表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/63

邪神を釣ろう

「照準セット……砲弾発射!」


 スイッチを押すと、どぉん! と衝撃が響き砲弾が飛んでいく。

 だが、届かない。くっ、射程が足りないか。砲弾は邪神の足元に落ち、土煙を上げた。

 もう少し近づくしかないようである。


「ってわー! また死んだ!」


 視界が真っ白に染まり、ポン吉の復活メッセージが出てくる。

 あの閃光、どうやら雷撃のようでその攻撃間隔は3秒のようだ。

 即座に復活して突っ込めば距離を詰め、再度砲撃を放つ。

 ずずん! と音を立て邪神の踝あたりに白煙が上がる。

 今度は命中だ。やったぜ。ガッツポーズをした次の瞬間、邪神の被った獣骨の奥にある無数の瞳が一斉にこちらに向く。

 ぞわっと背筋に怖気が走る。今まで感じたことのない圧力だ。


「おおっと、怖い怖い。だが近づかれなければどうということはないぜ……むっ!?」


 すぐに逃げるべく操作しようとするが、動かない。

 げっ、なんでだ!? キャタピラ音も聞こえない中、邪神が迫る。

 そして――ぷちっと潰された。ポン吉の復活メッセージが流れる。


「復活するポン?」

「つーか今、何を喰らったんだ!?」

「石化の邪眼を喰らったポン」

「こんな遠距離から石化攻撃もしてくるのかよ」


 広範囲雷撃に遠距離石化か。これを喰らうとかなり距離を詰められるな。

 とはいえ復活後は無敵時間がある。何とか逃げることは可能だ。


「復活だ」

「了解だポン」


 戦車を復活させた俺は即座に方向転換し走らせ始める。

 攻撃を当てたことで邪神も戦車を追いかけてくるようになった。

 黒い霧を抜けるまでに雷撃で三回やられたが、それでも何とか邪神を釣ることに成功したのである。


「うおおおおお! どけどけどけどけぇぇぇ!」


 モンスターたちの合間をすり抜けながら戦車を走らせる。

 たまにミスってぶつかるが、その瞬間に雷撃が落ちてて俺ごと周囲のモンスターは全滅するので問題なし。

 即座に復活すれば無人の荒野を進めるのだ。

 とはいえ心臓に悪いぜ。ひいひい。

 戦車はトンネルをくぐり、橋を越え、川を渡り、走る。走る。

 たまに橋やトンネルが崩れそうになったし、復活用のアルミももう半分切っていたが、それでもなんとか邪神を釣ることには成功していた。

 そうして現在、俺とジルベールは邪神を追走している。


「気を付けろよジルベール、絶対に奴の黒い霧に入ったら駄目だぞ」

「うむ、理解している」


 ジルベールには再三忠告しているが、生身の俺たちが黒い霧の中に入ったら終わりだ。

 俺たちにコンテニューはないからな。以前はあるかもと思っていたが、サイファも普通に死んでいる以上は存在しないと考えるべきだろう。

 少なくとも試す勇気は俺にはない。


「もうすぐ海岸だ。気を引き締めて行くぞ」


 戦車から見える景色、その遠くに白い砂浜が映っている。

 船まで行けばこちらの勝ちは決まったようなものだ。

 あと少し、あと少し……あの崖を抜ければ……着いた!

 目的の海岸へ辿り着き歓喜する俺だったが、


「嘘、だろ……?」


 そう呟いて思わず硬直する。

 あるはずの船がないのだ。

 繋いでおいたはずなのに、何故かローブが解けどこかへ行ってしまった。


「くっ……! ヤバい。ヤバいぞ……!」


 辺りを懸命に見渡すがどうしても見つからない。

 足を止め左右に首を振って探していた、次の瞬間である。

 どぉん! と雷音が鳴り響き視界が白に染まる。

 ちっ、追いつかれて雷撃を喰らっちまったか。動かなくなった戦車の後方には邪神が近づきつつあった。


「ウキー!」


 突然鳴き声がして、手足の長い猿が逃げて行くのが見える。

 あれは……イタズラコザルじゃないか。

 人の物を盗んで持って行くモンスター。その手に持っているのは、船を陸に繋いでいた縄である。

 あいつが船の縄を解きやがったのか。くそぉ、このタイミングでそんなのアリかよ。


「どうかしたのか? 主よ」

「……船が流された」

「何っ!? ど、どうするのだ!?」

「どうもこうも……どうすることも出来ねぇよ」


 ここで妥協するべきか。

 一応村からはかなり離せたが、モンスターというのは動くものに反応し自由に歩き回る。

 海中ならばそれは魚くらいだし、魚は陸地へは移動しないので高確率で戻ってこれないはずだ。

 だが陸地では何かの拍子で戻ってくる可能性は高い。

 距離は相当離したし影響も受けにくくはなったはずだが、俺たちはまた邪神に怯えて暮らさねばならないのだ。

 出来れば海中まで運びたかったのだが……駄目だ。これ以上俺に出来ることは、ない。


「主よ! あれを見ろ、邪神が海へ向かっているぞ!」

「なにっ!?」


 見れば確かに、邪神は海へ向かって足を踏み出していた。

 邪神の向かう先、海面に何か小さな影が浮かんで見える。


「ポン吉、ズームモードだ」

「了解だポン」


 解像度を上げていくと、何かがばしゃばしゃと水しぶきを上げているのが見える。

 サメ? イルカ? クジラ? ……いや、あれは人だ。

 というかクペルだ。

 わはははは! といつもの笑い声が聞こえてきそうな笑顔である。

 ……もちろん音は聞こえないが、ともあれ沖に向かって泳いでいた。

 それに邪神も続き、どんどん海へと入って行く。

 まだ距離はあるが幾らクペルでも泳いで邪神を振り切るのは不可能。

 あのままではクペルは……!


「くそっ、何やってんだあいつはっ!」


 まさか俺たちの為に犠牲になろうとしているってのかよ。

 俺は膝を折り、地面に拳を叩きつけるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ