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ワイバーンとバトルしよう

 ……

 …… ……

 …… …… …… ……


 何が、起きた……?

 全身が痛い。頭がぼーっとする。

 眠い、寝たい。なのに煩いほどに鳴り響く耳鳴りがそれを許さない。

 まるで早く立ち上がり、動けとでも言わんばかりに。


「……はっ!?」


 目を開いて身体を起こす。

 辺りを見渡すと、先刻まで俺を取り囲んでいたはずのモンスターたちが消滅していた。

 そうか、ワイバーンのヒートブレスを喰らったんだっけ。

 俺の頭上にあるHPバーを見ると、四割くらい削れている。よし、どうやらまだ生きてるな。

 距離があったのと、周りのモンスターにダメージが分散したのがよかったか。

 ブレス系の攻撃は攻撃倍率が高いが、敵味方含む多人数でまとまって受けるとダメージが分散するという性質を持つ。

 そこまで計算したわけではなかったが、運が良かったな。


 とはいえまだ窮地を脱したわけではない。

 バサッ、バサッと羽ばたき音と共に空からワイバーンが近づいてくる。

 ぐるる、と唸り声を上げながら、俺を睨みつけている。


「……はは、相当怒ってるな」


 遠くからやりたい放題したからな。無理もない。

 ジルベールを放り投げた今、移動速度はあっちの方が圧倒的に速い。こりゃ逃げるのは無理だな。

 身体は……よし、動く。

 麻痺対策をしておいたのが功を奏したが、もう距離が近いし何か裏ワザを使う時間はない。数秒後にはワイバーンと接敵するだろう。


 ――だがまだ勝ち目は残されている。

 近づいたことで敵の攻撃力は上がったが、それは俺の大弩弓もまた同じ。

 加えて距離が近くなったことで弱点も狙えるようになったし、この状態で弱点である眉間を貫けば死にかけのワイバーンなら一撃で倒せるかもしれない。


「来るなら来やがれ!」


 俺は大弩弓を構えてワイバーンの眉間を狙う。

 よーしよし、あと少し。そのまま真っ直ぐに近づいて来い……!

 俺の思い通りに近づいてくるワイバーン、遠い時は小粒程にしか見えなかったが、近づくにつれ本来の巨体を見せてくる。

 体長一五メートル、もちろん縦だけでなく横にもデカい。


 ……ははっ、いっそ笑えてくるな。これだけデカけりゃ外しようがないぜ。

 だが倒し損ねたら確実に死ぬ。

 ぶるっと身体を震わせながらも、意識を集中させていく。

 狙うはワイバーンの攻撃射程に入る、その一瞬。

 あと十セル、七セル……指先に力を入れ、狙いをつけていく。

 ――よし、今だ。引き金を引くと、がぁん! と弾かれるようにして矢が射出された。

 放たれた矢はまっすぐにワイバーンの頭へと飛んでいく。

 いけ! 当たってくれ!

 だが俺の祈りと裏腹に、飛翔する矢の方角はどうも怪しい。

 やや……いや、かなりズレている。

 ズレはワイバーンに近づくにつれ大きくなり、その頭の真横をすり抜けてしまった。


「嘘だろぉっ!?」


 信じられない。あんな近距離で外すなんて。

 ――いや、それもやむなしかもしれない。

 気づけば俺の手が、足が、ガクガクと震えている。

 恐怖、ワイバーンの威圧感にビビっちまっているのだ。

 そういえば竜種の持つスキル『威圧』は周囲の低レベルプレイヤーに大幅なステータス低下を促すんだっけ。ちくしょう、そんな大物と戦う事なんて殆どないから完全に忘れてたぜ。

 戦闘に興味ない人間が真面目にバトルしようなんて思うものじゃないな。

 ワイバーンはニヤリと笑うと、俺を飲み込むべく口を大きく開けた。

 無数の牙が、のたうつ舌が、俺の眼前に迫る。

 あああああ! なんで俺は自分の身も守らずにジルベールを逃がしちゃったんだ。

 俺だけ逃げておけば助かったかもしれないのに。だが、あぁ! 無意識に動いてしまったのだから仕方ないじゃないか。

 くそう、くそう。いやだ。死にたくない。

 俺はその恐怖に思わず目を閉じる――


 ……あれ? 痛くない?

 喰われてないのか俺は。恐る恐る目を開ける。

 と、ワイバーンの牙は俺へではなく、頭上の黒い影へ向けられていた。


「無事か!? 主よ!」


 あれは――ジルベールだ。

 俺が投げ飛ばしてすぐに駆け付けてくれたのか。


「先刻撃った矢は我に場所を伝えると共に、キャッチして持って来いという合図だったのだろう!? 我を逃がすと同時に不意を衝くことまで考えていたとは流石は我が主よ!」


 いや、全然そんなことはなかったのだが。何ならお前を逃がしたことを死ぬほど後悔していたんだが。

 完全に誤解だが……助かった。マジで。


「ジルベール、しばらくそいつの相手が出来るか!?」

「任せるがいい! ワイバーンよ、我が本気の速度、とくと味わえ!」


 ジルベールの全身の毛がぶわっと逆立ち、その身体が揺らぐように分裂し始める。

 これはもしや、残像というやつか!? 流石は神獣、ワイバーンも戸惑っているようである。


「グァァァァ!」


 両手を振り回し応戦するが、鋭い爪も空を切るばかり。


「……ん、手の震えが……」


 気づけば身体の震えが消えていた。

 スキルによる威圧の効果も分散するのか、もしくは単に俺が勇気付けられたのか……ともあれ、今なら狙える。


「うおおおおおっ!」


 受け取ったした矢を大弩弓にセットし、放つ。

 矢は今度こそ俺の狙い通りに飛んでいき、ワイバーンの眉間を貫いた。

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