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4.女の子を拾った、、らしい

足跡に追いつくまでにそう時間はかからなかった。

いくつか角を曲がった暗い袋小路で2人の大男が1人の少女の体を触っていた。

男の身長は双方2mほど。

片方の男が少女を抑え、片方が体を触っていた。


「やめてっ、、」

「ンン〜、いい声で鳴くねぇ。」


触っている方はだらしない体をしているが、抑えている方は分厚い筋肉の鎧を身につけていて、明らかに手強い。

対して少女は同い年ぐらいで140後半ぐらいの少女。

俺が155cm、リオンが153cmと、この年のわりには背が高い。

って、冷静に分析している場合ではないな。


「おい、その手をどけろ。うすらハゲ。」


リオンの悪態で2人の大男がこちらに気付く。


「おいおい僕たち〜おじさんたちはこの子と楽しいことしてるんだぞー、秘密の時間だから少しあっち行っててもらえるかなぁ?」


振り向いた男の顔は愉悦に歪んだ醜い顔だった。


「その女の子は楽しんでいるんですか?」

「た、たすけっ、、んぐ」


少女が助けを求めようと口を開いたが、少女を取り押さえていた方の男が口を塞ぐ。

アイコンタクトすら要らなかった。

俺とリオンは同タイミングで駆け出して、リオンは手前の喋りかけてきた男、俺は少女を取り押さえている男に接近した。


「チッ、クソガキが、冒険者舐めんなよぉ!?」


先ほど喋ってきた男が怒気を孕んだ声で脅し文句をたれ、近づいてきたリオンを拳で迎え撃とうと大きく太い腕を振るう。

冒険者だと言うのは本当なのだろう。素人やそこらのチンピラ程度では出すことのできなような速度で迫るその拳。凶器のように大きく丸い拳をリオンの蹴りが真正面から打撃し、バキバキッと痛々しい音を立てて砕いた。


「ペドフィリアが、胸糞悪りぃ」


腕はところどころから砕けた骨が飛び出て、なんとも痛々しい。

リオンは珍しく本気でキレているようで、青筋が浮かんでいるのが追い抜きざまに見えた。


と、リオンに気を取られていると、少女を取り押さえていた男は少女の体をこちらに勢いよく投げて自らも突進を始めた。


「わっぶね。」


俺は少女をキャッチして()()()()()()空中に上がり、突進を回避。

袋小路の隅に少女を横たえる。


「そいつ、強そうだけど大丈夫か。」


ことを終えたリオンがこちらを伺う。


「ああ、愚問だな。」


リオンの足元に転がる男は右手だけでなく四肢全てを粉砕され、白目を向いて地面にキスしていた。



一方、取り押さえ男のタゲは完全に俺に向いているらしい。

フランケンシュタインのような不気味な顔つきをした男で、先ほどの突進のスピードもなかなか。


「コ、、コココ、コロス、コロサナキャ、オトコハコロシテ、オンナノコハオカス。ハァ、ハァ」

「気持ち悪いなぁ。」


再び突進してきた。


〈爆拳〉


極真空手の正拳突きのようなフォームで放たれた死の一撃が、ただ突っ込んでくる男の右肩を捉えた。

ベキベキッ グシャッ

音を立てて男の右肩が内部から爆発したように崩壊していく。

突進の威力が生む強力な反作用も相乗して、大きい体を吹っ飛ばすだけの力になった。


「コロス」


壁に鈍い音を立てて激突して膝をつくが、それでも尚、男は立ち上がり向かってくる。


「まじか、無痛覚症かよ」


肩と全身の強烈な打撲、かなりのダメージと痛みがあっただろうに、一瞬で立ち直りやがった。

学習せずに再び突進してくる男を、二歩前に出て迎え撃つ。

“膝丸”

突進直線上から上体を右にずらし、蹴りの間合いに入った瞬間、男の踏み込み足の膝を目がけて〈脚術〉の蹴りが直撃。男はバランスを崩し、突進の勢いを止められず、右によろけながら顔面から前に崩れ落ちる。


「天誅(笑)」


踵落としが、男の後頭部を強かにうち、意識を刈り取った。




「大丈夫?」


袋小路の隅で小動物のように震える彼女に手を差し伸べた。

長い黒髪はすっかり乱れ、白い肌は涙と鼻水でぐちゃぐちゃ、おまけに恐怖からか失禁してしまっている。

その大きいコバルトスピネルのような瞳は、何かを見極めるように、また恐れるように俺の目を真正面から見た。

敵か、味方か。今の彼女にはそれが重要だ。


「俺は味方だよ。」


深い海のような瞳が揺れる。

少女は一度ゆっくり瞬きして、その真っ白な手が俺の手を掴んだ。


「あ、ありがとう、、ございます。」


立ち上がった彼女をもう一度よく見てみると、学院の制服を着ていた。

灰色のブレザーに灰色のヒダスカート。恥ずかしい付け足しをすると、一部だけ濃い色になってしまっている。


「もしかして、王立学院?」

「え?あ、はい、」


彼女は不意をつかれたように少し目を見開き、短く返答した。


「俺も実は今年から入学するんだ。」

「あ、そうなんですか。」


着替えが必要だな。

彼女は濡れているのが気になるのか、ずっとモジモジしていて会話もそっけない。

かと言っても、節約節約言ってきた俺が見ず知らずの人にお金を使うのもなー、


「リオン、、」

「いいよ、当然、なんのために節約したんだよ。ってか何で聞くんだよ。カッコ悪いな。」


息ぴったりだな。

分かり合ってる()()に少しにやついてしまう。

顔を真っ赤にした彼女を連れて、裏路地を出て、大通りの空いている服屋でいくつか服を見繕ってもらい、身だしなみを整えた。



「す、すみません、何から何までお世話になってしまって。」


制服はカバンに入れて、新しい春物のワンピースと深い青の羽織を着た彼女が試着室から出てきた。

少女は健康的な範疇の白い肌で、この年の女の子にしても割と背が高くスタイルも抜群、、まぁコントラストはこれから期待するとして、大きく美しい瞳に通った鼻筋、桜色の薄めの唇。

モデルのような少女で、店員さんもコーディネートを楽しんでいた。

それゆえに時間がかかった。


「おい、ノア、忘れてたんだけど、時間、やばくね」


リオンが、ぼそっとつぶやいた。

あ、

と言うわけで、学生の本分、遅刻がかかった猛ダッシュが幕を開けようとしていた。


「リオン、走るぞ。」


リオンはため息をついて問いを返す。


「その子は?」

「へっ?」


リオンにじろっと見られて狼狽える少女。


「いつの馬車に乗るつもりだったの?」


切迫した様子に一歩後退りながら応える。


「あ、もうすぐ出るやつです。」

「間に合った方が助かるよね。」

「え、ええ。」


じゃあちょっと失礼して。

そう言って持っていた荷物をリオンに投げ渡し、女の子を抱き抱えて勢いよく店を飛び出た。

5年間、毎日のように湖まで走って鍛えられたAGIが、ノアとリオン、おまけに少女を颯の様に目的地まで導く。


「ひゃぁぁぁぁ!!」


突如猛烈なGにさらされた少女は思わず悲鳴をあげて、グッと身を縮めた。


商店街の建物を屋根伝いに走り、人混みを避けて空いている路地に飛び降りて再び走る。

周囲の建物は霞んで、道端に座り込む乞食が目を剥く。



「あっぶね。間に合った。」


俺たちは札を渡してなんとか相乗り馬車に飛び乗った。

謝りながら開いていた端っこの席に並んで座る。

俺の左隣に女の子、その左隣がリオン、俺の右はすぐ外だ。


「そういえば、名前、なんていうの?」

「私、セイって言います。」

「セイね。オッケー。俺はノア、そっちはリオン。」

「あの、助けてくださってありがとうございました。それと、、これからよろしくお願いします」


セイはペコリペコリと頭を下げた。


「うん、よろしくな。」


リオンは笑顔で応じる。


「っていうか、セイもタメ口でいいよ。」

「え、」

「同級生じゃん」

「はい、あ、うん」



それからしばらく休憩地点まで雑談が続いた。


セイには、俺たちの故郷の村とか、いろんな話をした。

どんな話にも目を輝かせるセイに、俺は少し不安を抱いた。

その反応が全く『外』のことに対しての体験がないことの裏返しのように見えたからだ。


休憩地は川のそばで、下流の方をトイレに、上流の方で水を汲んだりしていた。

一応男性陣と女性陣はなんとなく分かれていたが、普通に丸見えだし、大丈夫かなって思ったけど、これが普通らしい。やはりこの世界の衛生感や羞恥感はバグっている。

まぁうちの村も公衆浴場だったしなー。

セイは恥ずかしがるかなと思ったけど、案外普通にシテてびっくりした。

あ、いや、断じてみてない。みてなどない。



さて、次の休憩の夜営までの間、リオンとセイはぐっすり、俺は再び魔力トレーニング、というかマナの取り込みを行なっていた。

隣のセイが俺の方に頭を預けて寝ていた時に割とドキドキしていたのは、誰にもバレていないはずだ。



しばらく進んで、日が暮れてしばらく進んで再び川に合流したあたりで馬車が止まった。

しっかり4時間ほどの取り込みを行って、精神的にはクタクタ、体はピンピンしている俺、寝起きで動きがゾンビみたいになってるリオンとセイ。

とりあえず適当なところに腰を下ろし、ランプやら何やら、夜営用品を取り出した。

四台の馬車が一列に並んでその周辺にグループが転々とキャンプを組んでいる。

機能停止してるリオンとセイを置き去りに、手早く準備をして携帯食を2人に渡す。


「いつまでも寝ぼけてないでさっさと食え。」

「うーす」

「はーい」


気の抜けた返事と共に2人は目の前に出されたクラッカーのような携帯食と乾物を湯でふやかしたスープみたいな食べ物をノロノロ食べる。


世話の焼ける奴らだ。

なんて思いながらも、仲間がいるというそれなりの幸せを噛み締めていた。


流石に女の子もいるので、リオンと交代で見張り番をすることにした。

リオンが先に寝て深夜に交代することにして、勝手に寝落ちしていたセイはそのまま寝かせておくことにし、わざわざ寝袋に入れるのも面倒臭いし、そんなことしてたら流石に起きると思ったので、寝袋の上に寝かせて上からリオンから剥ぎ取ったブレザーをかけてやった。


リオンは寝袋に頭から入り、足が外に飛び出している。

「寝袋の使い方間違ってるぞ」

とは言ってみたが、すでに気持ちよーく眠っているらしく、動くことはなかった。

セイは特に異常無くぐっすり眠っていた。

今考えると、間違いなくへムンの出身ではないセイが、送り迎えもなく、たった1人でこんなところにきているのか。

何か事情があるだろうし、積極的には聞くつもりはないが、気にかけておくべきことであるのに違いはない。

俺は刀を抱くようにして地面につっかえさせて、ぼーっとしていた。

今日は少し疲れたみたいだ。これ以上取り込みやら考え事をする気力がない。


火を見て、時々星空を見上げて、繰り返すうちに時間は過ぎていった。

セイがモゾモゾし出した。

起きるのかな、と思ってただ傍観していると、ふと起き上がって、こっちに寄ってきた。


「ごめん、寝てた。」

「知ってる。」


セイは「おしっこしてくる。」

と言って川縁に行って3分ぐらいしてから戻ってきた。


「ただいま。」


また寝ぼけているのか?


「見張り代わるよ?」


水を飲みながら流木に腰を下ろしたセイがこっちを向く。


「ああ、お願いしようかな。」


多少不安が残るので快眠はできないが、少しウトウトしてもいいだろう。


「信じてないでしょ」


セイは俺の考えを読んだかのような発言をする。


「今日、午後一日中寝てたんだからもう目も覚めたって。大丈夫だよ」


会った時に比べ、妙に自信げな物言いに違和感を感じたが、追求せずに安心して眠ってしまうほど、俺は疲れていた。




翌日、俺は朝日で自然と目が覚めた。


「おはよ」


すぐ隣で見張りをしていたセイが挨拶と微笑みを送る。


「ああ。おはよう」


俺はググッと伸びをして、まず手始めにリオンを寝袋から引き摺り出し、その後出したキャンプ用品を片付けた。

朝食には携帯食を食べて、軽い運動をした。

セイはそれを横からニコニコしながら見ていた。

リオンは結局出発までに起ききれず、ゾンビモードとなってうだうだ歩きながら馬車に乗り込んだ。

馬車の中では、俺含め3人ともしばらくの間眠ってしまっていた。



俺が起きてから少したった。

野営した場所からしばらく進んだあたりだろうか、徐々に周囲の乗客の顔が険しくなり始めた。

どうしたのだろうか。


その理由はすぐに明かされることになる。


しばらくすると、馬車が止まる。

馬車の奥の方に座っていた、スキンヘッドの巨漢が立ち上がる。


「まぁ、知っての通り、エンカウントしたみたいだな。この中に戦えるやつはいるか?」


後になって知ったことだが、この相乗り馬車は危険地帯を躊躇なく進むことで悪名高い馬車だったらしく、

この時も例に漏れず、モンスターの多い地域にいたらしい。


状況の説明を求めると、車内の全員からかわいそうな目で見られつつ、ため息の出るような説明を聞いた。


「俺たちも、戦力にならなことはないと思いますよ。」


俺とリオンは武器を持って立ち上がった。

慌てて後からセイも立ち上がる。


「そこのお嬢ちゃんはダメだ。自信が足りてねぇ。」


放っておけば俺が言おうとしたことをスキンヘッドが言った。

セイは肩を落として俯く。


「わかりました。」

「じゃあ行くぞ。」


これは仕方ないことだ。

命をかける場面に、自分を信じられない者はいる資格はない。

チームでことにあたる場合はなおさら。

経験が少ないであろうセイにここで、自信と覚悟を持てということは酷だ。

置いていくのが一番。

戦場に携わるものなら誰もが賛成するだろう。


「セイ、大丈夫だよ。今は男どもにカッコつけさせてよ。それに、セイはここにモンスターが来ちゃった時の最後の頼みの綱なんだよ。頼りにしてる。」


リオンがスキンヘッドについて出ていった後、俺は俯くセイにそれだけ言って血除けの黒マントを羽織りながら2人の後を追った。

セイは最後まで黙っていた。



モンスターの群れは300mほど先から向かってきている。

接敵までおよそ1分。

4つの馬車から降りてきた10人の戦闘員は短い相談の後、軽く相談して比較的自由度の高い陣形を組む。


「リオン、死ぬなよ?」

「馬鹿にしてんのかお前」


目の前に迫る数十体ものモンスターを前に軽口を叩く余裕。

2人はシューク、つまりノアの父の監視の元、幾度かモンスターとの戦闘を経験している。

野生の動物ではなく、モンスターだ。

「生命格ウハウハ祭りだな。」

ぼそっと俺が呟いた。


俺は刀の柄を握り、深く構えて抜刀術の予備動作を済ませる。



戦闘員の前線とモンスターの前線が衝突する数秒前、前線の左翼で、モンスターの群れを貫通する桜色の閃光が走った。


〈抜刀術〉【花の型 三閃・桜吹雪】

一つの抜刀動作のうちに10の斬撃が桜吹雪のように吹き荒れてモンスターの体を抉り、うち3体は絶命する。

俺の抜刀術の着地点に一体のモンスター。

オークだ。

自慢の棍棒を振り上げ、隙ありと言わんばかりに振り下ろした。

まぁ、俺が一刀流なら決定打になっていただろう。

後ろで誰かが息を飲む音が聞こえた。

「残念。」

腰に据えた左手が勢いよく何かを掴んで引き抜き、オークの体を引き裂いた。

右手には打刀。

左手には逆手に持った脇差。

突然の戦線の混乱で足が止まったモンスターの群れに、戦闘員の攻撃が加わる。

視界の端でリオンが大剣を振るい、また、人型のモンスターに投げ技を決め、蹴りで体に穴を開けて臓物をひきづり出す。そんな姿をとらえ、ニヤケを抑えることもできずに刀を振るった。


群の構成はオークメインに時々アイアンボアという猪型のモンスターが混ざっている豚の国軍隊で、大した勢力でもなかった。


リオンの大剣がオークの巨躯につき刺さり、オークの体ごと一本背負のような体勢で背後に投げ落とし、オーク同士が衝突して混乱が起きる。


〈抜刀術〉【花の型 二閃・八重(やえ)十文字】


再び桜色の閃光が戦場を駆け抜け、同時に9体のモンスターが屠られる。




オークはDランクのモンスター。

うまくすれば一般人でも殺せる程度のモンスターで、

唯一厄介な集団性を除けばかなり容易に倒すことができる。


「お疲れさん」

「お疲れ。」


モンスターの屍の中心でハイタッチするまだ年端も行かない少年2人。

氷のような美しさの少年、圧倒的な速度の抜刀術。

炎のような美しさの少年、圧倒的な威力の大剣術。

冒険者として彼らがが何年積んできたキャリアを持ってしても屠ったモンスターの数は一桁の差があった。




やっぱリオンは黙っていればストレートにイケメンだな。

そんな呆れたことを考えながら血除けの黒いマントを脱いで血を払う。

スキンヘッドたちがため息をつきながらオークの死体を分解していく。


本来なら魔石は倒した人のものだが、乱戦では大体早い者勝ちらしい。

俺たち以外の戦闘員はこちらをチラチラ見ながら申し訳なさそうに魔石を回収していく。


俺たちは刀の血を拭ったり、マントを畳んだりした後、魔石には見向きもせずに馬車に戻った。


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