ウミツバメの巣を食べた
ともあれ、俺たちは無事ウミツバメの巣を手に入れた。
その際にジルベールの背に乗ってマオについて行き作業を見ていたが、巣に入っていた卵を自分で作った模造の巣に移し替えていた。
壊れものを扱うようにそっと移し替えているマオを見て、俺は一人ごちる。
「というか魔物って卵を産むのか?」
ゲームでは魔物というのは自然にポップアップするものだったからな。卵もくそもないと思うのだが。
卵なんてオブジェクトかアイテムでしか見たことないぞ。
「その通り、あれはアイテムだポン」
俺の呟きに反応したのか、狸型マスコットインターフェースが俺の頭上に現れる。
こいつはポン吉、このゲームの初心者向け案内NPCで、皆には見えない。
ちょっとウザいので普段はオフにしているが、用語とか色々なことを教えてくれる便利な奴である。
「宝箱以外にも色々な場所を調べることで手に入るアイテムがあるよ。探してみるといいポン」
「あー、アレ系ね」
いわゆるタンスやツボを調べたら薬草が入っていた的なやつだ。
というかよく考えたら草刈りとかで色々拾ってたし、今更な疑問だったな。
ま、俺としては美味いものが食えれば何でもいいか。
◇
というわけで村へ戻った俺たちはマオの料理が出来上がるのを待っていた。
マオは余ったウミツバメの巣を手伝ってくれたお礼に俺たちに振る舞ってくれるそうだ。
売れば相当な金になるだろうにわざわざ調理までしてくれるなんて……本当に出来た少年である。
「いやーそれにしても楽しみですねぇ。ウミツバメの巣! 商人ならば一度は取り扱ってみたい食材ですよ」
「そうだな。俺もワクワクしてきたよ。それにしても一体どんな料理で出てくるのやら……」
ウミツバメの巣は名前は有名だがテレビや俺が行くような手軽な店では殆ど見ないからな。
実物もさっき初めて見たが、寒天みたいでどんな料理が出てくるのか想像がつかん。
だが漂ってくるいい匂いが何とも食欲をそそるじゃないか。
「そうだ、待ってる間暇だし中華テーブルを作ってみるか」
あの円形で回転する机である。中華料理と言えばあれだよな。
折角だし本格的にいくとしよう。
アイテムボックスから木材を取り出し、DIYスキルを発動させる。
トントントン、ギコギコギコ、トントントン。
高速でノコギリと金槌を動かすたび、テーブルが形を成していく。
「よし、できた!」
ちょっといい中華料理店で並べられているような中華テーブルの完成だ。
もちろん色は赤、細工を凝らした椅子もついでに作って並べてある。
「おおっ、流石ですヒトシ様! ……ですがこれは少々大きすぎるのでは?」
「うーむ、確かに……」
キャロの言う通りこの中華テーブル、少々デカすぎたかもしれない。
直径三メートルくらいあるかもな。
あまりに適当に作りすぎてしまったぜ。
「わ、すごいですねヒトシさん」
「すまんなマオ、テーブルが大きすぎて料理が映えないかもしれない」
テーブルが大きすぎると、それに乗った皿が小さく見えてしまうものだ。
これでは料理がショボく見えてしまうかもしれない。だがマオは首を横に振った。
「いいえ、別に問題ありませんよ――うん、出来た」
カン、と包丁を置く音がして、マオが料理を運んでくる。
どん、どん、どん、と並べられていく大、中、小皿。
それらが回転する中華テーブルの上に乗せられていき、テーブルの隙間が瞬く間に埋められていく。
「お待たせしました! 僕の満漢全席、ぜひぜひ御堪能ください!」
おおう、これだけのスペースを埋めきるほどの皿の数とは。
テーブルの外側には天心やスープ、サラダが並び、その奥が煮物、揚げ物、焼き物、そして最奥の中央には龍を模したものが皿の上に鎮座している。
俺が持っている食材を分けたとはいえ、これだけの量になるとはな。
しかもどの食材も見事な包丁細工をされているから、一見しただけじゃ何の料理かわからんな。
「すごい料理ですね! マオ君!」
「うむ、やるではないかマオよ。我の弟子になる気はないか?」
「あはは……ともあれ冷めないうちに召し上がってください」
キャロとジルベールに愛想笑いを返すマオ。
料理はとても、とても美味しかった。
あまり舌が賢くない俺でも分かるほどに上品かつ洗練された味で、見事というしかなかった。
「ふぅ、美味かったよマオ。ごちそうさま」
「ありがとうございます」
「だが一つだけ気になることがあるんだが……どれがウミツバメの巣だったんだ?」
「あぁ、あれですよ。今キャロさんが食べようとしてる」
「むぐっ!?」
指刺したのはデザート群の一つ、フルーツに彩られた杏仁豆腐だった。
いきなり呼ばれて驚いたのか、キャロはそれをごくんと飲み込む。
「けほっけほっ……こ、これがウミツバメの巣なんですか?」
「えぇ、手製の杏仁豆腐に湯で戻したウミツバメの巣を入れました。コリコリした触感をお楽しみください」
「あー、あれがそうだったのね」
俺も食べたが、なんというか触感を楽しむ為のものだったな。
味は……なんとなく卵の白身みたいな感じだった気がする。砂糖漬けでよくわからなかったけど。
ま、珍味なんてのはこんなものかもしれない。
「……! こ、これは……!」
突如、キャロが驚いたような声を上げる。
「お肌がツルツルになっている! 身体の中から綺麗になっていくこの感じ……すごい美容効果ですよこれはっ!」
そういえばウミツバメの巣は美容効果がある、なんて設定があったっけ。
「いやいや、いくら何でもそんなに早く効くはずが……うおっ!? お、俺の肌が何かおかしいぞ!?」
普段はカサついている肌がやけに潤っている。
……いや、しかしゲームでは回復薬で一瞬で傷が治るし、そう考えれば別におかしくはないのかもしれない。
「この食材……世の女性たちにすごく売れるに違いない。特に富裕層の女性は美容への興味がすごいですからね。10グラムにつき1000ゴルド……いや、10000ゴルドで売れるかも……ふふ、ふふふふふ」
腹黒い笑みを浮かべるキャロ。流石商人、金のこととなると真剣である。
「喜んで貰えたようでなによりです。はは……」
半笑いのマオに目を輝かせて詰め寄るキャロ。
「マオ君っ! よかったら私とビジネスパートナーとして協力しませんかっ!?」
「び、びじねすぱーとなー……ですか?」
「ええ! 商売人として協力し合おうという話です。私はマオ君の素晴らしい料理を世界に広めたい。その為のお手伝いをさせてくれませんかっ!?」
はっしと手を取ると、キラキラとした目をマオに向ける。
やれやれ、ちょっと暴走しすぎだな。止めるとするか。
「こらこら、マオは修行中の身だろ? 店も持たないってのに、いくらなんでもビジネスパートナーは早すぎるんじゃあ……」
言いかけて俺は気づく。
なんとキャロに手を握られたマオが顔を真っ赤にしているではないか。
「……えと、その……あの……」
「え? 何ですか?」
なんか無言でモゴモゴ言ってるし。
キャロはキャロで不思議そうに首を傾げているし。何だこの状況は。
「ふっ、女に手を握られて顔を赤くするとは、大人びて見えてもまだまだ子供のようだな」
ジルベールがしたり顔で笑っているが……マオもお前にだけは言われたくないと思うぞ。このコミュ弱狼。




