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神獣決戦、中編

 サイファとジルベールが上空で激突し、衝撃波が吹き荒れる。

 うおっ、風圧でぶっ飛ばされそうだ。近くの岩にしがみついて何とか堪える。

 競り合う二人を中心に竜巻が吹き荒れているようだ。


「て、天下一武道会の司会役とかこんな気分なんだろうな……わっ、危ねぇ! 岩が飛んできたぞ!」


 危険だが離れるわけにはいかない。

 頑張れジルベール。お前の勇姿はちゃんと見届けてやるからな。

 見上げると二人は眩い光を放ちながら何度もぶつかり合っており、そのたびに火花を舞い散り衝撃音が鳴り響く。

 互角――いや、徐々にだがジルベールが押されていく。

 周囲を吹き荒れるエネルギーの奔流、その拮抗が崩れ始めた。


「ウォォォルルルァァァァァ!」


 咆哮を上げながらサイファがジルベールを押し込んでいく。

 競り勝ったのはサイファだ。吹っ飛ばされたジルベールは地面に激突した。

 もうもうと立ち上る土煙を見下ろし、サイファは嗤う。


「ハハッ! こんなもんじゃ終わらねェぞォ!」


 閃光を放つサイファ、その周囲に電撃が集まっていく。

 バチバチと爆ぜるような音を立て集まってきた雷光が極太の束となって――堕ちる。

 ずどおおおおん! と激しい爆発音と共に大地が震えた。


「まだまだまだまだァァァ!」


 上空に生み出された黒雲が氷の粒をまき散らし、それが急速に塊となって降り注ぐ。

 土埃が舞い上がり、周囲の温度が下がったような感じだ。

 あわわ、やりたい放題されてるぞ。や、ヤバいんじゃないのか!?


「サンダーストロークからのブリザブドシャワーだポン。二連携ボーナスが付いて14266ダメージを受けたよ」


 狼狽える俺の横でポン吉がのんきに解説を始める。

 ちなみに連携とは相手の反撃を挟まず連続攻撃を加えることで、ニ連携以降はダメージ倍率が増えていく。

 とはいえ相当なAGI差がなければ一人連携なんか出来るものではない。

 やはりステータス的にかなり不利のようだ。


「ジルベール、しっかりしろ! ジルベール!」


 ってそんな場合じゃない。俺に出来るのは声をかけるくらいだ。

 懸命に声を張り上げるが、土煙の中の影は動かない。


「ヘっ、まずは小手調べのつもりだったが、結構効いてるみてェだなジル! そんなんで俺を止められるのかァ?」


 動かぬ影に向かって言うサイファだが、それに答えたのは別方向からの声だった。


「……ククッ、不意に手に入った力に随分と踊らされているようだな。しかしまだまだその力に不慣れと見える」


 ジルベールの言葉と共に、影が大きくブレる。

 そして揺らめく陽炎のように霧散し消えてしまった。


「何ィッ!?」


 驚き声を上げるサイファの背後に、ジルベールが出現する。


「――残像だ。この程度で驚いているなら、お前を止めるのは容易そうだな」


 そう言い放ち、空中で回転しながら炎を纏わせた尾を叩き付けた。


「ぐはぁぁぁっ!?」


 地面に激突したサイファが苦悶の声を上げる。

 おおっ、あれは残像だったのか。

 ポン吉がダメージ云々言い始めるから、マジでやられたと思ったぞ。


「あれは影分身にダメージが与えられたと言う意味だポン。早とちりはよくないよ」

「うっさい。お前が紛らわしい言い方するからだろ。……ははっ、だがよかった」


 ったく心配させやがって。

 そういやこのゲームの分身系のスキルは実体があり、HPも存在するんだったか。

 ホッとしすぎて笑ってしまったじゃないか。

 サイファは起き上がると、血の混じった痰を吐き捨てる。


「……ぺっ、舐めた真似をしてくれるじゃねぇかァ! 今度こそ、喰らいやがれ!」

「甘いわっ!」


 そして再度、氷塊を飛ばしジルベールを狙う。

 しかしそれもまた残像で躱すジルベール。撃つ、躱す、撃つ、躱す――

 繰り出される氷塊が、雷撃が、空を吹き荒れる。


「……なるほど、ジルベールの戦略が読めたぞ。大技を撃たせまくってSP《魔力》を消耗させるつもりだな」


 サイファが撃っているのはかなり強力なスキルだ。無論消費するSPも大きい。

 進化の前と後ではステータス面の差もあるが、スキル有無の差が最もデカい。

 進化後に得られるスキルはどれも有用なものばかりだからな。その為に進化すると言っても過言ではないくらいだ。

 まずは大技を使わせSPを枯渇させてから戦うつもりか。

 挑発していたのはその為なのだろう。サイファはまんまと罠に乗り、大技を連発している。


「ふはははは! そんなものかサイファよ! そんな攻撃で我を捉えられるものか!」

「くそが……ちょこまかしやがってェェェ!」


 咆哮と共に攻撃を放つが、やはり残像にしか当てられない。

 いいぞジルベール。このままいけばサイファの動きを止められるかもしれない。


「っとと、危ないから隠れてよっと」


 ここにいたら巻き添えを喰らってしまうからな。俺は大岩をくり抜いて、その中に避難した。

 しばらく待っていただろうか、戦いの音が小さくなってきた。

 こっそり覗くとサイファが息を切らし始めたようだ。


「ハァ、ハァ……ゼェ……!」

「諦めよサイファ。これ以上の戦いは無益だ」


 おっと、ジルベールはどうやら説得を試みるようである。

 一度十分に力を見せつけてからというところが憎いね。

 敢えて防御に回り、攻撃をしなかったからこそ格上感が生まれるわけだ。

 日常はコミュ弱な所もあるが、バトルではかなり頼りになるな。


「なぁサイファよ、人間とてそう捨てたものではないぞ? 我らを排した悪人もいるが、善人だって沢山いる。人間すべてを滅ぼそうとするなど愚かしいことだ」

「……ハァ……ハァ」

「復讐など忘れて、これからは共に暮らしていこうではないか」


 諭すような口調で語りかけながらジルベールは歩み寄っていく。

 サイファは息を荒らげながらも俯いたままだ。


「さぁ」


 差し出した手をサイファは――払った。


「うるせぇよ……うるせぇうるせぇ! 俺は人間を殺すんだ! 殺して殺して殺して殺して殺し尽くす! その為に生きてるんだ! 邪魔を、するなァァァーーッ!」


 咆哮を上げるサイファの周りに、黒い渦のようなものが集まっていく。

 なんだあれは!? 渦はサイファの身体を包み、その体積を増しているように見える。

 ぼこん! と背中が盛り上がり、蠢きながら徐々にそれは大きくなり、形を変え始めた。


「ゥゥゥゥ……!」


 唸り声を上げながら生えてきたのは、もう一つの頭だ。

 更なる進化だと!? だがあんな姿はゲームでも見たことないぞ。

 ポン吉も反応していない。未実装のモンスターなのか? 一体……?


「な、なんだそれは!? サイファ!? 大丈夫なのか!?」

「ぐるるるるぅ……くく、ハハハッ! すげぇ! 力が、流れ込んで来やがるぜェ……!」


 三つに増えた頭で歪んだ笑みを浮かべるサイファ。

 何だこりゃ。一体何が起こってるんだ!?


「サイファ……?」


 心配そうに声をかけるジルベールが近寄ろうとした、その時である。

 バチィン! と衝撃音と共にジルベールの身体が吹き飛ばされた。


「ぐはぁっ!?」


 今度は残像ではない。

 頭上のHPバーが削れ、ジルベールの頬の毛は焦げたように白くなっている。

 影分身の詳細な効果は攻撃を受けた瞬間から0.1秒、そこに残像を作り出し相手の攻撃を受け止めるというもの。

 本体の回避が間に合わねば攻撃をモロに喰らってしまうのだ。

 それすらも間に合わない攻撃速度……しかも威力もかなりのもので、何とか立ったジルベールだが苦悶の表情を浮かべ足をプルプルと震わせていた。


「殺す……人間は全て殺し尽くす! それを防ごうとする奴も! 全て、全て、全て、皆殺しにしてやるァァァ!」


 咆哮を上げるサイファの目に、もはや正気の色は残されていなかった。


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