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邪神を追跡する

 地面に鼻をつけ、クンクンとニオイを嗅ぐジルベール。

 しばらく辺りを嗅ぎ回っていたかと思うと、すごい速さで走り出す。


「こっちだ! しっかり掴まっているのだぞ主よ!」

「どわっ!」


 その凄まじい風圧に身体が仰け反りそうになる。

 ぐんぐん景色が流れていく。あっという間に祠が見えなくてなってしまった。

 相変わらずすごい速さだな。クペルはこれ並みらしいが、畑が荒らされる前に本当に捕まえられるのだろうか。


「む……主よ。どうやらクペルは村の方には行ってないようだぞ。あの森にニオイの痕跡が続いている」

「へぇ、よくわからんがラッキーだな」


 他の目的があったのだろうか。

 とはいえ放置していたら村が見つかる可能性もある。

 どちらにせよ早めに封印しておかねばならない。俺の米の為に。


「恐らく小腹を満たそうとしておるのじゃろうの。クペルは狩りと戦を司る邪神、獣を捕えるのは得意じゃからな」


 浮遊しながらジルベールと並走するイズナが言う。

 なるほど……だが調理用キットなんかどう見ても持ってなさそうだったが、まさか生で食べるのだろうか。

 それはなんとも邪神っぽいな。む、いやまてよ。肉か……


「一ついい考えを思い付いたぞ」


 ◇


「……これで本当にクペルが来るのかのう?」


 呆れ顔で呟くイズナ。俺はその前で火に薪をくべていた。

 パチパチと音を立てながら目の前の肉を焼けていく。

 森へ辿り着いた俺はアイテムボックスから道具を取り出すと、バーベキューを始めたのだ。

 それをうちわでパタパタ扇ぎ、辺りにニオイをまき散らしてクペルをおびき出そうというのである。


「くんくん……ふむ、肉の焼けるとても香しい匂いがするぞ。これなら奴も間違いなく来るだろう」

「そうかのう……」


 上機嫌なジルベールとは逆にイズナは不安げだ。


「ちなみに前回はどうやって捕まえたんだ」

「うむ、井戸に落ちていたところを村人が発見しての。無事に捕獲したのじゃよ。あんな幸運は二度とあるまい」


 うんうんと頷くイズナ。いや、たいして変わらないじゃねーかよ。

 俺も自分でやってて半信半疑だったが本当に来るような気がしてきたぞ。


「肉ゥゥゥーーーッ!」


 なんて考えた瞬間である。草むらからクペルが飛び出してきた。


「どわっ!? ま、マジに出やがった!?」


 出てくるにしても早すぎる。こっちにも心の準備ってのがあるんだぞ。

 クペルは俺たちのことなど全く気にする様子なく、火にくべていた肉を手掴みで奪うとガツガツ食べ始めた。


「ぬォォォ! 何だこの肉! めちゃくちゃ美味ェェェ!」


 咆哮を上げながら食べ続けるクペル。

 その傍若無人ぶりに俺たちは呆れることしかできない。


「……嵐のような奴だな」

「それより隙だらけだぞ。さっさと捕まえるとしようではないか」

「いや、待つのだジルベール」


 イズナが手で制するのとほぼ同時に、クペルの食べる手が止まる。

 こちらに視線だけ向けると、いつでも動けるよう中腰になる。


「それ以上近づくのはマズいぞ。逃げてしまう」

「うぬ……まるで野生の獣だな」


 というか野良猫みたいである。餌を置いてたら食べるが、近づきすぎると逃げるんだよな。

 茂みの中に逃げられると厄介だ。


「全員で取り囲むぞ」


 俺の言葉に二人が頷き、食事中のクペルをは包囲した。その輪を少しずつ狭めていく。よーしよし、逃げるなよー。


「飛びかかるか?」


 とジェスチャーするイズナに首を横に振って答える。


「いいや、まだだ。もう少し待て」


 そうジェスチャーを送ると、ジルベールが頷く。


「食べ終えて完全に油断したところを捕獲するというわけだな。流石は主よ」


 と、念話を送ってきた。そういえばそんな能力あったな。最初から使えばよかったぜ。

 ジリジリと距離を詰め、後一歩というところまで近づけた。


「美味ェ! 超美味ェェェ!」


 相変わらず食べまくっている。

 食事に夢中で油断しているようだな。今なら捕まえられるだろう。


「よーし行くぞ。いちにーの……」


 さんっ! そう言おうとした瞬間である。

 クペルは首を真後ろに向け、俺を見た。

 獣骨の奥に見える極彩色の瞳が俺を捉える。

 げっ、全然油断してないじゃないか。

 だがもう動き始めている。今更止められない。一か八か手を伸ばすと、クペルの身体が揺らいだ。

 残像、そう見える程の高速移動。


「くっ、やはり疾いか……!」


 わかっていたが俺より何倍も速い。

 こんなことならAGIもバグらせておけばよかった。

 逃げられる、そう確信した俺の腰に何かが巻きついた。

 腕だ。クペルのだ。しかし一体何故?

 疑問に感じる暇もなく、俺の身体を持ち上げるべくクペルが力を込める。


「あの大岩を砕いたオマエは強え! だがそんなオマエを倒せば俺はもっと強いって事になる! 俺の最強伝説の為にオマエをぶっ倒させて貰うぜェェェ!」


 ぎゅううう、と力を込めてくるクペル。


「なるほど、俺と力比べをしたいってか」

「その通りだァァァ! 俺の力を見さらせタコがァァァーーーッ!」


 咆哮と共に俺を投げようとするクペルだが、それは叶わない。


「ぬ……ぐゥゥゥ!? お、重てェェェ!?」

「失礼だな。俺の体重は60キロ、健康診断でもまだ引っかかってはないぜ」


 俺は両足を地面にめり込ませ、クペルが引っこ抜こうとするのを堪えているのだ。

 今の俺はSTRバグ状態。

 単純な力比べなら、それこそ邪神ワークラフトでも負けはしない。


「どぉりゃああああああっ!」


 逆にクペルの身体を掴むと、下手投げの要領でぶん投げる。

 ずずん! と土煙を上げてクペルは地面に転がるのだった。

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