邪神対策をしよう。後編
俺を背に乗せたジルベールが荒野を駆ける。
向かう先は村と反対側の海岸だ。
小一時間も走っただろうか、目的地に着いたジルベールが足を止める。
「ここでいいのか? 主よ」
「あぁ、おつかれだったなジルベール」
「しかし何もない海岸だぞ。こんなところで何をするのだ?」
「何もないからいいのさ」
首を傾げるジルベールに俺は答える。
「道すがら、俺がやろうとしていることは話したよな」
「うむ、主の作ったその『せんしゃ』とやらで邪神をおびき寄せるのであろう?」
「あぁその通りだ。そしてどうせならこの大陸の端より更に向こう……海の中に沈んでもらえばより安心だと思わないか?」
陸地をウロウロされていると、何かの拍子にこっちへ戻ってくるかもしれないからな。
というわけでDIYスキルで作り出すのは……ラジコン船だ。
大人一人が寝そべれるくらいの小型ボート。
戦車でここまで引っ張った後はこいつにバトンタッチするわけだ。
あとは沖まで邪神を引き連れ移動し、適当なところでやられてしまえば奴は目標を失い海中で漂うことになるはず。
ここを通りがかる船には悪いが、陸地にいられるよりだいぶマシだろう。
「なるほど、そこまで考えていたとはな。流石は我が主よ」
「普通に思いつくことだと思うが……まぁ船も出来たし、道中見にいくとするかな。邪神の位置は――と」
DIYスキルで作っておいた望遠鏡を取り出し、のぞき込む。
確かあの辺に……いた。
目測で約100キロ先、禍々しい黒雲を纏わせながら虚空を見つめる邪神ワークラフトの巨体。
その周りにはワイバーンなどが飛び回り、足元にも強そうなモンスターがうじゃうじゃいる。
何度見ても怖気が走るな。村とは離れた位置で復活してくれたのが唯一の救いだな。
「予想通り道中はモンスターが大量にいる。気を付けろよジルベール」
「うむ、それは構わんが主よ」
そう言って、ジルベールは垂直に跳躍する。
一体どうしたのだろうか。雲の中に消えたジルベールを見上げていると、どぉん! と雷音が辺りに響いた。
少しして、雲の中から黒焦げのワイバーンを咥えてジルベールが着地する。
「空から狙われていたぞ。雲に隠れて我らを攻撃しようとしていたのだろう。まぁ主なら当然気づいていたか。出過ぎた真似だったかな」
「……いや、頼もしいよ」
言うまでもなく全く気付いていませんでした。はい。
それにしても依然あれだけ苦戦したワイバーンを一蹴か。
どれだけ強くなったんだよジルベール、だがこれならモンスターの溢れる道中も問題ないだろう。頼りになるぜ。
海岸から邪神へと、俺たちはまっすぐ歩いていく。
手にはリモコン、戦車を走らせながらだ。
ガタガタと土煙を上げながら走行する戦車の道を塞ぐ石や坂、溝などを除去しながらまっすぐに。
中でも深い谷があったのはヤバかった。DIYスキルで橋を作ったが、事前に確認していなかったらと思うとゾッとする。
でこぼこ道は石を砕いて地面を均し、川があったら橋を架け、山があったらトンネルを掘り……もちろん邪神が通れるサイズのものをである。
そうしてようやく、邪神が目視できる場所まで近づいた。
「……しかし直接見るとすごい迫力だな」
全長は確か50メートルを越えてるんだっけ。渋谷109がそのくらいの高さだって何かで見たことがある。
かなり遠くなのに余裕で視認できるほどの大きさだ。
1キロくらいは離れているだろうか、奴の攻撃の最大射程は14セル……42メートルだ。よほど近寄らなければ問題はないだろうが、この辺りからは戦車で近づくとしよう。
「じゃあ俺は操作に集中する。あとは頼むぞジルベール」
「うむ、我に任せておくがいい。主よ」
俺はジルベールに跨ると両脚をその長い毛で縛り、リモコンを手に共有モードを起動させる。
視界を戦車に移し、キュラキュラとキャタピラ音を鳴らしながら荒野を走る。
「おーおー、ワンサカいやがるぜ」
進むにつれて何体ものモンスターが現れるが、連中は俺を見てもピクリとも反応しない。
わかっていてもこれだけの群れの中を素通りするのはドキドキするな。
「うおわっ!?」
いきなり巨大なトカゲ型モンスターが戦車の前に立ち塞がった。
どうやら戦車に興味を持ったようだ。こちらを覗き込むギョロっとした目、口から覗き見える無数の鋭い歯……怖っ。俺は戦車の動きを止めてしばし待つ。
「ギィィィ……?」
トカゲ型モンスターは首を傾げると、戦車に興味を失い向こうへ走っていった。
ふぅ、心臓止まるぜ。
その最中も俺の身体は揺さぶられていた。
戦闘音が聞こえるし、ジルベールがモンスターと戦っているのだろうな。
心臓に悪いから早めに駆け抜けるとしよう。
そうしてしばらく走っただろうか、不意にモンスターたちがいなくなる。
同時に辺りに立ち込める黒い霧。
これは一体……俺が注意深く進んでいると、突如視界が眩く光った。
「わっ!? な、なんだぁっ!?」
うおっまぶしっ。閃光に目を眩ませながらも薄目を開くと……そこにいたのはポン吉だった。
「あらら、戦車がやられちゃったポン。材料を使えば復活できるけど、どうするポン?」
え!? い、今のでやられたのか!?
何をされたか全くわからなかった……まさに催眠術とか超スピードとかじゃあ断じてねぇヤツである。
黒い霧の向こうには、薄らと邪神ワークラフトの姿が見える。
「いつの間にかもうここまで近づいていたのか……なるほど、あの黒い霧が奴の攻撃射程ってわけね」
霧に入って2、3秒で即死かよ。
半端じゃない攻撃範囲だが、目印があるのはありがたい。
つまり霧の中に入らなければ問題ないのだろう。
わかりやすくていいじゃないか。
「どうするポン? 復活するポン?」
「……復活だ」
俺はポン吉にそう告げ、戦車を復活させるのだった。




