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食料を手に入れよう

 チュンチュンと鳥の鳴き声で目が覚める。

 俺はゆっくり起き上がると、大きく伸びをした。


「くあー……よく寝たぁ……くしゅん!」


 大きなくしゃみをしてしまう。

 夜は寒かったからな。布団は材料がなくて作れなかったからな。


「ポン吉、今は何月だ?」

「4月16日だポン」


 この世界にも四季はある。これくらいの時期なら昼は暖かいが夜は肌寒いだろうな。

 ちなみに現実世界では12月、昨日のは夢で起きたらいつもの日常に戻っていることを少しだけ期待したが、どうやらそう甘くはないらしい。


「ポン吉、この世界から出る方法は?」

「何を言ってるかよくわからないポン」


 首を傾げ、頭上に『?』を浮かべるポン吉。

 はぁー……やはりここで暮らしていくしかないんだな。

 覚悟は決めたはずだが、弱音が漏れてしまう。


「いかんいかん、腹が減ってるから気分が落ち込むんだ。何か食おう」


 俺の朝食はいつもコーヒーと高級生食パンなのだが、そんなものがあるはずもない。

 贅沢言わずに自力で調達しなければならないだろう。

 というわけでDIYスキル発動。

 トントントン、ギコギコギコ、トントントン。

 出来上がったのは釣竿だ。


「釣竿だね。これで魚が釣れるポン」

「……って本当にこんなので釣れるのか?」


 ゲームでは餌も何も必要ないが、大丈夫なのだろうか。不安だ。

 まぁミスってリスクがあるわけでもなし、まずはやってみよう。


「川に魚の影が見えるから、そこ目掛けて釣竿を振ればいいポン」

「わかってるっての」


 川べりをゆっくり歩きながら、魚の影を探す。

 あまり速く動くと魚が逃げてしまうので、その辺注意が必要である。……おっ、発見。


「よーしよし、逃げるなよー……」


 じりじり動きながらポジション取りをする。よし、ここならいけそうだ。

 魚の前方目掛けて向かって針を投げ込む。ほいっとな。

 すると気づいた魚がツン、ツンと針をつついてくる。

 だがまだ我慢だ。食いついてくれないと逃げられてしまう。

 ……、……、……、いまだ!

 タイミングを見計らって釣竿を上げると、見事魚がかかっていた。


「おっ、アユだね。お見事ポン」


 ぱちぱちぱち、と手を叩くポン吉。

 アユか。いいのが釣れたな。幸先いいぞ。

 清流に住む川魚で、塩焼きにすると美味いのだ。

 このゲームでは釣りや猟ができるのだが、それで捕らえられるのは実在する様々な種なので現代人である俺でも抵抗なく食べられる。

 謎の魔物肉とかちょっと食べる気がしないもんな。


「一匹じゃ足りないな。もう少し釣っておこう」


 また釣竿を垂らし、魚を釣り上げる。

 フナ、コイ、ドジョウ、空き缶……ハズレを引きつつも、何とかアユ三匹を釣り上げた。


「逃がすのはもったいないし、池でも作るか」


 というわけでDIYスキルを発動させる。

 トントントン、ギコギコギコ、トントントン

 出来上がったのは、池だ。

 石で囲っただけの簡素なものだが、一応川と繋げており水を循環できるようになっている。

 もちろん魚が逃げないよう、かえしも付けているのだ。

 そこへ釣った魚をぽいぽいっと入れておく。

 ゲームでは捕まえた生き物を飼育したりもできるのだ。

 別に非常食にしようとしたわけではない。俺はただ生き物を愛でるのが好きなだけだ。

 珍しい魚を釣ったらここに入れておくとしよう。


「うんうん、元気よく泳いでいるな」


 俺が作った即席の池で、魚たちは元気に泳いでいる。

 昔、川で捕まえた魚をバケツとかに入れて飼ったなぁ。

 上から眺めているだけでも割と楽しい。 


「おっと、腹が減ってるんだった。さっさと食べるとするか」


 DIYスキルで焚火を作る。

 これは序盤で作れる料理道具で、捕った生き物を焼いて食べることができるのだ。

 ちなみに火は摩擦熱で起こす。STRが低いと中々付かないが、バグのおかげであっさり火がついた。

 木の枝を突き刺したアユをかざすと、パチパチと脂が爆ぜていい匂いが漂ってきた。


「美味しそうな匂いが漂ってくるポン」


 くんくんと鼻を鳴らすポン吉。

 ちなみに生焼けだったり腐っていたりしてマズいものが出来た場合はそう言ってくれる。

 アユを火から離し、フーフーと息を吹きかけて食べる。


「美味い……けどちょっと物足りないな」


 塩とか醤油とかが欲しいところだが、贅沢言っても仕方ない。

 ていうか結構焦げてるし。直火焼きって地味に難しいんだな。

 とはいえ空腹は最高のスパイスだったようで、三匹のアユはあっという間に俺の腹に収まった。


「ふぅ、腹ごしらえ完了。さーて、本格的に生活基盤を整えるとしますか」


 はっきり言って足りない物は沢山ある。

 頑張ろう。俺の快適なく生活の為に。うん。


 何はともあれ、まずは衣食住が揃ってこそ人間らしい生活が送れるというものだ。

 今の俺は部屋着に使っていたジャージ、家には何もなし、食べ物は魚という無人島生活並みである。

 これはいけない。早急に文化レベルを上げなければ。

 釣りや猟でも食べ物を得ることは可能だが、野菜や果物を手に入れなければ栄養失調になってステータスが下がってしまう。

 バランスの良い食事が大事ってわけだ。

 別に健康厨ってわけじゃないが、ある程度はバランスの良い食生活を送りたいと思ってるしな。


「というわけで今日は素材集めに加えて食料を探してみるか」


 向こうに見える森では麦や稲、芋などの自生している野菜が手に入る。

 それらを手に入れ畑を作れば、危険を犯す事なく食べ物にありつけるというわけだ。

 だが森は少々厄介だ。木が邪魔になって視界が悪く、弓の射程も下がる為ポン吉の索敵モードも機能しないので、運が悪ければ魔物に不意打ちされる可能性がある。

 いくらSTRがバグってても、俺自身は戦闘の素人。

 接近されると敵の攻撃を受ける可能性は高い。痛いのは嫌だ。


 全ステータスをバグらせる方法もあるが、この手のシステムに介入するバグ技はやり過ぎるとフリーズする可能性が飛躍的に高まると攻略本とかで書いてたしな。

 そうなった場合、俺の身に何が起こるかは想像もつかない。

 死ぬより恐ろしい目に合うかもしれないしな。例えば永久に動けなくなるとか……想像しただけでブルっちまうぜ。

 故に現状のSTRだけをバグらせた状態で、周囲に気を付けながら行くべきだろう。

 というわけでステータスを確認してみる。


「……なんだこりゃ?」


 イトウヒトシ

 レベル9

 STR1

 VIT21

 AGI1

 INT1

 DEX1

 LUK1

 ステータスポイント26


 バグった値が何故か元に戻っている。

 ……危ないところだったな。

 このまま戦闘になったら死んでいた。

 寝て起きたらリセットされたのだろうか。これからはこまめにチェックした方が良さそうだ。

 俺は例の手順でまたSTRをバグらせる。


「……っ!?」


 一瞬、目の前がぐにゃりと歪む。

 だがすぐに戻った。何だったんだ今のは。


「ポン吉、何かしたか?」

「何を言ってるかよくわからないポン」


 首を傾げ、頭上に『?』を浮かべるポン吉。

 うーむ、気のせいだろうか。

 ステータスを見てみると、正常にバグっていた。


 イトウヒトシ

 レベル9

 STR{}+{{L+S+=A=`I"#‘GA+Z*+SA{=

 VIT21

 AGI1

 INT1

 DEX1

 LUK1

 ステータスポイント26


 ……よし、ステータスは正常にバグっている。

 それにしても今の眩暈、まさかフリーズしかけたとかだろうか。

 だとしたらやはりバグ技を乱用するのは危険すぎるな。


 準備を終えた俺は森へ向かって歩き始める。

 魔物に見つからないようにコソコソ進むこと約三十分、ようやく森に辿り着いた。


「しかし……これは予想以上に木が多いな」


 近くで見ると森はかなり大きく、草も高い伸びている。

 ここで魔物の相手をしながら目当ての植物を探すのは無理だな。


「仕方ない、森には入らず外周の草を刈っていくか」


 魔物に突然出くわすくらいなら、森には入らない方がマシだ。

 視界を確保しながら慎重に作業するとしよう。

 弓を装備できないから、ポン吉索敵モードも使えないしな。

 アイテムボックスから石と枝を取り出し、DIYスキル発動。

 トントントン、ギコギコギコ、トントントン


「よし、石鎌の完成だ」


 鎌は大昔からある草刈り道具で、今は大型のものは殆ど使われなくなったが死神の武器などで知名度は割と高い。

 石鎌を手に思い切り振り回すと、ざん! と草が一気に切断された。

 これなら少々魔物が出てきてもまとめて倒せそうだが……あんな恐ろしい生物を前にして冷静に鎌を当てられる自信はない。本来の用途で使うとしよう。

 どんどん草を刈り、それを拾っていく。


「ススキを手に入れたよ」「ヨモギを手に入れたよ」「カタバミを手に入れたよ」「竹を手に入れたよ」


 ポン吉のメッセージがウザいので、切っておく。

 気づけばアイテムボックスには大量の草花が並んでいた。

 アイテムボックスの草フォルダを開けると、聞いたこともないような無数の草花が並んでいた。

 雑草で一括りにすればいいのに、このゲームはそういうところ異常に作り込んでいるのだ。

 当然栽培も可能で、植物学者かなんかがその出来栄えをすごく評価していたっけ。

 俺は草花には興味ないからスルーだったけど。


「あ、木もまとめて切れちゃった」


 本来なら木を切る際は斧に切り替えるべきなのだが、STRバグのおかげで鎌でも全く抵抗なくぶっとい木を切断できた。

 わざわざ持ち替えるのは面倒だったから助かるな。

 倒れた木を拾い、木材をゲット。

 ちなみにこの木材もアイテムボックス内でフォルダ分けされており、サルスベリとかスギとか様々な種類がある。

 これらの素材は特に指定しなければ自動消費し、指定すれば個別に使えるのだ。

 ちなみに、アイテムボックス>素材>木>スギ、みたいな感じでフォルダ分けされている。

 魔物に警戒しつつ、草を刈りつつ木も切り倒していく。

 拾ったものはアイテムボックスにどんどん入れていく。

 全部木と草ではあるが、すごい勢いで埋まっていっている。

 魔物が出てこないよう祈りながら、作業を続けた。


「ピギッ!?」

「わっ!」


 いきなりの鳴き声に、俺は驚き手を止める。

 一体何が起こったのだろうか。俺は石を手にぐるりと辺りを見渡す。

 魔物だろうか。こんな事もあろうかとちゃんと視界を確保しているぞ。いつでも来い。

 身構えていると、


「ピ……ギィ……」


 弱々しい声の後、ぱぱぱーん! という音が頭に響いた。

 レベルアップしたようだ。一体何故?


「ん、もしかして……」


 先刻切り倒した木の辺りを見ると、獣らしきものが下敷きになっていた。

 頭が潰されスプラッタになっているから何かはわからない。相変わらずグロい。

 そういえばこのゲームは罠を張って敵を倒すことも出来るんだった。

 木を倒した時に偶然下にいたのだろう。

 ポン吉を切っておくとこういう時びっくりするな。……一応つけておくか。


「ふーむ、脚の形から見てでっかいウサギかな」

「ホーンラビットを倒したよ。レベルアップおめでとうポン」


 確かに、この辺りでウサギ型の魔物といえばホーンラビットだろうか。限界は留めていないけど。

 そんなことを考えているとホーンラビットの死体は消滅し、毛皮と肉が残った

 このゲームでは普通の獣は死体のまま残り、解体して利用するのだが、魔物はアイテムだけ残して消滅する。

 見た目は美味そうな肉だが、魔物の肉なんてあまり食べる気は起こらない。

 俺は食べ物に関しては保守派なのだ。

 とはいえあって困るものでもない。非常食としてとりあえずアイテムボックスに入れておくか。


「ん、これは……!」


 戦利品を眺めていると、アイテムボックスの中に見知った形の植物を見つける。


「稲だね。ふわふわのごはんにして食べたら、とっても美味しいポン」


 両手を合わせ、嬉しそうに『♪』を飛ばすポン吉。

 稲、というか米は言うまでもなく現代食の中で最も使われている食材の一つだ。

 どうやら草刈りをしている時にいつの間にか拾っていたようである。


「よし、幸先いいぞ」


 稲を育てれば米が食べられる。

 米は低コストで大量収穫出来て保存も利く為、ゲームでも便利な食材だ。

 森の奥に生えていることが多いので数日は手に張らないのを覚悟していたが、初日で手に入ったのは幸運だった。


「稲も手に入ったことだし、今日はこの辺で帰るか」


 まだ日は高いが、昼の中にやらなければならないことはたくさんある。

 索敵しながらでは帰るのも時間がかかるしな。

 夜になったら魔物が多く出るので、外にいるのは危険だ。

 というわけで俺は早めに帰還するのだった。

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