中華鍋を作ろう
トントントン、カンカンカン、トントントン
軽快な音の中、俺は手にしたハンマーとノコギリを高速で動かしていた。
自分でも驚く程の速度と正確さで思い描く道具が作られていく。
これはDIYスキルというもので、生み出した工具を操り家具やら何やらをDoItYourselfするというものだ。
……というかまずはスキルの前に現状を説明せねばなるまい。
ごく普通の社畜だった俺は、ワールドクラフトというゲームをプレイしようとして気づけばその世界の中にいた。
困惑しつつもこのゲームで最初から使えるこのDIYスキルで色んな道具を生み出し、何とか生きてきたのである。
「良い朝だな、主よ」
いつの間にか横にいた大きな犬が言う。
こいつはジルベール、一見大型犬にしか見えないが実は神獣というもので喋ったり魔法を使ったりと色々便利な奴だ。
「おはようジルベール、良い朝だな」
「うむ、風の精霊に聞いたが今日の天気は晴れ時々曇り。昼からは強い風が吹くであろう。夕方には雨がパラつくかもしれんな。南の方では……」
べらべらと今日の天気について語り始めるジルベール。
以前、会話に困った時どうすればいいのか聞いてきたので、だったら天気の話でもすればいいだろと教えておいたが……天気予報をしろとは言ってないぞ。
「おおっ、素晴らしい! 天気の話をしたら会話が途切れないぞ! 流石は我が主よ!」
「お、おう……」
ま、少々コミュ力に問題があるのがたまにキズだが、悪い奴ではない。
「ところで今度は何を作っているのだ?」
「あぁ、中華鍋を作ろうと思ってな」
DIYスキルにはレベルがあり、今までは初期段階だったので木や石を使ったものしか作れなかった。
だが勇者を倒して得た文明石により、DIYスキルがレベルアップして金属の加工が可能になったのだ。
金属加工は石に比べて圧倒的に高精度なモノが作りやすく、使い所も色々あるのは現代文明を生きる者としてわざわざ言う必要もないだろう。
そこまで言って何故中華鍋を作っているかというと……何というかまぁ、チャーハンが食べたかったのだ。
……別にいいだろ、人間なんて目先の欲望の為に動くものなんだからよ。
むしろ特にビジョンもないのに鉄骨やら何やら作っても材料の無駄である。ただでさえ金属品は勇者が乗ってきた船に積んであったやつしかないしな。
以前読んだ料理漫画によると、中華鍋は火力が均一に行き渡るのでパラパラのチャーハンが作れるらしい。
それを思い出し、やってみようと思った次第である。
「よし、出来た!」
そんなことを言っている間に中華鍋の完成である。
しかし結構時間かかったな。
DIYスキルは使用すればする程熟練度が上がり、製作速度が上がる。
今までは木材や石など加工しやすい材料ばかりだったからステータスでどうにでも出来たが、これからはそうもいかない。
とにかく色々作って熟練度を上げていかないとな。
「さて、早速チャーハンを作ってみるか」
「主よ、ちゃーはんとは何だ? 美味いのか?」
「美味いぞー。沢山作ってやるからな」
「おおっ、それは楽しみだ!
ジルベールは尻尾を振りながらちょこんと座る。
よっしゃ、腹も減ってきたし作るとするかな。
実はチャーハンは俺の得意料理で、休日の昼にはよく作ってはお笑い番組見ながら食べたものである。
くーっ、思い出したらよだれが出てきたぜ。
「まずは鍋を火にかけ、油を回し入れる」
アイテムボックスから焚き火を取り出し、更に油をかけた。
油は植物油を使った天然物、やや苦味はあるが使えない事はない。
「そこへ野菜を投入、いい感じの色になったら鶏ガラダシで味付けだ」
野菜は以前森で収穫したもの、鶏ガラはそこらにいたニワトリを捕獲し、残った骨とクズ野菜を素材にDIYした。
「溶いた卵をご飯と混ぜて、鍋に入れる」
ニワトリに産ませた卵と以前収穫した米だ。
この世界に来たばかりの頃はニワトリどころか米も野菜もなかったものだが、色々出来る様になったものである。しみじみ。
それら全てを鍋に入れてかき混ぜていると、すごくいい匂いがし始める。
「おおおおお! 主よ、これはとんでもなく良いものだぞ!」
「ふふふ、もう少し待ってろ。……よし、完成だ」
おたまでチャーハンを掬って、皿に盛り付ける。
お手製パラパラチャーハンの出来上がりである。
「熱いから気を付けて食べるんだぞ」
「はふっ! はふっ! もっふもっふ……うむ、美味かったぞ! もっとくれ!」
ジルベールは熱さなど全く意に介さず、ぺろりと食べてしまった。
尻尾をブンブン振りながら、おかわりを要求してくる。
「ったく仕方ない奴だな。ほら」
「うむ、美味い美味い。普通の米も十分美味いが、このチャーハンとやらはパラパラしていて幾らでも飲み込めるぞ!」
気持ち良いまでの食べっぷりだな。俺まで腹が減ってくるじゃないか。
よーし、俺も食べるとするか。
自分の分を皿についで食べ始める。
……うん、いいね。以前と同じ素晴らしいチャーハンだ。
俺が自分のチャーハンに舌鼓を打っていると、ジルベールが顔を上げた。
「主よ、何者かが近づいてきているぞ」
「ん? キャロじゃないか?」
「……いや、違うな」
キャロじゃないならイズナか? もしくはカミーラ? それともラガー?
皆、村の方へいるはずなのだが……俺が首を傾げていると、ジルベールが顔を向けた方に小さな影が見えた。
影の主は少年だった。十歳くらいだろうか、背中にリュックのようなものを背負っている。
こちらに歩いて来ているが……あ、倒れた。
「……どうする主よ?」
「放っておくわけにもいかないだろう」
見てしまったからにはな。しかも子供だし。
俺は少年に駆け寄ると、抱き起こすのだった。
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