邪神対策をしよう。前編
さて、しつこいようだが邪神ワークラフトはまともに戦える相手ではない。
故にこちらも搦め手を駆使する必要がある。
「以前、まとめサイトで邪神ワークラフトを倒す方法みたいなのが考案されてたよな。使えるアイデアがあったはずだ」
昨今のゲームというのは大抵発売前から攻略掲示板が立てられ、プレイヤー同士の情報交換が行われている。もちろんこのワールドクラフトも同様で、掲示板は常に日々賑わっていた。
もちろん俺も常駐組、そこのスレの一つにボス攻略スレというものがあり、各ボスへの対策などが事細かく記されていて興味深く読み漁っていた時期がある。
……いや、戦闘には興味ないけどさ。それはそれとしてあぁいうのは読み物として面白いのだ。
プレイヤーたちが知識と経験を総動員し、俺が思いもつかないような方法で強敵に挑み続ける……見ているだけで心が躍る。
話が逸れたが邪神ワークラフト討伐の議論は特に白熱しており、様々な方法が試されては失敗している。
だが唯一、ボスを『釣る』方法だけは何種類か確立されている。(ちなみに『釣る』とはゲーム用語で敵を引きつけ、任意の場所に移動させる行為のこと。高難易度ボスの周りには強力なモンスターが大量いる場合が多く、そのままの状態ではまず戦えない。そこで予め敵を排除した場所に陣地を敷いておき、そこへボスのみを誘導し、戦闘を開始するのだ)
その方法とはプレイヤーキャラ以外による釣り――具体的には使い魔などを代表とする特殊操作キャラだ。
プレイヤーキャラは死ぬとセーブポイントまで戻されてしまうが、それらのキャラは復活アイテムなどで回復させればその場で復帰可能。
それを利用してゾンビアタックを繰り返せば、邪神ワークラフトと言えど誘導可能である。
もちろんジルベールは使えないので、他の手段が必要なわけだが……それは今からDIYスキルにて作成する。
「ただこいつの作成には必要な材料がかなり多いんだよな。そいつが調達せねばならない。……まずは運試しといきますか」
アイテムボックスから取り出したのは以前手に入れた金属塊、それを使うと大量の金属類が俺の前に出現する。
「おおっ! 鉄に銅、銀。それにボーキサイトか。我ながら中々いい引きだな」
銀は貴金属系でレアだから中々出ないし、ボーキサイトはアルミの材料だ。
これらがあれば目当ての物も作れそうだな。
アレをあぁしてこうして……おっと、先走っちゃだめだよな。順番に行こうぜ。
「まずは一つずつ作るとしよう。DIYスキル発動」
トントントン、カンカンカン、トントントン。
完成したのは電磁コイルだ。
鉄芯に銅線をぐるぐる巻にしたもの、強力な磁気を発生させる磁石である。
更にDIYスキル発動。
次に完成させたのはバッテリーだ。
作り出した電気を溜める装置、電源がない状態で動かすにはこれが必要だ。
更に更に、作り出したのは電子基板。
絶縁体に水銀で回路を書けば、機械に様々な命令を送れる。
忘れちゃいけない電線、銅線にゴムを巻いたもので電気を通すのに使用する。
他にも必要な機械部品を一つずつDIYスキルにて作り出していく。
そして、俺の目の前に先刻作り出した部品たちがずらりと並んだ。
「よーし、必要材料は揃ったところで改めて、DIYスキル発動!」
トントントン、カンカンカン、トントントン。
DIYスキルで作った物を更にDIYすることで、一段上の物を作り出す。これぞDIYスキルネクスト。
それにより作り出したるは――ラジコンカーである。
全長30センチほどの小さな車体、電波を受信するアンテナ、それを送信するリモコン。
うん、外見はゲームと同じだな。
「さて、中身もちゃんと仕様通りかね」
そう呟いてリモコンを手に取ると、ポン吉が俺の前に出現する。
「ラジコンカーと共有モードで操作するポン?」
「あぁ」
「了解だポン! 楽しんでいってね!」
ポン吉の言葉と共に俺の視界が切り替わる。
視点は地面スレスレで、ラジコンと向かい合っていた俺の足が大木のように大きく映っている。
操縦すると、ラジコンカーはモーター音を鳴らしながら軽快に走っていく。
うん、仕様通りだ。それに挙動も特に問題なし。これなら使えそうだ。
さて、本題に戻るがこのゲームではDIYスキルによって作り出した機械はシステム上は使い魔と同じプレイヤーの操作キャラ扱いとなり視界を共有することが出来る。
この状態で破壊された場合でも修繕スキルを使うことで即座に復活可能だ。
もちろんこのラジコンカーは攻撃不可能、釣ることも出来ないのだがその問題はこれから解決する。
「用意するのは鉄と木材、そしてこのラジコンカー。これらを材料にDIYスキル発動」
トントントン、カンカンカン、トントントン。
完成したのは全長1メートルはある巨大ラジコンカー。
ラジコンはそれ自体を素材に、大量の金属類を消費することで更に大型の物を作り出せるのだ。
アップグレード的なやつである。ゲームならではだな。
「更にもう一度!」
今度は3メートル。ここまで大きくなれば乗ることも可能だが、これでもまだ完成ではない。
「ここからは木材では強度が、鉄では軽さが足りない。こいつの出番だな」
俺が手にしたのはアルミの材料、ボーキサイトだ。
こいつは溶かして電気分解で成分を抽出し、成形すればよく見るアルミになる。
もちろん俺にそんな知識はないし、工場とかで大規模に行うものなので危険だし道具もない。
だが万能加工剤を使えば問題はない。
こいつをボーキサイトに加えてDIYスキル発動すれば、アルミの完成だ。
「さーて、アルミも出来たことだし、そろそろ本命を作るとしますか」
長々と続いたDIY作業だが、ようやく次で完成だ。
トントントン、カンカンカン、トントントン。
「……うん、いい出来だぞ」
そうして完成したのは二分の一スケールのラジコン戦車だ。
遠距離攻撃に加えそれなりの速度で移動可能、復活も出来て誰でも作れる。
ボス狩りパーティの人たちはこれを使って邪神の釣りを行うのである。
「とはいえ俺はあまり使い慣れてないから、まずは練習だな」
ラジコンを手にし、共有モードで操作を開始する。
俺の視界は戦車の高さとなり、キュラキュラとキャタピラ音を鳴らしながら前進を始めた。
ラジコンカーに比べれば車高が高い為、視界は普段の俺より少し高めだ。
速度は俺が走るより少し速い程度、浅瀬やデコボコ道も問題なく走行可能。いい感じである。
「……おっ、モンスター発見」
砂場をゆっくり歩いているのはサンドマンだ。
近づくとこちらには気づいたようだが、攻撃を仕掛けてくる様子はない。
モンスターはプレイヤーキャラ以外に対しては、見つけても即攻撃してくることはない。そういう仕様だ。
攻撃すれば即反撃しようとボスのみが追ってくる。
直接戦闘が苦手なジョブへの救済措置として作られたDIYスキルで誰でも作れるこのラジコン戦車だが、皮肉なことにボスを釣るのに最適なのだ。
「砲撃ボタンは……これだな」
射撃モードに切り替え、標準をサンドマンにセットする。
発射ボタンを押すと共にドォン! と衝撃が響き砲身からミサイルが発射された。
命中、吹っ飛んだサンドマンだが、即座に起き上がると戦車を追ってくる。
「オオオオオオオオ!」
咆哮を上げながら殴りかかってくるサンドマンだが、俺は敢えて動かない。確かめたいことがあるからだ。
サンドマンにタコ殴りにされ、戦車はあっという間に破壊されてしまった。
「あらら、戦車がやられちゃったポン。材料を使えば復活できるけど、どうするポン?」
「復活だ」
「了解だポン」
ポン吉の言葉と共に、アイテムボックス内にあったアルミが消費され戦車が復活した。
ふむ、復活はほぼノータイム、場所も移動しないし無敵時間が一秒ほどあるな。
なるほどオーケー、問題なし。アイテム消費も許容範囲内だ。
「これならいけるかもな」
色々実験したが、これなら邪神ワークラフトを釣ることも出来そうである。
操作可能となった戦車を走らせ、サンドマンから距離を取った俺は再度砲撃を放つ。
今度こそ爆発四散したサンドマンを尻目に、俺は戦車を帰還させるのだった。




