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燕の巣を手に入れよう

「わっ、本当だ! マオ君の料理、とっても美味しいですね!」


 垂れた犬耳の獣人少女、キャロがマオの料理を食べて驚いている。


「ある程度料理を嗜んでいる私にはわかる。この子の料理は素人のそれとは一段も二段も上……ううん、一流の料理人と比べても遜色ないレベルだわ。この子を上手くプロデュースすれば、大繁盛店間違いなし。上手く販路を確保すれば世界も狙えるかも……!」


 そして商人らしい欲望をブツブツと一人ごちるキャロ。

 おいおい、店を開こうにもここには客が俺たちしかいないんだぞ。


「あはは、僕はまだ修行中の身です。店を持つなんて早すぎますよ」

「いやいや、そんなことはありません! マオ君の腕なら天下が取れます!」


 キャロの目が$になっている。

 ふむ、そういえばワールドクラフトでも村を作って住民が増えてくると、店を開いて稼ぐ者も出てくるんだよな。

 マオもしばらく村にいるなら何か仕事が必要だろう。誘った手前、俺も少しは協力するか。

 それにマオの料理は俺も食いたいしな。うん。


「よし、マオの屋台を作るとするか!」


 ご存知、ラーメンやおでんで有名なアレである。

 これならDIYで簡単に作れるしな。調理場には金属を使うので、その練習にも丁度いい。

 というわけでDIYスキル発動。

 トントントン、カンカンカン、トントントン。

 という訳であっという間に屋台の完成である。


「うわっ! な、何ですかこの立派な屋台は!? しかも出来るのが早すぎません!?」

「ふふん、主は大賢者だからな。この程度は朝飯前だ」


 何でお前が偉そうなんだよジルベール。


「はぁ……流石はヒトシさんですね……」

「どうだ? 気に入ったか?」


 俺の言葉にマオは考え込むような顔をした後、首を横に振って返してきた。


「貴様! 主が造ったものが気に入らないと宣うか!」

「い、いえ! とても立派な屋台で僕にはもったいないくらいです! ……ですが、それは受け取れません。僕にはまだやらなければならないことがあるんです」


 神妙な顔つきでマオが言葉を続ける。


「僕がここに来たのは料理修行の為ですが、実はもう一つありまして……伝説の食材『ウミツバメの巣』を手に入れに来たのです」


 ウミツバメというと、海で生活する海鳥の一種だな。ちなみにツバメと名が付いているが種類は違う。

 断崖絶壁に自分の唾液を固めたゼリー状のもので巣を作り、それが一般に高級食材として知られる燕の巣である。

 そういえば沿岸部に、ウミツバメが巣を作りそうな高い岩山が連なっていたな。


「ウミツバメは僕たちの大陸には殆ど巣を作らないので、外の大陸に巣を取りにいかねばなりません。大陸を出ての旅は過酷、知識、経験、精神力、生存力……様々な能力が試されます。そうして見事、ウミツバメの巣を持ち帰ることが出来れば一人前と認められ、店を構えることが出来るのですよ」

「へぇ、厳しいんだな」


 料理修行の旅か。何か昔の料理漫画でも見ているみたいだな。

 そんな事をしていたら、いくら名門店でも人がいなくなりそうなもんだが。


「ふむ、だがわざわざそんな大変な旅は料理の腕には何の関係もないだろう。無駄な苦労などせずとも、買えばいいのではないか? 如何に高級な品と言えど、探せば手に入るだろう」

「無駄な苦労なんて何一つありませんよ。神獣様」


 静かにそう呟くマオ。


「物事には無関係に見えても様々な繋がりがあるものです。例えば鍋の製造方法、料理人には直接の関係はありませんが、これを知ることにより火の通易い箇所、通り難い箇所、脆い箇所、丈夫な箇所……その詳細な構造が手に取るようにわかります。自分で作ってみれば特にね。そうすれば鍋の振り方一つも変わってくるというものですよ」

「そういうものか?」

「少なくとも僕はそう思っています」


 ジルベールは首を傾げているが、マオの考えには一理ある。

 色んな事に挑戦すれば、その分多方面での経験が得られる。

 旅なんかはモロにそうだな。

 特にこの世界のように、何もかも自分で用意しなければならないなら尚更だ。

 そう思ってはいても、ちゃんと行動出来るというのは立派というかストイックである。

 ダルいのが嫌いな俺にはとても無理な話だが。


「この試験を乗り越えれば僕は一級厨師になれる。店を構えるのはその後で、です。故に申し訳ありませんがヒトシさん。その屋台は受け取れません。折角こんな立派なものをあつらえてくれたのに恐縮ですが……」


 深く一礼をするマオに、俺は手を振って返す。


「あー、いいよ。気にしないでくれ。俺が勝手にやったことだしな」

「申し訳ないです」

「……だが、ツバメの巣か。俺も食べてみたいな」


 何せ高級食材だ。俺みたいな庶民はそんなもの食べたことがない。

 折角だし一度くらいは食べてみたいものである。


「俺もそのツバメの巣ってやつを狙ってみるか」


 俺はにやりと笑うと、そう宣言した。

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