第四話
朝は、早めに起きて朝食を作る。
朝練の癖がついていたので優香を起しにいこうとして足を止めた。
少し落ち着かせてから自分の部屋だったドアを開ける。
眠っている自分を見つめるのも少しは慣れないとダメだなと考える。
「優香〜おはよ!ご飯できてるぞ」
「ん〜〜〜もうちょっと…」
布団をまくりあげると引っ張り起こそうとする。
逆に優香に腕を掴まれると引きずられるように優香の胸に倒れ込んだ。
「お兄ちゃん力弱すぎ〜」
「いきなり引っ張るな!ほら、起きろよ。」
「んーーーー。なんかおしっこしにくい〜。」
「!?」
まさか…まぁ確かに風呂やトイレは行くよな…。
マジ恥ずかしい…自分の身体と分かっていても全部見られたって事
だよな…。
真っ赤になって固まる俺をよそに優香が抱きついて来る。
しかも俺の身体でだ!
はたから見たら、俺が妹に抱きついてるみたいで変態じゃん!
「いい加減離れろ!起きてこいよ」
「ねーお兄ちゃんも私の裸見たの?」
「なっ…見てない…。いいから早く降りて来い!」
キッチンに来ると親も起きてきていた。
「今日は早いのね。あらご飯作ってくれたの?身体の方は大丈夫なの?」
「あぁ、平気だ…です。お兄ちゃんもすぐに降りてくるって…」
「無理しなくていいのよ。悠人は今日は遅いわね。」
「多分、まだ本調子じゃないのかも…」
「そうね、優香ちゃんも休んでていいのよ。あらお弁当まで…」
そう、いつも俺が早起きして弁当と朝食を作って出かけているのだ。
母親に全部やらせる訳にはいかないと食事くらいはとやっているうちに
結構上手くなったのだ。
家事全般はなんでもできるので困る事はなくなった。
しかし、俺の身体であっても中身は優香だ、全てをやらせる訳にはいか
ない。
「今日から私がやろうかなって…」
「そう?あんまり無理はしないでね?」
「はーい」
噂をすれば、2階から眠そうな顔の悠人(優香)が降りてきた。
母にとっては俺な訳で、ぺチッと小突かれると席について大人しく食べ
ていた。
食事が終わって片付けをしていると悠人(優香)が袖を引っ張ってくる。
何やら話したい事があるらしい。
今日から学校に復帰という事でこんなに早くいかなくてもいいのだが、
色々と迷いそうなので早めに行くのだった。
「行ってきまーす」
「行ってきまーす」
二人で一緒に行こうという事になって、家を出た。
「何かあったか?」
「…痛いんだけど…どうしたらいい?」
「何が痛いって?」
「…が痛いんだけど…」
何が?という部分が聞き取れないので耳を近づけて何度も聞き返す。
すると恥ずかしそうに俺の手を握り悠人の下半身に触れさせた。
「なっ…!何をしてんだよ!まるで俺が変態みたいじゃん」
「だから〜。昨日からずっと痛いんだって…どうしたらいいの?」
「何をしてそうなったんだよ。何かしただろ?」
「ただ風呂場で洗っただけなんだけど…」
「何で洗ったんだ?まさか!」
「いつも通りにタワシ?身体洗うやつで擦っただけなんだけど…」
頭が痛くなりそうだった。
まさか、デリケートな部分をそんなモノで擦って痛くないはずはない。
俺の身体ってどうなってるんだよ…、いや、見せてもらう訳にもいか
ねーよな…。
「どうしたらいい?」
「そっとしとけ。それと、洗うときは手に石鹸で泡立ててそっと洗えよ。
それと、トイレでも紙で擦るなよ!少しふっとけばいいから。」
「だからトイレに紙がないのか?でききるまで握ったら痛かったんだが…
それに紙で何度拭いてもくっついてきて困ってたんだ。」
「マジか…」
もう、元の身体に戻ったら使い物になりませんでしたなんて言わねーよ
な…不安になってきた。
「まぁ、気になる事があったらすぐに言えよ。それとくれぐれもあんま
り刺激すんなよ。」
「分かった。」
学校では、女子校のせいか着替えの時は目のやり場に困った。
過度な運動は控えるように言われ今日は見学する事になったが、それに
しても女子校ってほんとどうしろっていうんだよ〜。
俺は共学なので雰囲気の違いに少し戸惑う。
優香はめちゃめちゃ仲のいい友達がいたわけではなく、みんなに平等に
接していた。
その為、中身が変わってても気づかれる事もなかった。
その頃兄の身体に入っていた優香の方は学校に着くなり谷崎達也の
洗礼を受けていた。
いきなり抱きつかれた瞬間睨むと腕を掴むと捻り上げた。
「ギブギブ!悠人やり過ぎだって!悪かった〜!」
「なら、毎回触るな!気持ち悪い。」
痛そうに腕を擦りながら教室に向かおうとするのを遮られる。
「このまま教室行くの?」
「当たり前だろ?お前も早く行けよ」
「ふーん、でさ〜悠人はどこにいるの?」
「目の前にいるだろ?」
「お前だれ?」
真剣な視線につい目を逸らしてしまいそうになる。
「まぁ〜いいんだけど。悠人じゃないよな?ここで問いただ
してもいいけど?」
谷崎達也の視線に耐えられなくなって、場所を変える事にし
た。屋上まで来ると、いきなり殴られ床に押さえ込まれた。
優香は咄嗟に睨みつけるが、谷崎達也は余裕の表情を見せる。
「どういうつもりだ?」
「それはこっちの台詞だって。悠人が事故に遭ったのは知って
る、けどその後から連絡が来なくてさ〜、君なら知ってるん
でしょ?」
しばらく沈黙するが、ため息を吐くと一旦落ち着いた。
「まずはどけよ。話してやるから」
「りょーかい、でも、嘘なら許さないよ?」
「私は優香、お兄ちゃんなら隣の女子校に行ってる。私の身体で」
「だーかーらー、嘘言っても無理だって言ったよね?」
「嘘じゃない。私の姿見てお兄ちゃんじゃないって分かるなら自分
で確かめに行けばいい」
しばらく考えて、納得したのか帰りに迎えに行く事で納得したよう
だった。
「でも、本当に妹ちゃんなの?中身が入れ替わったねー、信じ難い
けどな〜。」
「現に、こうして見てるだろ?」
「まぁーねー!」
同じクラスだった為、色々と世話を焼いてくれたのだった。




