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蚊を退治しよう

「あーくそ、また失敗か……!」


 一人ごちる俺の前には木材の残骸が幾つも転がっていた。

 これはDIYスキルで糸紡ぎ機を造ろうとして失敗したものだ。

 羊の毛は単体では使えないからな。紡いで糸にして、服なり毛布なりにしなければならない。

 それには糸紡ぎ機が必要なのだが……なかなか難しいのである。


 DIYスキルがステータスに依存するというのは前に言った通りだが、ある程度細かいものを作る際はそれなりのDEXが必要とされる。

 今まではSTRを上げれば何とかなったが、糸紡ぎ機のような細かな機械を作る場合はやはりDEXを上げる必要があるようだ。

 え? 家も十分精密だって? ……確かにその通りだが、家くらい大きければ力任せにはめ込めば大体何とかなるものだ。寿命は知らん。


「しかしなぁ……」


 ため息を吐いてステータスを開く。


 イトウヒトシ

 レベル11

 STR{}+{{L+S+=A=`I"#‘GA+Z*+SA{=

 VIT21

 AGI1

 INT12

 DEX26

 LUK1

 ステータスポイント4


 そう、もうDEXには振れるだけ振っており、ステータスポイントは余ってない。

 またバグ技を使って上げるという手もあるがイズナには出来るだけバグ技は使わないと約束したのだ。

 それにバグったら何が起きるかもわからないしな。

 ならば何処からどうやって捻出するか、という話なのだが……


「DEX上げればいいポン!」


 うおっ、久しぶりに出てきたな腹黒タヌキ。


「器用さのステータスを上げれば、簡単な工作機械なら作れるよ。糸紡ぎ機なら最低50は必要だポン」

「解説どーも」


 そう、わざわざ口にする必要すらないがレベルを上げれば全て解決する話である。

 だが戦いたくはない。というか生き物好きの俺としては、自分の手で命を奪うのが嫌なのだ。

 俺は洗濯物に付いたカナブンですら、出来れば殺したくない男である。


「……ん? 何かの気配」


 俺は動きを止め、身構えた。

 気のせいではない。確実にいる。目を閉じ、全神経を耳に集中させる。

 その時、ぷーん、と耳障りな音が鳴った。


「そこだ!」


 ぱぁん! と両手のひらを虚空に叩きつける。

 衝撃波でビリビリと木が揺れた。……やったか!?

 ぷーん、と俺の両手の隙間から、小さな羽虫が飛び出してきた。


「ぐっ……だがまだまだ!」


 俺は諦めず、奴を狙う。

 何度も何度も狙いは外れ、小さな羽虫は俺を馬鹿にするように辺りを飛び回っている。

 ――そう、奴とは蚊だ。

 俺は生き物全般は好きだが例外が蚊である。

 可愛くないし、勝手に人の部屋に入ってきて、ブーンと耳障りな音で飛び回り、人の血を吸って痒くして、病気まで伝染させるという恐ろしい奴。

 人間を殺している生物ランキング堂々の第一位。

 まさに人類の敵と言っても過言ではあるまい。

 ゴキブリはギリで許せても蚊は許せない。

 俺が唯一積極的に殺す生き物である。


「あーくそ! 刺しやがったな!」


 手の甲がぷくっと腫れている。

 ちくしょう、一番痒いところを刺しやがって……許すまじ!

 やはり蚊だけは生かしておけないと確信した。


「……いや、待てよ。蚊……蚊か……」


 そういえばこの近くにアレがいたか。

 レベルアップ問題、なんとかなるかもしれないな。

 ◇◇◇


 というわけでジルベールの背に乗って辿り着いたのは、小さな洞窟だ。


「主よ、こんな所に何の用なのだ?」

「蚊退治さ」


 この洞窟にはデビルモスキートという魔物が出現する。

 その姿はまさしく蚊、そのもの。

 1匹1匹は小さく弱いが、その分回避率が非常に高く、攻撃力こそ低いものの毒攻撃を仕掛けてくる。

 厄介な性質の割に経験値も少なめという嫌がらせみたいな魔物である。まさに蚊。

 それが大量に発生する地獄のようなダンジョンがこの洞窟なのである。

 洞窟の奥からは微かに蚊の羽音のような音が無数に聞こえてくる。


「おーおー、沢山いるねぇ」

「ふむ、羽虫を狩りに来たのか。確かに奴らの回避率は高いが、大賢者である主なら魔法で楽勝であろう」


 いや、大賢者でもないし魔法も使えないのだが。

 とはいえもちろん手で叩き潰して回るなんてことをするつもりもない。

 その代わり、秘密兵器を作ってきたのだ。

 アイテムボックスから取り出したのはDIYスキルで作った巨大ジョウロである。

 それを装備し、構える。


「ジルベール、少し後ろに下がっていろ」

「むぅ、何をする気だ? 主よ」

「まぁ見てな」


 ジョウロを傾けると、先端に開いた数個の穴から細かく分かれた水がサーっと流れ出てくる。

 それをすいっと辺りに振りかけた瞬間である。

 岩の影や隙間からものすごい勢いで黒い塊が飛び出してきた。

 蚊、というかデビルモスキートの大群だ。

 うげっ、無茶苦茶出てきやがった。

 思わず後退る俺の前で、デビルモスキートの大群は狂ったように飛び回っている。


「主よ、とんでもない大群だぞ!?」

「い、いや……大丈夫だ」


 一瞬びびったが、デビルモスキートの動きは俺を狙おうというものではない。

 無軌道で無秩序、ただ乱雑に飛び回っているだけだ。

 これは俺を襲おうという行動ではなく、苦しみ、のたうち回っているのである。

 もちろん俺を噛む余裕のあるデビルモスキートはいない。


「羽虫どもが苦しんでいる……主よ、この水は一体何なのだ?」

「虫を殺す薬さ」


 ――そう、ジョウロで撒いたこの液体は強力な殺虫剤。

 雑草の中から使えそうなものを抽出し、DIYしたのだ。

 なお製薬の際に必要案ステータスはINT。

 複雑な調合なものほど高いINTが要求されるが、このくらいの殺虫剤ならある程度でいい。

 一応INTに少しだけ振って挑戦したが、数十回の失敗の後何とか完成した。

 バグ技は出来るだけ使いたくないからな。


「虫を殺す水とは……また我の見たことのない魔法だな。さすがは我が主だ」


 魔法じゃなくて薬だけどな。説明するのも面倒だし、放置してどんどん行こう。


 ジョウロが空なくなったら樽に作り置きしておいた殺虫剤を補充し、駆除再開。

 物陰とかによく潜んでいるようだ。この辺り念入りにやっておく。

 そうこうしているとぱぱーん、とレベルアップの音が聞こえる。

 おっ、レベルが上がったな。さっそくDEXに振っておくか。


 イトウヒトシ

 レベル12

 STR{}+{{L+S+=A=`I"#‘GA+Z*+SA{=

 VIT21

 AGI1

 INT12

 DEX30

 LUK1

 ステータスポイント2


 糸紡ぎ機クラスの工作機械を作るのに必要なDEXは50。

 ステータスは高くなるほど上がりにくくなるのを考えると、レベル25くらいまでは上げる必要がありそうだな。

 それでもレベル表記の横に付いている経験値バーが結構な勢いで増えている。

 殺虫剤を浴びたデビルモスキートがバタバタと死んでいっているようだ。

 俺からは全く見えないけど。お、またレベルが上がった。


「主よ、我も手伝うぞ」

「わ、離れてろよジルベール。一応毒を撒いてるんだぞ」

「神獣である我には毒は効かん。それより暇で仕方ない。何かやることはないのか?」


 やる気満々と言った顔で鼻息を鳴らすジルベール。

 こいつ、やる気はあるんだよな。ただちょっとコミュ障なだけで。

 上手く役目を振り、やりがいを与えてやればよく働いてくれるはずだ。


「この洞窟にはデビルモスキート以外にも魔物がいる。そいつが出た時に倒してくれ」

「ふむ、主の護衛というわけだな。よかろう」


 この洞窟に出る魔物はほぼデビルモスキートだが、他にもオークゾンビという魔物も出現する。

 オークのゾンビなんて見ただけで気絶しそうだ。

 ジルベールにはそれを倒してもらうとしよう。


「アー……」


 そんなことを考えていると、遠くの物陰で何かが蠢く。

 不気味な声と共に現れたのは、角兜を被った豚顔の巨人だった。


「ギャアーーーッ!?」


 思わず叫び声を上げてしまう。

 肌は青白く、目は白く濁っており、身体の至る所が腐り落ちて骨まで見えていた。

 そのグラフィックはまさしくオークゾンビである。

 グロい。グロすぎる。めちゃくちゃ気色悪いな。これがリアルなゾンビかよ。ゲロ吐きそうである。


「どうした主、急に女子のような悲鳴を上げて……」


 ジルベールが不思議そうに首を傾げて俺を見ている。

 しまった、つい悲鳴を上げてしまった。恥ずかしい。


「あー、今のはその、魔法の詠唱だ。聞き慣れない呪文だったか?」

「おお、主は大賢者だからな。確かに我の知りえぬ呪文であった。それで、何が起こるのだ?」

「えーと……お、お前の身体能力を上げておいた。ほらさっさと敵を倒してこい」

「そうなのか。ふむ、よかろう」


 適当に誤魔化しつつジルベールをけしかける。チョロい。

 ジルベールは全く疑わずにオークゾンビにとびかかっていく。

 ざん! と呻き声を上げる暇もなく、両断されるオークゾンビ。

 振り下ろす爪の一撃でグロく飛び散る肉片に、また悲鳴を上げそうになるのを何とか堪える。

 ええい、いちいちグロいんだよ。


「ぬうっ! 魔物を一撃で倒せたぞ! さすがは主の支援魔法だ!」

「お、おう……そうか」


 よかったなジルベール。それは紛れもなくお前の実力だぞ。


「ふはははは! 何という攻撃力だ! 主の支援魔法のおかげで魔物など物の数ではないぞ!」


 興奮した様子で新たなオークゾンビに突っ込んでいくジルベール。

 出てくるたびにバッタバッタとなぎ倒していく。

 さすがは神獣、そこらの魔物には苦戦する様子はないな。

 出来れば俺の見えないところで倒してくれると助かるんだが。

 グロいのは苦手なんだよ。

 出来るだけ見ないようにジョウロで殺虫剤を撒き続けることしばし――


 イトウヒトシ

 レベル21

 STR{}+{{L+S+=A=`I"#‘GA+Z*+SA{=

 VIT21

 AGI1

 INT12

 DEX45

 LUK1

 ステータスポイント5


 結構レベルが上がったな。

 ジルベールがオークゾンビを倒してくれているので、俺もデビルモスキート退治に集中できる。

 この調子なら今日中に目標レベルまで上げれるかもしれないな。

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