それから 2
スノードームの闘いで、ドレミヒーローが、最後を迎えたときカミーユは、ガハハと笑った。
一方、カミーユは、一体のゾンビとともにスノードームから生還した。
たいていの人間は、スノードームで死んでも、本当に死ぬことはない。
スノードームで死んでも、翌日には、その人は傷ひとつない状態で目が覚める。
それが、昔からのスノードームなのである。
ただ、カミーユが呼び出したゾンビたちは、生者ではなく、もといた死者の世界に帰ってしまった。
一体のゾンビを除いて。
ドレミヒーローは、スノードームの外の世界には、戻ってはいないようだ。ドレミヒーローがゾンビ菌に感染していたことが原因で、スノードームから生還できなかったと、世間では考えている。
カミーユは、強敵ドレミヒーローに対して勝った。そういえるかも知れない。
しかし、カミーユが企てた形で勝利したとは言えない状態だった。
カミーユのゾンビ軍団は、ドレミヒーローのパワースーツの『暴走』に巻き添えを食い、大半が失われた。
援軍をよぶための、ベータミンDの消耗は激しく底をついていた。
しかし、カミーユの狙っていた第一の獲物はちゃんと確保できたのだ。そこに、カミーユには、笑う理由があった。
「滝ケートは、俺の物!」
もはや、カミーユの行く手を阻む存在が、消えてなくなったからである。
カミーユの前には、おびえきったカップル、滝ケートと一之条隼人がいるだけである。
彼らは完全に孤立し、無力になってしまったのだ。一之条隼人は、TVドラマほど頼りがいのある男では、なかった。彼は急用を思いだして、滝ケートをおいて、駆けだしたのだ。
カミーユは、欲しかったものを手にいれた。
カミーユは、滝ケートのまえにたった。
残ったゾンビ一匹とともにカミーユが滝ケートの方に歩き始めた。
一歩一歩、カミーユは滝ケートの方に近づいていった。
カミーユは、アイドル、滝ケートに迫ったった。だれも彼を止めることはできなかった。
「へ、へ、へ……」と、子供らしところのない薄笑いで、カミーユは、自分の顔を滝ケートに近づいていった。
つぎに、カミーユは、滝ケートに指で触れてみようとした。
ところが、カミーユにはそれができなかった。良心の呵責とか、そう言う種類の問題があったわけではない。何かの力が、カミーユにそれをさせることをじゃましていた。
だから、カミーユがどんなに望もうとも滝ケートに指で触れることはできなかった。ほんの目の前にいるというのに……。
「いったい何が起こったのだ?」
「ちくしょう、からだがぜんぜん動かないぜ」
「ああ、だれだ? 俺の邪魔をするヤツは? 手も伸ばせないぞ」
カミーユは、もがき苦しんだ。
実は、それには、訳があった。
カミーユは、おびえて立ちすくんで、動けない滝ケートに近づこうとするが、どうにも、体が動かないまま、時間が過ぎていく。カミーユは、ふと、なにかを感じた。
「シンメトリック! お前か?」
カミーユを縛る原因がはっきりした。
「しかし、なぜシンメトリックが?」
それは、滝ケートは、シンメトリックの孫であるからであったのだ。しかし、カミーユにはそれは思ってもいないことだった。
つづいて、カミーユの時、カミーユは、シンメトリックの本当の強さを知った。
カミーユには、とても歯が立たない存在であった。カミーユは、すべてをシンメトリックが奪い取ってしまうのかと思った。
しかし、シンメトリックは、カミーユからなにも奪うことはなかった。
シンメトリックは、孫の滝ケートを連れて、立ち去っていっただけである。
「負け犬になっちまった」
カミーユはつぶやいた。
そのときに、パレードがこちらに向かってきているのが分かった。ジーン博士とカミーユを歓迎し、その勝利を祝うという趣旨のものであった。そのパレードの先頭には、満面の笑みの都知事が歩いていた。
都知事は、カミーユと握手して、言った。
「これから、日本は、ゾンビテクノロジーをフル活用して、未来を切り開いていくことになります。その様な決定が下されたのです。おめでとう。私たちはあなたたちにいかなる協力も惜しみません」
思わぬ巡り合わせというか、闘いの戦果は、カミーユの想定をはるかに超えていた。
すべてカミーユが、手に入れることになった。
こらから、ゾンビテクノロジーによってもたらされる厖大な富は、すべて、カミーユのものとなることになった。カミーユは、夢の第一歩を歩き出した。
というのも、シンメトリックは、ベータミンに関して、なにも、権利を主張しなかったからである。
権利を主張しうる本当の人間であり、カミーユの双子の兄弟でもあるジーン博士は、戦いの直後から、姿を隠してしまった。
これには、カミーユも、参ってしまったのだ。
しかし、先日、逃亡していた『ジーン博士』をついに捕まえた。
ジーン博士は、まさかと思うようなところに隠れていたのだ。それは、かっての彼らの秘密基地の中であった。
ジーン博士は日本を離れようと言う気持ちがあったので、手続きが整うまで、隠れ家に潜んでいることにしたのである。
カミーユの前に、姿を現したジーン博士は、本当に浮かない顔をしていた。
「ジーン博士が、元のアジトに隠れていただなんて……。これこそ、『灯台もと暗し』というやつだな」
「しかし、ヨオ〜! せっかく、俺たちの大事な夢の一つが実現しようと言う時期に、よく家出なんてことが考えられたものだよ。ジーン博士という奴は!『仲間』たちとも連絡が取れて、ベータミンでもうけた金で、お菓子を売り歩きながら、世界中を旅するっていう夢に、協力するって約束もしてくれたというのに……これからは、『仲間』といっしょだというのに……」
カミーユは、ジーン博士に愚痴った。
しかし、カミーユは、ジーン博士の不満の原因を、自分なりに考えていた。
今回の戦いは、なにもかもが、準備不十分で、適当で、勝利という結果には、とても見合わないものであった。
しかし、カミーユは、勝ってしまった。
しかし、カミーユの闘いのこのような結果というのものは、ジーン博士にとっては納得のいかないものであるだろう。
計算と結果がぜんぜん合っていないのだから。
これは、ジーン博士は、自分がとても侮辱されたような気持ちの原因となり得るだろう。
「このように、最初の一歩を踏み間違えた世界征服計画が、当初の目的を達成できるであろうか」
ジーン博士は、断固ノーといいたいのだろう。
しかし、カミーユも、ジーン博士のそういう気持ちは十分にくみ取れたのだが、ジーン博士に対しても、甘い顔するわけには行かなかった。
「最後の仕上げに向かおうか」
カミーユはジーン博士に言った。
ジーン博士は、ただ力なくうなずいた。
カミーユは、ジーン博士のこのような落ち込みように少し心配にもなった。
カミーユは、こういう状態のジーン博士のあつかいは、よく心得ていた。
カミーユは、ジーン博士の耳元で、一言二言つぶやいた。すると、ジーン博士は、見る間に元気を取り戻し、それどころか、ジーン博士が、普段みられないようなくらい活気づいてきた。
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ジーン博士の家出の話は、大きな頭脳流出と、世間が騒ぎ出した。これは、良くない事態と考える人たちが多く出てきた。
「ジーン博士は、留学が決定していたのだが急遽中止されることになった。この頭脳流失は阻止しなければならないからだ」
どこぞのお偉方が演説をこいた。
そのお偉方の演説の結果として、ジーン博士をとめおくためにおいしい餌が用意された。
東京テレビの秋葉原レイとの対談が企画されたのだ。
せっかくだから、対談の面白そうな部分を次に書いていく。