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料理少年だった

 黒髪短髪の少年は後ろ髪を結んで弁髪にし、赤色の胴着に黒いズボンを履いている。

 年齢は十歳くらいだろうか、如何にも中華風といった格好だ。

 あれは確かシン国の民族衣装だったな。

 このワールドクラフトの世界には六つの大陸があり、その中の一つが中央大陸に存在するシン国だ。

 確かこの小島とはかなり離れている筈だが……何でここにその少年がいるのだろうか。


「おーい、大丈夫かー?」

「う……こ、ここは……? あなたたちは……?」

「主よ、目を覚ましたようだぞ」


 ジルベールと顔を覗き込んでいると、呆けていた少年は慌てたように目を見開いた。


「……はっ! もしかしてあなた方が僕を助けてくれたんですか!?」

「うむ、我らが見つけなければ少年、お主は獣の餌になっていたであろうな。感謝するといい」

「いや、俺たちは君が倒れていたのを見つけただけだろ……すぐ目を覚ましたし」


 ジルベールはすぐ話を盛るから困る。

 だが少年は勢いよく起き上がると、左掌と右拳を合わせて礼をする。


「いえっ! 助けていただきどうもありがとうございました! 僕の名はマオ=シンクー。修行の旅の途中だったのですが、力尽きて倒れてしまいました。受けた御恩は忘れません! 今一度礼を言わせてください!」


 少年はハキハキした口調で自身をマオと名乗った。

 言葉使いもしっかりしていているし、ずいぶんと礼儀正しい子だな。


「俺はヒトシだ。こっちはジルベール」

「ふん、言っておくが我は神獣だ。易い口を聞くでないぞ」


 偉そうにふんぞり返るジルベール。

 ったくそんな事だから友だち出来ないんだぞお前。


「神獣様! 知らぬこととはいえご無礼を!」

「ふふふん」


 しかしマオはより深々と頭を下げた。

 俺は調子に乗っているジルベールの頭にゲンコツを落としておく。


「……むぅ、痛いぞ主」

「それが子供相手に言うことかっての。……えーと、マオ君だっけ? こいつのことはでっかい犬だとでも思っておけばいいよ」


 俺がジルベールを叱っているのを見て、マオは目を真ん丸にして驚いた。


「なんと、神獣様を従えているなんて……ヒトシさんはもしや神? もしくは大賢者なのですか?」

「ないない、普通の人間だよ」


 ていうか誰も彼も俺を大賢者と勘違いしているが……神と等しい存在なのか?

 大賢者ってのが何なのかわからなくなってきたじゃないか。


「ふっ、そうは言っているが主はまさしく大賢者なのだよ。しかし主はあまり人に知られることを好まない。けして言い広めるでないぞ」

「は、はい! 肝に銘じておきます!」


 いや、お前が率先して広めてるし。

 言ってることとやってることがめちゃくちゃである。

 呆れていると、ぐぅーーーっ、と大きな音が鳴った。

 一体何の音だろうか。近くで聞こえたようだが……辺りを見渡すと、マオが赤面し恥ずかしそうに俯いていた。


「……すみません。恥ずかしながらもう三日も何も食べておらず……いい匂いに釣られてここまで来たんですが、もう限界でして……」

「おいおい、それなら早く言えよ」


 俺が作ったチャーハンの匂いに釣られてきたのか。

 そんなに腹が減ってたなら食わせてやりたいところだが……


「タイミング悪かったなマオ君。さっき食い終わったところなんだよ。まぁちょっと待っててくれ、作ってやるから」

「材料はまだ残っていますか?」

「ん? あぁ、一応まだあるが……」

「そちらをいただければ僕が自分で作ります。修行というのは料理修行なのですよ」


 先刻とは違った声色、マオの雰囲気が変わったような気がした。


「別に構わないぞ」

「多謝、では色々お借りします……ハッ!」


 言うが早いか、マオはアイテムボックスから調理器具を取り出し俺の渡した食材を切り刻んでいく。

 とんでもない手際の良さだ。

 昔テレビで見た、料理の鉄人たちと比べても遜色ない動きである。

 マオの鍋捌き、あるいは包丁捌きに、俺はただ見惚れるのみだ。


よし、完成です!」


 出来上がったのは俺が作ったのと同じチャーハン、しかし見ただけで比べものにならないのは分かる。

 米一粒一粒の色艶が違うし、香りも圧倒的だ。

 さっき食べたばかりにもかかわらず、俺とジルベールの喉がごくりと鳴る。


「よろしければヒトシ様とジルベール様も食べますか?」

「おお、いいのか? だったら遠慮なく……」


 言われるがまま、俺はチャーハンを口に運ぶ。

 むほっ! これはすごい! 半端な美味さじゃないぞ。


「はぐっ! はぐっ! うむ、これは素晴らしい!主のも美味かったが、これも相当なものだぞ!」

「くそー、悔しいが格が違うな。やるじゃないかマオ、美味すぎるぜ」

「良かった。口に合ったようですね」


 にっこり笑うマオだが、口に合うなんてもんじゃない。

 まだ子供だってのに、どれだけ修行すればこの領域に達するのだろうか。

 素直に尊敬である。

 そしてちょっと惜しい。この料理、もう少し食べたいよな。


「……なぁマオ、実は近くに俺の村があるんだが、よかったら来ないか?」

「いいのですか!?」

「あぁ、ぜひ歓迎するよ。なんならしばらくいるといい」


 嬉しそうなマオを見て、俺はほくそ笑む。

 これでマオがいる間は美味いメシが食えそうだ。

 ついでにチャーハンのコツとか教えて貰おうかな。

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