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第18話:邪々人ならし

 雛菊のメインテイナーとしての訓練が始まり二週間程経ち、少しずつではあるが安定した力の使い方が出来始めていた。やはり結と索による基礎訓練がかなり功を奏しているらしく、『力を溜めて解放する』という使い方はそのままでありながら非常に安定してコントロールが出来る様になっていた。結は雛菊の訓練をするために、放課後になるとほぼほぼ毎日の様に素早く下校してどこかへと出向いていた。虹も付いて行こうとしていたが、結としては余計な情報を雛菊に与えたくないらしく、いつも追い払っていた。

 そんなある日の休日、虹の下に雛菊から電話が入った。どうやら雛菊は魔箕を殺した高次元存在を見つけるために、魔箕と二人で人通りの多い場所で捜索をしているらしい。虹達とは違う学校に通っている彼女は、いつもはお金持ちの多い地域に住んでいるそうなのだが、そんな地域から離れて調査しているのだという。


「え~いいないいな~。あたしも入れてよ~」

「もしもし雛菊さん聞こえる!? 今どこ!?」

「皆さんが魔箕と出会ったあのショッピングモール、覚えてらっしゃいます? あそこならお客さんも多いですし、有り得るかと思ったのですけど……」

「いやっ一旦外に出て! すぐに行くから! 絶対勝手にやらないで! お願い!」

「……ていう事みたいだから~ちょっと待っててね~」


 虹が通話を切る。

 彼女達だけで捜索をさせる訳にはいかなかった。そもそも高次元存在がどのタイミングで出てくるかは完全に不明であり、大体当たりを付けて探すしかないのだが、あの時魔箕を殺した高次元存在はこれまでのそれらとは違うところがあったのだ。あの人形の様な高次元存在は明確に魔箕を狙っていた。彼女と関わりのある人間に憑依して人間のフリをして殺しに来たのである。つまり私達メインテイナーから観測されにくくなる様に人間の繋がりを利用して殺しを擦り付けようとしていた。それだけの知能を備えた存在だという事である。


「さてさて循ちゃん、じゃあ行こっか~」

「うん。悪いんだけど結と索にも連絡して。あれは今までの高次元存在とは何か違う気がするんだ……」

「オッケオッケ。じゃ、ステッキ貸して?」

「いいけど……電話だったら携帯使えば……」


 急にこの場でステッキを要求してきた虹に困惑しつつも何か意味があるのかもしれないと手渡すと、すぐさま戦闘装束に変身した彼女はその場でステッキを振るった。すると一瞬にして虹の自室の景色が消滅し、見覚えのないどこかの部屋へと移動した。綺麗に整えられたベッドや漫画本の入った本棚など、これといった特徴の無い一般的な部屋に見えた。


「えっえっ……い、いやっここどこ!?」

「何とぼけてんのさ循ちゃ~ん。循ちゃんが言ったんじゃん~結ちゃん索ちゃんにも声掛けてって」

「いやっ言ったけど……え、まさか……」


 ドアの開く音が聞こえ、そちらへ顔を向けてみるとそこには索と結の姿があった。


「にゃああああああああーーーッ……!!?」

「ちょ、ちょっと落ち着いて!」

「わああああああああ!!」

「何で虹が叫んでるの!?」

「あ、あ……ひま、日奉さん……? あ、あれ? わ、私、遊ぶ約束してたっけ……?」

「してないわよ。しっかりしなさい」

「う、ううん……ごめん、私のせいなんだ……」

「え……? どういう……」


 結の呆れた視線を浴びながら、私は二人に雛菊に関する事を話した。どうやら結と索の二人にも雛菊がそういう事をやっているという話は行っていなかったらしく、索は次第に慌て始めた。


「どど、どうしよう縊木さんっ……! このままじゃ霊界堂さんが!」

「落ち着きなさい。それで、アイツはあのモールに居るのね?」

「そうらしい……。あの高次元存在がもしあの二人を集中的に狙ってるなら、人混みの多い場所に二人だけで居させるのはまずいと思う」

「……そうね。アタシもアイツらは何か普通じゃない気がしてた。すぐに行きましょ」

「よーっし! じゃあ皆あたしに掴まれ~っ!」


 虹は索と結を自分の方へと引っ張り寄せると、再びステッキを振るった。するとやはり先程と同じ様に景色が一瞬にして変わり、ショッピングモールの正面入り口前へと移動していた。恐らく改変能力を利用した瞬間移動の様な技であり、まさかここまで出来る様になるとは驚きだった。確かに虹には高い素質があると見込んでいたため出来る事も多いだろうとは思っていたが、まさか自分達が居る場所の座標を一瞬にして変化させられる程になるとは思いもしなかった。


「へっ!? あ、あれあれっ……? え、え……?」

「はい到着しました~お忘れ物が無い様にお気をつけください~」

「こいつここまで出来る様になってんのね……」

「わ、私も驚いたよ……。虹、座標移動はもし移動先に何か物とか人があったりしたら危ないかもしれないから、あんまりやらない様にしてね」

「座標~? ノンノン。ノンノンだよ循ちゃ~ん。そんな細かい事なんて気にしてないも~ん。必要~ナッシーング!」

「いやっ……え、まさか……座標を計算して転移させたとかじゃないの?」

「そんな訳ないじゃん。だってあたし索ちゃんの家の位置とかそんな知らないし」

「座標知識皆無でテレポート使うのやめてくれる!?」


 内心少しヒヤッとした。もし彼女が座標計算も行わずに改変して瞬間移動を行ったのだとしたら、一体何が改変されたのかが分からないからである。座標の位置が瞬間的に入れ替えられたのでなければ、どうすれば物体や人体を転移させられるのかがまるで見えてこないのだ。私達や下手をすれば本人自体も何を改変したのか分かっていない可能性すらある。いくらメインテイナーが起こした現象が観測されないとはいえ、改変の規模が見えないというのは非常に不気味に感じる。


「ちょっと循、今はそっちは後回しにしなさい。アイツら探すのが先よ」

「あ、そ、そうだね。行こう」


 ロープを渡されて変身した索と結と共にショッピングモールへと足を踏み入れる。休日という事もあって人の数が多かったが、いつでも襲われてもいい様にと変身している雛菊を発見するのは簡単だった。一階ロビーにあるフードコートの中を魔箕と共に歩き回っており、怪しい動きをしている人物が居ないかを調べている様子だった。虹と索がそんな二人の所へと駆け寄る。


「よっすよっす雛菊ちゃん~」

「れ、霊界堂さんっ……!」

「あ、すみません皆さん……ご迷惑をお掛けして……」

「全くよ。……それで? 何で勝手な事してんの」

「自分からお話致します」


 魔箕曰く、数日前に雛菊の父親が不審者に襲われるという事案があったそうなのだが、その人物は警察に捕まってからずっと自分の犯行を否認し、犯行当時の事を覚えていないと言っていたらしい。気になった魔箕がこっそり壁をすり抜けて聴取を受けている容疑者に近付いた瞬間、彼の体からあの人形の様な姿をした高次元存在が飛び出していき、壁をすり抜ける様にしてどこかへと消えていったという。つまり雛菊本人だけでなく、彼女の家族にまで危害を加えようとしてきたというのだ。


「やっぱりアレは、今までのとは違うみたいだね……」

「大方そいつは父親を殺して、雛菊を動揺させようとしてたんでしょ。そうすれば大量の負の感情エネルギーが手に入る。そして同時に弱らせる事も出来るから、そこを狙って殺す……とかね」

「れ、霊界堂さんは怪我とか無かったですか……?」

「え、ええ。まさかお父様が狙われるとは思いもしませんでしたが……」

「それじゃあそれを止めるために二人は来たんだね?」

「そうなりますわね……魔箕には止められてしまいましたが……」

「自分にとって最優先なのはお嬢様です。無論旦那様もお守りせねばなりませんが、それでも最優先はお嬢様ですから」


 魔箕が雛菊を優先しているのは彼女が死亡すれば自分が消えるからというだけではないのだろう。生前のあの振る舞いを見るに、相当雛菊の事を信頼しており大切に思っているのだろう。ある意味自分自身よりも雛菊を大切にしているのかもしれない。


「あのさあのさ~、それで結局見つかったの~?」

「いえ、見つかりませんでしたわ。ただ……」


 雛菊が虹の背後を指差し、何を示しているのだろうかと振り返ろうとした瞬間、私と虹の顔の横を水の塊が通り過ぎる。その水塊は背後に立っていた男性客の口の中へと着弾し、その人はゴポゴポと音を立てながら水で溺れ始めた。急な行動に困惑していると男性客の体からブードゥー人形の様な姿をした高次元存在が飛び出してきた。それは手に持っているナイフをこちらに向かって振るいながら突っ込んできたが、雛菊の顔の前まで来た瞬間、男性客の口に留まっていた水が元来た道を戻る様にして人形を貫き、その直後刺さっている場所から弾ける様にして破壊した。


「今、見つけましたわ……」

「今の……アンタ自分でやったの?」

「ええ。結さんのおかげでこれくらいは出来る様になりましたわ」

「雛菊ちゃん~あたしも喉乾いたからこっちにもお水ちょうだ~い」

「どう見ても給水目的の技じゃないでしょうが今のは……。ちょっと索どこ行くのよ」

「もしかして雛菊さん……」

わたくしも半信半疑ではありましたけど、今ので確信しましたわ。私達霊界堂一家は……ずっと監視されていたのかもしれません。そうして見張って、こうしてメインテイナーが集まったから襲って来た……」

「ん~? じゃああたし達を呼んだのはそのため~?」

「どうかお嬢様を責めないで頂きたいです。進言したのは自分ですので」

「別に怒ってないよ~一杯食わされたなって思っただけ~。へへ、なかなか頭ァ使うじゃねェかァ……」

「私も別に怒りはしないけど……でも、憑りつかれてる人が誰なのか分かるの?」

「……分かりませんわ。分かりませんけど、もうここまで来れば分からざるを得ませんわね」


 雛菊がそう言いながら周囲に視線を向けたため同じ様に見てみると、フードコートを利用している人々の5割程が全員立ち上がって取り囲む様にしてこちらを見ていた。フードコートの出入り口にも目を向けてみると、そこにも人が壁になる様にして立っており完全に逃げ道を塞がれていた。


「囲まれた……」

「はいはいはいはーい! 握手するなら並んでほらー! はい最後尾の人はちゃんと看板持って看板~!」

「そういう囲いじゃないよこれ!? そもそも私達メインテイナーを視認出来るなんて、普通の人間じゃないんだよ!?」

「え、そうなの? ついにあたしの可愛さが世間にバレちったかと思ったんだけどな~。そっか~違うのか~惜しいな~今ファンになっとけば古参アピール出来るのにな~」

「何で急に芸能人みたいな感覚になってるの!? 一般人だよね虹は!?」

「まあね。それでそういえばなんだけどさ~、索ちゃんどこ行ったんだろ?」

「えっ……」


 言われて背後も見てみたがどこにも二人の姿が無かった。先程までは間違いなく一緒に行動していた筈であり、はぐれるタイミングなどは無かった。


「まさか……憑りつかれた……?」

「有り得るかもしれません。自分もこの手の高次元存在は見た事が無かったので、今までの常識は通用しないと考えた方が良いのかもしれません」

「索ちゃ~ん! 結ちゃ~ん! 居ないなら返事して~!」

「……」

「……」

「ホントに黙る奴があるかっ!!」


 私達を取り囲む人々の向こう側から結の声が聞こえ、それに続く様にして索の弱弱しい声が聞こえてきた。


「あ、あの~っ……こ、これってどうなってるんですか~っ……!」

「索! 憑りつかれた人達に囲まれてる! そっちも気をつけて!」

「このままじゃ危ないっぽいね~。ほいっ」


 虹によってステッキが振るわれ、私達の所に索と結が一瞬にして転移してくる。索の手には紙コップが握られていた。


「わっ……!?」

「おっとと、大丈夫~?」

「あ、う、うん」

「索、何してたの……? いつ居なくなったのか気付かなかったんだけど……」

「あ、あの、ね? ひ、日奉さんが喉乾いたって言ってたから、お水、取って来ようと思って……」

「そういう事よ……こいつこういう時はホンット頑固なのよねぇ……」

「わお! そういう事だったのか~。じゃあ頂いてもいいかなレディ?」

「う、うんっ……」

「すみません虹さんっ!」


 虹が索から紙コップを受け取ろうとした瞬間、雛菊の水を操る力によってコップごと吹き飛ばされた。そのコップはこちらを取り囲んでいる人々の内の一人にぶつかると口の中へと水を移動させ、先程と同じ様に溺れさせ始めた。人形型は前の個体と同じ様に体から飛び出し逃げようとしていたが、口から跳ねた水によって貫かれ、内側から弾け飛ばされた。


「み……水……」

「後にしないさいよ! それより、こっち見てるこいつら全員敵って事でいいのよね?」

「多分そうだと思うよ結。今までとは違うタイプだから気をつけて」

「分かってるっての。ほら索、アンタもボヤっとしてないで構えなさい!」

「う、うん……!」

「お嬢様、冷静に、正確にですよ」

「ええ、分かっているわ魔箕」


 雛菊は刀を抜き上へと掲げる。その剣先には水が集まり一つの塊となっていき、ある程度の大きさになったところで下へと降ろして構えた。


「ヒャッハッハッ水だーーーーっ!!」

「虹お願いだからこっちに集中して!!」

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