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アリシア物語  作者: 紙一重
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1章「出会い」1

1章「出会い」


伊東賢治は夏休み初日暇つぶしの本を買いに出かけた。大学3年で一人暮らし更に恋人がいない賢治に過去の経験が暇になる事を教えてくれていたからだ。


その帰り道に街中を歩いていると白い扉のようなものがあった。大きさは玄関のドア位で角が丸みを帯びておりドアノブすらない。とても神秘的でこの世のものとは思えなかった、何より不思議なのはそれが道のど真ん中にあることだ。にもかかわらず他の通行人はその扉に対して立ち止まる事も、チラ見することもなく扉を避けるように通り過ぎていく。そんな中賢治だけが何故か吸い寄せられる様にその扉をくぐった。


扉をくぐるとそこは立派な屋敷の庭のような場所に賢治はいた目の前には少女がお茶をしていた。歳は15だろうか人形の様に可愛い、髪は長く栗色で、賢治は『今まで出会ったどの女性より可愛いい』と思った。余りにも現実離れした事に賢治のふと後ろを振り返る、だがそこに白い扉は無かった。


「何者!」と少女の護衛と思われる人間4,5人が賢治の周りを取り囲み武器を向ける。賢治は突然のことに驚き尻もちをつきおびえていると、少女は近づき口を開いた。

「突然目の前に現れたけど目的は何?暗殺?」「ち、違う。不思議な扉をくぐったらここにいただけだ」と賢治は恐怖から震え声で言う。「信じがたい話だけど嘘を付いているようには見えない・・・。着ている服や身に付けているものもみたこと無いような物ばかりだし興味はあるわね」そう小言を言うと少女は何やら考え始めた。2.3分ほど経ち少女は元座っていた場所に戻る。


「椅子に座りお話しましょう」そう笑顔で言うと、周りの護衛が焦る。「どこの馬の骨とも知らない相手に危険です、せめて拘束具は付けるべきです。それにあなたは1国の姫です下民風情と話すなどと」責任者と思われるハンサムな20中盤程の男が声を荒らげて言う。それに対し少女は「暗殺者ならなら私は既に殺されています。客人も来ないのですから時間つぶしにはなります。聞きたいこともある」と言う。「分かりました」と不満げな表情で責任者の男は返事し部下に武器を収めさせ部下と共に屋敷の中に消えていった。


賢治はどうせればいいのかわからない為その場に茫然と座っていた。「さ、早く来てくださいな」と少女が言うと賢治は慌てて椅子に座った。「聞きたいことは山ほどあるけど初めにお名前は?私はマリー・ボルジア」「伊東賢治です」「この辺りでは珍しい名前ね。賢治と呼んでいいかしら?」「それで構いません。おれ・・、いや私はなんとお呼びすれば?」「みんな姫様やマリーと呼んでいるわ。好きに呼んで大丈夫よ」「それじゃ姫様でお願いします」

「それでは本題あなたは何処から来たの?」「日本からです」「日本という国は聞いたこと無いわ。ねねね、どんなところ?」簡単なようで難しい問いに悩んだ、今までそんな説明したこと無いからだ。その上今自分が置かれた状況を整理しなければ始まらない。「少し整理する時間貰っても良いですか?」するとマリーは「どうぞ」と満足げな笑顔で言った。


まずは自分の置かれた状況の整理をする賢治。

可能性1:自分は誰かの悪ふざけの標的にされた。それは考えづらい。この屋敷と庭だけでも莫大な金がかかる。この少女含め最低でも5.6人は雇った事になる。その金と労力を費やしてまでやる意味もやる人間もない。もし仮にドッキリなら後で種明かしがあり暫くしたら解放されるから実害はない。

可能性2:これが最悪。ここはどこか別世界であの不思議な扉がその入り口だった。もし仮にそうなら、目の前の少女に自分が価値ある人間で雇っても良いと思われなければ路頭に迷うことになる。

恐らく2の方が正しいと思うが、どっちが正しいかは現状分からない。2が最悪の事態なのでこれが正しいと仮定する事にした。


5分ほどが経ち説明の整理もついた賢治は口を開いた。「大きめの島国で7割が山です。水と森林が豊かで治安がいいです。政治は民主主義で経済は資本主義です」「民主主義と資本主義とは一体何ですか?」マリーは問いかける。

「民主主義は国民が為政者を選ぶシステム。資本主義はそうですね・・・お金を唯一の神と崇める宗教です」。そう言うとマリーは大きな声で笑い涙を手で拭う。「成程宗教ですか、それならこの国も資本主義なのかもしれませんね」笑いながら続ける「お金が力を持つのは知っています。でもなぜそれが宗教なのですか?」

この世界では宗教が大きな力も権威も持っておらず、信仰もそれほどされていない。この世界では宗教は詐欺と同義語である。

賢治は内心食い付きが良く安心した。財布から1000円札を取り出し「私の国ではこの紙切れがお金だからです」と賢治が言うと、何やら衝撃を受けたように深刻そうに考え始めた。


長い沈黙が支配した。賢治は『何かまずいことをしたか?!』と心で叫んだ。長い沈黙が過ぎマリーは口を開いた。「詳しく聞きたいことが多すぎる。良かったらここで働く気はない?」賢治は安堵のため息を付いた「願ってもない話です泊る場所も今日食べるものすらないのですから」。

「良かった」と今度はマリーがホッとした表情を浮かべ続けた。「もし断ったら殺さなければなりませんでした」「断ったらなぜ殺されるのです?」マリーは天使の様な笑顔を浮かべ「それは、もしあなたの知識が敵に渡ったら大変だからですよ」と悪魔の様な事を言う。賢治は引きつった笑いしか出てこない。


「でも安心しましたさっそく仕事内容ですが私の身に周りの世話と相談です。といっても身の周りのことはメイドで事足りるので政やその他意見を実直に言うことです」「なぜ俺にそんな大事なこと任せるのですか?そう言うのは大臣や有力者、力を持つ貴族が務めるものでは?」賢治は疑問に思ったどこの誰かも分からない、会ったこともない他人を信用するのかと。

「我がアルシア王国は私の父が3か月前に病に伏し噂では・・・と言うよりほぼ間違いなく毒です。私と姉で後継者争いの最中なのです。私は屋敷に幽閉され圧倒的不利、その上今日会うはずだったお客さんがその力を持つ貴族の大臣です。そしてその大臣から今日急用で行けないと連絡が来ました」悲壮感混じりの声で続ける「誰が裏切るか分からない、意見してもそれは耳さわりのいいことばかりで裸の王様。だから私には実直に意見をしてくれる人が必要なのです」。今度は少し明るい声で言う「そんな中この国、いえこの世を見渡しても誰も知らないような知識の持ち主。更にここを追い出されたら行くあての無い人が現れたのです」。

賢治はとんだ貧乏くじを引いたと思った。衣食住の心配はしなくても良くなった半面、一歩間違えば殺される心配が出てきた。

「早い話がこの国の人間全員信用できない。信用できるのは他所からきた俺だけってわけですか?」「そうね・・・でも賢治が現れたことで希望が出てきたのよ。頼りにしているのよ。これからよろしく」賢治が今まで見たどの女の子よりも素敵な笑顔であった。マリーは右手を出す。


賢治はその華奢な手を握る。それ以外の選択肢は無かった「よろしくお願いします」。今更ながら賢治は白い扉をくぐったことに後悔する。それと同時にこんなかわいい少女に頼りにされている、その事実にほんの少し浮かれる賢治であった。しかし忘れてはならない本来なら賢治は今頃楽しく好きな本を読んでいるはずだった。それが異世界と言えば夢が詰まっている様だが、その実いつ死ぬかも分からない地獄にいる。

「そんな堅苦しくしなくても大丈夫よ。なにせ私が断頭台に上がる時は一緒に上がることになる関係なのだから」先ほどより一層魅力的な笑顔でマリーは言った。

「俺巻き込まれただけですよね・・・」賢治が不満げな声で言う。するとマリーはそれをからかうようにクスクス笑う。「そう一人で死ぬのは寂しいから嬉しいわ旅は道ずれと言います」賢治は苦笑いする他なかったが、かわいい女の子とこうして笑顔でこうして話せている『これはこれでありなのでは?』と思うことにした。そうでも思ってないとやってられない。

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