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人海戦術で行こう

「そういえばガラハドは何故ここに? こんな何もない大陸に用なんかないだろ」


 ひとしきり食べ終えて、落ち着いた俺はガラハドに尋ねる。


「んー……言って通じるかはわからんがよ、一言で言えばこの先にある魔王城の偵察だな。まぁ辿り着く前に沈んじまったが」

「そういえば向こうの大陸に魔王が居るんだっけ」


 完全に忘れてたな。

 確かキャロも勇者に言われ、街を造る為にここへ来たんだったか。

 それだけに頼るのは心もとないから、ガラハドに船でのルートを探索してもらっていたと言ったところか。

 まぁ俺には関係ないことだし、どうでもいいのだが。


「ああ、その通りだ。それを知ってるってことはあんたは冒険者の類いみてーだな」

「主は大賢者だと言っているだろう」

「うんうん、そうだったな。悪い悪い」


 ジルベールの言葉は完全スルーである。


「でよ、ちと聞きたいんだが、この辺りに安全に船の修理が出来そうな場所はあるかい?」

「……! 修理、ね」


 ガラハドの言葉に俺はふとあることを思いつく。

 これだけの人数がいれば田んぼの稲刈りがすごく楽になるのではないだろうか。

 あれだけの量を俺たちだけでやるのはとても無理だと思っていたところだ。

 しかし彼らに生活の場を提供すれば、それを恩に着て稲刈りをやってくれるのではないか。

 稲の保管倉庫を建てたところだし、そこにでも住まわせればいいだろう。……うん、我ながらナイスアイデア。


「だったら俺が拠点にしている場所に来るといい。ここから近いし皆が住める家もある。……まぁちょっとやってもらうことはあるけど」

「ほんとか!? そりゃ助かるぜ! ありがとなニイちゃん!」


 俺が小声で付け足した言葉は、ガラハドの気持ち良い声でかき消された。


「気にしないでくれよ。困った時はお互い様さ」

「ありがてぇ! 世話になるぜ!」


 がっしりと握手を交わす。

 向こうも乗り気のようだ。しめしめ。


「主よ……また人を増やすつもりなのか……」


 ジルベールがシュンとしているが、気にしない。

 強制的に人に慣れさせれば、そのうち平気になるだろう。

 いわゆる一つの荒療治、俺はそう甘くないのだ。


「そうと決まれば……行くとするか」

「うおおおーーーっす!」


 ガラハドたちを連れ、俺は帰還するのだった。


「おおっ! なんだよなんだよ、もっとショボいところを想像してたが、立派な村じゃあねーか。大したことないみたいに言いやがってよ、全くヒトシも人が悪いぜ」


 ガラハドが感心したような声を上げる。

 村とか言われても、人が住んでいるのは俺とキャロの家が二軒だけで、あとは羊小屋と犬小屋、倉庫と社なんだがな。本当に大したことないぞ。


「……何だこの家屋、見たことねぇ様式だぜ」

「見渡す限りの広大な田畑に、村の各所に水路も張り巡らされているな」

「この家、木材だけで組まれているのか。見たことない技術だな……うぅむ、これはすごいぞ」


 しきりに唸る男たち。

 はめ込み式で造っているのが珍しいんだろうか。

 釘とかがなかったから苦肉の策だったのだが……そんなに感心されると恥ずかしい。

 とりあえず倉庫に案内しよう。

 男たちを田んぼの横にある倉庫に連れていく。


「何もない場所だけど、ここでしばらく身を休めるといい」

「はぁーでっかい建物だな。いきなり押し掛けたのにこんなものをよく用意できたもんだぜ」

「そろそろ稲刈りの時期だからね。実はここを倉庫に使おうと思ってたんだ。でもガラハドたちに貸し与えることにしたわけだから……」

「! ははぁなるほど、その代わりに俺たちに稲を刈らせようってんだな」


 俺の考えがすぐ伝わったようで、ガラハドはにやりと笑った。

 察しがよくて助かるな。


「もちろん、収穫した稲はガラハドたちにも分けるよ。帰りの船旅でも食料が必要だろう? ここで仕事をしてくれれば、その分くらいは持ち帰って構わないよ」

「ギブ&テイクってわけだな。こちらとしてもその方が分かりやすくていい。それじゃあ野郎ども、早速一仕事と行こうぜ!」

「うおおおーーーっす!」


 別にもう少し休んでからでも構わないんだがな。

 まぁ彼らも船の修理をせねばならないだろうし、俺も早く米を食べたい。

 折角だし早めに収穫してもらうとするか。


「それじゃあ頼むよ。えーと道具は……」

「いらねぇよ」


 ガラハドは親指をグッと立てて返してくる。

 DIYスキルで鎌を作ろうと思ったが、断られてしまった。

 しかし道具もなしにどうするつもりだ。

 まさか直接引っこ抜くつもりじゃないだろうな。

 ……心配になってきた。


「何でぇ、ヒトシはゆっくり休んでていいんだぜ?」

「いやー実は俺もそっちに用があってね。ははは……」


 もちろん何の用もないのだが。

 何かやらかしそうなので、通り過ぎるフリをして横目で見ておくつもりである。

 大事に育てた田んぼに無茶をされても困るからな。


「よぉーし! 野郎ども! サクサク刈って行くぞぉー!」

「うおおおーーーっす!」


 野太い声が田んぼに響く。

 不安を覚えながらも見ていると、ガラハドは田んぼの中に足を踏み入れた。

 既に乾いた地面の上で屈み込むと、左手で稲を掴み、右手を振り下ろす。

 すぱっ! と音がして稲は根元から切り離された。


「えええええっ!? い、今何をした!?」

「何って……手刀で稲を刈っただけだが?」


 キョトンとした顔で首を傾げるガラハド。

 いや、普通そうはならんだろう。


「へへっ、武術家のスキル『気功刃』を使えば、気を纏い斬撃を繰り出せるのさ。そんなに驚くってことは知らなかったのかい?」

「あ、あぁ……初めて見たよ」


 そういえばそんなのあったっけ。

 一応ゲームで知ってたが、ここまで綺麗に切れるもんなのか。

 まるで刃物を使ったかのようである。よし、俺もやってみるか。

 そう思い手刀を繰り出す。……と、ボコっと音がして稲が抜けた。


「はああああっ!? い、今何をした!?」

「何って……手刀で稲を刈ろうとしただけだが?」


 どうやらSTRバグのせいで、切るというより引き抜いてしまったようである。

 まぁこうなることは予想出来たよな。

 大量の土塊が根っこに付いて、棍棒みたいになっている。


「武術家のスキルはまだ取得してないよ。力任せではスキルは使えないポン」

「わかってるよ。やってみただけだ」


 ポン吉のツッコミにそう返しておく。

 やはりスキルか道具を使わないと上手く切れないようだ。

 ……何事もなかったかのように戻しておこう。


「な、なんだこいつありえねぇぞ!? 稲の根は四方八方へと深く伸びていく。力で引っこ抜けるようなもんじゃねぇはずだ。どんな怪力だよ……」

「怪力ではない。これぞ大賢者の大地魔法だ」


 驚くガラハドにジルベールが言う。

 いや、どう見てもただの怪力だと思うのだが。


「それにこの田んぼ、主が一人で作り上げたのだ。これぞ大賢者たる証拠である」


 ジルベールの言葉に男たちは声を失う。


「なんてこった。これがあの失われた大地魔法……すげぇもんだな」

「確かに、これを一人でなんて普通じゃできないぜ。大賢者だなんて眉唾だと思ったけど、こうしてみれば頷くしかねぇ……だとするとこの狼、もしかしてマジに神獣なんじゃ……だ、だとしたら俺、なんて口の利き方を……」

「も、もしかしてあの建築物を建てたのもあんたなのかい!? だとしたらなんていう知識と技術だ。流石大賢者だぜ!」


 男たちは俺に尊敬のまなざしを向けてくる。

 まいったな。また妙な勘違いが生まれているんだが。


「稲を引き抜く際、まるで抵抗していないようだった。植物とも対話出来るってーのはマジだったのか」

「ふっ、これで信じたようだな」


 ブツブツと呟くガラハドを見て、ふふんと鼻を鳴らすジルベール。

 だからなんでお前が得意げなんだ。


「しかし大地魔法を使えるなら、収穫なんかあっという間だろ? 何で俺らなんかにやらせるんだ?」

「そんなこともわからんのか小童め、余所者である貴様らに仕事を与え、息苦しさを感じさせぬ為の口実に決まっておるだろうが。主の優しさに震えるがいい」

「……っ。確かに、何もしてねぇのに世話にだけなるってのは俺らとしても納得がいかねぇ。働かざる者食うべからず、働いたからこそメシも美味いってもんだ。そこまで考えてのことだったか……すまなかったなニイちゃん。いや、大賢者サンよ」


 ガラハドはそう言って俺に頭を下げる。

 いや、そんなことは全く思ってないのだが……まぁどうでもいいか。

 俺は二人の会話を見て見ない振りした。

 ガラハド率いる男たちは、田んぼに入るや手刀で稲をサクサク刈っていく。

 すごい速さだ。トラクターよりずっと速い。

 彼らは稲穂をあっという間に刈り取ってしまうと、倉庫にそれを全て並べた。


「どっこらせ。終わったぜ大賢者サン」

「お、おう……」


 そしてまた、俺を大賢者呼ばわりする人間が増えてしまった。

 一応否定はしたのだが、ガラハドは「わかってるよ、大賢者なんて知れたら目立っちまうもんな。安心してくれ、俺は口が硬い方だから」……なんて言いいながら親指を立てるのみであった。

 ジルベールもうんうんと頷いていたが、いまいち信用出来ないんだよな。

 まぁ別に実害があるわけでもないし、そこまで気にしなくてもいいか。


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