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第23話:巡回・メインテイナー調査記

 仏像擬きを倒した翌日、私達は改変によって生じた齟齬を直すために街中を歩き回る事になった。朝の早い時間から知り合った全員が虹の家へと集合し、私と結によって先日の出来事を話し協力してもらう様にとお願いしたのだ。

 天道先生も雛菊も快く賛成してくれたが、相変わらずあさひちゃんはいい顔をしなかった。背中に隠れたまま殺気の籠った目でこちらをじっと見つめていた。索は相手が小学生にも関わらず、そんなあさひちゃんの顔色をずっと窺い続けていた。


「えっとそれじゃあ、グループ分けしましょう。手分けした方が早いと思うので」

「あたしは循ちゃんとがいい~! 循ちゃんとじゃなきゃヤダヤダ~~!!」

「いやっ私と虹はそもそも離れられないんだって……」

「……それじゃあアタシと索は雛菊達とでいいわね? アンタらは先生と行きなさい」

「お任せくださいませ結さん! 頑張りましょうね魔箕?」

「ええ、必ずやご期待に沿いましょう」


 天道先生がすっと腰を上げる。


「行こうこーちゃん。いざ、広い世界へっ!」

「おうともよぉ相棒ォ! あたしと治ちゃんが組めば無敵のコンビだよなぁ!?」

「はいはいそれじゃアタシらは先に行くからね。ほら来なさい雛菊」

「はい! 行きましょう!」


 その言葉を後に索達は結に促されるまま家から出ていった。それを追いかける様にして私達も家を出る。外は真夏日のため太陽光が燦々と降り注いでいた。私や結は問題無いが、索が少し心配になる。彼女はあまり体が強い方ではないため、この天候で無理をすれば体に響くだろう。結が居るため大丈夫だとは思うが。


「さ~てそれではこーちゃん今日はどうするかな!?」

「そうですなぁ~……まずはジュースジュース!」

「いやっ何で!? まだ始まったばっかりじゃん! 能力のせいで生じた齟齬を見つけるのが先でしょ!」

「そうは言うけどさ~? この広い街で探すの無理じゃな~い?」

「そうだけどしょうがないよ。指示した私が悪いけど、あれの信仰に関する全ての記憶を消しちゃったんだから」

「ごめんねぇめぐちゃん。先生が行って上げられれば良かったんだけど……」

「いやっ天道さんの責任じゃないですよ。むしろ手伝ってもらってありがとうございます」

「ほんとありがとね治ちゃん。全く! うちの循ちゃんにも困ったもんじゃ!」

「全責任押し付けないでよ!? ほら行くよ!」


 天道先生の背中に引っ付いているあさひちゃんは相変わらずこちらを睨んでおり、あまり私としてもこの状況を長引かせたくないため虹に進む様に促した。

 取りあえず人の多い場所へと向かい、そこで情報収集をした方がいいかと考えショッピングモールへと向かう事にした。あそこであれば何らかの噂話などを聞ける可能性が高いだろう。

 バスに乗ってショッピングモールに向かう最中、虹は天道先生と一緒に居られる事が嬉しいらしく常にはしゃいでおり、周囲の人の目が痛かった。もっとも私の姿は普通の人には見えないのだが。


「ほらほらこーちゃん。おっきい声出しちゃダメだよ~?」

「はーい。ねぇねぇ治ちゃん、見つけたらどうすればいいんだろ?」

「うーんそれはぁ……めぐちゃんパス」

「私ですか!? まあ、虹の持ってる改変能力で何とかするのが一番だと思います。天道さんにはもしもに備えておいてもらいたいんです」

「というと?」

「一応、あの高次元存在は消えました。でももしもがあります。その時にはお願いしたいです」

「なるほど。分かったよめぐちゃん。何かあったら先生に任せてね?」

「はい、お願いします。それと……」

「それと?」

「他の人から見たら何も無い場所に話し掛けてる危ない人なので声抑えてくれません……?」


 やがてバスはショッピングモール前に止まり行動を開始した。夏休み中という事もあって利用者の数はかなりの量であり、これだけの人間が居れば何らかの情報が手に入りそうであった。

 早速四人で見回りを開始ししばらくすると、フードコートに居る女性客の会話に違和感があった。どうやら好きな異性と付き合える様にと何かに頼んだらしい。しかし急に今日になって彼氏が少し冷たい態度をとり出したらしい。


「虹、あの人達……」

「え~あたしノロケ聞く係じゃないんですけど~」

「いやっそうじゃなくて、あの人達だよ! あの高次元存在からの影響を受けてる!」

「でも他の神様の可能性は無いかな? それこそ偶然彼氏さんの虫の居所が悪かったのかもしれないよ?」

「いやっそれは無いと思うんです。あの場所はこの街ではかなり有名みたいでした。しかも絶対願いが叶うとなれば、あそこに行く人も多いと思うんです」

「あたしに頼んでくれればすぐやったげるのに~」

「言っておくけどダメだからね虹? 今回はそうするしか無かったからそうしただけだから」

「フってくれるじゃん。期待に応えなきゃだよなぁ~?」

「フリじゃないよ!」


 虹へとステッキを手渡し、改変能力によってそのカップルを別れさせる事にした。可哀想ではあるが、あれの影響が広がっている以上は齟齬を絶やすしかない。そうしなければ、今は大丈夫でも必ずどこかで違和感や問題が生じる事になってしまう。そのせいで高次元存在が一般にバレる事にでもなれば、人々の興味関心や恐怖心に反応して強力な高次元存在が現れる事になる。そうなれば虹でも勝てない可能性もある。


「嘘でしょ循ちゃん……非モテだからってそんなっ……!」

「そんな私が私怨でやれって言ってるみたいに言うのやめてよ!? あれの力が関わってる以上はそうしないとまずいんだって!」

「それで何だっけ? リア充を爆発させればいいんだっけ?」

「過激すぎるよ!! 付き合ってない状態にすればいいの!」

「でもめぐちゃん、それって大丈夫? 後から何か影響が出ちゃわない?」

「出ない範囲で改変するんです。小規模のものなら問題無いと思うので」

「もう~注文が多いな~。あたしはレストランに来た客じゃないんだぞっと」


 そう言うと虹は変身してパパっとステッキを振るった。すると先程まで話していた女性客は急に会話を止めると携帯を取り出し、電話を掛け始めた。話し相手は話題に挙がっていた彼氏らしく、その場で別れ話をし始めた。すると相手も同じ気持ちだったのか、その話は思いの外すぐに決着がついた。別れるという方向性で話はまとまったらしい。


「はいお望み通りにしましたよっと~。全くうちのバディにも困ったものだよ~」

「だから私が嫌な人みたいな言い方やめてって! 確かに可哀想だけど、何かあってからじゃ取り返しがつかないかもなんだよ」

「これなら大丈夫そうなのめぐちゃん?」

「はい。次を探しに行きましょう」

「また循ちゃんの毒牙にかかる人が出ちゃうんだね……」

「やめてって!!」


 人目につかない様にするために天道先生にも変身してもらい、メインテイナーの姿で調査を進める事になった。この状態であれば一般人には認識されなくなるため、調査には持ってこいと言える。

 そのまましばらく歩き回り、何人かの影響を受けている人間を特定した。そのほとんどが何かを欲しがっていたり、受験に合格出来る様にと願っていた。中には数年以上前の受験関連の話もあり、それに関しては関与しない事にした。物品であれば消してしまえば済む話だが、受験関連などになるとそれによって生じた事象が大きすぎるのだ。下手に改変すれば何が起こるか予測出来ない。


「これやっぱり循ちゃんの個人的なあれじゃない?」

「違うってば! というかそんなの気にした事も無かったよ!」

「本当か~~? 本当にそういうの無いか~~?」

「な、何でそんなに疑うのさ!?」

「こーちゃんはめぐちゃんの事、大好きだもんね~?」

「よよよ、よせやい! そんなんじゃないやい! 循ちゃんの事なんか全然好きじゃないんだからね!」

「ほんと虹は私をどうしたいのさ……」

「っと冗談冗談~。それで次はどうするの~?」

「……取りあえずはここで続けよう。一応結達にも連絡はしておこう」

「了解了解~」


 虹は携帯を取り出し索へと連絡を取る。耳を近付けて聞いてみると、どうやら索達は病院へと向かって調査をしていたらしい。怪我人や病人が多い病院であれば、願いを叶えてもらおうとしている人も多いだろうという算段らしい。そして実際、何人か願いを叶えてもらった人も居たそうだ。


「それでそれで~? 索ちゃん達はどうしたの~?」

「な、何も出来てないよ……流石に怪我させちゃったりはダメだし……」

「後でアンタらがこっち来なさい。アンタなら何とでも出来るんでしょ?」

「え~~流石にそういうのはちょっとなぁ~」

「……結、索、そこはもういいよ。ありがとう。いくら影響を弱めるためでもそこまでは出来ない。取りあえず他の所も当たってみてくれるかな?」

「いいの? ホントなら死ぬ筈だった人間も居る。それが死ななかったとなれば、絶対どっかで綻びは出るわよ」

「うん……そうだけど、だからって殺したりする訳にはいかないよ」

「……分かった。それじゃあ他のとこ行くわ」

「ありがと結ちゃん愛してるよ~~! ちゅっ!」

「吐き気してきたわ……」

「恥ずかしがらなくてもいいのに~~」

「マジで気持ち悪がってんのよ! 索、切りなさい!」

「う、うん! じゃ、じゃあねっ……!」


 電話はブツリと切り、私達もこのままここで調査を続ける事となった。本来であれば病院の人々にも何らかの改変を与えるべきだが、それには良心が痛む。危険な高次元存在が引き寄せられるリスクを高める事にはなるが、そこまで残酷には成り切れない。


「次はどこ探そうか?」

「治ちゃ~ん、あたしお腹空いた~」

「そういえば朝まだ食べて無かったね。めぐちゃん、いいかな~?」

「そ、そうですね……新しい情報も見つけるかもしれませんし、いいですよ」

「循ちゃん今日一番の優しさだね~。リア充を憎む非モテちゃんだったのが嘘みたいだよ~」

「非モテじゃないってば! いやっまあ確かに告白とかされた事ないけど……って何言わせるの!?」

「え……ほんとにそうだったんだ……」

「めぐちゃん、モテるモテないで人の価値が決まる訳じゃないんだよ? 色んな要素が集まって価値が決まるの」

「そんな可哀想なものを見る目で見ないで!? 忘れて、失言だから!」

「う~ん……お洒落とかに興味が無かったのかなぁ?」

「学生があんまりお化粧しちゃダメだよ?」

「何でそんな本気で捉えてるの!? 忘れてってば! 関係無いじゃんこの話!」


 虹と天道先生は異様にしつこく私に絡みながら調査を進めた。やるべき事をやってくれているのはいいのだが、いくらなんでもしつこすぎる。私が生前モテなかったというだけでよくここまで引っ張れるなと感心出来るレベルだった。メインテイナーとしての活動に明け暮れていたせいでそういった時間が取れなかっただけなのだ。明確に友達と呼べる人が居なかったのも巻き込みたくなかっただけだ。結ともあくまで仲間という間柄である。


「……」

「ごめん~循ちゃんごめん~。お化粧の仕方教えたげるから~」

「虹お化粧しないじゃん!」

「相手と同じ趣味とかを持ってるみたいにすればお友達を作りやすいよ?」

「天道さんもそんなアドバイスとかいいですから!」

「でもお友達は多い方がいいと先生は思うよ?」

「そうだぞ~あたしを見習いたまえよ?」

「……いやっ見てて気づいたんだけど、虹も別に友達多いって訳じゃないよね?」

「グワーッ刺されるー! マジレスの刃で刺される~!!」

「クラスの子と仲良くはあるけど、友達って関係性じゃないでしょ」

「アババー! ちくちく言葉やめてくださいっ!!」

「こらこらストップ! ダメだよ喧嘩しちゃ~……」

「……仕返しです。これに懲りたらもうあの事には触れないでよ虹?」

「……」

「虹?」

「さっきの循ちゃんの言葉、なかなか気持ち良かったゼッ!」

「あれ喜んでたの!?」

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