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  作者: 蘇芳
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私の始まりの始まり ー赤色の扉ー

 

「何故に、私は今ここに立って居るのだろう」


 目の前の青く光る巨大な扉を見上げ、気が遠くなりそうになりながら私はそう呟いた。




 我が校は海沿いの山の上にある。


 この山の頂上には小さな神社があり、大昔は神隠しなんて事があったとかなかったとか。


 そんな場所に我が校が何故に建ったのか。


 それは、ベビーブーム世代により一つの学校では生徒を受け入れなくなり。校区を割って新しい学校を建てようとなった時に、この山の麓にある小学校の近くが良いよねって事だったらしい。


 そして、新しく建った学校にあるはずもない七不思議は開校して一年足らずで出来たらしい。


 これは昔、母から聞いた事がある我が校の七不思議とやらの一つである『鏡の中に現れる扉』とやらであろう。


 ………たぶん。


 私は青く光る巨大な扉を見ながら母から聞いた不思議体験話を思い出していた。





 放課後の図書室に図書委員の当番でカウンターに座って室内をボーと眺めていた。


 右を向くと図書室が二階という事もありちょっとオレンジ色の空が見え。


 左を向くと誰もいない隣の校舎の教室が見えた。


 後ろの時計を見ると閉館まで後少し。


 今日の来館者は少なく返却作業や本の整理やら窓の戸締りとカーテンも半分閉めたり殆ど仕事も終わり、後は残りのカーテンを閉めて扉に鍵を閉め図書室の鍵を隣の司書室に居る先生に渡せば帰れる。


 閉館間近に駆け込む来館者が来ない事を願いながら、他の当番の子達はカーテンを閉める準備をして時計と出入口を睨んでいた。


 外から部活をしている子達の声や音が聞こえるのに、やけに時計の音が大きく聞こえる。


 カチッと聞こえたと同時にチャイムが鳴り響く。


「よっしゃー。終わったぁー」


 シャッとカーテンを閉める音と共に安堵の溜息を吐きながら漏れる声。


「今日は駆け込み無かったね」


「この前は酷かったー。駆け込み対応してたら、また駆け込みって何人も続いて帰りが遅くなったもんね」


「そうそう。最悪だったよ」


 前回の当番の時の事をぼやきながら暗い図書室をさっさと出て扉の鍵を閉める。


 司書室にノックして返事も聞かずに「先生。鍵です」と入って行く。


「お疲れ様。気をつけて帰るのよ」


 部屋の前での話が聞こえていたのか苦笑しながら先生は鍵を受け取りそう言った。


「はーい、先生。さようなら」


 皆で挨拶して帰ろうとなった時、友達の一人が「トイレに寄っていい?」と言うので他の図書委員の子達とはそこでさよならして四人でトイレに寄って帰る事になった。


「えっ。先輩も寄って帰るんですか。先輩は私達と先に帰るんじゃ」


 一年の図書委員の子が顔を青くしながら話かけてきた。


「りっちゃん…気をつけてね」


 三年の図書委員は引きつった笑顔で一年の図書委員を引きずり連れて去って行ってしまった。


(あんなに慌てて、二人共どうしたんだろ?)


 不思議に思いながら友達に顔を向けるが彼女達は何時も通りだ。


 だが、歩き出して不安になった。


 何時もは図書室を出た所にある渡り廊下を渡り、教室のある校舎へ渡ってすぐの図書室からも靴箱からも近いトイレに向かうのに、何故か三人は東側の突き当たりにある図書室から西側へと真っ直ぐ廊下を歩き出したからだ。


 図書室があるこの校舎は理科室や音楽室の特別教室のある校舎で校舎の西の突き当たりに各階トイレがある。


 その手前に各階にいく西側の階段があり、私はその西側階段が苦手だ。


 その西側の階段の二階から三階に上がる途中にある踊り場には、他の階段の踊り場の端から端まである掲示板の代わりに端から端までの何故か巨大な鏡があるのだ。


 教室のある校舎と特別教室がある校舎の西側階段と東側階段の中でそこにだけある巨大な鏡。


 階段の踊り場の上と下には上の階と下の階を跨いで最上階の上の窓以外は磨りガラスだけど窓があるのでとても明るい。


 暗く薄気味悪い場所ではないのだけれども、何でかな?


 神聖な場所のようなピーンとした空気?


 神社や仏閣にいる様な?


 誰かから見られてる様な?


 只の階段の踊り場なのに。友達と歩いていても首の後ろがざわざわしてしまう。


 友達を待ちながら鏡を見る目がだんだんと剣呑になってしまう私に友達が話をしてくる。


「そういえば、聞いた?」


「ん?何を?」


「もしかして、今朝。先生達が話してたの?」


「何?知ってるの?」


「私、知ってる。居なくなった人。うちの近所の人!」


「三年の男子らしいよ」


「ふ〜ん。その先輩どんな人?」


「んー。目立た無い感じの大人しい人?ほおわぁぁんとした感じ?かな?」


「近所なんでしょ。何で疑問形なのよ」


「いやぁー。挨拶する程度だし。昨日の夜にそのご近所さんが来てね。見なかったかって聞かれてすごく心配してたよ」


「最後に見た人によると、図書室によって本借りて此処に向かってから誰も見て無いんだってー」


「図書室の前で別れて、靴箱で待ってたのに来ないから皆で此処に来たらしいけど居ないから周りを探してすれ違ったんだろってそのまま帰ったらしいよ。運良ければ追いつくかもとか思って」


「夜におばさんから電話あってびっくりしたらしいよ」


「そっかぁ〜。それで今日は図書室に来る人が少なかったんだ」


「そうだと思うよ」


「皆。七不思議の神隠しじゃないかって噂してたし」


「うんうん。怖いもんね」


「そうだよね。そうなんだよね。怖いよね。んじゃ、何で私達は鏡を見てるんだろうね」


「そうだね。そりゃ気になるじゃない?」


「いやいや。気になるけど現場は怖いじゃない。何かあったらどうするのさ」


「「「大丈夫よ!!」」」


「何処からくるのよ。その自信!」


「まぁ〜何もないし」


 弾む様に踊り場へと上がって行く彼女は好奇心の塊だ。


 鏡の前にくると隅々まで観察してコンコンと叩いたり。とても楽しそうだ。


 他の二人も後ろに続き興味津々に鏡を調べている。


 私だって興味はある。怖いモノ見たさと言うものはある。けれども、興味はあっても怖い物は怖い。


 話を聞くまでならば分かるが、何で現場に行こうとするの。


 怪談話を聞くと嫌な気配がしたが行ってみたら恐ろしいモノを見たと言う。


 ならば、嫌な気配がした方に行くなと言いたい。何で行くのかと問いたい。


 そしたら、怖い物も見ないし体験もしないじゃないか。


『君子危うきに近寄らず』とあるじゃない。


 なのに。


 この三人は。


 何時も何時も何時も『大丈夫よ』の言葉で私を巻き込む。


 今回の事もワザと私に話が伝わらない様にして私を此処まで連れて来たのだ。勘弁してよ。


 さっき別れた先輩と後輩の態度を思い出し納得すると溜息がこぼれた。


 階段下から、恨めしく三人を見てると「何処も何もないね」と少々不服そうに此方を見てくる。


 じーッと見てくる。


「探知機には反応無しかぁ〜」


「ちょっと待て!探知機とはなんだー」


「だってぇ〜。りっちゃんとこう言う所に来ると何かしらあるじゃん」


「そうそう。わくわくするじゃない」


「そうそう。楽しいわよね」


 楽しそうな三人に何も言う気も失せて溜息を吐く。


「もう、何もないんだから帰るよ」


「「「えぇぇぇー」」」


「えーじゃない!!!」


「ぶー。でも、りっちゃん。この場所苦手だよね」


「そう言えば、一年の頃は此処を避けてよく大回りしてたよね」


「お陰でその頃の移動教室は全力疾走だったよ」


「それは‥…ごめん」


「ふふふっ。いいよぉ」


 笑顔で謝罪を受け取る彼女を見ながら初めて此処に来た時の事を思い出す。


 首筋がざわざわして鳥肌が立ち、何かにジッと見られている視線が纏わり付く感じ。


 平然としている周りの人達に『何故?何で気づかないの』と叫びそうになったのを覚えている。


 たいぶ慣れてきたとは言え、やはり長居はしたくない場所ではある。


 彼女達に笑顔を返して帰りを促す。


「さぁ、帰ろ」


 帰る気になってくれた三人の背中を見ながら後に続く。


 三人は行方不明の男子生徒の話で盛り上がっている。


「誘拐では!」


「中学三年の男子を?」


「それとも家出!」


「本人を知ってる友達はあり得ないと言っているよ。」


「じゃあー…何処に行ったんだろねぇ」


(本当に何処に居るんだろう?)


 階段を下りずに図書室側に廊下を戻ってると


 シャラララララ〜


 リーーーン


 綺麗な音が聞こえて思わず振り返るった。


 廊下の真ん中に、小さな白い毛玉と黒い毛玉がそこに居た。


(!!!!!!!!)


 思わず大声で歓喜の声を上げそうになるのを手で口を押さえ堪える。


 小さな毛玉達は濡れた目でジッと此方を見てると誘う様に階段へと動いた。


 吸い寄せられる様に毛玉達の後を追う。


(何あれ!ころころ!まるまる!ぽよぽよ!よちよち!可愛すぎる!!)


 階段を一生懸命上がる姿は思わず手を差し伸べたくなる。


 でも、上がった時にチラリと振り返り『すごいでしょ』とでも言っている様はこれまた可愛い。


 毛玉を追って夢中で進んでいると行き止まりで毛玉達は此方を振り返りジッと見つめてきた。


(きゃー。可愛い!いくらでも眺めていられるね)


 白いぽわぽわの毛にブルーのお目々。


 黒いぽわぽわの毛にアメジストのお目々………。


(んッ?……アメジストのお目々な生物?‥っていたっけ?)


 あれッ?と思い振り返ると踊り場と階段が見えた。


 そう、踊り場に立って階段が見えるのではなく。


 んーーー?


 何か変だ。


 如何見ても踊り場の壁の中に居る見たいよ。この景色。


「「「りっちゃん!」」」


 三人が青い顔で私を呼んでる。


 そして私の前を通り過ぎて階段を上がって行き三階の廊下へと消えて行った。


「嘘。えっ?見えてないの?」


 私は踊り場に行こうとするけど透明な壁があって行けない。


 叩いても衝撃も音さえも吸収してどうにもならない。


 何度か私を呼びながら三人が目の前を通り過ぎて行く。


 呆然としながら必死に私を探してる三人を見ている事しか出来なかった。


 みぃぃぃ〜


 声の方を見ると小首を傾げ心配そうに私を見上げている毛玉達が居た。


 毛玉達の後ろには。


「ら…しよう‥門?…いや、羅城門?」


 巨大な朱塗りの門がそこにあった。


 立派な綺麗な門だ。


 後ろの行けない踊り場、前には門。


(これは前に進めと言う事かしら?すごく嫌だけど嫌だけど…嫌だなぁ〜)


 暫く朱塗りの門を見上げて、実はこれは夢で私は何処かで寝こけているのではとか、早く夢から覚めないかしらと現実逃避してたけれど、一向に目が覚める気配はない。


 痺れを切らした様に毛玉達がミィミィ鳴き始めた。


 見ると門に前足を揃えてかけて此方を見上げている。


「開けろって事?」


 そうだと言う様に鳴く毛玉達。


 その様子を見ながら考える。


(さっきも思ったけど、これはまだ目が覚めてないだけで夢なんじゃないかな・・・そう!そう!!夢なのよ!ならば現実逃避して立ち止まってないで前に進んだら覚めるかもしれない。そうだよ。こんな事が現実にあってたまるか!しかも私に)


 それこそ現実逃避なのだが、そう考えないと怖くて足が動かないのだ。


 門に手をかけ押してみる。


 重そうな門は拍子抜けする程に軽く動いて開いた。


 開いた隙間にスルリと毛玉達が入って行く。


「お邪魔しまぁ〜す」


 小声で言って門に入る。


 真っ暗な空間だ。後ろでゆっくりと門が閉まると本当に真っ暗になって心細くなった。


「何も見えないし」と呟くと頭の上から光が溢れてきた。


 それは、私を包んでいた真っ黒なモノが上から粒子となって光の空間に溶けていく様だった。






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