2.友達ができた、、らしい
ギャグ要素を入れたいと切実に思っています。
まだ序章なので会話は少しずつ増えていきます。
「はぁっ!」
自分のトーンの高い気迫に笑いそうになりながら樫の木剣を振り抜く。
ヒュンっと音を立てて風を切り裂く木剣は空中でぴたりと止まる。
続けて流れるように踏み込み横なぎ、返しの刃、再び踏み込み。
移動稽古と呼ばれる訓練の種類だ。
剣術教室に通い出してから二ヶ月が経過した。
俺は5歳の誕生日を迎えて、1日の生活の自由度はさらに上がった。
俺は一日中解放されている訓練場に今日も朝から汗を流しにきている。
無論、日が昇ってまだ一時間ほどしか経っていないので、訓練場には俺1人。
訓練場は屋外のグラウンドと屋内の体育館のような施設が隣接して構成されており、グラウンドの広さは大体200mトラック一つ分で、体育館は一般的な高校の体育館程度、アバウトに表現するとバレーボールコートギリギリ2面、バドミントンコート6面、バスケコート1面。これだけいえば大体想像ができるだろうか。
部活に入っていたわけではないので詳しくは知らないからこの説明に責任を持てるわけではないが。
とにかく、一つ思うのは駐在する兵士の数にしては大きすぎる。
たかだか80人程度の兵士が使うには勿体無い敷地だ。だから剣術教室としての利用をしているのだろう。
いつも欠かさずおこなっているアップメニューを終えて、家から持ってきた皮袋から水を飲む。
秋の半ば、涼しいといえる範疇を下回り始めた気温はすぐに汗を冷やし、体を冷やしてしまう。
手拭いで額の汗を拭うと、冷えた汗でしっとりとした木剣のつかを握り、稽古を続けた。
〈剣術〉lv1
〈体術〉lv4
気づけばそんなスキルが追加されていた。
なぜ剣術教室に通って体術が身につくのか。
それは剣を握るよりも前に体術を習ったからだ。
ボディーコントロールの練習みたいなもので、地の体力があるのとないのとでは剣術の成長に大きな差が出るらしい。
俺も剣を握り始めたのはつい最近、2週間ほど前のことだ。
それまでは体術中心に毎日訓練を行なって
毎日泥だらけになりながら練習を重ねた。
教室は開拓次世代の育成のために、騎士爵本人が無料で行っているものなので、行けるうちに行けるだけ行っておこうという貧乏根性の元、毎日欠かさずとは言わないが、ほぼ毎日教室に通った。
当然といえば当然なのだが、親に言われてから来ている子供や、週に1、2回ほどしかこない子供たちとは天と地ほどの差が生まれている。
木剣をとりあえず満足いくまで振り回したら木剣は傘立てのような木剣置き場にカランと音を立てて差し込んでおき、訓練場の端に置かれた打ち込み台の前に立ち、体術の練習を開始する。
体術で教えられたことは前世の世界のさまざまな格闘技をとりいれたような複雑な技がいくつかに分かれて存在していた。
まず柔と剛の技、剛の技なら足による打撃や拳の突き、合計55の技を覚える必要があった。
一つ一つの技を
完璧に近い水準まで育て、そこからさらに組み合わせ、『流』の技術など、学ぶべきことは死ぬほどある。
剣術の基礎段階としての体術では「初歩5撃」と呼ばれるたった5個の技しか教わらなかったが、
俺はいまだに体術の教えも受けている。
理由は単純、昔、一度だけ前世の母と映画を見に行ったことがあった。
その古い映画に出てくる、素手で何でもかんでも倒すキャラに憧れているからだ。
今、読者から「子供だなw」という視線を受けているのは知っている。
知っているけど、最も実践的な武術だと思う。丸腰の時の強さが生命力の強さ。
剣道で世界一位の選手も、竹刀がなければその辺の格闘技国体出場者とかに負ける。
それと何より、剣の間合いに踏み込んでも剣が振られる前にその拳は剣士の胸を貫いている。
こんなシチュエーション、ロマンしか感じない。
とまぁ、幼稚だけど俺にとっては重要な理由だ。
ロマンと実用性を兼ねた武術。それが体術。
だから体術の訓練をマジでやっているわけだ。
しばらく練習台に打ち込みを続けていると、訓練場に同い年ぐらいの金髪の少年が現れた。
身長も大体一緒。
彼の名はリオン・マイス。
マイス騎士爵家、つまりこの村の管理者であり村長である家の長男だ。
「リオンおはよう!」
「げ、また先を越された。」
リオンは俺と一緒に毎日のように訓練をして仲良くなった。
「リオンってほんと朝弱いよね。」
「オメェが強すぎんだよ!大体なぁ、寝ないと身長伸びねぇぞ、ヘン」
小学生ぐらいのレベルではあるが弟みたいでなかなか可愛い反応をしてくれる。
「まぁ、俺の方が身長高いけどね。」
「、、おい」
引き攣った笑みでこっちをみて、何もいえない自分に
「チックショー」
どっかの太夫顔負けの悪態をついて訓練場を飛び出していった。
あ、逃げ出したわけではなくアップのランニングをしに、という但し書きはつくが。
日も昇り、村の皆が働き始めた頃、訓練場では2人の少年が熾烈な組手をしていた。
方や、サラサラした金髪に水晶のように美しい水色の瞳に、健康的な肌をした少年。
幼さを残す顔は、悪だくみをしている子供のようににやついている。
わんぱくな印象を受ける少年は額に玉のような汗を浮かべながらも、目の前のライバルに必死に食らいつく。
方や、根本は黒く、毛先にかけて銀色に変わっていく不思議な髪色をした少年。
目は深い黒。色白の少年の顔は凛とした美しさがあり、美少年といった印象が残る。
先ほどの少年より少し背が高く、余裕の表情で攻めを躱している。
着ている服は印象にそぐわず、わんぱく少年が上等な綿の服で、美少年の方がみすぼらしい麻の布。
両者容姿、能力共に非常に優れており、村の子供たちの中でも特に大人びていて、ある意味浮いた存在だった。
ノアはなじまず、リオンは子供たちの中心で憧れだったが、同じ立場になることはなく、むしろ保護者のような立ち位置だった。
そういうわけで2人は浮いていたわけだ。
彼らが出会ったのはたった二ヶ月前、この村の領主が開いた剣術道場でのことだった。
騎士爵の息子で、一目置かれた存在だったリオンを全く気に留めないノアという少年は、リオンにとって自分と対等に話してくれる最初の村の人間で、リオンはノアという少年の肝の座った態度を直ぐに気に入り、一月も経てば仲の良い友達と呼ぶに十分な間柄になった。
ノアにとってもリオンは貴重な存在だった。
元々話し相手が親や街の大人たちしかいなかった彼にとってギャップを感じずに喋れる相手が現れたことにどれだけ喜んだか。
本人は全く表に出さないが、彼にとってリオンはすでにかけがえのない存在になりつつあった。
それまで受けに徹していたノアは少し目線の低いリオンの突き技をいなし、リオンの体の側面に出て体重のかかった出足を払った。
見事に勢いを利用されたリオンは受身を取ったものの、勝敗は決した。
「参った。はぁ。」
「これで俺の26勝目だね。」
「また追いつかれたよ。ったく」
今の互いの戦績は[ノア26-26リオン]
「じゃあ俺、一回家帰ってご飯食べてくる。」
「あぁ、もうそんな時間か。じゃあ後でな」
俺はリオンに手を振って訓練場を飛び出した。
ボロ臭い街並みを駆け抜け、村の端にある家を目指す。
「ただいまー!」
俺が戻ると、朝食はすでに準備が進んでいて、バゲットに野菜に、、といつもの朝食が並んでいる。
「お疲れ様。」
「今日も朝から行ってたのか?」
椅子に座っていた父が振り返ってこちらに問う。
「うん」
「体壊さないようにねー。」
「はーい。」
うちの間取りはだだっ広いダイニングに、両親の寝室、子供部屋。それと外にある納屋。
風呂は公衆の水浴び場で、トイレは肥溜めだ。
なんともひどい衛生環境。衛生大国出身者として、将来的になんとかせねば。
俺は物が少なく寂しい子供部屋で上着を脱ぎ、再びダイニングに戻る。
いつも朝食はみんなで揃って食べている。母の正面に父、その隣に俺だ。
朝食を食べ終えると俺は再び訓練場に、父は森に向かう。
父は俺に「毎日精が出るなぁ、」なんていうが、そういう父も毎日行く必要もないだろうに、狩りに精を出している。
「父」といえば、最近は前世の、今世の、とか意識せずに、今の俺の人生を生きられるようになってきた。
だから今まで「ここのお母さん」と心の中では思っていたサティも「母」になり始めた。
父はのんびり朝食を食べて、弓と短剣、罠の道具など、いろんなものを持って
「じゃあ、いってくるよ。」
と言って家を出た。
父は陽気だが、温厚というか、優しげというか、不思議な人だ。
俺も食べ終わってからは母の手伝いをしてから家を出た。
十分な訓練をしたのに再び訓練場に行く理由。
目当てはリオンに頼んで持ち出させている魔導書だ。
この世界には予想通り魔法があった。
そして、俺はINTというゲームでは大体魔法技能に関係するステータスが異常に高い。
騎士爵家ごときに大した魔導書があるとは思っていなかったが、数冊目ぼしいものがあったのだ。
まだ魔導書の存在を知ってからひと月も経っていないが、すでに二冊読み終えて〈火属性攻撃魔法〉lv 1がスキル欄に追加されていた。
一冊は魔法学基礎という魔法の根本に関わるもので、全てに通じる修行方法が記されていた。
最近読んでいるのは雷魔法。
これがなかなか難解な構造で、習得には苦戦している。
さて、この世界の魔法について解説しよう。
まず、大気中には「マナ」が膨大な量漂っており、それを転用することで魔法を操ることができる。
そして「魔力」とは、ここではマナを操り、魔法を起動する際に消耗する体力のようなものとして捉えられる。
魔法には属性が存在し、基本四属性と呼ばれる火、水、風、土属性に、特殊属性である雷や氷、強化、光、闇などなど、さまざまな種類がある。
初級、中級、上級などの区分はなく、習得した属性魔法の反復使用などによって使える魔法の威力や自由度、バリエーションが高まる。
魔法の練度が一定の域を超えると、体内に『サークル』が現れる。
サークルが形成されると体内に魔力をためて精製することができるようになり、魔法の威力は格段に上昇する。
さらに練度が上がると『サークル』の数が増え、精製率も上昇し、さまざまな能力の向上につながる。
リオンは魔法の才能には大して恵まれていないらしく、魔導書は必要ないはずなのだが、あることにはあるらしいので俺の頼みでなんとか理由をつけて借りてきてもらった。
「魔法できたら楽しいんだろうなぁー」
俺はうちのリビングほどもあるリオンの部屋に招かれ、机で魔導書にかじりついていた。
一方リオンは手紙の書き方やマナーなど、貴族ならではの勉強をしていたところだ。
「リオンも努力してみればいいのに」
「そう簡単にいうなよー、俺も今の勉強で手一杯だって。」
リオンはグッと伸びをして上等な机の上に突っ伏した。
「あ、そっか。リオンも大変だなー。」
「そっちこそご両親忙しくて大変だろ。」
「まぁ、マイス家ほどの余裕はないわな。」
「ったりメェだ」
会話の内容然り、リオンはやることが多い。
武術の訓練、膨大な量の座学、ダンスの勉強、5歳児の癖に大層忙しい。
普通の貴族家でも5歳児にここまではさせないらしいが、なんと言ってもリオンの大人びた性格に、才気を感じた両親がかなり重めに期待しているらしい。
かといってリオンの意思を無視するような両親でもないのでリオンが嫌だといえば済む話だろうが、根は真面目なリオンは頑張りすぎている節がある。
コンコン
「失礼します。お坊っちゃま、ノアくん、お茶とお菓子を持って参りました。」
メイドのヒラリーさんが器用に片手でお盆を持ちながら部屋に入ってきた。
「ありがとうございます。」
ヒラリーさんが作っていると聞くこのクッキー、めちゃくちゃ美味しいのだ。
なんでも、趣味がお菓子づくりらしい彼女は最初はお給料で高い砂糖を買って、リオンに作っていたそうだが、それが騎士爵様の耳に入ってさらにお口にも合い、騎士爵のお金で好きなだけクッキーを焼いていいことになったらしい。
余った分は時々農奴にも回ってきたりする。
「いえいえ、趣味ですから。お口に合えばいいですけど」
そういえば気になったのだが、この騎士爵家は農奴を見下さない傾向がある。
よくある貴族家ならば農奴を家に上げることすら嫌うだろうに。むしろ歓迎されている。
かと言って理由を問うほどのことでもないので聞くのは遠慮していた。
ヒラリーさんはお茶を出してお菓子を食べた後直ぐに部屋から出ていった。
「あー、本当に美味しいなぁ」
こんな嗜好品、今世ではここでしか食べたことがない。
「うんうん」
俺はアールグレイのような風味のする紅茶とクッキーをそこそこ楽しんだら、再び魔導書を開いて読み出す。
「えー、もうちょっと休憩しね?」
リオンは駄々をこねながらクッキーを2枚3枚と口に運ぶ。
「休憩って、何するの?」
俺は魔導書から目を離さずに言った。
案の定リオンは黙って考え込み始めて、俺は残り少ない魔導書のページをさらに繰る。
「じゃあ、」
「なるほど。ちょっと実験してくる。気分転換に、どう?」
俺は魔導書をとりあえず読み終えると、リオンの言葉を遮って立ち上がる。
「うーん、また湖まで行くのか?」
リオンがゲッて顔をする。
「うん。いい運動になるじゃん。」
ふぅーとため息をついたリオンは教本を閉じて立ち上がった。
「じゃあ、帰りに武器屋寄ろうぜ。」
さっきはこれを言いたかったんだな。と思いながら頷く。
俺たちの言う「湖」とは村の東側にある巨大な湖で、俺の家が接している森とはちょうど村を挟んで反対側にある。
大体街の中心にある騎士爵家の豪邸から村の東端まで1kmちょっと、そこからさらに5kmほどのところに位置する湖は俺の魔法の練習場所になっていた。
ここは特にマナが多く漂っていて、マナをかき集める必要がないので魔力をあまり消耗しすぎずに練習できる。
まぁ、魔力の代わりに移動にかかる体力が消費されるのだが。
ゼェゼェ言いながらものの40分ほどでついてしまった。
街の中はあまり速く走れないが、草原に出れば話は別。トレーニングも兼ねて全力疾走だ。
「こんなところ来て俺は何もすることないんだっつーの、、はぁ、はぁ」
柔らかい芝に身を投げ、ちょっと休憩する。
〈雷属性魔法〉lv1
やっと手に入れた。
【雷球】
バチバチバチっと音を立てて、前に突き出した手の先に拳ほどの雷の球が現れる。
魔導書には「これで青みがかった白の球が現れる。」と書かれているのだが、俺の目の前に現れた球は赤黒い雷。
「またか。、、治ってないんだな。」
「うん」
座ったまま俺の実験を眺めていたリオンがつぶやいた。
俺の魔法習得において一つ、大きな問題が起きていた。
『魔法が全て黒色化する現象』だ。
原因不明だが、効果が働かなかったり、魔力の消耗が速すぎたりもしないし、公衆の面前で使用する機会もないので放置しているのだが、全く気にならないわけではない。
火属性魔法の時は青と黒の混ざったようなドス黒い炎。
厨二病に嬉しいフェクトではあるが、実際我が身に起こってみれば気味が悪い。
俺が【雷球】を放つと、少し離れた地面に着弾し、魔導書に書いてあった通りの効果が現れた。
「うーん。」
俺が悩んでいるとリオンが立ち上がって近寄ってきた。
「まぁ、別にそんなに気にしなくていいんじゃね?むしろかっこいいし。」
チッ、クソガキめ。悪目立ちしたらどうすんヂャ。わかっとらんのぅ
「そうか。まぁ後々考えればいいよな。」
俺はウィンドウから〈火属性魔法〉をタップしてスキルの詳細を閲覧する。
〈火属性魔法〉lv1
スキル経験値 83/100
火属性の魔法を使用できる。
【火球】
【火針】
【火壁】
現状使用できるのはこれくらいだ。
続いて雷魔法
〈雷属性魔法〉lv1
スキル経験値 1/100
雷属性の魔法を使用できる。
【雷球】
どうやらスキル経験値の4分の1のところに新技解放のしきい値があるらしい。
とりあえず今は火属性魔法を魔力の続く限り打ち終えて、帰ることにした。
「よし。明日が楽しみだなー。」
少し気だるさを覚えながらもにやけた顔で〈火属性魔法〉lv2の文字を見る。
「さてと、帰るか。」
帰りは軽いランニング程度にとどめ、俺たちはそのまま武器屋に向かった。