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第10話:朋思い馴染み唄

 虹が砕いた事によってバラバラになった黄金の姿見を追って私達は学校中を探し回った。校門ではまだ騒ぎが起こっており、このまま彼らの感情の増幅が続けば高次元存在の活動を許し続ける事になってしまう。急がなければ更に危険な状況になり、私達では手に負えない事態にまで発展してしまうだろう。

 探している最中何度かまだ事態を把握していない生徒達と遭遇したが、当然自分達の事に気付く事は無かった。


「前から不思議に思ってたんだけどどうしてこの状態だと気付かれないんだろうね?」

「それあたしも気になるな~」

「私も理由までは知らないんだ。でもこういうものなんだって、私の先人だった人から教えてもらったの」

「ふ~ん。じゃあ循ちゃんでも分かんない感じか~」

「うん。まあ、別に知らなくてもいい気もするけど」

「ねぇ知ってる? 透明人間物の9割が偽物なんだって」

「急に何の話!? ていうか透明人間物って何!?」

「じゃあこーちゃん、残りの1割って……」

「メインテイナーはえっちなお仕事だった……?」

「ちょっとほんとに何の話してるの!!? え、えっちじゃないよ!」


 何故かメインテイナーがハレンチな仕事であるかの様な話になってしまっているが、彼女達が何を話しているのかまるで理解出来なかった。そんな彼女らと共に捜索を続けていると、焼却炉の近くで何かが動くのが見えた。一瞬だったが炉の後ろに隠れるかの様に移動しており、虹もそれに気が付いていたのかそちらへと近寄っていった。


「今見えたよね治ちゃん~?」

「マルっと見えたねぇ」

「虹、気をつけて! 何仕掛けてくるか分かんないよ!」

「大丈夫大丈夫~」


 虹はいつもの調子で焼却炉に近寄ると、後ろ側を覗き込み即座に手に持っていたステッキをそこへと振るった。すると見えない念動力に操られる様にして小さい姿見が空中へと放り出された。それは聞いた事も無い悲鳴の様なものを上げると、いつの間にか開かれていた焼却炉の扉の中へと投げ込まれた。姿見の姿が見えなくなると扉は自動的に閉められ、炉が稼働し始めた。


「ほいいっちょ上がり!」

「こーちゃん凄~い!」

「いやっそれじゃ倒せないよ! 高次元存在は物理的な破壊が出来るタイプじゃない! メインテイナーの力が加わってないと!」

「うんうん。だから魔法の力でちょちょいと火を点けたんだよ~」


 見てみると焼却炉の中からは悲鳴の様な鳴き声が響いており、やがてその声は断末魔へと変わりついには何の声もしなくなった。虹が持ち手にステッキを引っ掛けて扉を開けてみると、中身は空っぽになっておりそこには姿見どころかゴミ一つ入っていなかった。更に物が焼けた匂いすらせず、熱すら感じ取れなかった。虹は焼却炉の中へと手を入れると中から何故か菓子パンを取り出した。


「こちら……メロンパン入れになっておりまーーす」

「これパン焼き機じゃないよ!?」

「まあまあ、これでも食べて落ち着きなよ」

「食べたくないよ! 何入ってるか分かんないもんそれ!!」

「米少々、胡椒こしょう少々……」

「それお米で作るタイプなの!?」

「流石だねこーちゃん! 私感激しちゃったよ~!」

「ふふん! でしょ! 焼きたてでしょ!」

「と、とにかく、虹があれを倒せたのは分かったけど、まだ全部やれた訳じゃないよ! 他のも探さないと!」

「了解了解」


 虹は私に渡そうとしていたメロンパンを自ら頬張りながら捜索を再開した。そうして少し歩いていると虹の携帯に着信が入り、電話をし始めた。どうやら校内に居る索かららしく、内部でも小さくなった姿見が確認されたらしい。虹の話している様子を見るに内部は索と結が担当してくれているらしく、外は全てこちらに任せるといった事を話している様だ。


「うん、分かったよ~。そんじゃあ中はお願いね~」

「急いだ方がいいよ虹! あんまり長引くと危ないかも……」

「はいよ~。じゃあ索ちゃん後でね~」


 虹はそう言うと電話を切り、捜索を再開した。かなり小さく砕け散っていたという事もあって細かい所まで見なくてはならなかったが、それでもやはりこちらを敵視しているからか、近寄ると逃げようとして物音を立てるため満遍なく隈なく探せば何とか探す事は出来た。

 景観を良くする目的なのか敷地内にはいくつか花壇が存在しており、そこには様々な花が植えられていた。そんないくつかある花壇の内の一つに近寄ると、そこに何かが通ったかの様にガサガサと花が揺れた。


「虹! そこ!」

「え~お花やるのはちょっと~」

「何で急に乙女な部分見せるの!?」

「任せてめぐちゃん! 先生の腕の見せ所だよ!」


 天道先生は突然手元から小さな野球ボールの様な物を出現させると、それを花壇の中へと投擲した。するとそのボールから炎の様なものが噴き出し、高速で回転しながら花壇の中を駆け回り始めた。それにも関わらずそこに生えている花が焼ける様な事は無く、まるで対象以外はすり抜けるかの様に動いていた。やがて姿見に当たったらしく、その小さな体にめり込ませる様に回転しながら全身を炎で包み込み、やがて滅却させた。そこには塵一つ残らず、あれが彼女のメインテイナーとしての武器だと考えると相当な火力である。

 ボールは回転しながら天道先生の手元へと吸い込まれる様に戻り消滅した。


「ま、こんなものだね」

「治ちゃんすっごーい! いい肩してるねぇ! しとく? ヒーローインタビューしとく?」

「えーこうして勝てましたのは、私だけの実力ではなくー皆さんの協力あってこそでー……」

「しなくていいよ! ていうかまだ終わってないからね!? 残ってるんだよまだ!」

「おっとそうだった~。じゃあインタビューはお預けだね」

「だね、こーちゃん」

「それは絶対する流れなの!?」


 次に回ったのはプールだった。まだ水泳の授業が無いという事もあってか水は張られたままになっており、水面には何らかの藻の様なものが浮かんでいた。私の通っていた学校にはプールが無かったため生徒が掃除するのか、それともそういう業者の人が掃除するのかは分からなかったがとにかく酷く濁っていた。また、もう虫が出ている時期という事もあってか水場であるプールに集まってきている虫も多かった。そんなプールの水面が僅かに跳ねた。


「虫多くな~い? 無視したくなるね、虫だけに!」

「そして水場だから蒸し暑いね、虫だけに!」

「いいですからそういうところで共鳴しなくて! それより今の見ましたか!?」

「見たよ~。じゃあプールの水、抜きます」

「待ってこーちゃん。逃げられちゃいけないし、ここも私がやるよ」


 そう言うと天道先生は再び手元にボールを出現させた。しかし先程とは違い、バレーボール程の大きさだった。それを空中に放ると同じ様に炎に包まれ、勢いよく回転しながらプールの中心へと落下していった。すると回転によって渦が出来上がり、内側から蒸発する様にしてプールの水が消えていった。完全に空っぽになったプールの底からは探していた小さな姿見が現れ、その場から逃げ出そうとしていた。


「あさひちゃん、あれってどうするんだっけ?」

「…………」


 あさひちゃんが天道先生の背中から何やらぼそぼそと耳打ちすると、天道先生は小さく頷いて片手をボールの方へと向けると、くるっと回転させる様に手を捻った。するとボールの回転が更に加速していき、まとっていた炎を一気に撒き散らした。その炎は私はもちろんの事、虹や天道先生にすら当たる事は無く、正確に姿見の方へと飛んでいった。一見すると適当に周囲を攻撃する技かの様に見えたが、周囲には一切の被害が出ていない事から相当精密な操作をしているのだろう。

 直撃した炎によって焼かれた姿見はもがきながら逃げようとしていたが、それも叶わずに滅却された。


「やっぱり治ちゃん凄いね~!」

「あさひちゃんから教えてもらったからだけどね」

「……天道さん、今までもそうやって教えてもらって戦ってきたんですか?」

「うん、そうだね~。いや~先生も教えてもらう事が多いんだね~」

「あさひちゃん……君は……何を思ってこの人を……」

「…………」


 相変わらず私の問いに返事をする事は無かった。しかし、今の技を見れば少なくとも天道先生に才能が無いとは言えなくなった。もし本当に才能が無ければ、例え教えられてもこういった技は使えない筈だからである。教えられてすぐに出来るという事は間違いなく光るものがあるという事なのだろう。


「……さてさてこーちゃん。プールはどうしよ?」

「あたしに任せて! 戻ーれー戻ーれー……」


 虹は目を瞑り、ステッキを振りながら何やら唱え始めた。


「戻ぉ~れ~……戻ぉ~れぇ~……戻ぉぉぉぉぉぉっれッ! カムバァックッ!!」


 その叫びと共にプールへとステッキが振るわれた。それを合図にするかの様に一瞬にしてプールは水で満たされた。しかし何故か藻が浮かんでいる以前と完全に同じ状態に戻っており、それこそ本当にそこだけ時間が戻ったかの様な現象だった。


「虹、藻は要らなかったんじゃないかな……」

「そんな事したら掃除出来ないじゃん!」

「そのためにだったの!? いやっやらなくていい様になるなら水だけ戻せばいいんじゃないかと思うんだけど……」

「まーまーいいじゃんそんな事。それよりまだ他にも居るんじゃない?」

「あっそうそう。その事なんだけどねこーちゃん」

「どうしたの?」


 天道先生によると、先程放った炎を撒き散らす技は『散らし火』という名前らしく、ただ攻撃をするためだけのものではないらしい。普段はそこまで使う事が無いため忘れていたらしいが、あそこから放たれた炎は高次元存在を追跡して攻撃するという特性があるらしい。つまり先程何にも当たらずに飛んでいった他の炎は学校中に残っている他の姿見を自動的に追跡してくれるというのだ。


「それじゃあ……!」

「うん。校内はともかくとして、外のは放っておいても大丈夫かな。人とか物には当たらないみたいだからね」

「治ちゃんすっごーい! どこに居ても全部マルッとスリッとどこまでもお見通しって事だね!」

「そういう事~! 後は、中の方かな?」

「一応助けに行った方がいいかもしれません……索も結も弱い訳じゃないですけど、一人じゃ苦戦するかも……」

「そうだね。先生としても生徒に無理させる訳にはいかないし」


 こうして外の敵を『散らし火』に任せた私達は玄関から再び校舎の中へと戻った。やはり『外へと出る』という形でなければループに引っ掛かる事は無いらしく、何の問題も無く中へと入る事が出来た。二人が今どこに居るのか分からず探そうとすると、大きな破壊音と共にロープが壁を貫きながら現れた。索が使っているのであろうロープはまるで蛇の様に空中を動き回り、教室を一室一室確認する様な動きを見せていた。今までの索が出来るとは思えない技であり、それだけ結と特訓をしていたのだろう。


「ここってインドだっけ?」

「蛇使いじゃないよ! 索が頑張ってくれてるんだよ! 早く見つけないと……」

「ねぇ治ちゃん。さっきのやつもっかいやればいいんじゃない?」

「うーんそれがごめんね? あれって一回ずつしか出来ないみたいでね? 今使ったら外の炎が消えちゃうみたいなんだよ~」

「じゃあ一体一体見つけて叩くしか……」

「……あさひちゃん、あれ使ってもいい?」


 再びあさひちゃんが背中越しに耳打ちする。


「……ありがとう。……あのさ、実はいいやり方があるの」

「いいやり方ですか?」

「うん。まずは索ちゃんだっけ? その子を見つけなきゃだけどね~」

「よっし! じゃあ行こうぜ! まだ見ぬ冒険の地へ!」

「よく知る学校の地だよ!!」


 天道先生が何を考えているのかは分からなかったが、いずれにしても索や結と合流しない事にはどうしようも無いため、壁を突き破ってきているロープの先を予測して辿っていく事にした。しらみ潰しにロープで探しているのであれば、下からではなく上からやっているだろうと考えて上の階から探す事になった。もしも索だけなのであれば下から探すのもありだったが、メインテイナーとしての経験があり戦い慣れている結がサポートに付いているのであれば、必ず助言を行うだろうと予想出来た。

 そうして少しずつ探していくと、ついに彼女の現在地が特定出来た。どうやら策は屋上を除いた最上階である三階の女子トイレの一番奥の個室に籠りながら捜索をしている様だった。実際、一番奥の個室の扉の上からはロープが伸びていた。そんな個室の扉を虹が勢いよく叩く。


「ドンドン! ドンドン! 緋縅ひおどしさぁーん! 虹でぇーーす!!」

「ひゃぁっ!?」

「ちょっと虹やめなって!? そんな事しなくてもここに居るって分かるじゃん!?」

「や~でもさ、まだ他の人も普通にそこら辺に居るじゃん?」

「いやっ、居るけどだから何!?」

「その人達の誰かがロープ垂らしてるのかもって」

「そんな訳ないじゃん! 意味不明だよ普通の人がこんな事してたら!?」


 鍵が解錠され、扉がゆっくりと開いた。個室には蓋を下ろしたトイレの上に座り込んでいる索の姿があった。その後ろでは結が眉間に皺を寄せており、こちらを睨んでいた。


「……悪かったわね意味不明で」

「いやっ……別にそういうつもりで言った訳じゃ……」

「はいはい喧嘩しないのー。えっと、緋縅索さん、だったよね?」

「はっはいっ……あ、う……ご、ごめんなさいまだ私全然出来てなくてっ……!」

「大丈夫大丈夫、ほら泣かないで。先生に任せて、ね?」

「……ちょっと循、どうなってんのよ。外のはもう片付いたの?」

「いやっまだだけど、天道さんの技でどうにか出来るからこっちに来たの。結の方はどう?」

「クソムカつくけど、ほとんど見つけられてないわね。アイツら馬鹿みたいに小さいから隙間に入られたら追うのが難しいのよ……!」

「う、うん……だからく、縊木くくるぎさんがこうしたらいいんじゃないかって……。壊しちゃっても日奉さんなら直せるって……」

「え~~あたしへの要求多くなぁ~い?」

「アンタぐらいしか直せるの居ないでしょ他に!」

「まっ! そうなんですけどねーー!」


 結が舌打ちする音が聞こえる。


「……それで、そこのセンセーはどうするつもりなのよ?」

「まずは屋上行こうか? そこの方がやり易いしね」

「屋上行こうぜぇ……! 久し振りに……何か……何かあるみたいだからよぉ……!」

「虹は黙っててよもうややこしいから!!」


 彼女が何を考えているのかは分からなかったが、天道先生に従って屋上まで移動すると彼女は邪魔にならない様に端の方に寄っておいて欲しいとお願いしてきた。一体何をするつもりなのかまるで見えてこなかったが、彼女の事を信じて離れておく事にした。

 天道先生は屋上の中心に行きあさひちゃんに何かを話しかけると、両手を上空に掲げた。すると今までとは比べものにならない大きさのボールが出現した。いや最早それはボールとは言えない大きさであり、炎を纏いながら少しずつ回転し始めた。


「何よあれ……」

「くくくく、縊木さんっ……だ、大丈夫なのかなあれっ……!?」

「世界の皆ーーー! 治ちゃんに力を分けてくれーーーっ!!」

「そういう技じゃないよ絶対!?」


 やがて巨大な火球になったそれを浮かべている天道先生は空中に飛び上がると、学校にぶつける様に真下に向かって投擲した。まるで巨大な隕石が落下でもしてきたかの様に見え、索は頭を守る様にしてうずくまってしまった。

 火球が屋上に直撃した瞬間、衝撃波の様なものが一瞬通り過ぎ、虹や索の髪をなびかせた。そのまま爆発をするでもなく火球は屋上の床面をすり抜けていき、その姿は見えなくなった。しかし数秒後、突如巨大な火柱が床を突き抜ける様にして現れ、一時的にとはいえ周辺を夕方だと錯覚させる程に景色を赤く染めた。

 ようやく火柱が収まった後には、巨大な棒でくり抜かれたかの様な痕が残っており、まだ学校が辛うじて建っているのが奇跡とも言える程の状態だった。そんな穴を覗き込んでいる私達の下に天道先生が空中から戻ってくる。


「ふぅー……流石にこれだけやればどこに居ても逃げられないでしょ」

「あ、アンタ正気なの!? どうすんのよこれ!?」

「こーちゃんが直してくれるんだよね?」

「っしゃーねぇーなー! 治ちゃんの頼みとあっちゃ断れねぇーや!」

「……て、天道さん、これって大丈夫なんですか? 誰か他の人とか巻き込んだり……」

「うん、それは大丈夫だよ~。人間には無害な技だから」

「いやっ……無害も何もここまでやったら倒壊に巻き込まれたりとか……」

「大丈夫だよ~。さあこーちゃんお願いします!」

「お任せくださいなっ!」


 虹はその場でタップダンスでも踊っているかの様な動きをしながらステッキを振るい始めた。


「戻ぉ~れぇ~~……戻ぉ~れ~~……戻ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおぉぉぉぉぉ……れっオォゥレッ!!」


 最後に二回パンパンと拍手をすると、これまた何事も無かったかの様に元通りに修復された。こうして簡単に戻してしまう辺り、やはり虹の素質はとんでもないものなのだろう。

 屋上から校門の方を見てみると、ループが完全に解消されているらしく生徒達が落ち着きを取り戻し、自由に出入りが出来る様になっていた。どうやら校舎外部に居た他の姿見も『散らし火』によって倒されたらしく、先程の巨大な火球が完全な決め手となった様だ。


「み、見て縊木さんっ……あそこ、ほらっ……!」

「言われなくてももう見てるっての。何とかなったみたいね」

「さっすが治ちゃん頼りになるぅ!」

「いえいえこーちゃんこそぉ……!」

「まあまあ、これをお受け取りください……! 山吹色のお菓子でございます……!」

「くくく、お主も悪よのぉ……!」

「ちょっと何やってんの!? ダメだよ虹! 能力使ってお金作っちゃダメ!」

「……は? いやこれお菓子だから、ほら」


 揉み手をしていた虹が手を開くと、そこから山吹色の饅頭の様な物がポロポロと出てきた。


「お、お菓子……?」

「だからさっきそう言ったじゃん」

「そ、そっか……いやっそれでもダメだよ! あくまで君が使ってるのは現実を改変する力なんだから! 私にもどういう原理で改変が起きてるのか完全には分かってないんだから! 君のは特にそう!」

「え~~でもあのメロンパン美味しかったけどな~」

「正直あれもヒヤッとしたよ! どこからどういう原理で生まれたやつか分かんないんだもん!」

「……じゃあメロンパンにしよう!!」

「そうじゃない!!」


 天道先生は微笑みながら背中に居るあさひちゃんに手元に戻って来ていたボールを手渡し、戦闘装束を解除する。


「こーちゃん、私は別にそんなの貰わなくても大丈夫だよ? 先生だからね。やらなきゃいけない事をしただけ」

「えーでも~」

「本当にね、いいんだよ。私は先生だからね。先生は困ってる子が居るなら絶対助けるものなんだよ~」


 それを聞いて彼女があさひちゃんから後継者として選ばれた理由が分かった。彼女は誰かのためなら本気を出せるという人間なのだろう。感情エネルギーを上手く操作してあれだけの事が出来るのも、誰かに寄り添える優しさと柔軟さから来ているのかもしれない。元々引き篭もりだったあさひちゃんが天道先生に懐いて力まで継承させたのは、その優しさに触れたからなのかもしれない。実際にどんな出会いがあったのかは彼女の記憶でも見なければ分からないが、そこまで出来る力は無いしそれをやるのは無粋というものだろう。


「あーあ。ったく……そういうのが使えるなら初めから使いなさいよねホント……余計な労力だったじゃないの……」

「ごめんね。いくら先生でも結構疲れちゃうやつでさ……」


 申し訳なさそうに笑うと、天道先生の体はパタリとその場に倒れた。


「えっちょっと!?」

「天道さん!?」

「わわわわわっ……!?え、えとえと警察……!? 消防署……!? 118……117……!?」

「落ち着きなさいよ海でもないし時間聞いてどうすんの!」


 虹が膝をつき、そっと彼女の体に触れる。


「こ、虹、ごめん……私、天道さんを巻き込むつもりは……」

「い、177……189……!?」

「だからアンタは落ち着きなさいって! 天気は見りゃ分かるし児相にかけても意味ないでしょ!?」

「虹……」

「……」

「ご、ごめん虹! まさかこんな事になるなんて……」

「ねんねんこ~ろり ねんころり~」

「………………………………は?」


 まさかと思い倒れている天道先生に顔を近付けてみる。


「ちょっとアンタふざけてる場合じゃ!」

「結」

「何よ!?」

「……いやっあの……天道さん、寝てるだけみたい」

「……………………は?」

「いやっだから、消耗はしたけど疲れただけみたい、うん」

「ねんねんこ~ろり ねんころり~」

「……何よもう……変な勘違いさせんじゃないわよ紛らわしいわねぇ……」

「寝~ぬと鬼がやって来て~ 舌を~引っこ抜く~」

「歌詞こわっ!? それ逆効果じゃない!? 悪夢見そうだよ!」

「ははは、はいあのえっと…………え? え、えっとえっとあのあのあのっ……で、でんぽーって何ですかっ……!?」

「アンタはどこにかけてんのよ!!?」

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