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邪神対策をしよう。中編

 戦車による釣りが出来るのも確認できたわけだが、その最中は何が起こるかわからない。

 山や谷、川や砂利道もあるだろうし、ルートの確認は入念にすべきだろう。


「となるとジルベールの助けが必要か……」


 邪神の周囲は強いモンスターが沢山いるはず。

 ジルベールの戦闘力と機動力がなければ俺一人では厳しいだろう。

 だがあまり気が進まないな。

 いくらジルベールがバトル好きでも、邪神に近づくのはかなり危険である。


「あまり他の奴を危険に合わせたくはないな……いや、それを言い出すとこの村も絶対に安全とは言えないか」


 間接的にとはいえ邪神に手を出すのだ。

 刺激することで村に被害が出る可能性もゼロではない。

 仕方ない。一人でこっそりと思ったが、何が起きるかわからない以上、皆にも話しておくべきだろう。

 ……気は進まないけどな。


 ◇


「――というわけで、我が村は今存亡の危機に瀕している」


 俺は皆を集め、現状そのままを伝えた。

 邪神ワークラフトの復活により、この辺りにモンスターが活性化していること。

 このままでは村に住めなくなること。

 俺がそれに抗おうとしていること。


「ここまで大きくなった村を、みすみす打ち捨てるようなことは俺には出来ん。だから精一杯抗おうと思っている。その為の手段も考えた。しかし村に被害が出る可能性はゼロではないし、皆にも迷惑をかける可能性は高い。だから予め伝えておこうと、こうして集まってもらったんだ」


 俺の言葉に皆、顔を曇らせる。


「邪神……知らぬ間になんとも恐ろしい事態になっていたのですね」

「大丈夫なのかよ。大賢者様よう……」


 いかんいかん、不安がらせるつもりはないのだ。

 俺は慌てて手を振って返す。


「あぁ、もちろん皆に戦って貰おうなんて思ってはいないぞ。ヤバそうなら逃げてくれって話だ。そう心配しなくてもいい。俺が何とかして見せる。なんてったって大賢者だからな! ははっ」


 精一杯元気づけようと笑ってみるが、皆は固まったままだ。

 うっ、滑った。どうもこういうのは慣れないぜ。


「……ともあれ俺からはそれだけだ。いつでも避難できるよう、心がけておいてくれ。では解散ってことで」


 そう言って壇上を降りるが、皆はその場から動こうとしない。

 不安そうな顔――最初はそう思ったが少し違う気もしてきた。

 その目にはどこか強い意志を感じる……?


「どうしたんだよ皆」

「ふっ、わからぬか主よ。存外人心を読むのが苦手なのだな」


 ジルベールが一歩前に出て、苦笑する。

 なにぃ、お前にだけは言われたくないぞ。……だがまぁ分からないのも事実である。くっ。

 首を傾げる俺に、キャロが微笑を浮かべ歩み寄る。


「ヒトシ様、私たちにも何か出来ることはございませんか?」

「……へ」


 危険だから逃げてくれ、そう言ったのに何故そんな言葉が出るのだろうか。

 首を傾げる俺に他の者たちもキャロに続く。


「そうですぜ。水臭ぇじゃないですか」

「僕たちに出来ることなら何でもやりますよ。と言っても料理くらいしか出来ませんが……」

「うおおォォォ! そのワークラフトってのを倒せばいいのかァァァ!? 俺にぶっ倒させろォォォ!」


 いや、倒さんし。倒せんし。

 だが俺は皆の言葉に、何とも言えない心強さを感じていた。


「邪神ワークラフト……魔王をも超える力を持つ存在と聞いてるわ。それを何とかしようだなんて、流石は大賢者サマね」

「……やれやれ、慕われたもんじゃの。しかしおぬしならやり遂げてしまうやもしれぬ。わらわも信じて力を貸すとしよう」


 その脅威を知っているはずのカミーラとイズナまでもが、だ。

 まさか俺と共に戦う気だとでもいうのだろうか。

 嘘だろう? そう思い皆の顔を見渡すが――その目は本気に見える。

 信じられないな。俺なら真っ先に逃げ出すってのによ。

 ……やれやれ全く、困った奴らだ。

 ため息を吐くが、どうにも口元がニヤけるのを止められない。誤魔化すように顔を俯け、呼吸を整える。


「……わかったよ。それじゃあ遠慮なく手伝って貰うからな。覚悟しとけよ」


 照れ隠しのつもりで出たぶっきらぼうな言葉に、皆は頷いて答えるのだった。


 ◇


 がん! がん! がん! と岩を削る音が辺りに響く。

 俺は男たちを率い、DIYスキルで作ったツルハシで岩盤を叩いていた。


「うげっ、硬い岩に当たりましたぜ」

「任せろ。……よいしょお!」


 俺がツルハシを叩きつけると、岩が砕け散る。

 流石STRバグ、ツルハシごと粉々だ。

 砕けた岩の中からボロボロと赤褐色の石が転がり出てくる。

 これはボーキサイト、皆には採掘の協力をして貰っているのだ。


「おー、これは大量ですねぇ。どれどれ、鑑定いたします」


 岩の中のものはもちろんボーキサイトだけではない。

 キャロが鑑定しながら仕分け、クペルが一輪車にボーキサイトを積んでいく。


「うおおおォォォ! 幾らでも積んでやるぜェェェ!」


 いや、積み過ぎだから。グラグラしてるじゃないか。折角作った一輪車を壊すなよ。

 作業をしている皆には粉塵を吸い込まないようマスクをさせている。

 働く人の健康と安全が第一だ。

 ラジコン戦車の復活にはアルミが10個必要、今は200くらいあるが、万が一足りなくなる可能性を考えるとアルミの量は多ければ多い程いい。

 俺自身ラジコン操作に慣れていないし、ミスからのパニック、死にまくりという状況になるのは容易に想定出来る。

 俺は自分を信用してないのだ。

 かなり、かなーり余裕を持っていた方がいいだろう。


 イズナの知識である程度目星をつけ、あとはキャロの鑑定で採掘場を見つけ、あとはひたすら採掘、採掘、採掘。

 そうして集めたボーキサイトはDIYスキルでアルミに変換、半日のうちに1000を超えるアルミを手に入れた。その量五倍、これだけあれば幾ら俺でもなんとかなるだろう。


「まだ集めるのですか?」

「いや、やめておこう」


 それにあまり集めるのに時間をかければ、邪神はモンスターを集め強化する。が増えすぎてもまともに釣れなくなるかもしれない。


「ありがとう皆、これなら少々トラブルがあっても大丈夫だろう」

「はいっ! ご武運を!」


 皆に見送られながら俺はジルベールの背に乗る。

 邪神を釣るに当たり、戦車でも移動できるかどうかルートの確認をせねばならない。

 それを今からジルベールと共に行うのだ。

 モンスターも多いだろうが、ジルベールと一緒なら何とかなる――はずだ。


「ではいくとするか。主よ」

「おう、頼むぜ」


 俺が背中に乗ると、ジルベールはすごい速さで駆け出すのだった。

二巻発売!よろしくお願いします!

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