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第27話:お終いの報者

 願いを叶えて人の喜びの感情を糧としていた高次元存在を倒し、それによって発生していた現実の様々な齟齬に関する記憶に対処した私達は、それからしばらくは平和な毎日を送っていた。虹はいつもの様にふざけ倒し、索や雛菊達と仲良く過ごしていた。結はいつも索を遊びに誘いに来る虹にうんざりしている様だったが、それでも何やかんや言って仲良くしてくれていた。

 だがそんなある日、虹の家へと手紙が一枚届いた。その手紙は手書きされたものではなく、新聞や雑誌などの文章を切り抜いて作られたものだった。その見た目通り内容まで脅迫文めいたものであった。


「えー何々ー……『お前の正体は知っている。ここはお前のいるべき場所ではない。すぐに出てイケ』?」

「虹、誰か怒らせたりしてないよね?」

「ちょぉっと~あたしがそんな悪い子みたいな言い方やめてよね~!」

「いやっ、虹が悪い子じゃないのは知ってるけど、正直虹みたいな子を嫌いな人も居るだろうなって思ってるから」

「んもぅ。う~んしかしこれあれだね、ヤバイね」

「うん……警察にちゃんと通報しといた方がいいよ」

「ほらこの『イケ』だけカタカナなのヤバくない? 手元の新聞とかじゃ足りなくなってカタカナ持ってきたのかな?」

「いやっそこ!? 今そんな事はどうでもいいんだよ!」


 私が何と言おうと虹はその手紙について通報しようとはしなかった。確かにメインテイナーの力を使えば誰かから襲われても対処は出来る。特に虹が行使する改変能力は私以上に強力であり、それこそ死人ですらも復活させられるのではないかと感じさせる程だった。

 その日、いつも通り過ごした虹は珍しく早く寝床に就き、スヤスヤと寝息を立て始めた。いつもであればまだ元気に私に話しかけたりふざけている時間なのだ。今まで体調を崩したという事も無かったため、虹がこういった様子を見せるのは少し奇妙に思えた。

 疑問はあったが私も少し休もうと考えていると、突然虹のスマートフォンが鳴り始めた。虹は寝惚けた様子でその着信へと出た。


「うぅ~ん……はいもしもしぃ……索ちゃぁん……?」

「虹、スピーカーモードにして」

「えぇ~……? えっと~この辺だっけぇ……?」


 画面の表示がスピーカーモードに切り替わったのを確認し、索へと話しかける。


「索、索聞こえる?」

「あっ、現夢さんっ……! え、えと、夜分にすみませんっ……」

「ううん、気にしないで大丈夫だよ。何かあったのかな?」

「あ、えっと……さ、さっき部屋に居たら窓に何か当たる音がして、こ、怖かったんだけど見てみたら、手紙が落ちてて……」


 どうやら索の家にも手紙が届いたらしい。その手紙は石に括り付けられており、それを投げる事で窓に当てて気付かせたのだろう。そしてその内容は『日奉虹を始末しろ』というものだったらしい。


「わわっ私っ、急にこんなの来てっ、ど、どうすればいいのか……」

「落ち着きなさい索。……循、聞こえる?」

「結、その手紙誰からか分かる? うちにも来てたんだ、その手紙」

「アタシに分かる訳ないでしょ。内容から察するに、大方そっちのバカが余計な事したんでしょうよ」

「いやっ、それが虹もそんな心当たり無さそうだったの。正体がどうとか書いてあったし、昔の虹を知ってる人間なのかも……」

「……昔はワルだったってのはありがちね。いつもバカみたいにヘラヘラしてるそいつも、昔は恨みを買う様な真似してたのかもね」

「虹は……そんな事する様な……」


 虹は悪意を持って特定の誰かを傷つける様な事はしない人間に思える。短い期間だが、隣でどういう子なのかを見てきたのだ。ふざけるためならどこまでも声も動きも変えられる子だが、それを悪い事には使わない気がする。


「……とにかく、あのバカの事はまた明日話し合いましょ。この時間だと索も家から出られないし」

「そ、そうだね……ごめん結、それじゃあ明日こっちに来てくれるかな?」

「ええ。索もそれでいいわね?」

「う、うんっ。私もそれでいいよ……!」

「じゃあ、明日行くから。一応アンタも気をつけときなさい。……そのバカがどんな人間なのか、そいつ本人にしか分からないんだから……」

「……私は、虹を信じるよ」

「……好きにしないさい」

「今あたしの事好きって言った!!?」

「うっさ!? 何でここに来て急に反応すんのよ! 普通『バカ』って言葉の方に反応するとこでしょ!?」


 結の言葉によって目が覚めたのか、虹は爛々とした目でスマートフォンに話しかけていたが、もうとっくに通話は切られていた。突然大きな声を出されて怒った結が、無理矢理索に切らせたのだろう。


「おい! 応答しろ! 索ちゃんっ! 索ちゃーーーっん!!」

「切れてるよ虹」

「結ちゃんが?」

「いやっ結もキレてるだろうけども……」


 その後、天道先生や雛菊にも確認してみたが、少なくとも天道先生の所にも索に届いたものと同じ手紙が来ていたらしい。やはり彼女にも虹が何故ここまで書かれているのかは分からないらしい。本来であれば雛菊にも聞きたかったのだが、お嬢様だからかもう就寝してしまっているらしく電話は通じなかった。しかし索や天道先生の所にも届いているという事は、彼女の所にも同じものが行っている可能性が高い。


「いやぁ~モテる女は困りますなぁ~」

「いやっ逆だよ! 虹に何か恨みを持ってる人からだよこれ!」

「恨みって言われてもなぁ~。天使級の可愛さであるこのあたしに限ってそんな恨まれる様な事は無いと思うんだけどなぁ~」

「今のは内心ちょっとイラっとしたけどね……」


 それ以上考えても何も答えは見えてこなかったため、ひとまずは朝になってから皆で考えようという事になった。幼馴染である天道先生ですら虹が何故狙われてるのか分からないと言っていたため、集まっても何も答えは出ないかもしれない。だが、三人寄れば文殊の知恵という言葉もある。少しは何かが得られるかもしれない。


 虹と共に就寝して朝を迎えると、皆が集まるまでの間手紙を見ていた。やはり手書き文字はどこにも無く、どの文字もどこかから切り取ってきたであろう文字ばかりだった。手紙はポストに入る様にするためにか複数回折られていたが、紙自体はかなり綺麗なままだった。折り目は残っているが、それ以外の汚れや皺などはどこにも見られない。


「虹。虹って、手紙を出す時、綺麗な紙を使うよね?」

「あーし現代っ子だしぃ~何かぁそーゆーのようわあんないんだよねぇ~」

「ギャル口調で現代っ子アピールしなくていいよ!」

「うーん、実際あたしも手紙とかあんま書いた覚えが無いから分かんないや~」

「じゃあ、もし仮に虹が誰かに脅迫文を出すとして、わざわざ綺麗な紙使う?」

「もしもしポリスメン?」

「書けって言ってるんじゃないよ! もしもの話だよ!」

「冗談冗談~。ま~、あたしならメンドイしその辺のチラシの裏とか使うかな~。脅迫文とかチラ裏レベルっしょ」


 虹の意見は納得出来た。わざわざ恨んでいる相手に綺麗な紙で脅迫文など出すだろうか。私なら虹が言う様に適当な紙を使って作るだろう。そもそもそのために綺麗な紙を用意するのも大変であり、ここまで綺麗な白い紙は普通は常備していない。

 しばらく虹と話し合っていると手紙が届いたという皆がやって来た。どうやら雛菊の所にも届いていたらしく、朝になって手紙に気がつき結から連絡を貰って来たらしい。


「やぁやぁいらっしゃい皆~。お上がりよ!」

「こーちゃん、それってそういう意味じゃないんだよ?」

「そうだったの!? さっすが治ちゃん! 頭いっい~!」

「あの、申し訳ございません! わたくしとした事が電話に気がつかないとは……」

「いやっ、気にしないで雛菊さん。むしろ健康的だしそれでいいと思うよ」

「さっさと始めましょ。昨日から索がずっとソワソワしててウザったいったらないわ」

「ご、ごめんね縊木さんっ……で、でも日奉さんに何かあったらって思うと……」

「索ちゃんってば一晩中あたしの事考えてくれてたの~? かわゆいのぉ~~」

「ウザ……ほらさっさと部屋まで行きなさいよ、始めるんでしょ?」

「かか、可愛くなんて、ないよっ……日奉さんの方がずっとか、可愛いよっ……!」

「あぁ~~索ちゃんからなら脅迫文出されてぇ~~」

「いいからさっさとしないさいよもう!」

「ふむ。可愛いと脅迫文もありなのですわね。痘痕あばたえくぼという事でしょうか」

「お嬢様、私見ですが脅迫文は誰が書いてもアウトなのでは?」

「ああもうっ血分さんまでノったら話が進まないじゃん!! 虹も早く部屋まで皆連れてって!!」

「やぁ~ん。循ちゃんが脅迫してくるぅ~~」

「めぐちゃん、そんな事したらダメだよ?」

「年長者の天道さんまでふざけだしたらもう終わりだよっ!!」

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