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断崖絶壁を登ろう

「おー、こりゃすごい絶壁だ」


 海岸の岩山を見上げてため息を吐く。

 見上げるほどのその高さは高層ビルくらいだろうか。


「ふむ、上の方に海風で削られた洞穴が空いているな。ウミツバメの巣とやらはあそこにあるのか」

「ウミツバメの巣を取り扱う商人の話を聞いたことがありますが、断崖絶壁にあるウミツバメの巣を人間が取りに行くには危険すぎる為、訓練した猿を使うそうですよ。確かにこの高さ、見上げるだけでも目が眩みそうですね。ぶるる、身震いが……」


 俺についてきたジルベールとキャロも、岩山を見上げてため息を吐く。


「……というか何で皆さんが来ているんですか?」

「俺たちのことは気にしないでくれ。邪魔しようってわけじゃない。ただウミツバメの巣を食べてみたいだけだからさ」


 こういうスローライフ的な生活を送っていると、食べ物の楽しみは大きなウエイトを占めているからな。

 元々メシ屋とかに行ったら、物珍しいものを真っ先に頼む俺である。

 珍味と聞くとやはり食べてみたい欲求に駆られるものだ。一体どんな味なんだろうか。それに……


「主よ、あそこまで登ればいいのか?」


 ジルベールがやる気満々といった具合に尻尾を振っている。


「あぁ、だがやれるのか? ジルベール」

「ふっ、我を何だと思っている?この程度の崖。跳び越えるなど造作もないことよ」

「跳び越えてどうする……」


 穴の中に入らなきゃいけないんだぞ。越えるな越えるな。


「ともあれ任せるが良い、主よ」


 俺が不安を抱く中、ジルベールは空高く跳躍する。

 言うだけあるな。流石は神獣。

 ジルベールはぐんぐんと伸び上がり、崖の上まで行き……その高さを越えた。


「っておい、やっぱり跳び越えてるじゃねぇか!」

「まぁ見ているがいい」


 ジルベールはそう言うと、空中で回転して方向転換し、穴の方へと頭を突っ込んだ。

 むっ、そう来るとはやるなジルベール。これならいけるか。そう思った時である。

 がんっ!と音がしてジルベール動きが止まる。

 頭だけを穴に突っ込んだまま、動かない。


「……これ以上は入れぬ」


 どうやら頭だけしか穴に入らなかったようである。

 期待を裏切らないというかなんというか……そんなに早くフラグを回収してくれなくてもよかったんだがな。


「ふぅ、危うく抜けなくなる所だったぞ」


 何とか頭を抜いて降りてきたジルベールは、身体をふるって毛皮についた土埃を払っている。

 結構勢いよく突っ込んだからな。

 昔、ネットニュースで岩に挟まったままミイラになった狼がいた事を唐突に思い出した。


「だが主よ、我もただ自爆したわけではないぞ。あの穴の中には確実にウミツバメの巣がある」

「でかしたぞジルベール」


 あれだけの高さを登ってなかったら無駄足もいいところだからな。

 ちゃんとそこにあるのが確認出来たのはよかった。


「えーと……もしかして僕を手伝ってくれているのですか?」

「まさか。俺もウミツバメの巣を食べてみたいだけだよ。とはいえ俺の得た情報をマオがどう使うかは自由だけどな」

「……そういうことであれば、ありがとうございます。無事手に入ったあかつきには、必ずお裾分けいたします」


 そう言うとマオは岩山を登り始める。

 すごい身のこなしだな。あっという間に五メートルくらい登ってしまった。

 素手のまま、命綱すら付けず、しかし全く不安を見せない見事な登り具合だ。


「むぅ、なんという速さだ。猿よりも崖登りが上手いのではないか?」

「速いだけではありません。まるで岩と一体化しているかのような安定感。命綱すら必要としていないのもわかります」


 ジルベールとキャロも感心している。

 そうこうしている間にもマオはどんどん登っていき、ついに穴に手をかけた。


「おおっ! 手がかかったぞ!」

「あと少しです! がんばって! マオ君!」


 二人が声援を送る中、マオがついに穴の中に入ろうとして――その身体が宙に投げ出された。


「危ねぇマオ! ……ジルベールっ!」

「心得た」


 俺が言うや否や、ジルベールはマオに向かって跳ぶ。

 すんでのところでマオを受け止め、無事に着地した。

 ふぅ、ひやひやさせるぜ。


「大丈夫かマオ?」

「……すみません。助かりました」

「一体どうした、疲れてしまったのか?」

「いえ……!」


 そう言って岩山を睨むマオ、穴の中から何かが飛び出してきた。

 小さく、そして無数の何か。あれは――ウミツバメである。

 ウミツバメがいきなり飛び出してきて驚いて落ちてしまったのだろうか……いや、そういう感じではないな。


「チチチチチ……!」


 ウミツバメは空中で群れを作り、威嚇するように俺たちを見下ろしている。

 本来は人間など気にしない大ざっぱな性格のはずだが……なーんか嫌な感じだぞ。


「油断しました。やはりウミツバメは厄介な魔物ですね……!」


 マオがぼそりと呟く。

 え!? ウミツバメって魔物の方かよ。

 このゲームにはリアルの動植物と魔物が同時に存在しており、中には同名の物も存在する。

 その一つがウミツバメ、生息域も同じことからトラップ扱いされているのだ。


「来るぞ、主よ」

「くそ、ややこしいんだよ!」


 ウミツバメ(魔物)が襲いかかってきた。



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