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宴をやり直そう

「……ってやべっ、もしかしてやりすぎたか?」


 ユーリはまだ落ちてくる気配はない。

 投げた方向は海の向こう。あのまま飛んでいけば海のど真ん中に落ちてしまうだろう。

 何しろ相手は勇者、下手な加減は命にかかわるからと思い切りぶん投げたが……流石にマズかったかもしれない。

 呆然と眺めていると、イズナが口を開いた。


「案ずるでない。勇者という存在は何があろうと絶対に死にはしない。そういうものなのじゃ。必ず生きておる」

「しかしいくら何でもあれでは……」

「勇者となった者は代替わりするまで死ぬことは出来ぬ。死のうとしてもな。必ず生きておるじゃろう。ほれ、それが証じゃ」


 イズナの指さす先を見ると、先ほど俺が飛ばしたブレイブリーソードがいつの間にか消えている。


「あれ? あの剣どこ行ったんだ?」

「勇者の剣、ブレイブリーソードは勇者と運命を共にし、何があろうと勇者の元へと帰っていく。それが起動したということは生きているという証じゃ」

「へぇ、そういうものなのか」


 そういえばそんな設定をどこかで見た気がしなくもない。

 そう考えると少しは罪悪感も薄れてきたな。

 あれだけぶっ飛ばせば、リベンジもしてこないだろうし、結果オーライだな。うんうん。


「ん、何か落ちてるぞ?」


 ユーリを投げ飛ばした場所に何かがキラリと光っている。

 拾い上げてみると、それは小さな宝石だった。


「これは……文明石じゃないか」


 しかも黒、中々いいものを落としていったな。


「ヒトシ様、ブンメイセキとは何なのですか?」


 いつの間にか帰ってきたキャロが問う。


「DIYスキルのレベルを上げるアイテムだよ」


 DIYスキルで作れるものはゲームの進行度合いに比例して増えていくが、それを大きく進めるのがこの文明石である。

 特に黒は重要で、鉄製品の作成を解禁するのだ。


「これがあれば、また村を発展させられるな」


 鉄で作れて有用な物はかなりある。

 勇者様々と言ったところだな。


 ◇◇◇


「さーて、宴をやるぞー!」


 というわけで気分を改めて、宴の始まりである。

 乾杯をしてぐいっとひと飲み。

 かー、美味い。

 並べた串を焚火で炙って口に運んでいく。

 運動をした直後の酒と飯は最高だ。

 幾らでも入りそうである。


「あの、ありがとうございましたヒトシ様」

「ん?」

「私の、味方をしてくださって……」


 キャロが目を潤ませながら礼を言う。

 ユーリをぶっ飛ばしたことを言っているのか。

 あれについてはむしろ俺の方が責められてもいい気がするのだが。

 我ながら無茶した。反省である。


「お待たせしやしたぁ! ビール大でございやす!」


 ビールを手に現れたのは、ラガーだ。

 ユーリが吹っ飛ばされたのを知るや、いきなり土下座してきたらここに住まわせてくれと言ってきたのである。


「サンキュー。楽しんでるか? お前の歓迎でもあるんだぜ」

「へ、へいっ! ありがとうございやす!」


 ヘコヘコしながら去っていくラガー。

 俺の力は十分見せつけたし、ジルベールに見張らせておけば悪巧みも出来ないだろう。

 人手は欲しかったので、迎え入れることにしたのだ。

 ま、この調子なら問題ないだろう。

 しっかり働いてもらうとするか。


「主よ、共に曲を奏でようぞ」


 ジルベールがカスタネットを口に、俺を誘う。

 おっと、そうだった。その為に楽器を作ったのだ。

 ここらで一発、盛り上げるとしますか。


「ポン吉、サウンドテストモード」

「了解だポン。曲を選ぶポン」

「あぁ、当然曲は――」


 オカリナを取り出し、奏で始める。

 曲はもちろんこのゲームのオープニング曲『ワールドクラフト』

 ――♪

 音楽が流れ始めると、皆一様に聞き入っている。


「この曲……聞いたはずがないのに、どこか懐かしい気がします」

「魂の故郷とでも言うべきか……流石は我が主だ」

「ふぅーむ、神であるわらわすら知らぬ曲とはのぅ。やるではないか」


 そりゃ、この世界の根幹たる曲だからな。

 皆が知らずとも懐かしく思うのは当然である。

 気づけばキャロが歌を歌い始めていた。

 ラガーも手拍子を打っていた。

 イヅナも笛を吹き始めた。


 それだけではない。

 羊もタップを踏み、鳥たちも囀り始める。

 森の奥からはカエルや虫たちの鳴き声が、獣の遠吠えまで聞こえてきた。

 それらが全て合唱となり、静かだった村が騒がしくなっていく。

 この世界の生き物全てにとっての曲なのだろう。


 俺もまた、その一人なのだと思うと感慨深い。

 また元の世界に帰れるのかは不明だが、この世界で生きていこう。

 のんびり、適当に、快適に。俺のスローライフは始まったばかりだ。


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