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第21話:日灯山登頂

 合間合間に休憩を挟み、虹のおふざけに何度か巻き込まれながら山道を登っていくと目的地である山頂が見えてきた。以前日差しにやられた事がある索も休憩を挟んで適度に給水をしていたお陰か、ここまで問題無く付いて来れていた。エーテル体になっているせいで疲労も無くここまで来た私と結が少しずるい気もした。


「見ろ索隊員! 頂上が見えてきたぞ!」

「う、うんっ……!」

「そうね。アンタがふざけなきゃもっと早く着いたでしょうね」

「な~ん、結ちゃんはマジメだなぁ。いいじゃんちょっとくらい~」

「十回超えたらもうそれは『ちょっと』じゃないのよ……!」

「そうだね、ちょっと多過ぎかな、うん……」

「ちぇ~しけてんなぁ~。よし索ちゃん! テッペンまで競争だーー!!」

「えっ……!?」


 虹は我先にと突然駆け出した。索もそれを必死に追いかけようとしていたが、怪我をしない様にと結から止められたため、ゆっくりと登っていった。小柄な体に大きなリュックを背負って来た索に急いで登らせれば、どこかでバランスを崩すのは何となく想像が出来る。結が心配するのも納得である。

 すぐさま虹の方へと引っ張られた私はあっという間に頂上へと辿り着いた。話に聞いていた通り、その景色はとても綺麗なものだった。元々この町は大きな建物がそこまで多い訳ではなく、どちらかというと住宅街が多い。そのため遠くの景色まではっきりと確認出来、青々とした空に輝く太陽は、まるで宝石の様に煌めいていた。


「いや~やっぱり綺麗なとこだね~!」

「ほんとだね……そんなに高い山じゃないのに、こんな風に見えたりするんだ……」

「いい感じに邪魔になる建物が無いしね~。うーんこの角度がナイスですねぇ……ナイスですねぇ……」


 少し周りを見てみると、石造りの社が目に入った。管理している人々が居るおかげで綺麗に保たれており、雑草などもしっかり処理されていた。恐らく山を信仰するにあたってこれを建設したのだろう。標高が低い山とはいえ、ここまで石材を運んできた昔の人は相当大変だっただろう。


「どうしたの循ちゃん~?」

「いやっ、あの社……やっぱりちゃんと綺麗にされてるんだなって」

「だね~。愛を感じるよね愛をさ」

「愛? うーんまぁ……広義の意味ではそうなのかなぁ……?」


 そうしてしばらく待っていると索達が頂上まで登って来た。流石に少し疲れてはいた様だが、ここから見える美しい景色を見るとすっかり見惚れていた。実際私も綺麗な景色だと感じたため、その気持ちも理解出来る。もし生前訪れても疲れが吹き飛ぶ程の美しさを感じただろう。


「縊木さん縊木さんっ、見て……!」

「ええ、見てるわよ」

「凄いねっ……!」

「……そうね」


 結は景色をさっと見終えると、一人でこちらへ近寄って来た。


「それは?」

「昔、この山って信仰の対象になってたみたいなんだ。その名残かも」

「なるほどねぇ……まっ、あれだけの景色が見れるんだし、崇拝対象にするには丁度いいのかもね?」

「ノンノン~そういう事言うのはナンセンスだよ結ちゃん~~」

「何よ。事実でしょ」

「ここにはそれはそれは綺麗な神様が居るんやで?」

「はいはいそういうていで信仰されてたんでしょ。分かったから……」


 私もそういった伝承や信仰などの話に詳しい訳ではないが、結が言う様に信仰はそういうところから始まるのだろう。美しい場所には何か神秘的な何かが宿ると考えたくなるのが人のさがかもしれない。


「結ちゃんは夢が無いな~」

「現実的な話をしてるだけでしょ。神様なんてもん居ないわよ」

「居るかもしんないよ~~?」

「……居るんなら文句の一つでも言ってやりたいわよ」

「ふむ、では話してみると良いぞよ?」

「何でアンタに言わなきゃなのよ」

「あたしが神だ……」

「まーた始まった……」


 結は虹の返しに疲れてうんざりしていたが、そんな彼女の背後から景色を見終わった索がこちらへとやってきた。


「え、えとえと……皆どうしたの……?」

「あ~ううん。別にどうかしたって訳じゃないよ。社があるね~とかそういうのを話してただけ」

「あっ、ほんとですね……。お、お参りとか、した方がいいんでしょうかっ……?」

「しよしよ索ちゃん! 神ってる加護受けちゃおうぜ~! ほら循ちゃんも結ちゃんも!」

「まあ、そうだね。ねぇ結」

「アタシはパス。馬鹿馬鹿しいったらありゃしない」

「え~ここまで来といてそれはどうかと思うな~」

「言ったでしょ。神様なんてもんは居ないのよ。あんなもんはどっかの狡賢い誰かさんが他人を好きに操るために作った道具よ」


 やはり結の中ではある程度割り切ったと言っても、あの人の事が残り続けている様だ。確かに私も神様なんてものはあまり信じられない。これだけ高次元存在が攻めてきているというのに何も救いは無かったのだから。あの時は私が何とか連続した改変を行った結果、どうにか撃退する事に成功した。しかしその結果、私達はこうなった。もし本当に神様が居るのなら、もっとどうにかなったのではないかと思う。

 しかしそんな事を私まで言ってしまうのは野暮であったため、とりあえず虹達と共に形だけでもお参りしておく事にした。


「え、えっと……日奉さん、どうすればいいの……?」

「簡単だよ~お手々を合わせていただきますだよ!」

「いやいやっご飯食べるんじゃないんだから……」

「……二礼二拍手一礼でしょ」

「チッチッチ~。実は違うんだな~結ちゃん。それって実は結構最近になってからの作法なんだよね~。悪い訳じゃないんだけどね」

「じゃあどうすんのよ」

「だからお手々を合わせてお祈りするんだって~。こうしないとお願い事お祈り出来ないじゃん?」


 索は虹の真似をする様にして合掌すると社へと深々と頭を下げた。正直虹と比べても頭を下げ過ぎており、重たい荷物で倒れないだろうかと心配になる程だった。

 少しの間そうした状態を続け、私はそろそろ終わろうかと目を開けたその時、ふと視界の上部に何かがチラリと映る。何が見えているのだろうかと顔を上げてみると、そこには奇妙な存在が浮かんでいた。

 それは全体的には人の姿をしているのだが、両肩からは合計六本もの腕が生えており、それぞれの手には様々な物を持っていた。いくつも枝分かれしている剣もあれば、仏像などが持っている名前すら分からない道具などが見えた。そんな仏像的な要素を多分に含んでいる存在だったが、その顔はとても仏像とは思えないものだった。目も鼻も口も、何かもがバラバラな人間のものに見えたのだ。人の顔をしているにも関わらず、全てがちぐはぐで凄まじい違和感を覚える顔の造形だった。そしてそんな仏像擬きは、まるで血に塗れた様に全身真っ赤に染まっていた。


「こ、虹っ! 索っ!」

「も~循ちゃん静かに~。心安らかに~」

「そんな事言ってる場合じゃないよ!」


 私が騒ぎ始めた事で背を向けていた結も異変に気が付いたらしく、索の肩を掴んで無理矢理上を向かせる。


「バカ索! 目開けなさい目!」

「え……? うあっ!?」

「結ちゃん~索ちゃん邪魔しちゃダメダメよ~」

「冗談でやってるんじゃないってば上見て虹!」

「しょうがないにゃ~」


 流石の虹も顔を上げ、上に浮かぶ奇妙な存在を目視した。


「何これ?」

「どう見たって高次元存在の類でしょうが!」

「ほら虹! 備えて!」

「え? ステッキをここに置けって事?」

「それは供えるだよ!!」


 私はステッキを手渡すと虹を押しながら少し距離を取り、再び仏像擬きを見上げる。明らかに高次元存在ではあるのだが、それはそこで不気味な顔をしたまま何も仕掛けてこなかった。今までの高次元存在であれば、何らかの行動を起こして人の感情を揺さぶっていたというのに。その表情は無表情にも微笑んでいる様にも見えた。

 虹と索は共に変身を終え、索だけが構えを取る。


「気を付けなさい索……こいつ何か変よ……」

「う、うんっ……!」

「虹、注意して。何か探ろうとしてるのかも……」

「何かって~?」

「いやっそれは分からないけど……。まあ……例えば願い事とか?」

「それって神様って事じゃん! キャーー神様こっち向いてーー!!」

「どっちの味方なの虹は!?」

「何黄色い声送ってんのよ! 集中しなさいったら!」


 そんな動きを見せていなかった仏像擬きは、ついにその場で座禅を組む様なポーズをとった。それが何を意味するのかは分からなかったが、そこでまた動きを止めていた。


「何なのよこいつ、気色悪いわね……」

「わざと先に攻撃させようとしてるのかも……。虹、初めて変身した時みたいにパッと消したり出来る?」

「カニさんやった時のやつ?」

「そうそれ。あれが何をするつもりなのかは分からないけど、高次元存在である以上は見逃す訳にはいかない」

「うーん。じゃあ、ほいっとな!」


 虹が仏像擬きに向けてステッキを振るうと、また一瞬にしてその姿は跡形もなく消滅した。一切の抵抗も見せず、悲鳴の一つも上げずにそれは居なくなったのだ。


「あり? ホントにこれで終わり?」

「す、凄いね日奉さんっ……!」

「待ちなさい。どうもおかしいわ……アイツだって自分が狙われてる事くらいは分かってた筈でしょ。それなのにこんな簡単にやられるワケが……」

「だよね。流石に無抵抗すぎるというか……」


 私と結が警戒を続けていると、突然足元で何かが落ちる様な音がした。突然の事に驚いた索はその場から飛び退いたが、そこに落ちていたのは未開封のお菓子の箱であった。


「おかしいね~お菓子だね~」

「つまんない駄洒落言ってる場合!? 索、これアンタのじゃないの? 鞄に色々詰めてたでしょ」

「う、ううん。た、確かに色々入れたりしたけど、このお菓子は入れてないよ……」

「あ、お菓子は入れてるんだね」

「じゃあ一体……」


 何かが気付いていない所で起きているという事実が、ますます私達の不安を加速させた。


「これはあれかな? あたしが奇跡起こしちゃったかな?」

「虹、何か他の改変もやったの?」

「いや~? でもほら、そういう事もあるかもじゃん?」

「いやっ、自分で使ってないなら想定外の改変は起きないと思うんだけど……」

「とんでもねぇあたしゃ神様だよ?」

「随分自分を高く評価するね虹!?」

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