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前編

4/26 ブクマ100件突破!

_|\○_ ありがとうございますぅ!!


4/24 18:35時点 マイページで総合評価1000越え(汗)

レビュー、星、感想、ブクマ、誤字報告に割烹へコメ下さったすべての方々……

_|\○_ ありがとうございますぅ!!


なん…だと…2021/04/23 日刊16位

誰が鏡花水月使ってるんでしょうね(白目)

驚きで3度見し、あわててスクショ3枚も取っちまいました。

ありがとうございます!

「ど、どこよここ……。あちこち痛いし、痒いし、青臭いし」


見回せば真っ暗な森の中って、どこのなろう小説よ!!

青臭いのは草の匂いだ。


「へっぷし!!」


女子にはあるまじきくしゃみを一つした。

そりゃあすっぽんぽんじゃくしゃみも出るわ。

ん? すっぽんぽん?

立ち上がって自分を見た。


「ぎゃっ! なんで裸なのよっ!!」


慌てて私はしゃがみ込んで、草むらに身を隠した。

しゃがみこむと膝が痛んだ。

見ると石にぶつかって擦りむいたのか血が出ていた。

膝だけじゃない。腕や背中も擦りむいたようだ。

小学生以来の痛みに私は顔をしかめて、状況を整理しようと始めから思い出してみることにした。


 ※ ※ ※


私は東出 陽菜(ひがしで はるな)

ギリ30代のアラフォーとはもう言えない、今月めでたく40歳。

職業はwebディレクター兼webマーケッター。

……弱小デザイン会社だったから、何でも屋なだけだけどね。

今日も3日間かけて作ったデザインを1分でクライアントに却下されて、夜に予定があるからと必死こいて2時間で修正案を作成して検討に持ち込み、ルンルンで彼氏に会ったら「別れよう。俺、結婚するなら子供は絶対欲しいんだ」ですってよ、奥さん!

飲みなれないワインを1本あけて、荒んだ心を癒そうとバスタブに足を入れたら、酔っ払ってつるっといったの。てへ♡

そしたらバスタブの底が抜けて、気が付いたら素っ裸でここにいたって訳。


(服……とにかく服が欲しい。服、ふく、FUKU、ぷりーず……)


こういうのは巫女服やら聖女のためのドレスが用意してある場所に出るんじゃないの?

そりゃあ世間は40代の女に厳しいけど、転移先も厳しいなんて。

またもや鼻がむずむずして、ぞくりと悪寒がする。

このままじゃ風邪ひくし、貞操の危機!

私は左右を見回した。

林の中だが月明りでうっすらと明るくて恥ずかしいが、人もいないし、じっとしていても服は手に入らない。

何やら右側から水音がするので、右に行ってみることにする。

一歩目を踏み出せば、石が足の裏にあたり、ものすごく痛い。

足の裏を見てみるが、傷がついた訳ではなくてホッとするが、ツラい。

私、自慢じゃないが足つぼマットに10秒乗れたためしはないのだが、緊急事態につき一旦忘れて、右手の方向へ歩き出した。


 ※ ※ ※


水音は小さな小川で、それは池か湖らしき場所に流れ込んでいた。

これで傷を洗えると、更に湖に近づくと、ほとりには何やら金属っぽい人工物を発見した。

目がおかしくなったのかと二度見したが、多分甲冑とかいうやつ?

喜び勇んで近づいたら、青い布地とブローチがあるではないか。


(こ……これはマント。神は私を見捨てなかったのね!)


昨日電車でおばあちゃんに席譲ってマジ助かった。

いそいそと体に巻き付けて、お腹あたりをブローチで止めた。

慌てたせいでブローチに少し血がついてしまったので、ごしごしと布のはしっこでふき取る。


(ん? なんか色が変わったような……。気のせいかな)


さっきまではマントとおそろい色でラピスラズリみたいに金のラメ入り模様だった気がしたけど、青が更に深くなってラメがキラキラし出したような……考えるのはよそう。

出来上がりはなんか古代ギリシャ人かローマ人っぽいカッコになったが、まぁOK。

服ってこんなにも安心できるのね。

都合良く靴っぽいものもあったので、これも頂戴、いやお借りしよう。


「ホントにごめんなさい、後で洗って返しますから、どうか見逃してください!!」


私はぱん、と両手を合わせて立ち去ろうとした。


「見逃せる訳ないだろ、このコソ泥め!」


頭上から声が降ってきて、ひえっと思い、振り返れば目の前には裸の男!

ブローチみたいにきれいな青色の目だな、とぽけっと見とれた。

はぁ、かっこいいなぁ。髪も好みの茶髪色で、リアル水も滴るいい男。

特に胸筋と上腕二頭筋の筋が最高よ。

お腹だって男子憧れのシックスパックどころか、ほぼほぼエイトパックじゃん。

ちなみにナニは隠れていて、いわゆるパンイチ。


「うぎゃっ! 服っ、服着てください!!」


私は目をそらして叫んだのだが、男は血まみれの私の腕をつかみ、マントを止めていたブローチをじぃーっと見つめ、愕然とした顔で私に尋ねた。


「おい、コソ泥。お前、このブローチに自分の血を付けたのか?」

「すみませんっ。その……あちこち擦りむいてて、ちょっぴりつけてしまいました。ほ、ほんとにごめんなさい!!」


そりゃぁ血が付いたやつって汚いもんね。

後で煮沸消毒しますと言ったら、男は激怒した。

確か熱に弱い石あるんだよね。アルコールの方が良かったかな。


「騎士の神聖なブローチを鍋で煮るとは、どういう了見だ! このど阿呆!!」


青筋が見えそうな表情で男は言い放ち、つかんだ私の血まみれ腕を月明りに晒すと、ため息をつき、ぶっきらぼうに言った。


「そこに座れ。他にどこをケガした?」


男は小川のそばの石を指差したので、おとなしく座ると、男は水筒みたいな筒に湖の水を入れた。

ああ、傷を手当てしてくれるってことか。


「膝と多分背中です。あの、自分でやれますので、その水筒貸してください」


私は手を出したが、却下された。


「いいから出せ。魔力を込めないと治らんだろうが」


ああ、やっぱりそっちの世界なのかと少々落ち込み、裾をめくって膝小僧を出した。

男は水をかけた後、何やら手をかざすと、ふんわりと温かくなって、傷が消えた。

同じように腕も治してくれた。


「せ、背中はそんなに痛くないので……」


結構ですと言ったら、「いいから出せ。もたもたしてるとひん剝くぞ」と凄まれた。


ひゃっと首をすくめ、そそくさと背中を男の前に晒した。

前はマントをかき寄せて隠した。

ああもう。何でこんな目に合わなくちゃいけないのよ。

40歳だけど女子よ。月明りで半ケツなんて恥ずかしいのよ。

もうちょっと優しくしてくれてもいいじゃない。


「傷はないが、内出血だらけだぞ。どんなぶつけ方をしたんだ。他に痛むところはないか?」


呆れ声で男は同じように水をかけて、手をかざしているのだろう。

ふわりふわりとあちこちが温かくなって、痛いのが消えていく。


「ないです。気が付いたらここにいましたから。あの、後ろ向いててもらえます?」


私はそう言ってから、そっと振り向くと男は自分の甲冑を回収して、後ろを向いたまま身につけ始めた。

私もささっとマントを巻きなおして、ブローチで止めた。


「すみません、お礼したいのですが、何も持ってませ……ぅひゃっ!」


こ、これは姫抱っこ。

イケメンのいい匂いで、私の心臓はドンドコ激しいビートを刻む。

やばい、やばいよ。人の心臓って打てる回数有限なのよ。

こんなところで無駄打ちしちゃ、余命がすり減っちゃう!


「お礼なら相場は決まってるだろ。その体を貸せ。ちょうど色々たまってる(・・・・・)ところだ」


悪そうな顔で男はにやりと笑った。

あ、見たわ。このシチュエーション

18禁web漫画のバナーでよく見るやつ。

頭から食われるヤツね。ははっ。

そして次のセリフはこうよ。


「君が好きになってくれるといいな。俺の名前はエードルフ。君、名前は?」


にっこりと親し気に笑いかけてきた。

はい18禁キター。


「ハルナ、でゴザイマスヨ……」


嗚呼、さよなら。

私の貞操。


 ※ ※ ※


「はぁ、気持ちいい風ね。今日は大物もよく乾きそう!」


ピーカンの青空に私は満足して、干したシーツを見上げる。

確かに彼は、いや彼らはため込んでいた。

アッチ方面ではなく、掃除に洗濯や使った食器、料理に書類整理。

そういったことを処理する人が欲しかったという。

ただ場所柄、使用人を募集してもみんな嫌がるらしく、すぐに辞めてしまうそうだ。

おかげで結構高給で私はエードルフに雇われることとなった。

私は拝み倒して前借りし、服も下着もちゃんとしたもの買えたし、部屋ももらえて賄いつきの就職先も確保できて助かった。


ここは魔の森と呼ばれる魔物の住む場所と、人の住む場所のちょうど境目にあたる場所で、森の監視のために5階建ての塔が建てられている。

エードルフ達は塔に詰めて、時折魔の森から迷って出てくる魔物を退治したり、町の住人や家畜のいる放牧場を守ったりしている、国境警備隊のようなものらしい。

人数は上下するが最大人数は5名。

エードルフはその団長さんだった。


「いやぁ、ハルナちゃんが来てくれて助かったよ。飯も格段に旨くなったし」


はい、八つ当たりするのにパン生地をたたきつけるのはすっきりするのですよ、今度一緒にどうですか? アーディンさん。


「洗濯物がにおわないって最高ッス!」


そりゃあ室内干しの上に、干しっぱなしでベーコンだの干し魚だの暖炉で焼けば、洗濯物は匂いますよ。

絶対にやめてくださいね、シルヴァン君。


「団長が連れてきた時はびっくりしましたが、一体あの人のどこが良かったんです?」


ルドウィルさんは心配そうに私に尋ねる。


「いえ、契約は事故です。団長と私は別に付き合っている訳ではありませんよ。マントもちゃんとお返ししました」


私はルドヴィルさんの誤解をきっちりと訂正する。


そうなのですよ。

こっちに来て初めて知った事実がいくつかある。


1.騎士のマントは効力のある魔術がかけられている。魔術は持ち主が決めてかける。エードルフは若返りをかけていた。

→エードルフいわく、仕事がハードだから肉体ピークの25歳設定なんだそう。だから私も25歳。


2.騎士のブローチは魔術具で一生に一度しか作れない。血の契約した者にもマントの効力発揮。

→騎士の誇りと魂で、鍋で煮るのはもってのほか。


3.騎士がマントを渡すときは「結婚してください」という意味で、ノーなら返す。

→……ぶんどられるなんて、今後騎士とは名乗れないくらい不名誉な出来事。この件だけは誰にも話さないでくれと懇願された。


兎にも角にも。


マントはきれいに洗って返せたものの、うっかり私が血を付けた騎士のブローチは契約状態となったらしく、マントの効力が私にも及んでいるらしい。

おかげで私は見た目も体力も25歳くらいになった。

だけどこの契約、マントを受け取った婚約者がするもので、1回限りで解除不能。

エードルフはもう誰とも契約できなくなってしまったという。

それを聞いた私、真っ青でフライング土下座をした。


「ほ、ほ、本当にごめんなさい!!! 契約できないと結婚できない、とかないわよね?」


責任とって私、結婚しなくちゃならないの?

いや、エードルフにとっては事故で40歳女を引き取るとか罰ゲームでしかない訳で。

今になってわかる、年齢の分厚い壁。

元カレ君よ、君の意見は正しかった。


「契約できないだけで、別に結婚に必須って訳ではないから、気にしなくていい」


それに俺、彼女もいないしね……と自分のデスクで遠ーーい目をして語っていたのが少し切なくて、ものすごく同情心をあおられた。


「ソ、ソンナコトハナイデスヨ……団長ニモ、キットハルはキマス、よ?」


町への買い出しに行くようになってわかったけど、エードルフは非モテ、の事実を知った私は、思いっ切り棒読みだった。

こっちの世界というのはエードルフみたいなムキムキ筋肉タイプは不細工で、細身でしゅっとしてる方がイケメンとして人気なのだ。

ああ、エードルフって私のタイプど真ん中だから私が立候補したいくらいだが、実は40歳と言ったら絶対引かれる。

多分私がコソ泥って呼ばれた時には、ブローチの効力発揮済み。

エードルフは私のピチピチ25歳姿しか知らないんじゃ、実は40歳なのだと晒す勇気が……ない!


私は盛大に悶絶して凹んだ。


 ※ ※ ※


塔勤めも日々順調で2か月目。

伸びた髪の毛が少し邪魔で、買い出し帰りに小間物屋さんで舐めるように髪留めを眺め、小銭ばかりの寂しい懐と比べ、あきらめて外に出たら、エードルフが憐れんで買ってくれました。

必要経費で前借りには入れないから心配するなと言ってくれました。

お礼の代わりに、その日のお夕飯は団員よりちょっと多めのお肉を盛りました。

社長の奢りって、いい言葉よね。


今日はその社長、いや団長のエードルフからお昼は外で食べたいとリクエストされて、お弁当を2人分詰めた籠を片手に、ピクニック気分で裏庭へ向かう。

ここにはエードルフの趣味と団員達の食糧庫を兼ねたご自慢の立派な畑がある。

トマトにレタス、キュウリにカブ、玉ねぎ、ナスにほうれん草。

ほかにもたくさんの種類を植えてある。

お野菜大好きな私には天国のような場所だ。

魔の森の泉が近いから土地が肥えてるし、土地自体にも魔力が満ちているから季節も気温も関係なく、手間いらずでいいものがわさわさ採れるんだって、畑責任者のエードルフが言ってました。

つまり植え放題、取り放題、食べ放題。

畝の外側には適当に生え散らかっているハーブの類もあって冷蔵庫いらずの充実ぶり。


「クックック……。どいつもこいつもピッカピカで美味しそうだのう。どう食ってやろうか!」


悪役さながらにニヤニヤしてパンパンに真っ赤なトマトをもいで、丸々としたカブを抜き、外葉まで美味しそうなレタスを採る。


「きゃーっ。ウチの子たちをどうするつもりなの? ひどい事しないでっ!!」


エードルフはひっこ抜いたカブにアテレコする。


「ぐへへへへ。お前たちはまとめてサラダになるんだぜ。おとなしく団員たちの腹に収まるがいい!」


私はレタス片手に返した。

って何やらせるんですか。


二人で収穫作業や手入れを一通り終えると、丁度お昼時。

ブランケットを敷き、籠のお弁当を広げて、葡萄酒を木苺水で割ったサングリアっぽいドリンクをカップに注ぐと、エードルフがカップにむかってバラバラと魔法で氷を浮かべてくれる。

私はアルコール弱いから、木苺水は多めにした。


「お、いつもの遠征の弁当より豪華!」


エードルフは並べられた品数の多さに反応する。

ふふん、今日のメニューはちょっと頑張った。

予算に限りがあるから、残り物も多いけどね。


・塩豚とトマトのバジルソースサンドイッチ

→バジルソースは作り置き。塩豚は残しておいたもの。

ちょっと塩豚が足りなかったので、トマトのスライスを入れて嵩増し。

塩豚の塩気とトマトの旨味で口福な一品!


・カリフラワーのポタージュ

→昨日の残り物をすり潰して牛乳とバターを入れて野菜出汁で伸ばして塩で味を整えた。

こっちは生クリーム混じりの牛乳で濃いので、優しい野菜出汁で十分美味しい。

カリフラワーの甘みも感じられて、割と成功。


・フライドポテトとトマトソース気味なケチャップ

→細めに切ったじゃがいもに小麦粉をまぶして揚げるカリカリ仕様。これはエードルフ始めみんなの好物。

もちろん私も大好きだ。


→ケチャップを再現したかったんだけど、スパイスが再現しきれず煮詰めたトマトソース。要研究。


・色々野菜のスティックサラダ、ほぐしチキンのヨーグルト和えディップ

→お野菜切っただけ、ツナ缶イメージで野菜出汁で柔らかく煮たチキンを常備菜からちょっと拝借。

ほぐして玉ねぎのみじんぎりとディル、水切りヨーグルトとお酢をベースにゆるめの半熟ゆで卵を入れてちょっとマヨネーズに寄せてみた。

耳かき程度のにんにくすりおろしがいい仕事してます。


「うーむ、ケチャップがうまく再現できないんだよねぇ。やっぱりスパイスかなぁ。欲しいなぁ、スパイス」


ぶつぶつ言いながら私はフライドポテトにケチャップもどきをつけて食べる。

不味くはないけど、ハーブを代わりに使ってるから、ケチャップっていうより、トマトソースに近い。

何だろうね、あのジャンキーさの素って。


「ええー! このケチャップ、これで十分美味しいよ。パンに目玉焼き乗せて、このケチャップかけた奴とか、俺、延々食べれるよ? ハルナは理想高すぎじゃない?」


同じくフライドポテトにケチャップをつけて食べてるエードルフの前に、私は人差し指を立てて左右に振り、


「努力の先に美味しい物があるのです。諦めたらそこで試合終了ですよ」


と、某バスケ漫画の台詞を言えば、


「ハルナ様、俺、もっと美味い物が食べたいです……」


美味しい発言にうっとりして某不良少年のような台詞を返してくれて、内心ニマニマしてしまった。


「良かろう、良かろう。そなたも精進して畑仕事に励むがよい。さすれば願いは叶うであろうぞ」


「はっ! 更によき品をお収めすべく精進致します。つきましては閣下、本日の夕食は……」


もじもじと好物にしてくれと頼みこむ。


「うむ、わかっておるぞ。そなたの好物その2である鴨肉のコンフィを出してやろう。存分に食するが良い」


ぱぁぁっと顔を輝かせ、よだれをたらしそうな勢いで食いつく。


「なんと! 光栄にございます!! では、付け合わせにすべくじゃがいもも収穫して参ります」


あー、あれね。

コンフィの残り油で作るじゃがいも炒めって旨いよね。

今回鴨肉だから香りも出汁も利いてて旨いよ、きっと。

だけどね、3連続ジャガイモはきついから、私の分はいんげんと人参にしとこうと思います。

いくら若くても食べすぎは太るのよ、糖質は控えめに。


 ※ ※ ※


「俺、結婚して騎士引退したらこういう風に野菜育てて、食堂やるのが夢なんだよねぇ」


エードルフは満足そうに私の作ったサンドイッチをかじり、フライドポテトを無造作に口へ放り込んだ。

この人は好物だと目尻が下がってとてもわかりやすく喜ぶ。

普段は甲冑姿で(多分)カッコよく魔物と戦ってるのに、こんな風に畑作って食堂が夢とか、萌え殺されそうです。


「農家レストランってやつですね。私の故郷にもありましたよ。カフェでお野菜使ったスイーツ出して、外でお茶したりするんです」


私はカリフラワーのポタージュを一口飲んで、ついうっとりする。

いつでも採りたて新鮮なうえに、野菜たちは味も濃いから、私程度の腕でも簡単においしくなってくれる。

おかげで楽しくてつい、いろいろと試してしまいたくなる。

今度はかぼちゃやさつまいも、人参でケーキやプリン、ババロアもいいかもしれない。

ゼラチン問題が解決したら、だけど。


「へぇ。野菜のスイーツか。トマトもケーキになったり?」


もうニッコニコでエードルフは私の故郷の話に食いつく。

ちなみにエードルフはジャガイモとトマトが好きだ。


「しますよ。うーん。こっちで言えばほうれん草を練りこんだフワッフワなパンケーキみたいな生地を生クリームで覆って、ちっさいサイズのトマトがまるごと乗ってるんです」


私は故郷でのプチトマトショートケーキを説明する。

確かあれは小松菜のスポンジでプチトマトが乗ってた。

こっちには需要がないのか、大きなトマトは見かけるけど、プチトマトは見たことがない。


「トマトが小さいなんて。ハルナの国は珍しい野菜がたくさんあるんだな」


感心したようにエードルフは言う。


「トマトだけじゃなく、色々な野菜が小さくなって売られてましたよ。栄養も豊富だし、食べきりやすくて、場所も取らないからって」


私は日本にあった芽キャベツやペコロスを思い出す。

あの辺はまるごと使えて、見た目がかわいい。

塔には冷蔵しておける地下室があるけど、普通の家にはなかなか普及してないから、小さい野菜って売れそうだと思うんだよね。


「団長の夢、早く叶うといいですね」


その時には私はそばにいないのかもとちらついて胸がきゅっとなり、ちょっとだけ濃くしたサングリアもどきを一息にあおった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 素っ裸転移!! 素晴らしい( *´艸`) エードルフの本当の年齢が気になるところです……どきどき。 ガチムチ系ヒーローありがとうございます、好み! しかも野菜の収穫時に何を言い出すのかw…
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