2 『昼休み』
クッ……。下書き保存し忘れて最初から書き直しになるなんて……。
「ジロウーーーー!!」
うん、今日も絶好調だな。48秒か。いつもあんなに叫んでる癖によく喉痛めないよなぁ。バケモン肺活量はほっといて。てかさ、俺、いまトイレなんだけど……。まあもう用は済んだし手を洗うだけだからいいけどさ……いや、いいのか?ダメだろ。普通にトイレまで追いかけるような奴いないだろ。やっべ、最近トイレまで追いかけられるのが日課すぎて当たり前の恐怖が失せてた。恐怖が失せるって言う事態に恐怖を感じる。てか毎回なんで俺の居る場所わかるん??なあ、なんでなん??
「ジロウ!やっと見つけた!」
「…………………」
あ、手ぇ洗ったけど、ハンカチ忘れた最悪。あ、ありがとう。さり気なくハンカチを差し出すアイツ。性格までイケメンかよ、ムカつく。いや、待て。落ち着け俺。性格はただのストーカーじゃねえか。絆されるな俺。気をしっかり持つんだ俺。
「ありがとう」
「どういたしまして。ところでジロウ、今日の放課後暇でしょ?」
「いやなんで俺の予定知ってるん!?きっしょ!」
「ジロウの事ならなんでも知ってるさ!」
当たり前だろう…ハハッ!!じゃねえよ。怖すぎ。お巡りさん、こいつやばいです。誰か、助けてください。せめて可愛い子に追いかけ回されたい。
「それで、今日の放課後に駅前に新しく出来た新しいケーキ屋にジロウと行こうと思ってな」
「いやなんであんなメルヘンチックで可愛らしいケーキ屋に何が悲しくて野郎2人で行かなきゃなんねえんだよぉぉぉぉ」
「知ってるのか、ジロウ。本当甘いのが好きなんだね」
ああああああああぁぁぁあああああ!!口が滑った。墓穴ほっちまった。くそおおおおおお。確かに知ってるよ!?あのケーキ屋だろう!?この間たまたま駅前通ったらケーキ屋出来てたのを見て、調べてみたら評判良いし、気になって入るか迷って15分ぐらい店前でウロウロしてたら通報されたのかお巡りさんに職質されたし。そんで結局単独で入る勇気は出ず、とぼとぼ帰ることにしてふと視線を感じて後ろを見ればお巡りさんに可哀想な子を見る目で見られてたとか知らないッッ!!いや知ってたけどぉぉぉおおおお、知りたくなかったぁぁぁぁぁ!!!!
「あそこに野郎と二人で行きたくねえ!!」
王子は似合いそうだがな。違和感ないだろうがな。なんか悔しい。俺もイケメンになりたい。イケメンに生まれたかったよぉぉぉぉ。すまん、母ちゃん。
「そうか………。」
シューン……っていう文字がアイツの後ろの見える。犬か、犬なのか。俺より身長高いのに上目遣いってどういうこと。そんなことされたら、俺の胸が高鳴…………るわけねえだろボケぇぇえええ。俺はノンケなんじゃい!!!ダメだ。最近アイツと関わってから自我が崩壊してる……。
「じゃあミーコを誘おう。それならジロウもいいだろう?」
「誰だよミーコ。とりあえずトイレから出んぞ」
そう、何を隠そう俺たちは、未だにトイレの中なのだ。別に隠してないけどな。トイレから出ると俺の叫び声が聞こえてたのか「あ、またやってるよアイツら」的な視線を向けられる。いや、やめてぇぇぇぇ。俺をストーカーと一緒にしないでくれ!!!!!!
「ミーコはここにいるぞ?」
ひょいっとアイツが横にズレると、ふわふわの栗毛を肩まで伸ばし、綺麗な二重ぱっちり茶色のお目目の色彩は日本人感あるのに顔立ちは人形のように酷く整った美少女がでてきた。
「エンジェルさんかよおおおおお」
エンジェルさん(入学式の時に話題になった美少女で、名前を呼ぶのも恐れ多いと言われエンジェルさんと呼ばれている。残念な事に俺は別クラスのため、本名は知らない)がいた。そして彼女が持つ物に目がいく。それはさっきアイツの後ろに出てきた文字。シューンと書かれた板を持っていた。………いや、あの文字実在したんかい!!!!!雰囲気とかじゃなくて文字書かれてたんかい!!!!!!全然違和感なかったんだけど!?
「あっ、………てへ?」
エンジェルさんが誤魔化そうと、板を背中に(全然隠せてないけど)隠し、こてんと首を傾げ笑う。……きゅんっ……………ってなる訳ない。なる訳ないんだ。だって……。あぁぁぁっぁぁぁ……。現実見たくない…。いや俺は現実を見る。俺はァ、しっかりと現実と向き合うことが出来るんだッ!
「エンジェルさん」
「はぁい?なんですかぁ?」
声も可愛い……。めっちゃ女の子だ。可愛い。でもあざとくてもいいから自覚してる美少女はやだな、と思っていたけど。結局、美少女は何しても許されるわけで。うん、可愛い。あとエンジェルさんで反応する精神尊敬します。
「ミーコ、ジロウに自己紹介でもしたらどうだ?」
「えぇ、だからぁ、ボクはぁ、みぃこじゃないって言ってるじゃあん!」
ボクっ娘か……。うん、ときめかないけど、尊い(?)
「あっ、ボクはぁ!アイツくんのぉ、友達のぉ、苑 治恵流ですぅ」
「まさかの本名がエンジェル!!!あだ名じゃなかったのか。そりゃエンジェルさんで反応するわな!?」
「えっとぉ、ジロウさんはぁ、本名ですかぁ?」
「いや違うからね!?俺の名前は██████。いやなんで俺の名前、放送禁止扱いなん!?やっと名前出せると思ったのに!!!!!」
「じゃあ~ジロウさんって呼ばせて貰いますぅ!」
「あー、うん。███って名前があるんだけどな。いやまだ伏字かよ!!!!?」
「ジロウさん~また放課後に会いましょ~」
制服のスカートと髪ををフワリと舞わせ教室に戻ろうとするエンジェルさん。そして俺の肩をぽんぽん叩きながら頷きまくり意味深な顔をしているアイツ。カヲスすぎだろ。まあそれは置いといて、確認しなければ
「エンジェルくん」
どうか、俺の気の所為であるように願いながらエンジェルさんを呼び止める。男子トイレにいる時からあの文字は見えていた。つまり、痴女な美少女か、男の娘の二択。頼むから否定してくれ。入学式の時に、ふとときめいてしまった俺が報われないから否定してくれぇぇえ。
「あれぇ?よくわかりましたねぇ!ボクが、男の娘だってぇ!」
「やっぱりか、こんちくしょおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!結局野郎2人から野郎3人になっただけじゃねえかよぉぉおおお!!!!俺は可愛い女の子と!!!!異性と!!!!!!行きたいって言ったんだよぉぉぉぉ」
俺の叫び声に、昼休みの終わりを告げるチャイムがかき消した。