神獣たちと狩りをしよう。前編
「いよう、獲物を捕らえてきたぜ。大賢者殿」
サイファが獲ってきた白い羽根を持つ巨鳥を地面に転がした。
これはアホウドリだ。
飛び立つのが苦手な為に素手で簡単に捕らえられる事からこんな名をつけられているが、一度飛び立つと高々度を高速で飛翔する渡鳥である。
この辺りで降り立つ所は見たことがないが、よく地上を走る狼がこんな鳥を仕留められたな。
「サイファは空を駆ける天狼と呼ばれる程の跳躍力を持っているのだ。この程度は造作もあるまい」
ジルベールがそれを見て、ふふんと鼻を鳴らしている。
だから何でお前が誇らしげなんだよ。
……ま、それだけサイファのことを大事な友だと思っている証か。
「うおおおおお! 何だこの鳥はァァァ! でッッッけェェェ!」
「わ、すごいですね! こんな大きな鳥を獲れるなんて、いい羽毛布団が作れますよ!」
「渡鳥は長い距離を飛ぶ為に翼筋が発達していますからね。とても美味しいんですよ」
それを見た皆も喜びの声を上げている。
確かに、これから冬だし大量の羽毛が取れる鳥は有難いよな。
「助かるよサイファ」
「ははは、おうともよ。ここに住まわせて貰うんだから、ある程度は仕事をしないとなァ?」
朗らかな笑みを見せるサイファの周りをキャロたちが囲う。
どうやらサイファは気さくな性格のようで、ジルベールに比べてもコミュ力は高く他の人たちと仲良さげに話している。
だが時折、サイファは何かに苛立っているような表情を見せることがある。
それに仲良くしているように見えても、どこか距離があるような……ふーむ。
「なぁジルベール、今日はサイファを狩りに誘ってみないか?」
そんなある日、俺はジルベールにそう声をかける。
「ほう、一体どういう風の吹き回しかは知らんが、もちろん我は歓迎だぞ! 楽しそうだしな!」
もちろん、ただ楽しみたいだけではない。
それとなくサイファが何を考えているのか、聞きだそうというのだ。
見たところサイファはジルベールにしか心を許してないし、俺だけだと聞き出せそうにないからな。
狩りが好きなようだし、ジルベールと一緒に行けばポロッと本音の一つも漏らすかもしれない。
本当はこんな面倒なことはしたくないんだが……ジルベールの友人だし、俺の方から積極的に手を差し伸べてやるべきだろう。
いまいち馴染めない新人には先輩から声をかけてやるものである。
というわけで俺はジルベールと連れ立って村外れの森に行く。
ジルベールの小屋の横に同じものを建ててやるつもりだったのだが、サイファは森の中が気が楽だ。用があったら呼んでくれと言って近くの森で生活しているようなのである。
「それじゃあジルベール、サイファを呼んでくれるか?」
「我がか?」
「俺はなんか警戒されてるんだよ。狩りに誘うのもそれを解きほぐす為だ」
「なるほど! 共に狩りをして仲間意識を強めようというのだな。流石は我が主よ。そういう事なら任せておくがいい! ……ウォォォーーーン!」
ジルベールの遠吠えが辺りに響き渡る。
その数秒後、
「おうジル、狩りに誘ってくれるとは嬉しいねェ! 久しぶりに名コンビ復活といこうじゃねェか……って……」
嬉しそうに草むらから飛び出してきたサイファが、俺の顔を見て即座に嫌そうに顔を歪める。
そこまで嫌がらんでもいいのに、嫌われたもんだぜ。
若干ショックを受けつつも、俺は素知らぬ顔で挨拶をする。
「やぁ、俺もご一緒させて貰おうと思ってな。構わないだろ?」
「……大賢者殿の好きにすればいいさ」
ならば好きにさせて貰おう。
「では行くとしよう! 我が背に乗れ、主よ! 付いて来いサイファ!」
「……あァ」
俺が背に乗ると、ジルベールとサイファは共に走り出すのだった。
森の中、木々を避けながらひた走る。
二人は時折空を見上げては、空を飛ぶ鳥を探しているようだった。
「ちっ、いい獲物がいないなァ」
「ふむ、相変わらず小物では満足しないのだな」
「ったりめぇよ。何せ久々にお前との狩りなんだ。ショボい獲物で満足できるかよ。へへっ」
楽しげに会話する二人を俺はただ見守る。
わざわざ中に入っていく必要はない。
会話の邪魔をしても空気が悪くなるだけだし、まずは俺が敵ではないと認識して貰うことが重要だ。
俺が動くのは適切なタイミング、その時にほんの少しでいい。
「おっ、見ろよジル、あれなら中々いい獲物なんじゃねェか?」
サイファの見上げる先、木々の隙間に見えるのは体長十メートルはあろうかという飛翔体。
緑の肌に聳え立つ角、大きな翼に長い尾をくねらせている。
げっ、あれはワイバーンじゃないか。
モンスターの中でも最強の戦闘力を持つ竜種。
その鱗はあらゆる攻撃を軽減し、特殊な効果を持つブレスは強力無比。
ワイバーンはその中では弱い方だが、それでも高レベルパーティが対策をして挑むような難敵である。
「本来ならこんな場所にいるようなモンスターじゃないのに……」
モンスターとしての格は神獣よりやや上ってところか。
二人なら何とか狩れるだろうが、それも俺という足手まといを連れていなければの話だ。
ていうか俺がワイバーンの攻撃を喰らえばひとたまりもない。
一体こいつ何考えてんだ、とサイファに視線を送ると、ニイッと歪んだ笑みを返してきた。
「ワイバーンは確かに強敵だが……なーに、こちらには大賢者殿がいるんだ。何とかなるさァ」
くそっ、確信犯かよ。俺を除け者にする為にわざと強い獲物を選んだな!?
「おお! それはいい考えだな! 我らだけではワイバーンの相手をするのは難しいが、大賢者である主が加わればどうにでもなるというものよ!」
しかもコイツ《ジルベール》は素直に受け止めやがるしよ。
嫌味が通じないのか。サイファも舌打ちをしているじゃないか。
「行くぞ主! そしてサイファよ! 我に続くのだ!」
意気揚々とワイバーンに突っ込んでいくジルベール。
ええいもうどうとでもなれだ。
俺は諦めてジルベールの背にしがみつくのだった。




