシャルルよりも背が低く、年下の少女のように見えた。


その少女は、自分の背丈よりも大きなサーベルを背負っていて、シャルルはその剣に目を奪われた。


そのサーベルは片刃の騎馬用刀剣だろうか。


大人でも扱えるのかわからない、ともかく見たこともないくらい大きな剣だった。


ついそのアンバランスさに見惚れていたシャルルだったが、すぐにまた頭を下げる。


「ごめんなさい。今ちょっと急いでいたから」


シャルルが何度も謝ると、小さな少女は不愉快そうに顔を強張らせる。


「急いでいたら食べものを粗末にしていいのかよ!」


「そんな大袈裟な……洗えば問題ないじゃんよ。それくらいのことでそんなに怒られても……」


「“それくらいのこと”だって!?」


ただでさえ怒っていた小さい少女は、シャルルの一言で完全に頭にきたようだ。


背負っていた自分の背丈よりも大きなサーベルを抜いて、シャルルの眼前に向ける。


「食べものを粗末にするような奴はアタシが許さん!」


シャルルは、またこの展開なのかと内心で呆れていた。


金だ、食い物だ、と、この国の剣を持っている人間はどれだけ欲深い奴ばかりなんだ。


「さあ、その腰に下げている剣を構えろ!」


「わかった……三時間後に市場の側にある大きな広場で」


シャルルは、そう言ってその場を走り去って行くのだった。


走り去る彼女の背中には、小さい少女の「逃げるなよ!」という叫び声が聞こえていた。

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