水路を引こう
先日増やした稲の種もみは、水に浸して芽を出させ、土を被せて葉を伸ばす。
そうしてそれを水を引いた田んぼに植えていき、しっかり根が張ったのを見計らって水を抜く。
それを二、三度繰り返し、丈夫な根を張らせた後に穂がしっかり垂れたら収穫となるのだ。
なお、これらの手順は全てゲームでの作業項目である。
このゲームをプレイした農家の友人がリアルさに引いていた。
「さて、まずは水路を掘るとするか」
こういうのは早め早めにやらないとな。
作業しているうちに必要なものとかも出てくるだろうし。
幸い海へ流れ込む川が近くにあるので、そこから水路を引いてくることにした。
というわけでDIYスキル発動。作るのはスコップである。
木を削り出して作ったスコップを手に、川へと向かう。
「よーし、掘るぞー」
川岸から少し離れた箇所から村に向かって水路を伸ばし、生活で使えるようため池を作ってそこから各住居へと水路を引いていくのだ。
ざっくざっくとまるでプリンでも掬うかのように、土を掘り進んでいく。
我ながらまるで人間重機だな。
ある程度掘ったら今度は水を堰き止める為の水門を作らねばならない。
といってもそう凝ったものである必要はない。巨大な蓋のようなもので十分だろう。
掘った水路の両脇をスコップで叩いて固め、更に板で補強する。
あらかじめ作っておいた凹部に分厚い板をはめ込めば、即席の水門が完成だ。
これで板を上に持ち上げれば、川の水が水路に流れ込むというわけである。
本来ならもう少し凝ったものを作りたいが、この文明レベルではなぁ。
とりあえずSTRバグで何とかなるから構わないだろう。俺以外が使うわけでもないし。
「さて、ため池を何処に作るかだが……」
結構大量に貯め込むし、下手すると土が崩れてえらいことになりそうだよな。
出来るだけ頑丈な場所にした方がいいだろう。とはいえどこがいいのやら……
俺が考えていると、イズナがひょっこり顔を出してきた。
「ならばわらわの社に近くに作るとよい」
うおっ! びっくりしたな。
ただでさえ幽霊みたいなビジュアルなんだから、そういう心臓に悪い登場はやめて欲しい。
俺は化け物も苦手だが、心霊現象も苦手なんだよ。
「豊穣神であるわらわの手にかかれば、地面を固めるなどわけはない。好きなだけ水を灌ぐとよいぞ。こわらわが責任を持って池を守るからの!」
「お、おう……じゃあよろしく頼むわ……」
「任せるのじゃ!」
どんと胸を張るイズナに、俺は愛想笑いを返すのだった。
「ふぅ、このくらいだろうか」
とりあえず半径100メートル、深さ5メートル程の巨大な穴が掘れた。
俺の作業の様子を見ていたイズナが感嘆の息を漏らす。
「いやーそれにしてもすごいのう。あっという間に社を建てた時も驚いたが……おぬしはもしや大賢者なのか?」
「なんだそれ?」
「とぼけるでない。別次元を行き来し、数多の古代魔法を操る存在のことよ。先日からずっとおぬしが何者かと考えておったが、そう考えれば全て合点がいく。それならそうと言えばいいものを」
一体何を勘違いしているのだろう。
俺は大賢者とかそういうのではないのだが……まぁいいか。
別に害があるわけでもなし勝手に勘違いさせておこう。
「さて、早速水を入れてみるけど……本当に大丈夫だよな?」
「無論じゃ! 豊穣神の力、舐めてもらっては困るのう!」
そういうことなら信じてみよう。
仮に失敗しても作り直せばいいだけだ。
川まで戻った俺は水門をゆっくり引き上げる。
ずずずずず、と地響きと共に川からの水が水路に流れ込んできた。
おお、すごい水量だ。どんどん水路の横が削れていくぞ。
少し弱めにしよう。一気に入れすぎるとため池が溢れてしまうからな。
というわけで今度は水門を閉めていく。
……しかし何トンの重量がかかっているのか分からんが、全く重さを感じない。
こういう力仕事をしているとSTRバグの異常さが引き立つな。
「おーい、もうすぐ水がいっぱいになるぞーい」
「わかった。教えてくれてありがとう」
そろそろ池の様子を見に行こうと思ったら、イズナが教えてくれたので水門を閉めておく。
ため池に戻るといい感じで一杯になっていた。
ここから更に水路を引き、田んぼに水を浸す。
「ついでに家にも水路を引いておくか」
ざくざくざくざく、とスコップで掘りまくる。
水路が完成。でもこれだけじゃ意味がない。きれいな水を使うには、川の水をろ過する必要がある。
そこらへんもこだわっているゲームなので、生水を飲むと腹を壊してしまうのだ。
というわけでDIYスキルでろ過装置を作り出す。
材料は大小の石がたくさん、それを巨大な水槽に敷き詰める。
ここを水が通れば、ろ過されてきれいな水が出てくるという訳だ。
蛇口をひねるときれいな水が出てきた。煮沸すれば飲むことも可能。
重ねて言うがこれはゲームである。全くこだわりが過ぎるよな。