デキる商人だった
「そうと決まればキャロの住まいも作らなくちゃな」
「ええっ!? 私の住まいなどお気遣いなく。ヒトシ様の小屋の隅にでも寝かせてもらえればっ! 何なら野宿でも一向に構いませんので」
「いやいや、女の子にそんな事はさせられないよ。それにキャロの住まいを作るのはこちらの都合でもあるんだ。悪いが俺もキャロを全面的に信じているわけではないのでね。だから近くでは寝させられない。それに野宿も論外だ。最初は気にしなくても、いつか俺へ対する嫉妬となる。なんで私だけがってね」
「そ、そんなことは絶対にありません!」
「それに変な病気にでもなられて、それを移されたら最悪だしね」
このゲームでも薬はあるが、今の文明レベルでは今すぐ手に入るというわけでもない。
様々なリスクを考えると、キャロの家を作った方が手っ取り早いのだ。
「ヒトシ様、何故そのような冷たい言葉を……はっ! もしかしてヒトシ様、私に気を遣わせまいとして……? 何と、お優しい……!」
「さーて、日も暮れてきたし、早速作業に入るか」
キャロに背を向けると、ありがとうございますと聞こえた。
やれやれ、俺の都合だと言っているのにな。
俺は苦笑しながらアイテムボックスから大量の木材を取り出す。
森で多めに取ってきたからな。仕える木材はまだまだある。
「す、すごい量の木材……それにヒトシ様が手にしている物は一体……?」
「魔法みたいなものかな」
せっかく大賢者とか勘違いしているみたいだし、乗っからせてもらうとするか。
説明するのも面倒だしな。
DIYスキルを発動させ、ノコギリとカナヅチで家を組み上げていく。
「うわぁ、木材がすごい速さで切り揃えられていく……こんな魔法は見たことがありません。もしや古代魔法ですか……?」
キラキラした視線を向けてくるキャロ。
いや、どう見ても魔法ではないと思うが……納得してくれてるなら、なんでもいいか。
俺は気にせず作業に取り掛かる。
地面を固め、そこへ支柱を建て、壁を作り、屋根を組み、流れるような動作で家を建てていく。
もう何度か建てて慣れたからか、以前よりも手早く作業が進んでいく。
「……ふぅ、完成だ」
そしてキャロが住む為の一軒家が出来上がった。
しかし俺の家よりは一回りほど大きいが、年頃の女の子が住む家としてはどうだろうか。
水は通ってないし、トイレも流せない。ベッドも木、布団はゴザ……うん、ないな。
とはいえ野宿よりはマシだろう。
それに俺の家よりもほんの少しだが立派に造ったんだし、文句は言わせないぞ。
「……」
キャロは目を丸くし、言葉を失っている。
しばらくそうしていたかと思うと、俺の方を向き直る。
「……私、こんなところには住めません」
むぐっ、やはりこんな家には住みたくないか。
まぁ男の俺でも嫌だもんなぁ。
とはいえ今はそんなぜいたくを言えるほど余裕はないのだ。
「あー、悪いがこれでしばらく我慢して貰うぞ。俺だって同じような家に住んでるんだからな。まぁ必要なものは追々揃えていくつもりだから今日のところはこれで勘弁……」
「ち、違います! このような立派な家には住めないと言っているのですっ!」
キャロは首を左右に横に振った。
「見たこともない様式の建築、お洒落な調度品の数々……まるで貴族様の別荘です! それにこの家、ヒトシ様のよりも大きいではありませんか! せめてヒトシ様がこちらに住んでくださいませ!」
大商人になりたいと言っていたキャロの為、それっぽい感じでデザインしてみたが……気に入ってるのかいないのか、よくわからん。
それに俺の家はもう自分用にカスタマイズしてあるんだよなぁ。
俺は枕が変わると寝られないのだ。
「いいからここに住んでくれって」
「いいえ、そうは参りません!」
キャロは全く引く様子はない。
……参ったな、どう説得したものかと考えていると、キャロもまた不思議そうな顔で俺を見ているのに気づく。
「むむ、ヒトシ様は何故頑なに私にここへ住めと申されるのでしょう……はっ、そうか! 商家では客人をもてなす際は自分よりも一段上の紅茶、一段上の食事、一段上の部屋を用意して歓迎するもの……私が商人だと聞いてその流儀で応えたんですね。私を歓迎する、と……! そういうことなのですねヒトシ様っ!」
いや、全然違うけど。
まぁでも勘違いとはいえ、話がまとまりそうだし乗っからせてもらうとするか。
「あ、あぁ。そういうわけだからその家に住んでくれると助かる」
「わかりました。ありがたく住まわせて頂きます。これからよろしくお願いしますっ!」
勢いよく頭を下げるキャロを見て、俺はやれやれとため息を吐くのだった。
――翌日、メェーメェーと羊のうるさい鳴き声で目を覚ます。
しまった、そういえば先日は色々あって羊を木に繋ぎっぱなしにしてたのを忘れてた。
腹が減って鳴いているのだろうか。
やれやれ、家畜の世話も大変だな。
牛や豚などの家畜を飼っている農家では、人は動物の奴隷とまで揶揄されることもあるらしい。
確かに、水や食料、散歩に掃除とあれこれと世話を焼いてやらねばならないもんなぁ。
生きていく上で、家畜は必須とはいえ、面倒臭いな。
誰かに世話を任せられないだろうか……そんなことを思いながらも起き上がり、戸を開ける。
「あっ、おはようございます! ヒトシ様!」
家から出ると、元気の良い声に迎えられた。
キャロだ。羊を引き連れ、そこらの草を食べさせていた。
「僭越ながら羊のお世話をさせていただきました。お腹が空いたとメェメェ鳴くものでして、つい……出過ぎたことをしてしまったかもしれませんが」
「いや、ありがたいよ。すごいな、見事に懐いてる」
羊たちはリラックスした様子で、キャロの周りで草を食んでいる。
口笛と手にした棒切れで羊を操っているようだ。
俺ではこうはいかない。先日は縄で引っ張っていたが、STRがバグってなければ簡単に逃げられていたと思う。
「えへへ、実家では羊を飼っていましたから、私が小さい頃は羊の世話は私の仕事だったんですよ」
「へぇ、道理で手慣れているわけだ」
小さい頃から家の手伝いをしていたなんて、偉いじゃないか。
俺なんか子供の頃は家事とか完全放置だったわ。
いやぁ、よくサボって怒られたもんだなぁ。
しみじみ思い返していると、キャロが真剣な面持ちで口を開く。
「……あの、ヒトシ様。よろしければこれからも私に羊の世話をさせていただけませんでしょうか? ヒトシ様には身に余る歓迎をして頂きました。それに全力で応えるのもまた商人の流儀。もちろんこの程度で恩を返せるとは思っておりませんが、まずは気持ちということでどうか……」
深々と頭を下げるキャロ。
正直言ってありがたい話だが……俺は少し考えて答える。
「だが俺は金を持ってないから、給料は払えないぞ?」
「構いません。それ以上の大恩を既に頂いております」
「食料もまだまだ安定してないし……」
「自分の食べる分くらいは自分で手に入れて参ります」
俺が家を建てたのを余程恩に着ているのか、キャロの意思は固いようだ。
ふーむ、どうしたものかな。
ゲームで街作りをすると住民が移住してきて、プレイヤーは彼らに仕事を課すことも出来る。
しかし当然仕事には相応の対価が必要だ。
金を与えるか、住民ごとに設定されている好物を与えねば、暴動が起きてしまう。
特に金はいらない、なんて調子の良いことを言ってる奴ほどその傾向がある。
とはいえ家畜の面倒なんか見てたら一日が終わってしまうので、仕事はして欲しい。……そうだ。
「わかった。ではキャロには羊の世話をお願いするとしよう。給料は一日6000ゴルドだ」
「そ、そんなにいただけません!」
「いいや、受け取ってもらう。ただし、それで家を建てた分の金を払って欲しい。金額は……そうだな、150万ゴルドでどうかな? もちろん利子や担保は取らない。地道に返してくれればいいよ」
ちなみにこの値段はゲーム内で家を建てる際にかかる最少金額、ぼったくりではない……はず。
これなら半年以上働かせても暴動は起きないだろうし、こちらで今すぐ報酬を用意する必要もない。
うん、完璧な作戦だ。
……ただ、これって要はこちらの都合で家を建てて借金を背負わせ、それを変えさせる為に働かせる、というヤクザまがいのことなんだよな。
倫理的にどうかと思うが……
「私が気にするからと契約体制にして下さったのですね。ですがこんな立派な家をたったの150万ゴルドで、しかも無利子無担保で金を貸していただけるとは……なんとお優しいのでしょうか。いたく感動いたしました」
キャロは目を潤ませながらブツブツ言っている。
……ま、いいか。本人が気にしてないみたいだし。
とりあえず気が変わって暴動を起こされないように注意しておこう。
「それじゃあ羊の世話は任せるとして……他に何か必要なものはあるか? 捕まえてきたはいいんだけど、あまり羊に詳しくなくてね」
「ご謙遜をなさらないで下さいませ。ですが、そうですね。今の時期、まだ夜は寒いので小屋を建ててあげると喜ぶかと存じます。あとは柵があればよりよいかと」
「ふむ、小屋と柵ね」
それならDIYスキルでいくらでも作れるな。
木材もあるし、早速作るか。
トントントン、ギコギコギコ、トントントン。
ノコギリとカナヅチで羊小屋と大量の柵を作り出す。
「あ、相変わらず凄まじい速さ……流石は大賢者様の建築魔法です!」
建築魔法ってなんだよ。そういえばジルベールもそんなこと言ってたっけ。
大賢者とやらの古代魔法って、変なのばかりだな。
「わ、この小屋押すだけで動きますよ!」
「車輪をつけているんだ。好きな所に置くといい」
家畜を放牧で育てる場合、草を食べ尽くさないよう小屋を移動させて色々な場所で育てると聞いたことがある。
その為に小屋に車輪を付けてみたのだ。
これならキャロの力でも押せるようだし、好きな場所に置けるだろう。
「ありがとうございます。では早速作業に入らせて頂きます」
キャロはペコリとお辞儀すると、小屋を押し始めた。
すると羊たちもそれに続き、小屋はずるずると動いていく。
おいおい、すごく懐いているぞ。そっちの方が魔法じゃね?
だがあれだけの数、キャロ一人で面倒を見るのは難しいだろうな。
逃げられたら追いつけないだろうし。
「おーいジルベール、キャロを手伝ってやってくれ」
「む……うむぅ……」
難しい顔をするジルベール。
ウロウロを俺の周りを歩き、キャロに近づこうとしない。
昨日はあれだけ吠えてたくせに、なんでそこでコミュ障発揮しているんだよ。
「敵なら即座に八つ裂きにすればいいのだがな……主の知り合い相手にどう接していいかわからんのだ」
「友達が欲しかったんだろ? がんばってみろよ」
「む、むむむ……」
ジルベールは完全に固まっている。
こりゃ駄目そうだ。思うに友達になろうと意気込むから、緊張して上手くいかないのかもしれない。
仕方ない、助け船を出してやるか。
俺はキャロに駆け寄り、こっそりと耳打ちをした。
「キャロ、ジルベールを適当に使ってやってくれ。ちょっと難しい性格だから、持ち上げる感じでよろしく」
「は、はぁ……」
困惑しているが、キャロはコミュ力ありそうだし、ジルベールとも上手くやれるはずだ。
仕事を通じて仲良くなれば、こいつのコミュ障も少しは治るかもしれない。
キャロは早速ジルベールに丁寧に頭を下げる。
「あの、ジルベール様。私キャロと申します。若輩者ですがよろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げるキャロを見て、ジルベールはふむと頷いた。
「うむ、よかろう。光栄に思えよ小娘」
めちゃくちゃ偉そうだ。そういうとこだぞジルベール。
だがキャロは全く気にする様子もなく、満面の笑みを返す。
「はいっ! お願いしますね! ジルベール様っ!」
「……む」
どこか嬉しそうに耳を伏せるジルベール。
へぇ、満更でもなさそうじゃないか。
なんだかんだで、意外といいコンビになるかもしれないな。




