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第25話:音硝子の弾け唄

 病院の屋上に現れた新たな高次元存在を倒すために現場へと駆けつけた私達だが、虹が仕掛けた改変によって内側から湧き上がる激しい笑いを抑え切れなくなっていた。恐らく先程まで院内に漂っていた重い空気を変えるために真逆の『楽しい』という感情を振り撒いたのだろう。そのせいで私だけでなく天道先生もあさひちゃんも冷静ではいられなくなっていた。ここからでは確認出来ないだけで、索や結も同じ様になっているのだろう。


「やいやい聞こえるかそこのデッカイの!」

「こ、虹っハハハ! さ、さっさと、ふふ、やっつけてへへへへ!」

「任せてちょんまげ!」


 虹はステッキを高次元存在へと振るった。しかし何故か何の変化も起きず、虹自身も困惑している様子だった。


「おろ? おろろ?」

「ふふっハハハハ! こ、こーちゃんどうしたの?」

「何だろう何がダメだったのかな~~」


 体中の至る所から腕や足が生えている人型のそれは、空中で静止する様にして浮いていた。虹の改変能力でも何一つ影響を受けていない様に見えた。まるでブラックホールでも存在しているかの様に顔のあらゆるパーツが中心部に歪曲しているため、一体何を考えているのかまるで読めなかった。笑っているのか怒っているのか、何も感じられない。


「てっ天道さん!」

「ふふっ任せて。行くよあさひちゃん、ふふっ」


 天道先生は自身の武器であるボールを取り出すと、軽く助走をつけて高次元存在へと蹴り飛ばした。ボールは勢いよく回転しながら炎を纏い、頭部へと直撃した。しかしこれもまた無意味だった。頭部に出来ている歪みに吸い込まれる様にして炎が消失し、ボールに掛かっていた回転までも消滅し勢いを失くして床へと落下した。


「あれ~ふふふ!」

「変だな~変だな~、怖いな~怖いな~って感じだね~」


 妙だった。私ならともかく、虹が使う改変能力が通用しないというのは奇妙だ。以前の神扱いされていた高次元存在は人々からの認識と信仰によって自身の存在を強固にしていた。しかしこの存在がどういった方法で無効化しているのかが見えてこない。


「お? 何か聞こえてこない~?」

「ひひひっ虹っ今そんな事言ってる時じゃあはは!」

「や~でもさ~。聞こえるんだって~。循ちゃんも治ちゃんも耳を澄ませてごらん……ほら聞こえるよ……」


 内側から込み上げてくる感情を必死に堪えながら耳に意識を向けてみると、微かにではあるが確かに何かが聞こえてきた。一定のリズムが存在しており、どことなく歌の様にも聞こえる音だった。耳を澄ませなければほとんど環境音に掻き消されてしまいそうな、非常に小さな音だった。


「ふふふ何この音っヒヒヒ!」

「うーんセンスの無い音楽ですな~。くぉれがうぉんがくとかくぅわたはら痛いよチミィ?」


 一体この音楽が何を意味しているのかと必死に考えを巡らせていると、屋上の扉が開き索達が合流して来た。どうやら四人共虹の影響を受けているらしく、そのせいで笑いの感情が湧き続けている様だ。四人共あまり大きな声で笑わないタイプのため静かではあったが、普段からは見られない様な笑顔だった。


「お~索ちゃん達~。あれマジヤバイよ」

「ふふっ……み、みたいだね。日奉さんのおかげで、ふふふ。何とかなってるみたいだけど……」

「ちょっとアンタこれっククク……! 止めなさいよこれっ……ふっ……!」

「ノンノン。ノンノンよ結ちゃ~ん。解除しちゃったら悪~い空気にぱっくんちょされちゃうよ~」


 実際、虹の発言は正しかった。恐らくこの潰されてしまいそうな程の重い雰囲気を発生させているのは、今目の前に居る高次元存在だろう。今は虹の改変能力によって『笑い』が起きる様にしているため重い空気の影響を免れているのだ。もし今ここで能力を解除してしまえば、雛菊達が救助した人物の様に飛び降りてしまう筈だ。マイナスをプラスで塗り替える事で無効化する事で何とか対抗出来ている。


「そうだよ結っひひ……! 気持ちは分かるけど今はこの状態に甘んじるしかないよ、ふふ」

「クソムカつくわね、ふっ……。それでどうすんのよ。ふふ、まだ倒せてないって事はそういう事なんでしょくくっ……!」

わたくしにお任せください! あはっ大丈夫ですしっかりひひっ鍛えてきましたから!」


 そう言うと雛菊は背後に居る魔箕から刀を受け取ると、腰元で一旦溜める様なポーズを取ると居合抜きの様な動きで振り抜いた。すると以前から彼女が使っていた技が繰り出された。水で作られた衝撃波の様なものが飛んでいき、高次元存在の首元へと直撃した。しかしこれもまた無意味だった。当たった瞬間、散り散りになって威力を失ってしまったのだ。


「そんなっアハハ……!」

「あっあ~ダメダメダメダメ。ノンノンよ雛菊ちゃん~暴力は無しよ無し」

「ふっ、だったらどうすんのよ。アンタでもダメ、雛菊でもダメ。そうなりゃお手上げっククク……お手上げじゃないの」

「お手上げじゃないんだなぁこれが。さぁ見せてやろうぜ! あたしらの音楽をよぉ!?」


 くるりと舞う様にして虹がステッキを振るうと、突如屋上に大型のスピーカーやマイクスタンドが出現した。虹が何を考えているのか予測出来なかったが、単純な力では打開出来ない相手であるため今は虹を信じるしかない。虹の力が無ければこの状況は変えられそうにない。


「こーちゃん、ふふふ。何するの?」

「相殺だよ相殺~。音波には音波をぶつけんだよ!」

「何言ってんのよアンタハハハっ……! そんなんで……」

「いやっふふっ……待って結。確かにそれならいけるかも」

「ハァ?」

「ふふっ。さっきまでこの音楽は聞こえてなかった気がする。少なくとも私はふふっ……少なくとも私はさっき気付いた。もしかするとこれが理由なのかも……」


 人に限った話ではないが、生物は音によって精神面に影響を来す事がある。明るい音楽を聞けば気持ちが明るくなり、暗い音楽を聞けば暗い気持ちになる。もし今微かに聞こえてきているこの音楽が高次元存在によって流されているものなのであれば、それを打ち消す事が出来ればひとまず無力化出来るかもしれない。


「イエェーーーッ!! お前らぁ俺の歌を聞けぇぇえええ!!」


 虹はマイクスタンドを掴むと、口が付いてしまいそうな程マイクに顔を近付けて大きく叫んだ。ただでさえ大きい声だというのにマイクのせいでとんでもない音量になっており、音割れを起こしてしまっていた。


「イカレたメンバーを紹介するぜぇ!! 幽霊みてぇなマブダチ! MEGURUゥゥゥゥウウ!!」

「あははいやっちょっ……私もやるの!?」

「昔はダチ公、今じゃ先公!! ハルゥゥゥゥウウ!!」

「あははっいぇーい」

「何でノってるの!?」

「そんなに見つめられると怖くて素直にお喋り出来ない……アサヒィィイ!!」

「…………くすっ」

「アハハハッ……! 殺されそうな目で見られてるんだけど!?」

「摂った栄養は全部力に行ってるぜ! SAKUゥゥウ!!」

「ふふふ……わ、私もやるのっ……!?」

「ツンツンデレツンデレツンツン! YUIィィィイ!!」

「くくくっ……誰がツンデレよ誰がッ!?」

「弾ける事、激流の如く! HINAァァア!!」

「ふふふ! こ、こういうのは楽しんだ者勝ちだと聞いた事がありますわ! いぇー!」

「いいよ雛菊さんもノらなくて!」

「謎は多いがいい奴だぜ! マミィィイ!!」

「自分はふっ…………いえ、いいです」

「ふふっ、血分さんに対する虹の印象薄っ!?」


 虹はマイクの先端を両手で覆う様にしたかと思うと、小さく呟いた。


「聞いてくれェ……『愛の讃歌』」


 どういった原理なのかは分からないが、両側にある大型のスピーカーからはケーブルも繋がっていないのに虹の声が増幅されて発されている。そもそも改変能力によって生み出された物に既存の常識を当てはめようと考えるのが間違いではあるのだが。

 とにもかくにも、こうして虹の音波相殺作戦が幕を開けた。


「ぶんつっつっつーぶんつっつっつー、ぶんっつぶんっつ、つっつっつっつっ……」

「タイトルの割にボイスパーカッションなの!?」

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