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邪神が降臨する!?

「おおーいヒトシよ、元気しとるかー」


 畑仕事をしていると、いきなり頭の中に声が響く。

 この声……イズナか。社の方を見ると半透明な少女が浮いていた。

 金の冠を被り、巫女服のような衣装の幼い少女――豊穣神イズナだ。


「おかげさまでね」


 最初は俺が裏ワザで色々やっていたのを注意しに来たのだが、社を作って祀ってあげたら誤魔化せた上に米を豊作にしてくれたチョロい神様である。

 いや、ありがたかったけどね。


「それよりイズナ、俺に何か用でもあるのか? 最近姿を見せなかったが」

「おお、そうそう。お主に頼みたいことがあってのう。……なに、そう身構える必要はない。大賢者であるお主ならすぐに終わるような些事じゃよ」

「頼み事……ねぇ……」


 俺が嫌そうな顔をしているのに気づいたのか、イズナは気にするなと言わんばかりにパタパタと手を振った。

 そう言われても一応神の頼みだからな。気にするなと言われても無理がある。


「……まずは聞くだけ聞こうか」

「おお、流石はヒトシじゃ! 実はの、かつてこの地に封印されていた邪神をお主に封じて欲しいのじゃ」

「どこが些事だァァァ!」


 イズナの言葉に俺は思わず全力で突っ込んだ。


 ◇


「この世界にはわらわのような良き神だけでなく、悪しき邪神も存在する。彼奴等は遥か昔に人と神々の力によって封印されていたのじゃが、つい先日邪神を封じた祠を見に行くと今にも崩れそうであった。再封印せねば邪神が復活してしまう。そこで大賢者であるお主の力を借りたいのじゃよ。力を貸してくれるか? ヒトシ」

「断る」


 俺はキッパリと断った。

 このゲームで邪神といえば、魔王をも超える強さを持ち、歴代ゲーム最強の裏ボスとすら言われている邪神ワークラフト様じゃあないか。

 ステータスが高いのは当然として、あらゆるバグ攻撃にも対応出来る多種多様なスキル、豊富な行動パターン……このゲームで間違いなく一番強いボスモンスターである。

 かつて廃人ギルドが連合を組み、数百人からなる高レベルプレイヤーパーティでも勝てなかったらしく、画面内に入った瞬間に特盛りのデバフが飛んできて、視認されるやいなやレベル九百代プレイヤーが死にかける魔法を撃ってくるとか。

 あまりの強さに『様』付けで呼ばれている程の超規格外。

 そんな相手に俺が何を出来るってんだよ。

 ゲームだった時ならお祭りで参加してもよかったが、生身の今では近づくのもごめんである。


「何故じゃ?お主ならすぐに終わるような仕事であろう。もちろん礼もするぞ?」

「ふっ、イズナよ。主はそのような些事をやるほど暇ではないのだ」


 俺とイズナの会話に入ってくるジルベール。いいぞいいぞ、もっと言ってやれ。


「ふーむ……怖いのかのう?」

「そんなわけがあるか! 主の力なら邪神を倒すことすら可能だぞ!」


 と思ったら即、反旗を翻してきた。やめろやめろ。もう何も言うんじゃない。


「あー、何と言われようと俺は絶対に行かな……」


 言いかけて俺は、周囲の景色が違うことに気づく。

 さっきまで畑の中にいたのに、何故か断崖絶壁に立っていた。

 空を黒雲が多い、雷鳴が辺りに降り注ぎ、大波のしぶきが足元を濡らす。


「……ここ、どこだ?」

「ふふん、空間転移で邪神の祠まで飛んだのじゃ! これでも神、このくらいはお手の物よ。お主が渋っていたのは移動が面倒だからであろう? これなら問題はあるまい。はっはっは」


 満足げに笑うイズナ。違う、そうじゃない。

 というかそんなに遠いなら尚更放置で良かったじゃないか。


「まぁまぁ、パッとやってパッと帰ればいいであろう。邪心が復活したとてわらわが守ってやるから安心するのじゃ!」

「主を守るのは我の仕事だ! まぁ主なら我らの守護など必要なかろうがな」

「……いや、普通に守ってくれよな」


 ていうかお前ら、あの邪神相手にどんだけ楽観的なんだよ。

 こうなっては二人を信じるしかないか。腐っても神と神獣だしな。俺が逃げる時間稼ぎくらいは出来るかもしれない。

 俺は肩をすくめ、大きなため息を吐くのだった。


「こっちじゃヒトシ」


 ほんの少し歩いただけで邪心を封じたという祠に辿り着いた。

 岩を積み重ねて作ったような祠には大量の髑髏が吊り下げられており、如何にも不気味な雰囲気を醸し出していた。

 イズナは戸惑うことなく中へ入ると、階段を下に降りていく。


「おーい、何をしとる。こっちじゃぞー」

「主よ、我の背に乗るといい」

「いいよ。一人で歩ける」


 俺は覚悟を決めてついていく。

 薄暗い階段を降りていくと、五分も歩かないうちに底に着いた

 目の前には大きな穴が空いており、その奥では水の滴る音が聞こえてくる。


「ゥ……」


 聞こえてきた唸り声に俺はビクッと背筋を振るわせる。

 地獄の底から聞こえてくるような不気味な声に俺は思わず足を止めた。


「な、なんかいるぞ……?」

「邪神を封じていると言っておろう。神獣よ、灯りをつけておくれ」

「承知した」


 ジルベールが魔法で炎を生み出し辺りを照らす。

 するとだだっ広い空間に巨大な岩があるのが見えた。

 岩には締め縄が巻かれており、その中央には人がいた。

 何か動物の骨を被り、鳥の羽をマントのようにあしらい、首には髑髏の首飾りをしている。

 まるでどこかの部族の呪術師ような格好だ。


「ゥ……ゥヴヴァァァァァァッ!」


 そいつは俺たちを見下ろすと凄まじい咆哮を上げた。

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