村に灯りがきました
その日の夕方、俺は皆を広場に集めた。
以前作った巨大中華テーブルの上には豪華な食材をふんだんに使った料理が並べられており、いい匂いを放っている。
カミーラの醸造した酒もここぞとばかりに出して貰っており、どこぞのパーティ会場よろしくといった具合だ。
ガヤガヤと声のする中、皆の前に進み出た俺は咳払いをして声を張る。
「えー、みんな集まってくれてありがとう。邪神ワークラフトの脅威は去った。それを祝してささやかだが祭りを開きたいと思う」
「うおおおおおーーーっ!」
歓喜の声を上げる皆に手を振って答える。
御馳走と酒の山を前にした皆は、すでに料理に釘付けになっている。
二人ともいい仕事するぜ。これなら皆を十分に労えるだろう。
そう、これはよく働いてくれた皆を労う為のパーティだ。
当然金は俺のポケットマネーから出している。
気に入ってくれたようで何よりだが、今日はもう一つ驚かせたいものがあるのだ。
……ふむ、そろそろ辺りはもう薄暗くなってきたし、お披露目には丁度いい頃か。
声が収まるのを待って、手にした小箱を掲げた。
長い線の伸びた黒い箱を見たキャロが首を傾げる。
「それは何なのですか? ヒトシ様」
「まぁ見てな」
俺はそう言って、小箱の上側のピンを倒す。
するとカチンと音がして広場中央に建てた柱から眩い光が放たれた。
「うおおおお!? な、なんだこりゃあァァァ!? 夜なのに昼間みてぇに眩しいだとォォォ!?」
「……驚いたわ。魔法とも違うようだし、一体どんな技を使ったのかしら」
「僕の国でも見たことがありません! これが大賢者の技……!」
「これは……見たことがあるぜ! 大国の一部にしか存在しねぇ電灯ってやつだ! いやぁこんなものを作り出すとは驚きですなぁ!」
皆がしみじみと頷いている。
そう、この世界にはまだ電灯は広まっていない。
電気もそうだ。その割に俺が使ったラジコンには反応が薄かったが、恐らく謎の魔道具だと思っているのだろう。
「もう一つ、邪神の力を利用した発電が可能になったので皆にそれを伝えたいと思う。この電気を利用すれば俺たちの生活はより豊かになるだろう」
言わずもがな、電気のもたらす恩恵は生活を一変させるほど大きい。
特にこれから冬が訪れる。
陽が落ちるのが早くなれば灯りも必要だし、電熱ストーブがあれば寒い日も安心だ。それにINTを上げればゲーム機だって作れて引きこもっていても退屈はしない。
他にも色々なことが出来る。邪神ワークラフトの復活には大いにビビらされたが、電気をゲットできたのはよかったな。
もちろんこれは俺一人の力ではない。皆には礼をせねばならないだろう。
「……あーその、これも皆のおかげだと思っている。俺一人じゃ決して出来ないことだった。本当に感謝している」
そう言って頭を下げ、言葉を続ける。
「キャロは皆に気を回し、円滑な人間関係を築いてくれる。マオは美味い料理を食わせてくれる。イズナは神ならではの知識で助けてくれる。ラガーは意外に働き者だし、カミーラの能力は役に立つし、クペルは怪力と何をしでかすか分らない程の行動力がある。……ジルベールに関してはもはや言わずもがな、だ。この村を、仲間を守れて本当に良かったと心から思える。本当にありがとう」
黙って俺の言葉を聞いていたジルベールが前に出る。
その目は少し潤んでおり、声を震わせながら俺に言う。
「主よ。それは我とて同じだ! 主がいるからこうして皆も力を貸してくれるのだ」
「えぇそうですよ。私たちの方こそヒトシ様には感謝しています!」
「おうとも、大賢者ヒトシ様ばんざーい!」
他の皆もそれに続いて言葉を並べてくる。
……なんというか、自分の仕事に感謝されるってのは悪くない気持ちだな。
皆のおかげなのは間違いないが、俺もそれなりに頑張った。
それが報われた気がして、少し……いや、かなり嬉しい。
「ありがとな、皆。まだまだ言い尽くせないことはあるが――」
しんみりとした空気の中で言いかけた瞬間、ぐぅぅぅぅーーー、と地響きのような音が鳴る。
クペルの腹の音だ。見れば涎を垂らしており、その目は巨大中華テーブルの上に並んだ料理に釘付けになっていた。
ぷっ、と皆が吹き出し、俺も苦笑する。
「いつまで話してるんだヒトシィィィ! 腹が減ったぜェェェ!」
「……悪い悪い、話が長くなっちまったな。それじゃあ食べるとしようか。その前に乾杯の音頭を……」
ぐるるるるるる! と先刻よりも更に大きな音がクペルから響く。
いかんいかん、そろそろ限界のようである。
年を取るとくると変に話が長くなってしまうものなのかもしれない。
いや、俺はまだ若いから。少なくとも気持ちの上では。
俺はため息を吐いて、皆に言う。
「いただきます」
「うおおおーーーーっ!」
俺の言葉と共にクペルが皿に食らいついている中、空気を読んだキャロがグラスを手に取り、皆に乾杯を促した。
「さ、ヒトシ様」
「うん、それじゃあみんな――乾杯」
俺たちは改めて、並々と入った酒とジュースで乾杯する。
カァン! と乾いた音が鳴り、皆思い思いに食事を楽しむのだった。




