「あと1点だったのに!」と嘆く者は、1と2、99と100の間にある1の悪魔を知らなければならない。
テストなどで100点を目指していたのに、結果99点で、「あと1点だったのに!」と悔しい思いをした人は多いだろう。しかし99と100の間にある距離は、1と2の間にある距離よりもずっと隔たっている。同じ1なのに、全く違う。これが1の悪魔である。
1問1点で100問ある。その中で同じ1点でも、1点から2点にあがるのはどれだけ簡単なことだろう。それはつまり、99個の中から、どれか1個正解すれば良い。98個は間違っていても良いということが暗に示されている。しかし、99点から100点というのは、同じ1点でも、残された1個から確実に正解をとらなければならない。他の問題はすでに埋まっている。残った1個から確実に1点をとらなければならないというところに難しさがある。しかもこれは99点であることを前提にした話である。もしすでに1個でも間違っていれば、100点への道は永久に閉ざされることになる。つまり100点いうのは当たり前の話、間違うことが許されない。
私たちは、99と100の間にある1点を、まるで1と2の間にある1点を扱うように、「あと1点だったのに!」と嘆くが、とんでもないことである。しかし「あと1点だったのに!」と思わせることが悪魔の仕事なのだろう。99点だったときに、同じ1点でも「ああ、これが天才との距離なのか……」と素直に納得できれば、思考の悪魔を簡単に斥けることができるだろう。
余談だが、これはスポーツの世界でも言えることである。
100メートル走で記録が20秒の人が19秒にするのと、10.9秒の人が9.9秒にするのとでは、同じ1秒でも全くわけが違う。
オリンピックなどで他国の選手が9.89秒で一位フィニッシュ。9.88秒で二位フィニッシュした自国の選手に向かって、「あとたった0.01秒の差だったのに!」と嘆く者は、頭の中から思考の悪魔を斥ける必要がある。