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意外と食通だった

 あれから数日が経った。

 結局マオはまだ旅立ってはおらず、この村にいる。

 目当ては……まぁ言うまでもないか。


「マオくーん、小籠包一つ下さいなー」

「は、はい……」


 キャロが声をかけると、マオはおずおずと小籠包を差し出す。


「ありがとう。それじゃあ二百ゴルドね♪」

「ま、まいどありがとうございます……」


 キャロがきゅっ、と手を握って渡すと、マオは顔を赤らめながら受け取った。

 うーん微笑ましいな。

 そんなわけで、結局マオは俺の作った屋台を使って商売をすることになったのである。

 こうして料理を作っては売り歩いて金を稼いでいた。


「はい、ヒトシさんもどうぞ」

「おう、さんきゅー」


 同じく二百ゴルド払って小籠包を貰う。

 といっても俺は屋台の貸出料を貰っているので、タダみたいなもんなんだがな。

 いやー小籠包、美味ぇーな。


「だがいいのかマオ? ウミツバメの巣を手に入れたのに店に戻らなくてよ」

「いえ、別にすぐに帰れとは言われていません。この地にはウミツバメの巣以外にも珍しい食材が沢山ありますから、もう少し料理修行をしていくのもいいと思いまして……」


 何て言いながらも、チラッとキャロの方を見るマオ。

 ……ま、俺は美味い飯が食えれば何でもいいんだけどな。


 ◇


 小腹が空いたので、俺はマオの所で肉まんを貰いに行こうとした。

 そういえばホカホカの肉まんをよくコンビニで買ってたっけ。

 マオのは本格的なやつだから、マジで美味いんだこれが。

 屋台を見つけて声をかけようとすると、マオ以外の人影が見える。


「ん、あいつ何やってんだ?」


 それは意外な人物だった。

 元勇者パーティの戦士、俺に張り倒されて二度と悪さをしないという約束をして村で生活しているラガーである。

 最近はすっかり大人しくなっていたが、一体何をしているんだろうか。


「あの男……マオに大量の料理を作らせているぞ。しかも何やら文句を言っている様子だ」


 ジルベールの言う通り、ラガーの前には沢山の皿が並んでおり、マオに何やら喋りかけていた。


「きっと料理が不味いなどと言いがかりをつけているに違いない! 我が弟子に対しての横柄な態度、万死に値する!」

「あ、おいジルベール」


 俺が止めるのも聞かず、屋台へと突っ込んでいくジルベール。

 いつマオがお前の弟子になったんだよ。

 慌ててついていくと、ラガーの悲鳴が上がった。


「ぎゃあああっ!? いてててっ! な、何するんだよォ!?」


 俺が駆けつけると、ラガーが情けない声を上げジルベールに押さえつけられていた。


「黙れ下郎! やはり貴様のような輩はあの時八つ裂きにしておくべきだったな!」

「待って下さい神獣様! ラガーさんは何も悪いことはしてませんよ!」


 割って入ってきたのはマオだ。

 ふむ、どうやらジルベールの早とちりだったっぽいな。


「離してやれジルベール」

「……ふん。紛らわしいことをやっていた此奴が悪い……ぬぐおっ!? い、痛いではないか主よっ!?」

「うっさい。お前が突っ走るのが悪い。少しは反省しろ」


 言い訳をし始めるジルベールにデコピンを喰らわせる。

 すぐ暴力に走るのは悪い癖だぞ。全く。


「むむ……ふん、悪かったな人間よ」


 ジルベールが前脚を避けると、ラガーは起き上がり服に付いた土を払った。


「……ふぅ、ひでぇ目にあったぜ。勘違いで殺されるところだった」

「で、何してたんだ?」

「味見っすよ。この坊主に頼まれたもんでね」


 ラガーの目配せにマオは頷く。


「はい、ラガーさんは世界を旅して回っていたから色んな料理にとっても詳しいんです! それで僕の料理を食べてもらって感想を聞いていたんですよ!」

「おうとも、世界の美味と珍味を食べ尽くしてきた俺の知識をこの坊主に教えてたんだ。責められる言われはないぜ」


 うんうんと頷くラガー。

 なるほど、旅の楽しみと言えば各地の美味い食事だからな。

 勇者パーティなら歓迎設けていただろうし、舌も肥えているという訳か。


「ふん、あの勇者と同行していたならば、世界各国の美食を堪能してきたであろうな」

「勘弁してくださいよ。神獣の旦那ァ、もう勇者の奴とは切れてるんす。あいつの横柄さには前からゲンナリしてたんだ。へへ……」


 早速かつての仲間を貶めるとは、中々変わり身が早い奴だな。

 ドン引きする俺に揉み手をしながら擦り寄ってくるラガー。

 世渡り上手というか何というか……いい性格してるぜ。あの身勝手な勇者の仲間はこうでないと務まらないのがしれない。


「にしてもラガー、お前それだけの量をその……食えるのか?」


 ラガーの目の前には大量の料理が積まれている。

 軽く十人前はあるぞ。見ているだけで胸やけを起こしそうである。


「当たり前っすよォ! 出されたものを残すなんてのは料理人に失礼だ。残さず全部食べるのが出された側の義務ってもんだぜ」


 任せろとばかりに胸を叩くラガー。

 その衝撃で腹がぼよんと揺れた。こいつ、こんなに太ってたっけ?


「このゲームでは食べ過ぎると肥満状態になってしまうポン。身体能力が大幅にダウンしてしまうよ。気を付けるポン」


 俺の疑問にポン吉が答えてくる。そういえばそんなステータス異常あったなぁ。

 こうして味覚がある以上、栄養にも少しは気を使った方がいいかもしれない。


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