邪神の放つ力の奔流。とその対策
「おおっ! 本当にあの大邪神を海中に沈めたのか! やるのうおぬし。流石は大賢者じゃ!」
村へ帰った俺は早速イズナに報告をしたが、別に褒められたかったわけではない。
ええい浮くな。そして俺の頭を撫でようとするな。
「聞きに来たのはそんな言葉じゃない。邪神についてだ」
「む? もう海中に没したのであれば特に問題はないじゃろ?」
「その話なんだけどな――」
俺はイズナに自分なりに考えた懸念事項を話す。
二度もの邪神復活、ワークラフトが俺を狙う可能性……それを聞いたイズナはふむと頷いた。
「……なるほどのう、確かにおぬしはある種、特別な存在ともいえる。かの大邪神が目を付ける可能性はあるかもしれんな」
「やはりそう思うか」
「うむ、それに今の話を聞いて思ったが、ワークラフトはクペルも気に入っておるようじゃしの」
気に入ったから来る、確かにその可能性もあるか。
だとすると二重に危ないな。
「そういや何でクペルは気に入られたんだ?」
「クペルがより心の底から力を欲する者だったからじゃ。邪神ワークラフトはより純粋な力を求める者を好む。それが人でもモンスターでも神でも、の」
「あいつ、あまり他のこと考えてなさそうだしなぁ」
純粋に力を求める者、という意味ではクペル程の者はいないかもしれないな。
……いや、待てよ。
「力を求める者は神でもモンスターでも人でも……何でもなのか?」
「うむ、邪神ワークラフトの周囲ではあらゆるものが力を増す。地震や火事、雨ですらな」
物理現象までかよ。もはや意思は関係ないのか。
いや、むしろそう言った現象には意志が介入しないからこそ、より純粋に力を求める存在と言えるのかもしれない。
ということはあの場所で力を連鎖発生させる仕組みを作れば、邪神をあそこに留めることが出来るかもな。
◇
二機のドローンに掴まって俺は海上を飛んでいた。
向かう先は邪神ワークラフトのいる場所だ。
遠く離れていても、海上に立ち昇る黒い霧のおかげで奴の居場所はわかる。
「海面が激しく渦巻いているな」
なるほど確かに、イズナの言っていた通り波にも力を与えているようだな。
陸地も台風も出ていないのに海面がここまで渦巻くなんてありえない。
霧の範囲はどうやら奴の頭上付近までのようで、上空にいれば攻撃は受けないようだ。
「さて、やるとするか」
深呼吸しながら、アイテムボックスを解放する。
中には皆に手伝って貰い集めた金属類が山のように入っており、それを上空に放りながらDIYスキルを発動させる。
トントントン、カンカンカン、トントントン。
空中に散らばる材料の間を、高速で移動しながら目当ての物を組み上げていく。
DIYスキルは俺自身の身体を強制的に動かして目的の物を作るというスキル、それが地上だろうと空中だろうと関係はない。
カンカンカン、トントントン、カンカンカン。
そして今回作り上げようとしているのは今までとは比にならないほどの大きさの物であり、作業時間もそれなりにかかる。
トントントン、カンカンカン、トントントン。
海の上に落ちる前に何とか仕上げないと。
鉄塊の上を飛び回りながら高度を維持しつつ、スキルを何度も使用する。
カンカンカン、トントントン、カンカンカン。
もう少し、分割して作り出していた部品を繋げるだけだ。
小さな部品は大きな部品に組み込まれ、徐々に形を成していく。
あと7つ、5つ、2つ……
「これで、ラストぉぉぉ!」
がしぃぃぃん! と叩きつけるように部品を結合させ、その勢いで上空へと飛んだ。
作業中はドローンを操作する余裕などあるはずもなく、既にどこかへ落ちてしまっている。
だが問題はない。
「アイテムボックスを開き、更にDIYスキルを発動」
先刻完成させた巨大装置から伸びるチューブ、それを更に伸ばしているのだ。
所々に木製の浮きを作り、それを跳び渡りながら陸地へと。
作りながら移動も出来る、これがDIYスキルの裏の使い道だ。
そうして海を渡りながらチューブを伸ばし、ようやく陸地へ辿り着いた。
「……ふぅ、なんとか帰ってきたな」
久しぶりの地面の上で安堵の息を吐いていると、待機していたジルベールが俺を迎える。
「お疲れだったな。主よ。首尾はどうであった?」
「そりゃもうバッチリよ」
「それは重畳、しかしなんだこの巨大なウナギのようなものは……?」
「あぁ、そりゃ電線だ」
「デンセン……?」
首を傾げるジルベールに説明を始める。
「俺が作ったのは発電機、これはその電線なのさ」
海面に設置した発電機はあの大渦の水流を利用して電気を生み出し、作られた電気を電線を通って村まで届ける。
発電によって生まれた電気は邪神の力により増幅され、永久機関と化す。
かなり大掛かりな機械だ。
大量の材料が必要だった。
俺一人ではとても集まるのは無理な量だった。
しかし皆が手を尽くして材料を集めてくれたおかげで、これだけの大建築が可能となったのである。
「さて、働いてもらった分は還元しないとな」
まだ材料は尽きていない。
とはいえ村では距離があり、届くかどうかは微妙だが……ま、頑張ってみるとしますか。
俺は再びDIYスキルを発動させ、村まで電線を走らせるのだった。




