長女由美
長女の由美は、この春大学を卒業する
平成生まれのジャニオタだ
彼氏は今はいない
一人暮らしをしている
学生最後の春休みを楽しみたいところだが、就職する予定はない
実家に帰っても良いのだが、だらけきった大学生活を送ってきた由美は、その居心地の良さを手離したくなかった
今のバイト先のファミレスで、しばらくは働き続けるつもりだ
由美が泣きつけば、両親は仕送りを継続してくれるだろう
三食昼寝つきの実家に帰りたいと思わなくもなかったが、好きなだけダラダラできなくなるのはいやだ
就職しろ、結婚しないのか、などとうるさく言われるのは容易に想像がつく
それに、バイト先のファミレスの店長との不倫もだらだらと続いている
このままでは良くないと思いながらも、一年が過ぎた
一人暮らしすると、寂しくて不倫する女の子は多い
由美のまわりでも、そんなに珍しいことではない
親が聞いたら、どこに出しても恥ずかしくないように育てたのに、と泣くかもしれない
結婚はいつかはしたいけど(もちろん店長とは別の人と)、今はまだ考えられない
やりたい仕事も特にない
まだ、学生でいたかった
この国の等身大の22才の考えていること
偶然、街の片隅で、お忍びで遊びに来ていたスーパーアイドルと異世界で恋に落ちないかな
知り合いのSNSを見て、フォロワー数をチェックする
電車でマナーの悪いオヤジを見て、あんな大人にはなりたくないと思う
自分は人と違う、世の中を変えたい、と妄想の世界で息巻く
現実では、ショップの店員さんと会話するのに気を遣う
ネットの匿名投稿の時はけっこう言いたい放題
そして、そんな自分なんて幸せになれないとどこかであきらめている
命がけで何かに取り組んだことなんてない
失敗したくない
何かの間違いで一攫千金みたいになって、遊んで暮らせたらいいのに
妹の美紀は、お年玉を毎年コツコツ貯金していた
由美は、何に使ったかもあまり覚えてないけど一切残っていない
美紀は、アイドルのコンサートグッズも全く買わなかった
美紀は、いざという時のために無駄遣いはしないようにしていた
世の中、何が起こるかわからない
いつでも、持って避難できるように、もうすぐ10万円になる貯金箱と大事なものはまとめてあった